2016年12月9日 「負」と「余白」の価値
私には二人の師匠がいます。松岡正剛さんと谷口正和さんです。
松岡師匠には「日本という方法・編集」、谷口師匠には「文化経済・バリューイノベーション」を基軸とした格別で別格の世界を学びました。今日は松岡師匠が語られた「負」の美学から「日本の方法」を綴りたいと想います。
藤原定家の有名な歌に「見渡せば花も紅葉のなかりけり浦の苫屋の秋のゆふぐれ」がありますね。
浜辺でまわりを見渡しても何もない寂しい秋の夕暮れだというのが表向きの意味です。しかし、定家は何もないのならそれでいいのに、わざわざ花(桜)や紅葉がないと言っています。「花も紅葉のなかりけり」と言葉の上で否定した表現によって、かえってそこから花と紅葉が現出することを可能にしたのです。
これは「逆転の見方」であり、「負(余白)の美学」です。自分(橋本)の理解では、これと同じ日本の方法が枯山水であり、俳句であり、長谷川等伯の「松林図屛風」です。
西洋の絵画のように「FULL」に描くのではなく、引いて引いて余白を残すこと。そのことにより、自分の中の何かが惹起して、イメージを投入する。自分が主役になっていく。その後に、主客が一体になってゆくという美学が感じれます。
感覚も同じです。皆さん「共感覚」という言葉を知っていますか?それは感覚のねじれ現象です。例えば、オーディオで「波の音」を流したとします。目を瞑ると耳が「波」の風景を見ます。本来は「目」で波を見るのに、「耳」で波を見るという感覚を「共感覚」といいます。
真っ暗な部屋の中に入ると、視覚が遮断されるので、他(聴覚や触覚)の感覚が鋭敏になります。ハリーポッターを本で読むのと映画で観るのでは違いがあります。現代の私達は知性・感性を高めるために、意識して感覚を遮断することが必要です。
前職は、パイオニアという会社に勤めていましたが、「カラオケ」は一番大事なボーカルを引くことでお客は主人公になっていく文化を創ったのでした。さて、アルコールフリーのビールはどうでしょうか?ビールにとって重要なアルコールを引くことで「交通事故を起こさない」文化を創りました。
禅寺に通っていたスティーブジョブズは、引いて引いて「iPhone」文化を創りましたね。隈研吾さんの「負ける建築」も同様です。
「引く」方法から大切な文化を編集するWILLとSKILLを習得することが重要なのです。
私達は、ついつい足すことで「価値」を付加しようと発想しますが、元々日本には「負(マイナス)」することで新しい文化が創るというDNAを持っています。あの「わびさび」の世界も同様ですね。
未来の価値づくり(新価値創造)には3本柱があるのですが、先ず「引く」方法について本日はお伝えしました。