2017年2月16日 それは何ために?
私が編集の基礎を学んだ「プランニング編集術」(松岡正剛監修:第26夜)の編集エクササイズに「コップの言い換え」というお題があります。「コップ」は、どのように言い換えられるのでしょうか。
コップを「容器」と言い換えることができれば、Glass、花瓶、、歯ブラシ立て、水を入れた楽器、等々とイメージが広がります。コップを割れば「凶器」としても使えます。糸で紙コップをつなげれば、おもちゃの糸電話になります。
花器や楽器、凶器など、それらはコップの新しい使い道です。それは当初の飲料を飲むという目的と違う新しい目的になります。モノゴトの視点、視座の転換、逸脱です。
様々な業種の経営をご支援していますが、事業を成立させているその会社の「要素・機能・属性」の中から、上記新しい目的を見つけることで、新商品や新事業を構想することができます。
これは効果覿面(てきめん)です。これは「生き方」「人財開発」にも応用、活用できます。
さて、動物園で新しい目的の事例を見てゆきましょう。従来の動物園はパンダやコアラ等の奇獣・珍獣で人を集めていました(それが目的でした)が、どんどん観客数が右肩下がりになりました。旭山動物園の獣医係長が「普通の動物の命の大切さを伝えたい」という新しい目的を見つけて実行、展開、更新することで、今の旭山動物園の隆盛があります。獣医係長は園長になりました。
そうなのです。人生や会社経営に行き詰っているときに先ず実践していただきたいのが、新しい目的を上手に真剣に見つけることです。人生と経営の風景ががらりと変わります。
その心得と方法は、トリニティ・イノベーション(第21夜)ステージの一番最初に「理論と演習」でお伝えしています。
さてさて、今夜ご紹介するのは「紺野 登」さんです。第15夜にも登場していただきました。
2004年、私が49歳の時に、総合研究所のトップから「研究所の二つの顕在的な課題・不足を解決する」ため呼ばれました。
それは、
①顧客と接触が不足しているコト
②将来の構想力が不足しているコト
でした。
「総合研究所の10年先の可能性、リスクをシナリオプランニングで洞察・構想する」ために、日本のシナリオプランニングの第1人者の紺野さんにモデレーターをお願いしました。
そこで、先の見えない不確かな未来を洞察する心得と方法をナビゲートして貰いました。その最中に、何か紺野さんと自分の共通項が多いことに気づきました。
聴いてみると、高校も大学も一緒だったのです。それも、高校の同級生で隣のクラスにいたのでした。(第22夜)
ご縁を感じずにはいられませんでした。
その重要なプロジェクトの中で、紺野さんが大事にされていたのは、
「一体、それは何のために」
という「目的」とさらに「未来の新しい目的、世界」について深く、高く、広く質問され、メンバーから未来の可能性を引き出していました。
2006年にそのプロジェクトで作成したものは、それまで作成したものと次元が違って納得のいく仕上がりになりました。
それはこれまで連載してきた、①編集工学(第26夜)、②目的工学(第28夜)、③価値創造工学(第21夜)の3つの工学の知が一つになった結晶です。
早速、発表会用に、2軸でできる4象限シナリオに基づいた10分のビデオ(2017年の未来)を作成しました。それは、10年後の世界を見事にいい当てることができたのでした。
是非、会社を経営を革新したい方達に見ていただきたいですね。(詳細は第15夜に記しています)
この結合の心得と方法(新しい型)が、その後の自分の知の財産になりました。
その紺野さんが2013年に著されたのが、写真の
「利益や売上ばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか」(紺野登+目的工学研究所)
です。
少し抜粋します。
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産業革命以来のビジネスと言えば、人々の消費と所有というニーズを満たすために、目に見える有形のモノをつくり、これを提供することがもっぱらでした。
多くの場合、価格や品質、経済性や利便性、時には新奇性やプレゼントなどに訴えて、その購買を促してきました。
人々のウォンツやニーズは、「技術ありき」のようなやり方だけで満たすことが難しく、すっかり口うるさくなった消費者や顧客の購買意欲を引き出すために、
モノとモノ、あるいは、サービスや経験など無形のコトと抱き合わせるようになりました。
(中略)
そして現在、--それこそ目的工学が求められている大きな理由の一つでもありますが、--従来のモノづくり、その発展形としてもコトづくりを超えて、
「コトづくりのなかにモノづくりを埋め込む」という考え方に変わってきています。
言い換えれば、ある目的を実現するために、あるべきコトを構想し、これをビジネスモデルに具体化し、ここにふさわしいモノ(手段)--それはローテクでもかまいません--を探したり、
時にはすでにある資産を再活用することです。
既存の資産や外部の知を、新しい視点やビジネスモデルで組み替えていくこと。これもイノベーションといえるのです。
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「手段の時代」から「目的の時代」です。手段にとらわれすぎて本質を失い、傾く経営を何度もみてきました。
本書は、まず「利益」ではなくて、「よい目的」を考えるビジネスを実践するために書かれています。
より良い未来を創ることを志向するビジネスパーソンにお薦めです。
AIやIoT、Robotという手段は間違いなく進展していくと思います。その特に、その手段がどのような意味を持ち、上位にある「よい目的」と自身の強みや資産とをつなげて価値創造することが肝要です。
「良い目的」が見つかると、良い未来が見えてきます。そうすると、それを実現するための良きパートナーも見えてきます。
上記を、①「構想」し、②「行動」し、③「更新」していく時代です。
さあ、隆々とした未来を創るために、「懸命」と「賢明」を結合し、共に顔晴って頑張ってゆきましょう。