価値創造の知:第36夜 “複雑系の知”

2017年3月15日 世界は複雑化すると、新しい性質や命を獲得する

丁度、自分が総合研究所に異動する頃に、“複雑系(complex system)”や“複雑性(complexity)”という言葉が、21世紀を迎える前に話題になっていました。
今でもその言葉はぜんぜん色褪せていません。そして、その本質を取り入れるか入れないかで、経営革新に大きな差が出ているコトを実感しています。価値創造と複雑系の「知」は共通項が多いのです。
それでは、“複雑系(complex system)の知”と“価値創の知”の本質の関係をひも解いてゆきます。

 “複雑系”というと、複雑で難しそうと思われますが、自分はそれを下記の様にとってもシンプルに把えています。
『世界は複雑化すると、新しい性質や命を獲得する』
なので、これまでの夜話にお付き合いしていただいた皆様には、すぐに『ピン!』とくると思います。

例えば、“iPhone”です。
それまで、ポータブルな情報機器として、
「iPod、デジタルカメラ、携帯電話、インターネット」
と複雑化してきたものが、“iPhone”に統合されたことで、新しい性質を持ち、新しい文化を創りました。

“人間”を事例にすると、
人間の要素をバラバラに分解すると、目、鼻、耳、脳、心臓、手、足、神経・・・となりますが、それらが集まることで、“命”が生まれます。

“活版印刷”(第12夜)では、
「刻印機」と「ぶどう搾り機」という二つが新結合して、「活版印刷」が誕生しました。

“ピュアモルトスピーカー”を事例にすると、「サントリー・ウィスキー樽」、「オークビレッジ・匠の木組み工法」、「パイオニア・音響の匠」
の3社が集まって、“ピュアモルトスピーカー”という樽物語が生まれました。その詳細は、第17夜、第18夜、第35夜に記しています。

第29夜「未常識と非常識」(山本七平著)では、
1. 量の変化が質を変える
2.「二者択一以外」の道 (=第3の道)
を記しましたが、これもまったく同じことを云っていますね。これは、これまで綴ってきた『イノベーション=新結合』の基本ですが、そのまま“複雑性(complexity)”です。

とても身近で役立つ“知”ですね。経営革新の重要な方法と考えています。
何となく“複雑系(complex system)”が親密に感じられてきたら嬉しいですね。

さて現在を見渡すと、通信量が飛躍的に増え、より複雑系になってきている「インターネット」が時代を大きく変えています。
この「インターネット」の進化やそれと関係する、ビッグデータ、AI・IoT・Robot・ARが時代を牽引してゆくと云われています。
・一体何が増えてきているのか?(量・数)
・量の変化が質を変える(質への転換)
・ビジネスモデルの進化例
センシング(イメージング)→プロダクティング→インテグレーティング(コンサルティング)

を皆様の対象事業につなげて洞察しますと将来事業のヒントが数多く観えてくるのではないでしょうか。

「インターネット」には、“3つの鍵”があります。【引用:インターネット的(糸井重里)】
その一: リンク
その二: シェア
その三: フラット
それらへの「質の転換」をよく理解することが重要です。その方法を経営に新結合すると新しい展望が拓ける可能性が高まります。

さてさて、後方の写真の”複雑系の知”から引用します。
全体を洞察することの重要性を記しています。多くの会社(特に大企業や自治体)の組織は縦割りなのですが、そのことの限界が読み取れると幸甚です。
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社会を、政治・経済・文化など、さまざまな専門領域に分割し、分析しても、それだけでは社会の持つ生命力の本質に迫ることはできない。なぜならば、社会というものの本質は「関係性だからである。いや、社会だけではない。
われわれの生きる宇宙・地球・自然・人間・社会など、全ての世界の関係性が関係性であり、世界とは、「関係性のネットワーク」にほかならないからである。
それゆえ、社会いうものを、小さな専門の領域に分割して研究する現在の社会科学は、この分割という行為によって関係性のネットワークを切断してしまう。
そして、そのことがいま、環境経済学や環境政治学といった専門領域に分割して環境問題を研究することの限界になって現れているのである。
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その”複雑系の知”の深みに達するには、「洞察力」「直観力」を身につけることが必要となると記されています。
“分析はできない、全体を洞察せよ”

そして、
“社会の本質を知るだけでは意味がない。なによりも、その社会の現実を、より良いものへと「変える」ことが大切なのである”
更に、「起こすから起きるへ」「変えるから変わるへ」の重要性を説いています。

「直観力」としては、「インターネット的(糸井重里)」が参考になります。自分が好きな箇所を引用します。
“ある固定した考え方を続けていくと、鬱血(うっけつ)が起こってきて、床ずれし始めます。その始まりのサインは軽い不快感です” 先人達が決めた先入観、常識を疑い、この床ずれに気づくのが「問題の発見」になります。
どうでしょうか?鬱血していませんか?

かつて、【精神の生態系】を著した文化人類学者のグレゴリー・ベイトソンが次の言葉を語っています。
『複雑なものには、心が宿る』

つまり、私たちは、世の中が複雑になってきたら、下記、心の“洞察の力”がとても重要になることを示唆しています。これが、冒頭にお伝えした“経営”にも当てはまります。
経営革新に『洞察』能力はマストです。

そこで、“複雑系(complex system)”を上手に取扱いできるようにするために、『価値創造の知:トリニティ・イノベーション』(第21夜)の基本を習得することをお薦めします。
1.Insight:顧客洞察 深く人を読む
2.Foresight:将来洞察 高く未来を読む
3.Gestalt:新結合=複雑系 広く全体を読む

“価値創造の知”“複雑系の知”を駆使できる“人財”を迅速に、より多く輩出したいと想います。

第36夜 価値創造から経営革新へ

 

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