橋本元司の「価値創造の知・第130夜」『価値創造とイノベーションのあいだ』⑱EU中小企業「意味のイノベーション」

2018年4月9日 「デザイン思考の進化」と「意味のイノベーション」

本夜は、「デザイン思考」と「価値創造」の関係から、貴社の貴地域の「イノベーション」を感じていただければと思います。
それは、「デザイン思考」についての私の体験・感想と、「デザイン思考の進化とビジネスイノベーション」の関係からの「価値創造の知」についてです。

10年ほど前、「デザイン思考(design thinking)」という言葉が流行して、ビジネスのイノベーションを起こす方法として注目を浴びていました、
私もその方法の専門家(IDEO、ユーザー中心デザイン、ラピッドプロトタイピング等)の方達を複数招聘して、幾つか試してみましたが何かしっくりきませんでした。
それは、対象の「改善・改良」にはつながるのだけれど、「革新的なビジネス」には辿り着かないというものでした。

2016年、「ハーバードビジネスレビューApril 2016」の「デザイン思考の進化」特集で以下が記されていてたいへん共感しました。
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一般にいわれる「デザイン思考」で本当に革新的なビジネスは生まれるのだろうか?
世界的デザインファームZibaのエグゼクティブフェローであり、ビジネスデザイナーの濱口秀司氏は、
「本来、デザイン思考は二つに分類できるのだと言う。
①改善、改良のための「デザイン思考」
②イノベーションを生み出す「デザイン思考」

一般的にいわれるデザインファームの「デザイン思考」というものが、本来はイノベーションを生むためのものでは「ない」。
(ニーズ視点のプロトコル(手順)は改良・改善で成果を上げる)
そして、「真のイノベーション」を起こすためのプロトコル(手順)までを示したい。
イノベーションは、バイアスを視覚化して破壊する・・・
(バイアスとは、思い込みや思想などから考え方等の偏り。偏見)
・・・
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後者は、イノベーションの「余白」(第50夜、第89夜)の創り方の有力な一つです。
デザイン思考の進化を志す方達は是非ご覧ください。

そして次に、図解の「デザインの次にくるもの-意味のイノベーション」です。
「EUの政策」の一つに、地方の「技術を売りにしない中小企業のイノベーション」を推進することを念頭に置いたプログラムがあり、「デザインの次にくるもの」の中には、そのプログラムに採用されているアプローチ「意味のイノベーション」について記されています。
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「EU」はクリエイティブ産業の育成に予算を注ぎ込んだ時代があります。しかしながら、あまり芳しい結果をもたらすことができませんでした。
他方、生産性の向上をどう図るかは、長い間の懸念でもありました。しかし、中堅以下の企業にとって生産性の向上は、実践と効果を考慮すると無理難題が多いと考えられます。
そこで、EUのイノベーション政策立案者が考えた選択肢は二つです。
①テクノロジー開発の背中を押すか
②市場に“新しい意味”をもたらす土俵をつくるか
テクノロジーの推進をやめたわけではありません。しかし、それと同時に“新しい意味”を創る中小企業を増やすことが欧州にイノベーションを起こし、長期的な資産を築き上げることに貢献すると考えたようです。
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技術が「どうやって?」を求めるのに対して、“新しい意味”は「なぜ?」を追求します。
(これは、第84~86夜「meaning-深い知」、第118夜「核心・確信・革新が道筋」と同じことを云っています)
つまり、「意味のイノベーション」です。
事例の一部を引用します。
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「電気のない時代、ロウソクで夜、灯りをともしていましたよね。でも電灯が普及するとロウソクは不要になりました。もちろん停電のなったときの緊急用としてのロウソクは必要です。
でもそれ以外の目的にいまもロウソクは使われています。「なぜ」でしょうか?
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併行して、、
「あなたの家族が、家で夕食をとるとき、そこにはどんな意味を求めていますか?」
という設問と共に、ぜひ考えてみてください。

・どの様な“特別な意味”があるのでしょうか
・どの様な“新しいな意味(目的)”があるのでしょうか

ロウソクだけを直接見ていると、改善・改良になりがちです。家族の夕食における意味を問いかけます。深い「なぜ」から独自の「意味」を発見するのです。
「問い」の深さ・高さ・広さによって「価値」が変わってきます。

上記の様な新しい意味を生み出す、「意味のイノベーション」に中小企業は注力すべきだ、というわけです。
新価値創造研究所では、それをトリニティーイノベーション「深い知・高い知・広い知」の最初(第86夜)に組み込んでいます。
これが、改良・改善ではない、「創造的な問題解決=価値創造」のファーストステップとなります。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ
意味のイノベーション