橋本元司の「価値創造の知・第184夜」:「世阿弥の知・安住しない」⑤

2018年11月22日 住する所なき

・住する所なきを、まづ花と知るべし。(『風姿花伝』第7 別紙口伝)

「住」とは「安住」のことです。
今の会社の状況や自分の立場や、役割に「安住」して、努力をしないのは、美しくない。常に不安定な立場に自分を置き、精進することこそ美しいという意味。

会社の中では、過去の成功体験に安住してしまい、現状の安定を望み現状維持に保身する上位者がいます。
現状維持ということは、右肩下がりに向かっているということです。
次のステップに挑戦する時に、そのような人達が反対することやわざと足を引っ張ることが往々にしてあります。
会社が傾いている時でさえも・・・。

前職・パイオニア社で、「ヒット商品緊急開発プロジェクト(1995年~)」(第14夜)や「次の柱・事業創出プロジェクト(2006年、2010年)」等で、プロジェクトリーダーをした時には、上位者からのバッシングがありました。詳細は、第128夜に記しています。
それは、異業種コラボレーション(第23夜)、ダイレクト・モデル事業、顧客に囲まれる事業(第20夜)、10年後のパイオニアの将来シナリオ(第15夜)の様に、時代の変化を先取りした戦略企画の提案時に現れます。
問題は、従来の事業では活躍できたのに、進化したビジネスモデルではそれが望めない人達です。それは、「イノベーションのジレンマ」にも記されています。

そして、それはパイオニア社だけではなく、多くの会社に見られることです。ご支援している会社にも初期にはおられます。

今の地位に安住して、次のステップ、次の一手がわからない、判断できない、それを望まない経営陣により、大きな損失・損害を被るのはいったい誰でしょうか?
それは、若い社員の皆さんやご家族です。

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世阿弥は、今までやってきてうまくいったのだから、これ以上のことはやる必要はない。同じことをやっていればいい、という心こそが駄目だと言っているのです。
これまでは良いことだったとしても、それに安住することで、それが悪いことに変わってしまうことがあるからです。
その成功体験に安住して次の一手を打ち損じ、結局、他社にどんどん追い抜かれてしまう。一度成功したのだから、同じことを繰り返していけば大丈夫だと思うことが、まさに命とりになるわけです。
・・・(土屋惠一郎)
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これを打破しようと、自分と仲間たちが、次の時代の商品・サービスや新事業を提案しました。
それは、従来になかったモノゴトですから、成功するかどうかの証明・確約はできません。
でも、自分たちの中では、「成功する姿」がありありとが観えていたのです。

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うまくやってきた上司というものは、自分の成功体験をコピーしていればよいという意識にどうしてもなりますから、組織にとっては下手をすると有害な存在になります。
むしろその成功体験を否定して、「いや違う方法がある」という人が出てこなかったら、その組織は結局うまくいかないでしょう。
新たな方法というものは、それまでの成功を否定するものであるかもしれない。でもそれを認めなかったら、組織の成長は止まるのです。
それをどうしても認めない人が伝統的な価値観を主張する場合は、安定や和を保ちたいというより、今までの枠の中の既得権益を守りたいだけかもしれません。
・・・・(土屋惠一郎)
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これは多くの会社の深刻な問題です。
自分はまさにその渦中にいた提案側の当事者だったのでよくわかります。

さて、提案してもわかる上位者とわからない上位者がっいます。
ある時、先輩から云われました。

「ハシモト、○○さんを説得するのは無理だ。納得してもらえばいいのだよ」
首を縦に振ってもらえばOKということ。

そうして、納得して貰って成功したプロジェクトがあります。
勿論、納得して貰えずに、残念ながらオシャカになったプロジェクトもあります。

それは、「未常識」(第29夜)と、「イメージメント」(第7夜:イメージメントとマネジメント)の問題でもあります。
「イメージメント」能力に気づき、高めていただくために、この連載を綴っている側面があります。

「日々、更新すること」(第8夜)が求められますね。

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安住しない