橋本元司の「価値創造の知・第185夜」:「世阿弥の知・新結合」⑥

2018年11月22日 世阿弥と新結合

現在私たちが能を見て、「これが能らしさだ」と思っている部分の殆どは、実は世阿弥や世阿弥の父・観阿弥がさまざまな芸能の領域から取り入れたものです。
例えば、観阿弥は、歌と舞を併せ持つ曲舞芸という芸能を猿楽に取り入れました。曲舞芸は白拍子の芸とも言われ、これによって、物語の中で役者が謡いながら拍子を取って舞う、ということができるようになりました。
世阿弥は近江猿楽から天女舞というものを導入しました。これは、仏教の阿弥陀来迎図などにある、空を舞う天女のような優雅な舞です。天女舞の導入により、幽玄で美しい舞の要素が加わりました。
このように同時代にあり、人々に好まれていたさまざまな芸能の領域を磁場のように引き寄せ、それらをコーディネーションして、能という一つの枠の中に、今日に続く芸術をつくりあげたのです。(100分De名著:土屋惠一郎引用)

前職・パイオニア社のヒット商品緊急開発プロジェクトで、自分がプロデュースした連続・異業種コラボレーション(第14夜)も同様の方法です。
それは、第32夜にアップしたシュンペーターの云う「新結合」です。
(イノベーションの元祖であるジョセフ・シュンペーターは、イノベーションを「新結合」と呼んで、次のように云っています。
イノベーションとは、『①「モノやコト」が新しく結びつき、②それが新しい価値として社会的に受け入れられて、経済が発展している状態(ing)のコト』➡ 新結合 = New Combination
「アイデアのつくり方」(ジェームス・W・ヤング)は、『アイデアとは既存の要素の新しい組合せ以外の何ものでもない』(第31夜)と記しています)

第183夜の世阿弥の「却来(きゃくらい)の思想」も同様です。
目利かずを惹きつけてこそ、名手であろう。それなら下手な芸(非風)も稽古する必要があるのだろうか。いや、そうではあるまい。世阿弥は「是風」が非風を抱きこむべきだと考えたのである。それをずばり、「却来」(きゃくらい)といった。
「是風」と「非風」を方法で新結合しています。

第182夜の世阿弥の「複式夢幻能」も同様です。
前半と後半で、生者と死者の情念、夢、想いが交じり合う『場(舞台)』『物語』です。
そこでは、負を背負った「幽玄(there・死者)」が「陰」で、「花(here・生者)」が「陽」です。
「there(彼岸)」と「here(此岸)」を新結合しています。「お盆」も同じですね。

第181夜には、「花」について記しましたが、
「花と、面白きと、めづらしきと、これ三つは同じ心なり」
・秘すれば花(価値)
・珍しきが花(価値)
・新しきが花(価値)
上記の秘伝は、「イノベーティング」と「マーケティング」が新結合しています。

このように、世阿弥の「風姿花伝」には、『新結合の心構えと方法』の秘伝が満載です。

21世紀は『価値のイノベーション』(第111夜、第130夜)の時代です。
『世阿弥』を若い多くの方達に伝えていきたいと思います。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ
新結合