橋本元司の「価値創造の知・第245夜」:不易流行②

2019年7月25日 真の企業再生

前夜(第244夜)に、松尾芭蕉と松下幸之助の共通点である『不易流行(ふえきりゅうこう)』を綴りました。
さて、「不易流行」は2年以上も前(第34夜)の、サントリー様の関係者との懇親(「不易流行」から「やってみなはれ」)を絡めながらの懐かしいコラムでした。

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「不易流行」の『不易』とは、時を越えて不変の真理をさし、『流行』とは時代や環境の変化によって革新されていく法則のことです。
不易と流行とは、一見、矛盾しているように感じますが、これらは根本において結びついているものであると言います。
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何故またこの言葉をテーマにしようとしたかといいますと、1時間ほど前に、関係している団体からの危機感を伝える寂しいメールが届いたからです。
その団体は10数年前に、人が集まり非常に勢いのある有名な協議会だったのですが、今は右肩下がりのどん底にいます。

本当は、「根源的な知と体系」があり、将来成長につながる思考の土台と継続性をもたらす中身のある優れものを扱っているですが、「実用的なノウハウ」として把えているために、「不易」ではなく「流行」に走り、使える用途がどんどん狭まってしまいました。

それがいつからか、手段(分子)ばかりに寄り添って、本来の目的(分母)を見失ってしまいました。不易(分母)に立って流行(分子)があるのです。
それは、まさに「不易=目的」と「流行=手段」の関係にあります。

前職・パイオニア社の「オーディオ事業」(コラム:オーディオの未来は?)も同様でした。
機能、性能という「手段=分子」を中心において成長していたために、それがコモディティー化(=競合する企業の製品やサービスについて、性能、品質、ブランド力などに大差がなくなり、顧客からみて「どの会社の製品やサービスも似たようなもの」に映る状況)すると業界が成り立たなくなります。
その様な行き詰まりの時に必要なのは、「本来の目的=不易=分母」を深堀りすること(深い知:第85~86夜)です。

そうすると、そこにリオリエンテーション(第147夜:真の企業再生・「進むべき方向」の抜本的見直し)が見えてきます。
「業績の伸びている会社には、伸びる理由があり、ダメになる会社にはダメになる理由があります」
下降に向かう会社や地域には、「分子」に行き詰まりの問題があり、「分母」を明確にすることにより新しい道が拓けるように、水先案内するご支援をしています。

確か、2年ほど前に、カンブリア宮殿(テレビ東京)で「外食の産業化」のテーマで、ある飲食店の興味深い事例があったので引用します。
「ワインの資格のある人は、ワインにこだわりすぎて、ワインがメインで料理が添え物になってしまう。
そうではなくて、ワインはもともと料理を引き立てるもの。ワインがたくさんある、美味しい、高いという話ではなく、料理に合わせて用意するのがワイン。
だから、ポジションが違う気がする。---」

そう、上記の危機に陥った協議会も、オーディオ業界も、その手段にこだわりすぎて、
①本来、顧客の求める価値
②将来、顧客の求める価値
という「本来と将来」を見失っているのです。
その手段でもって、成長・成功してきたので、既得権のある人達が、ポジションを変えられずに、自ら行き詰ってしまうのです。

どうしたらいいのでしょうか。
自分が、講演やセミナーでよく活用するタニタさんの分母の再定義(第107夜)を引用します。
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—20世紀は、性能⇒機能⇒効能でしたが、21世紀は、効能⇒機能⇒性能の順番になります。

さて、本夜(第107夜)は多くの「製造業」の行き詰まりからの『再定義の型』の一つを記します。
事例は、よくセミナーで取り上げる「株式会社タニタ」さんです。三代目の谷田社長には二度お会いしました。

「健康をはかる”タニタ” 「健康をはかる」から「健康をつくる」へ。 タニタは、食事・運動・休養のベストバランスのご提案を通して、 24時間皆様の健康づくりをサポートしていきます。」
とホームページに記されています。

皆さんが良く知っている体重計や体脂肪計という「健康をはかる」会社でしたが、3代目の社長が「タニタ食堂」という新事業に挑戦しました。(丸の内のタニタ食堂には何回か通いました)

「世界から肥満をなくしたい」

という熱いスローガンをお聴きしました。体重や体脂肪をはかるだけでは、「肥満」はなくなりませんね。

それが、会社としての「新しい目的」、社会的課題を把えた「良い目的」(第28夜、第68夜詳細)です。熱い想いを持った、この「新しい目的・良い目的」づくりの構想・実行・更新(第61~74夜)がとっても重要です。
ここが『本分(分母)』の再定義のターニングポイントであり肝(きも)になります。

そして、「タニタ食堂」を立ち上げられました。それは、それまでの会社の「本分のBefore」にあたります。なので、とても相性がいいのです。これもとっても重要です。
そして、スローガンに挑戦するために、情報・ソフトウェア・インターネットを組込むことで「健康をはかる」を「健康をつくる」という「新本分」の新健康産業に再定義しました。
さなぎ(健康をはかる)から、蝶(健康をつくる)への脱皮です。

現在、増加する健康保険料への問題対策として、多くの企業・行政・デベロッパー等から、引っ張りだこです。

さてさて、『本分(分母)』の再定義のインパクトが伝わりましたでしょうか?
「健康をはかる」という本分を変えなければ、会社の将来はレッドオーシャンの中で右肩下がりになっていったでしょう。
新健康産業により、TANITAにしかできない価値を提供できるのです。これからの「AIoT」時代に、上記のビジネスモデルは加速していきます。—

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上記を説明すると、
「それはタニタさんだからできたこと。特別な事例ですよ」
と言われる方たちが多いのです。

そのため、ご支援してきた会社も含め、新しい目的による分母の再定義の成功例を幾つかをお伝えすると、目を輝かされます。
そして、自分の会社は?自分の業界は?
と「本来と将来」に意識がむかわれます。

そう、『不易流行』が頭と心に入っていれば、再定義は無常迅速です。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ
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