橋本元司の「価値創造の知・第254夜」:SDGs(持続可能な開発目標)⑨『1.「新しい常識」を深堀する』

2019年9月3日 エゴロジー(経済) vs エコロジー(共生)

職業柄あちらこちらの地域や会社を巡りますが、現場を自分の目で見て「他地域/他社にはない『豊かな価値』が存在しているコト」をお伝えすると驚いた顔をされることが多いのですね。
その環境の中にずっといると「それが当たり前のものと脳が認識していて、価値になるとは思わない」という認識のズレがあります。
何もないところから「里山の葉っぱや花を収穫し、料理の“つま”として出荷する『葉っぱビジネス』」で脚光を浴びた徳島市上勝町「いろどり」は、町に新しい産業を築き、高齢者に生きがいを取り戻されました。

松岡正剛師匠主宰の未詳倶楽部でお会いしたエバレットブラウン氏は、「現代のフェロノサ」と言われていますが、そこで披露されたコンテンツと共にお話しされた「本来の日本の豊かさ」の深い洞察と見識には驚嘆しました。
そう、私たちは目の前のことに追われ、その風景を当たり前のものとして「脳」が認識していて、「本当に大切なこと」「価値のあるもの」に気が付かないのです。

2003年ベストセラー『バカの壁』(養老 孟司著)を読まれましたでしょうか?
私たち人間は自分にとって興味のある情報しか見ようとせず、かつニュースなどの情報を鵜呑みにして「わかったつもり」になっている人が多いと養老氏は指摘します。
『前提となる常識』についてスタンスが異なることに気づかず、「わかっている」と思い込んでいるのだと喝破します。
自分を含めて、この「わかっている」という思い込みには注意が必要なのです。

私たちは「当たり前と思い込んでいること」「前提となる常識」について“疑い”を持つことが必要です。
「地球温暖化」に対するアメリカ・トランプ大統領の「パリ協定離脱」、いま話題になっている「プラスチックごみ」等、様々な場面で

エゴロジー(経済) vs エコロジー(共生)

が対立しているように見えます。

私たちは、『経済』が発展しないとブーメランのようにわが身に降りかかってくると思うと身構えてしまうのです。
これまで安くて利用しやすく重宝されていた「プラスチック」は「マイナスチック」になっているのです。

SDGsと私たちの付き合い方は、

「エコノミーとエコロジー」のWinWinの視点が長続きする秘訣です。

それを実現するためには、
A.3つのエコロジー(思想・哲学)
B.価値のイノベーション(技術・実践)
C.できない理由を探さない(大義・信念)
が必要になります。

A.「3つのエコロジー」(第9夜、第252夜)
「人間は下記3つの世界(エコゾフィー)の中に生きている。
①地球環境   :物の公害
②人間社会環境 :社会の公害(テロ、離婚等)
③心の環境    :ストレス
これを別々に切り離すのではなく、三位一体で直視して展開すること」

B.「価値のイノベーション」(第32夜、第111夜)
ノベーションとは、技術の分野に留まらない「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考」がその本質にあります。
それは、『「モノやコト」が新しく結びつき、それが新しい価値として社会的に受け入れられて、経済が発展した状態のコト』と定義されます。
SDGsで求められるのは、「モノ・コト・ヒト三位一体づくり」を分母にした『新結合(neue Kombination)による革新』です。

C.「できない理由を探さない」(第55夜)
何か「これは」と思うものをやろうとするとき、人は二つの壁にぶちあたる。それは、自分の能力的な壁と環境の壁である。
できない理由を押さえて、あえてやってみれば何とかなるということを信じられるかどうかは、その人の覚悟次第であるが、この覚悟によって世に云う「運命」も変え得るということを覚えておいてほしい。

上記の3つを「脳と心と身体」にお伝えすると目を輝かせる方たちがいます。
「どうしていいのかわからない」と諦めていた視線が、挑戦する視座に変貌してきます。

そこで、『1.「新しい常識」を深堀する』モードにスタンバイとなります。

さてさて、第29夜に「未常識と非常識」を綴りました。
------------------
「常識」とは分析不可能なものであり、また明治になってできた言葉です。小林秀雄によれば、徳川時代には「常見」といったそうです。[反対語は断見(だんけん)]
常見(コモン・センス)の「センス」は「識」よりも「見」に近い。私達は確かに「常見」の世界に生きていて、「常見」で世の中、世界を見ている。
ただ、「見」は必ずしも「識」ではない。視点を違えて別の見方をすれば、「常見」とは違う面が見える。このさまざまな「見」を総合して判断を下せば、そこにははじめて「真の常識」が成り立つであろう。
------------------

「視点の変え方」については、この「価値創造の知」シリーズのあちらこちらで多くを綴ってきました。
第29夜の事例を二つほど記します。
1. 量の変化が質を変える
→・「量」が、一定の水準を超えると、「質」が、劇的に変化する(第10夜、第11夜、複雑系)
2.「二者択一以外」の道
・「矛盾」とは、発展の原動力“矛盾の止揚”である(第15夜、第17夜、第18夜)

そこには、「新しい常識」へのエッセンスがあります。
興味関心のある方は、是非ご覧ください。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ
SDGs⑨