2019年9月17日 マザーハウスの山口恵理子社長
前夜(第257夜)を受けて、前々夜(第256夜)の補足として、『3.「新しい結合」を着想する Ⅱ』を綴りたくなってしまいました。
自分が講座や研修で取り上げる先進的でインクトのある幾つかの「事例」をご紹介することで、皆様の理解が進むことが多いので、その一例、特例をご案内します。
それは、(株)マザーハウスの山口恵理子社長です。
最初にお会いしたのは、4年前の文化経済研究会(谷口正和師匠主宰)でした。会社(マザーハウス)としては導入から成長期にしっかり入ったタイミングに思いました。
その後の成長は素晴らしく、現在では途上国5か国に生産拠点、世界に直営店38店舗、13年連続売り上げ増を実現されています。
2015年12月のセミナーのイントロの一部を引用します。
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—途上国に生産部門を設け、販売は先進国で行うというビジネスモデルです。24歳のときに起業しました。会社のミッションは「途上国から世界に通用するブランドをつくる」です。当時、アジアの最貧国だったバングラデシュで思ったことがきっかけです。この理念を持つまでは会社を起業することも、バッグを作ることも私の中にはありませんでした。でも10年続け、自分が心から思い、根底に流れていることが自分を救ってくれたなと思います。
その原点としては、小学校のときにいじめられて学校に行けなかったころから、私は学校や教育に興味を持っていました。大学4年生のときにワシントンの国際機関で、少しだけ援助に携わる機会がありました。そのときにお金が実際に現地にどのくらい届いているのか疑問を持ち、実際に行ってみようと思いました。「アジア 最も貧しい国」と検索し、当時「バングラデシュ」と出たので、バングラデシュの大学院に2年間通いました。やはり日本の大学を卒業して、現地の大学院に行くのはとても勇気のいる決断でした。でも私にとっては現場で何が起きているのか、そして何より何のために働くのか、腑に落ちなくて就職活動もできず、ここで何かを見つけて帰ろうと思っていました。しかしテロやデモ、洪水、非常事態宣言の発令など、旅行で行くのとは違う厳しい現実がありました。悪いことばかりではなく、バングラデシュの人々の生きる力に魅力も感じました。政治が不安定な中、ビジネスの世界はどんなかと思い、現地の三井物産でアルバイトさせてもらいました。
たくさんの工場を回り、私の目に飛び込んできたのが、ジュート(黄麻)という麻でした。ジュートだけはインドよりも生産できることを彼らは誇りにしていました。それまでの私は絶望感から「帰りたい。でも何も見つかっていない」と、ずっと悩みを抱えていました。そんなときに誇れるものがあることがとても新鮮で、すぐにジュートの工場に行きました。—
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24歳で起業したときから掲げてこられた言葉は、
「「途上国から世界に通用するブランドをつくる」でした。
①「途上国」と「世界」
②「途上国から」と「ブランドをつくる」
上記は、それぞれ相反する、二つのものを組み合わせています。
ここで、今年8月に山口代表が上梓された「サードウェイ」から引用します。
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—もともと、対立軸にはさまれているブランドだ。
そのミッションを掲げながらものづくりを必死で続けてきた道のりの中で、「中間地点を探るだけでは不十分だ」と何度も何度も、涙し、苦しんできた。
直面する問題、反発、軋轢、格差、それらを乗り越えて一歩先に進むとき、私にとっての「最適解」は「中間地点」ではなかった。
常にこころがけてきたことは、
「かけ離れたものだからこそ、組み合わせてみよう。離れていた二つが出会ったことをむしろ喜び、形にしてみよう。これまで隔たりがあった溝を埋めて、新しい地をつくろう」
つまり、バランスを取るのではなく、新しい創造をする思考だ。—
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いかがでしょうか。
SDGs取り組み事例としては、格別の内容です。
「SDGsの17のゴール」はその多くが相反する組み合わせです。
そこには、「価値創造」のヒントが満載です。その考え方、取り組みを自分の対象事業に置換されてみてください。
是非、「サードウェイ(第3の道のつくり方)」をご覧いただくことをお奨めします。
さて、前夜(第257夜)では、「SDGs取組み」は環境省だけでは無理で経済産業省、復興省、財務省、文部科学省等々の横串の連携がマストということを綴りました。
これらを横串する「プロデューサー及びその機能」が必要なのです。これは「横をまたいだ結合」です。
わかりやすい例を第80夜(世界と世間)から引用します。
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—「20年前の通産省の廊下の話(出典:田坂広志「これから市場戦略はどう変わるのか」)」が浮かび上がりました。
通産省の廊下の部屋の前の部局の看板には、「鉄鋼課」「繊維課」「産業機械課」「自動車課」「電子機器課」・・・が並びますが、期待されている産業は何だったのでしょうか?
当時のニーズは、「環境産業」「シニア産業」「教育産業」「Eコマース産業」であり、それぞれ、
・快適な環境に住みたい
・豊かな老後を過ごしたい
・子供に楽しく学ばせたい
・手軽にショッピングがしたい
といった生活者の「ニーズ」を中心として形成される「ニーズ型産業」なのでした。
それは、決して「鉄鋼課」「産業機械課」等の『縦串』では対応できません。世の中の将来を洞察して、『横串』でなければ実現できません。
そんな時代に、「横串でできる事業の型(ビジネスモデル)」を実現したくて、23年前に社長に直訴して創ったのが、「ヒット商品緊急開発プロジェクト(第14夜)」でした。
「縦串」と「横串」の構図は、今でも根強くあって、「ビジネス4.0、ビジネス5.0」というのは、横串でなければ対応できません。そこには、一気通貫で横串する構想力・プロデュース能力が求められます。縦串の中にいては世界と世間が見えないので、外部の力を活用する時代です。
上記の「世界」と「世間」で云えば、「世界」は縦串(1~2割)で、「世間」は横串(2~9割)です。世界と世間の間(ま)となる『継ぎ目』をどう編集するかにかかっています。私たち(新価値創造研究所)はそこを仕事にしています。—
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上記の「通産省の廊下」は、いまでも行政や会社のあちらこちらに現存しています。それを「縦串化」「サイロ化」と呼んでいますが、横の連携を阻むのですね。
「SDGs17のゴール」を観てみましょう。それらはすべて「ニーズを中心として形成された『ニーズ型テーマ』」なのです。
『ニーズ型テーマ』であると認識すると、そのニーズに強い情熱があるかが重要になります。従来の縦串とは違うやり方、考え方であり、多くの壁や試練が待ち受けているので、それをやりきる継続的な情熱をもっていなければゴールにたどり着くことができません。
本夜は、「(株)マザーハウス」「通産省の廊下」を取り上げました。
通底するのは、「『新しい結合』を着想する」にあります。あらゆるところで、着想・展開・実現するのには、「新しい結合」が不可欠なのです。
ただ、その奥にはどんな困難にも負けない「情熱」と、幸せになってもらいたい「感動物語」があることを添えておきます。
価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ