橋本元司の「価値創造の知・第179夜」:古典「老子の知・陰陽論」③

2018年11月12日 「間(ま)と陰陽」の関係

万物影を負いて陽を抱き、冲気を以て和を為す
(訳:世の中に誕生したものはすべて「陰」と「陽」という矛盾した二つの要素を内包している。それを「どちらを取るか」という二者択一の発想ではなく、こころを空っぽにして「陰陽両方を取る」という心持で、没頭没我の状態で物事に取組むことが大事である。そうすれば矛盾を乗り越えることができる)

老子・第42章では、価値創造の核となる「新結合」(第32夜:イノベーションと価値創造)の極意が著されていました。
それは、即イノベーションに直結します。

それでは「陰陽」を現代の事象でみてみましょう。、
・「ビール」に於いて、「コク」と「キレ」は矛盾します。
・「サービス」に於いて、価格(安さ)と品質(時間)は矛盾します。
・「労働生産性」に於ける、労働時間と生産性は矛盾します。
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相反するモノゴトを新結合することで、新しい価値は創出されます。多くの業界が直面している課題ですね。
自分の会社や地域に置き換えて考えてみてください。

さて、第17夜には、「間(ま)」と「創造」の関係性について記しましたが、同じことを云っています。
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①第17夜:「間(ま)」とは何でしょうか?
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「間」は日本独特の観念です。ただ、古代初期の日本では「ま」には「間」ではなく、「真」の文字が充てられていました。

真理・真言・真剣・真相・・・

その「真」のコンセプトは「二」を意味していて、それも一の次の序数としての二ではなく、一と一が両側から寄ってきてつくりあげる合一としての「二」を象徴していたそうです。
「真」を成立させるもともとの「一」は「片」と呼ばれていてこの片が別の片と組み合わさって「真」になろうとする。「二」である「真」はその内側に2つの「片」を含んでいるのです。

それなら片方と片方を取り出してみたらどうなるか。その取り出した片方と片方を暫定的に置いておいた状態、それこそが「間」なのです。
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②老子・[第42章]
道生一、一生二、二生三、三生萬物。
萬物負陰而抱陽、冲気以為和。
(道一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず。
万物影を負いて陽を抱き、冲気を以て和を為す)

(前半の)最初に出てくる「道」は、天地よりも先に存在する「なにか」であって「無」を指します。それを姿かたちのない存在として認識したのが「一」としての気。
さらにそれが陰陽の二つに分かれて、「二」となり、冲気(陰と陽の気を作用させること)が作用して「三」となり、そこから萬物が生まれてくる。
「無」からすべてが生み出されるというと、なにもないところから生まれるはずがないだろうと思ってしまいますが、老子は「無」というものを、
なにもないのではなく、ありとあらゆる可能性を含み持つ状態だとしたのです。(訳:蜂谷邦雄)

(後半)世の中に誕生したものはすべて「陰」と「陽」という矛盾した二つの要素を内包している。それを「どちらを取るか」という二者択一の発想ではなく、
こころを空っぽにして「陰陽両方を取る」という心持で、没頭没我の状態で物事に取組むことが大事である。そうすれば矛盾を乗り越えることができる。
(古代中国で生まれた自然哲学の基礎概念に「陰陽論」というものがあります。万物には、「陰」と「陽」という背反する二つの側面が必ず存在しているという考え方です。
陰陽論では、内へ内へと入ってくる受動的な性質を「陰」、外へ外へと拡大していく動きを「陽」とします。
世の中に「存在しているもの」あるいは「起こっている現象」というのは、すべて陰陽後半双方の性質を持っており、当然よい面もあれば、悪い面もあり、よい時期があれば、悪い時期もある。そうした構造になっているのです。
これが陰陽論の基本的な考え方です)訳:田口佳史
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①「間(ま)」と、②「道生一、一生二((道一を生じ、一は二を生じ)」とは根本で同じことを云っているのが分かりますね。

「矛盾する、相反する二つの要素が交じり合う、紛らかすことで価値が生まれる」

というのが価値創造の重要な視点です。

近代西洋的思想は、モノゴトを部分化、細分化、論理化した二者択一的な発想でした。
そうやって、物不足の20世紀後半の成長がありました。

21世紀の成長には、西洋思想に不足している下記の「知の意識改革」が必要です。

それは、日本流の
・間(ま)
・縁

・禅
・和
・おもてなし
という空間、時間、心が交じり合う世界です。
それは、日本文化の「宝」であり、価値創造の「源」です。

これまでの「価値創造の知」連載に綴ってきました。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ
陰陽

橋本元司の「価値創造の知・第178夜」:古典「老子の知、孔子の知」②

2018年11月11日 老子と孔子

自分の場合は、「道(タオ)」とは、すべてのモノゴトの「大元:天地万物を生み出す原理(=空=道)」と読み解くと「老子思想」がすんなりと入ってきました。
第6夜に綴った「色即是空 空即是色」の「空(クウ)」が「道(タオ)」と同一だと見切った時に、釈迦と老子の新しいつながり、新しい知が芽生えます。

柔道、剣道、相撲道、茶道、華道等々、私たちが普段目にする「・・道」というのもそこにつながるように思いませんか。

それは私たちの生き方の根本なので、「老子思想」を読むと、現在のモノゴトの見方を超えた「新しい視点・視座」に気づかせてくれます。
それは「深い知」(第77夜、第85夜)であり、奥を究めることでもあります。その事例、参考例は、第28夜(新しい目的をつくる)、第170夜(Think outside the box:箱を出る)に綴りました。
とっつきにくかった「老子」が、「道(タオ)」を語りかけてくれるようで、2千数百年をタイムスリップして親近感を覚えます。

さて、同時代を生きていた「孔子」と「老子」を自分なりの視点で並べてみました。

◆「老子」
①道家:自然に、あるがままに生きること
②思想:負(引いて、削いでいく)
③活用時期:衰退期~新導入期(オルタナティブ)
④書物:哲学書

◆「孔子」
①儒家:理想に向かい現実的に生きること
②思想:礼(定まった形式を重んじる)
③活用時期:成長期~成熟期
④書物:実用書

新しい気づきがありワクワクしましたこのような連想が数寄なのです。

「孔子」は、自分が中学や高校の時に、教科書でよく見かけました。
「人は努力によって進歩すれば、必ずいつか報われる」

1960年代の「高度成長期」の様に、何をするべきか見えている「成長期」に「孔子」は向いていたように思います。御茶ノ水駅近くの「孔子廟 湯島聖堂」にも行きました。

さて、日本の企業は、高度成長から成熟・衰退に向かい、現在は、脳業(AI・Robot)・興業に向かうパラダイムシフト(第7夜、第109夜:農業⇒工業⇒情業⇒脳業⇒興業の時代)の真っ只中にいます。
このような時代にフィットしているのは、「老子」「釈迦」のように直感します。

なぜならば、それはあらゆる考え方の大元(おおもと)であり、源泉が変革期にはどうしても必要だからです。。

「老子」と「孔子」はどちらが優れているということではありません。思想としての軸足が違うので比較するのは適当ではありません。

さてさて、「老子」は、「老子道徳経」とも呼ばれていて、「道(タオ)」だけでなく、「徳(トク)」についても記されています。
企業からのご支援では、『次の一手』を検討する際に、すべてのモノゴトの「大元:天地万物を生み出す原理」(=深い知)に想いをめぐらします。

その時に肝要の指針が『真善美』です。

「人に役立つ、社会に役立つ」

という「価値創造の原点」に向かうときに『徳』が内包されています。

「真善美」に至り、そこから「構想・行動・実践」に向かう時に必要になるのが『徳』です。「道」と「徳」は、思想と行動の合わせ鏡です。
双方に立ち向かい実践できる会社が、これからの「真の21世紀企業」です。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ
老子と孔子

橋本元司の「価値創造の知・第177夜」:古典「老子の知」①

2018年11月9日 「道(タオ)」とは何か?

本夜は「老子」を取り上げます。
「価値創造の知」と、深いつながりがある思想哲学です。。

「老子」と云えば、「道(タオ)」が根本ですね。この本質をどうシンプルに把えるかで観える世界がまるで変わります。
「道(タオ)」とは何でしょうか?

「真理、理想、大、混沌の運動・・・」等々、多くの訳(やく)があるですが、そのことで訳(わけ)が分からなくなります。
それは、般若心経の「空」や「無」についても同様(第6夜)でした。「無」を「ない」と解釈すると間違います。

[第42章]
道生一、一生二、二生三、三生萬物。
萬物負陰而抱陽、冲気以為和。
(道一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず。
万物影を負いて陽を抱き、冲気を以て和を為す)

(前半の)最初に出てくる「道」は、天地よりも先に存在する「なにか」であって「無」を指します。それを姿かたちのない存在として認識したのが「一」としての気。
さらにそれが陰陽の二つに分かれて、「二」となり、冲気(陰と陽の気を作用させること)が作用して「三」となり、そこから萬物が生まれてくる。
「無」からすべてが生み出されるというと、なにもないところから生まれるはずがないだろうと思ってしまいますが、老子は「無」というものを、
なにもないのではなく、ありとあらゆる可能性を含み持つ状態だとしたのです。(訳:蜂谷邦雄)

(後半)世の中に誕生したものはすべて「陰」と「陽」という矛盾した二つの要素を内包している。それを「どちらを取るか」という二者択一の発想ではなく、
こころを空っぽにして「陰陽両方を取る」という心持で、没頭没我の状態で物事に取組むことが大事である。そうすれば矛盾を乗り越えることができる。(訳:田口佳史)

価値創造の知・第6夜に、「色即是空・空即是色」の自分の見解を綴りました。
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「色即是空」というのは、「現実=色」に問題・課題があるのなら、先ず心を無にして、「大元=空=大切なこと=真心」に戻りなさいと教えてくれているように思います。
そして、「空=大元=真心」に戻って従来のしがらみや常識から解き放たれて、その本質(=コンセプト=核心)を把えてから「現実=色」を観ると新しい世界(=現実=色=確信)が観えるということではないでしょうか。その確信を革新するのがイノベーションであり価値創造です。
スティーブジョブズは、禅寺に通っていたことを知った時に、「iPhone」は「核心→確信→革新」に至ったと確信しました。
だから、「色即是空」「空即是色」と繰り返しているのです。「色」と「空」が同じであれば、繰り返す必要はないのです。「色即是空」と「空即是色」の「色」は異なるものです。
さて、超越瞑想や禅に入ると、「無」は「何もない」ということではなく、「遠ざける・気にしない」という意味だと体感できます。・・・
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「般若心経」と「老子・第42章」を並べてみると、般若心経の「空(クウ)」と「老子」の「道(タオ)」が全く同じことを云っていることが分かります。

「道(タオ)」とは、すべてのモノゴトの「大元:天地万物を生み出す原理(=空=道)」です。

その様に読み解くことで、般若心経も老子もすっきりと頭と心に入ってきます。

つまり、「空」「無」「道」をどのように解釈するかで、モノゴトの本質にたどり着けます。
(「空」や「無」をないものとするのは間違いです)
そしてそれは、そのまま「価値創造の知」「イノベーション」の道でもあります。

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夫れ物芸芸たるも、各々その根に復帰す。
(訳:田口佳史):いろいろな問題が、葉が生い茂るように発生するけれども、すべては根に帰る。「根」すなわち「根本」に立ち返れば、解決が見えてくる。
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学を為す者は日に益し、道を為す者は日に損す。之を損し又た損し、以て無為に至る。無為にして而も為さざる無し。
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雑念や欲望や枝葉を遠ざけて、「大元」に戻ることで「新時代の価値」(第33夜、第66夜、第85夜)が観えてきます。
それは、トリニティイノベーションの3本の矢の一本目(=深い知)。

「般若心経」「老子」は、事業、地域、社会、人生の問題・課題の全ての前提、土台、分母となり解決に向かう思想哲学です。それは、あらゆる考え方の大元(おおもと)であり、源泉です。

本夜は、前半の「道(タオ)」が大切にすること、本質を綴りました。
次夜は、後半部(陰陽)と孔子との関係を考察します。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ
老子

橋本元司の「価値創造の知・第176夜」:古典「ヘーゲルの知」

2018年11月2日 インテリジェンスとは?

仙台に、「知の旅」に出遊してきました。松岡正剛師匠が亭主の「知の倶楽部」(第26夜)です。
現在は不定期開催なのですが、今回は「佐藤優さん」というとびきりのゲスト。

「知の巨人」と「知の怪人」が語り合う2日間の秘密倶楽部は、間違いなく格別・別格の時空間でした。

メインテーマは、「インテリジェンス」

そのテーマを基盤として、松岡さんと佐藤さんが重なり合い、真と間を創発し、生成してゆきました。

多くの気付きと学びと更新がありました。
この倶楽部では、毎回「超一流」を体験して、それが自分の財産と精神になっています。
それらをより多くの方達に伝え、広めるのも自分の務めなのだと思います。

この「価値創造の知」連載もその一環です。

さて、「知の旅」の終盤で、自分の相談ゴトに松岡師匠からは、

「古典を読むことで観えることが多くある」

と、助言がありました。

今回の倶楽部では、佐藤さんから「知(インテリジェンス)の使い方」の徹底指南がありました。
佐藤さんの著書である「知の操縦法」を読むと、後半の多くが、古典ヘーゲルの知「精神現象学」に割かれていました。
そこには、古典と付き合う作法と心得が記されていました。

ヘーゲル思想の主線は、
①人間本質論つまり人間的欲望の本質論がおかれ、
②ここから、人間本質論がおかれ
③ここから人間関係の本質論が立てられ、
④さらにこれが歴史論に展開され、
⑤そして、近代社会の基本理念に達する
という仕方で進んでいます。

新価値創造研究所の価値創造三本柱の一本が「ヘーゲルの弁証法」を元に編集していますが、これまで本元の「ヘーゲル思想」に立ち入ることはしていませんでした。(他の二本は、「禅の思想」と「間の思想」です)

佐藤優さんは云います。
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「なぜ、ヘーゲルのように難しくて、資格や語学みたく人生に直接的に役立たない面倒くさい本を読み解いていかねばならないのかと思う人もいるかもしれません。
しかし、ヘーゲルのような古典こそ、現実の出来事を具体的にみていくうえで役に立つのです。
すでに述べましたが、実用的なノウハウは使える用途が限られているので、そのような断片的な知識をいくら身につけても、長期的には役立ちません。
根源的な知を身につけ思考の土台を作り、実際に役立つところまで落とし込んでいくことが求められています。・・・

ヘーゲルのような古典哲学を読み解いていくには、まず解説書を読み、全体像を掴んでからのほうが、頭に入りやすくなります。・・・
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実は、写真の「完全解説・ヘーゲル精神現象学」をなぜか10年前に池袋の本屋で購入していました。ところが、ぜんぜん頭に入らなかったのです。
今回の倶楽部で、インテリジェンスを多面的に学び、「知の操縦法」で古典哲学の読み解き方を知ることで、

完全解説・ヘーゲル「精神現象学」
第1章:意識
第2章:自己意識
第3章:理性
第4章:精神
第5章:宗教
第6章:絶対知

に分け入ることができるようになりました。

これも不思議で格別のご縁(第19夜)です。

このことで、自分の知が深まり、高まり、広がることで、更新した「知」を社会、世間に贈与、貢献したいと思います。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

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