価値創造の知:第37夜 “コンセプトのつくり方”

2017年3月21日 コンセプト(concept)

“二つでありながら一つ”という最も重要な方法について、第31夜~第36夜に亘って綴ってきました。本夜は、その方法によってできる『コンセプトのつくり方』をご案内します。

前職でも現職でも“コンセプト”の良し悪しでその後の事業の成長や成果が大きく影響を受けることを数多く体験してきました。 なので、『価値創造』にとっても非常に重要なプロセスとなります。
そもそも“コンセプト”とは何でしょうか?それは、
1.概念。
2.企画・広告などで、全体を貫く基本的な観点・考え方。
と記してあります。
なにかピン!ときませんね。

【三省堂ワードワイズ・ウェブ】では、
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コンセプト(concept)は、本来「概念」を表す言葉です。しかしながら、日本語でコンセプトの語を用いる場合は、「全体を貫く基本的な概念」を表すことが多いようです。
例えば「今度開店するレストランのコンセプトは“近未来”でいこう」と言った場合、レストランの店名・内外装・メニュー・広告などに、近未来的な演出を施そうという意味になります。
どんな時に登場する言葉かと云えば、
企画立案が関わるすべての分野で、広くこの語が用いられています。例えば「競合優位な独自の切り口とコンセプトは何か?」(小売)
「劇的空間のコンセプトはワビサビ」「ニューヨークがコンセプトのスタイリッシュ空間」(飲食)「風をコンセプトにした町おこし」(地域振興)などの使用例があります。
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と記されています。
なんとなくイメージできてきましたでしょうか。

上記の様に、とても幅広く使われている言葉なので、ここでは、競合がいる場合を念頭において、顧客価値創造に繋がる“コンセプトのつくり方”をご案内します。

ポイントは、
・『人間の背骨』のように、全体を貫く基本的な概念
・『他社や他国との違いを創る』新しい視点、視座
にあります。

価値創造の基本は、“二つでありながら一つ”でした。
添付図は、『バリュー・プロポジション=お客様から選ばれる理由』(出典:goo辞書)について説明していますが、私がコンセプトづくりする時にはこの図を必ず活用する優れものです。

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バリュープロポジションとは、顧客に提供する価値の組合せ。製品やサービスのメリット、自社の存在価値や独自性を顧客に伝え、その価値を高めること。
バリュー・プロポジションを検討する際には、顧客の立場に立って自らの製品・サービスを見つめることが必要だ。顧客は、自分たちが想定している価値とは別の価値を求めていたり見出してたりする可能性もある。
例えば、ある喫茶店が、コーヒーへの拘りこそが自社の価値だと考えていても、顧客からは単にタバコの吸える喫茶店と見なされているかもしれない。
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通常は、どうしても右丸の「自社が提供できる価値」ばかりを考えてしまうのですが、重要なのは、左丸の「お客様が望んでいる新しい価値、スタイル」です。
どのような“お客様”に価値提供するのかを明確にすることがとっても大切です。
さらに、上丸にある「競合他社が提供できる価値」が存在しますので、その3つが合わさったセンターが『レッドオーシャン(= 競争の激しい市場のこと)』になります。
一番分かり易いど真ん中なのですが、絶対にここに入り込んではいけません。

ここまでを整理しますと、
環境変化が激しい時代に適応した『①お客様が潜在的に望んでいる価値と、②競合と被らずに自社が提供できる価値が新結合した新価値領域』が“バリュープロポジション=お客様から選ばれる理由”です。
それを彫り出すには、新結合の上等のスキルが必要です。そのことをこれまでの夜話でお伝えしてきました。
この領域をメンバー全員の創発で浮かび上がらせることができれば、価値創造、事業創造の半分は終わったようなものです。

さて、「バリュー・プロポジション」では、複数の洗練されたキーワードが浮上してきますが、それを一つの「言葉」に絞り込んで落とし込む(言葉化)のが『コンセプト』なのです。
磨き上げたコンセプトは将来事業の『背骨』であり、モノゴトを動かす『中心の考え方』であり、戦略的で行動にうつす『羅針盤』の役目を持ちます。グレートキーワードですね。

確認ポイントは、
①環境変化、将来をしっかりと捉えられていること!
②競合とは、かぶらない新価値が明確に伝わること!
③顧客も自社もワクワクドキドキする「光りもの」があること!
更に、新しい文化、新しいライフスタイルを創出できること!!

です。
是非、チャレンジしてみてください。

次の夜は、『言葉化』するときのノウハウをお伝えします。

第37夜 価値創造から経営革新へ

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次世代のデジタル地球儀

2017年3月16日 触れる地球@文化経済研究会

の文化経済研究会(3/16)のゲストスピーカーは、京都造形芸術大学の竹村真一教授でした。前職では何回かお会いしましたが、「地球目線」をキーワードに、「人と地球 共生・共創・共進化」を熱く語られていました。グローバル(globel)はグローブ(globe:語源はラテン語の「球」という意味の言葉で、球を地球に見立てているもの)を形容詞化したもので、「球のような・球状の」となり、「地球のような=世界的な」という意味に転じたものです。地球リテラシーを養成する次世代のデジタル地球儀「触れる地球」をベースにした、『地球』という学科が、小学校の4教科(国語・算数・理科・社会)と同格にできるといいですね。

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価値創造の知:第36夜 “複雑系の知”

2017年3月15日 世界は複雑化すると、新しい性質や命を獲得する

丁度、自分が総合研究所に異動する頃に、“複雑系(complex system)”や“複雑性(complexity)”という言葉が、21世紀を迎える前に話題になっていました。
今でもその言葉はぜんぜん色褪せていません。そして、その本質を取り入れるか入れないかで、経営革新に大きな差が出ているコトを実感しています。価値創造と複雑系の「知」は共通項が多いのです。
それでは、“複雑系(complex system)の知”と“価値創の知”の本質の関係をひも解いてゆきます。

 “複雑系”というと、複雑で難しそうと思われますが、自分はそれを下記の様にとってもシンプルに把えています。
『世界は複雑化すると、新しい性質や命を獲得する』
なので、これまでの夜話にお付き合いしていただいた皆様には、すぐに『ピン!』とくると思います。

例えば、“iPhone”です。
それまで、ポータブルな情報機器として、
「iPod、デジタルカメラ、携帯電話、インターネット」
と複雑化してきたものが、“iPhone”に統合されたことで、新しい性質を持ち、新しい文化を創りました。

“人間”を事例にすると、
人間の要素をバラバラに分解すると、目、鼻、耳、脳、心臓、手、足、神経・・・となりますが、それらが集まることで、“命”が生まれます。

“活版印刷”(第12夜)では、
「刻印機」と「ぶどう搾り機」という二つが新結合して、「活版印刷」が誕生しました。

“ピュアモルトスピーカー”を事例にすると、「サントリー・ウィスキー樽」、「オークビレッジ・匠の木組み工法」、「パイオニア・音響の匠」
の3社が集まって、“ピュアモルトスピーカー”という樽物語が生まれました。その詳細は、第17夜、第18夜、第35夜に記しています。

第29夜「未常識と非常識」(山本七平著)では、
1. 量の変化が質を変える
2.「二者択一以外」の道 (=第3の道)
を記しましたが、これもまったく同じことを云っていますね。これは、これまで綴ってきた『イノベーション=新結合』の基本ですが、そのまま“複雑性(complexity)”です。

とても身近で役立つ“知”ですね。経営革新の重要な方法と考えています。
何となく“複雑系(complex system)”が親密に感じられてきたら嬉しいですね。

さて現在を見渡すと、通信量が飛躍的に増え、より複雑系になってきている「インターネット」が時代を大きく変えています。
この「インターネット」の進化やそれと関係する、ビッグデータ、AI・IoT・Robot・ARが時代を牽引してゆくと云われています。
・一体何が増えてきているのか?(量・数)
・量の変化が質を変える(質への転換)
・ビジネスモデルの進化例
センシング(イメージング)→プロダクティング→インテグレーティング(コンサルティング)

を皆様の対象事業につなげて洞察しますと将来事業のヒントが数多く観えてくるのではないでしょうか。

「インターネット」には、“3つの鍵”があります。【引用:インターネット的(糸井重里)】
その一: リンク
その二: シェア
その三: フラット
それらへの「質の転換」をよく理解することが重要です。その方法を経営に新結合すると新しい展望が拓ける可能性が高まります。

さてさて、後方の写真の”複雑系の知”から引用します。
全体を洞察することの重要性を記しています。多くの会社(特に大企業や自治体)の組織は縦割りなのですが、そのことの限界が読み取れると幸甚です。
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社会を、政治・経済・文化など、さまざまな専門領域に分割し、分析しても、それだけでは社会の持つ生命力の本質に迫ることはできない。なぜならば、社会というものの本質は「関係性だからである。いや、社会だけではない。
われわれの生きる宇宙・地球・自然・人間・社会など、全ての世界の関係性が関係性であり、世界とは、「関係性のネットワーク」にほかならないからである。
それゆえ、社会いうものを、小さな専門の領域に分割して研究する現在の社会科学は、この分割という行為によって関係性のネットワークを切断してしまう。
そして、そのことがいま、環境経済学や環境政治学といった専門領域に分割して環境問題を研究することの限界になって現れているのである。
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その”複雑系の知”の深みに達するには、「洞察力」「直観力」を身につけることが必要となると記されています。
“分析はできない、全体を洞察せよ”

そして、
“社会の本質を知るだけでは意味がない。なによりも、その社会の現実を、より良いものへと「変える」ことが大切なのである”
更に、「起こすから起きるへ」「変えるから変わるへ」の重要性を説いています。

「直観力」としては、「インターネット的(糸井重里)」が参考になります。自分が好きな箇所を引用します。
“ある固定した考え方を続けていくと、鬱血(うっけつ)が起こってきて、床ずれし始めます。その始まりのサインは軽い不快感です” 先人達が決めた先入観、常識を疑い、この床ずれに気づくのが「問題の発見」になります。
どうでしょうか?鬱血していませんか?

かつて、【精神の生態系】を著した文化人類学者のグレゴリー・ベイトソンが次の言葉を語っています。
『複雑なものには、心が宿る』

つまり、私たちは、世の中が複雑になってきたら、下記、心の“洞察の力”がとても重要になることを示唆しています。これが、冒頭にお伝えした“経営”にも当てはまります。
経営革新に『洞察』能力はマストです。

そこで、“複雑系(complex system)”を上手に取扱いできるようにするために、『価値創造の知:トリニティ・イノベーション』(第21夜)の基本を習得することをお薦めします。
1.Insight:顧客洞察 深く人を読む
2.Foresight:将来洞察 高く未来を読む
3.Gestalt:新結合=複雑系 広く全体を読む

“価値創造の知”“複雑系の知”を駆使できる“人財”を迅速に、より多く輩出したいと想います。

第36夜 価値創造から経営革新へ

 

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価値創造の知・第35夜 “やってみなはれ”

2017年3月12日 ピュアモルトスピーカー

写真は、20年前に「ピュアモルト・オーディオ」を佐治敬三会長にプレゼンテーション(@赤坂)した時のものです。

私は、サントリー様とコラボレーションして創った「スピーカー&オーディオ」に“ピュアモルト”という名前をどうしても付けたかったのですが、鳥井 信吾・サントリーホールディングス代表取締役副会長のサポートをいただいて、想いが実現したスーパーショットです。

 佐治敬三会長が大好きな曲を、ウィスキー樽で造ったピュアモルトスピーカーの響きでお聴きになり大変喜んでいただきました。
私から、「“やってみなはれ”をコラボレーションでやってしまいました」とお伝えすると、
「ピュアモルトスピーカー、いいものをつくられましたな」
と素敵な笑顔と握手で応えてくれました。忘れられません。
そして、「ピュアモルトスピーカー」のネーミングにOKを出していただき、サントリー創業100周年記念ウィスキーのプレゼントがありました。我が家のお宝です。感動・感激・感謝でした。
伝え方が重要なことを直に教えていただきました。

さて、「やってみなはれ」について記されたことを綴ります。
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「やってみなはれ、やらしてみなはれ」の精神で、父親から譲り受けた会社を世界有数の洋酒メーカーに発展させたサントリーの佐治敬三。「生活文化企業」を目指し、新規事業に次々と進出。彼の経営人生はまさに挑戦の連続であった。

「やってみなはれ」というのは、おやじがわたくしに、もう百万回も言うとったわけです。耳にタコができるほど。

で、社長になって考えてみましたら、やっぱり小理屈を並べておっても、物事は運ばない、ともかく実行をまず第一に考えて、それからその中でいろいろ学びながら、第二段階のアクションを考えていったらいいんじゃないかということなんですね。

で、上司といいますか、管理職が、部下に対して「やってみなはれ」と、こう言うわけですね。
それと同時に、その「やってみなはれ」だけではいかんので、やったあとの結果については、「おれがその骨を拾ってやるぞ」「失敗してもいいじゃないか」と、それはおまえの責任ではないという意味で、この「やらしてみなはれ」というのを加えまして、主としてその管理職に対する希望でございますから、役員室に掲げてあるんです。
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「価値創造」を使命とする身にとって、“やってみなはれ”の環境は垂涎の的なのです。

在職中は、日本初のモルトウィスキー、そして「ウィスキー文化」を創られ、世界最高峰のビールに向けても挑戦と改革を続けられました。
サントリーホールやラグビーも含め、遊び心いっぱいの自由人・文化人で、その格別のお人柄とイノベーターとしての情熱の高さにずっと憧れていました。

サントリーの社員の方達とのお付き合いは今でも続いていますが、常にどんどんチャレンジしていく風土があり、恐れずに新しいことを提案されていて、とっても羨ましく思います。

さて、「ピュアモルトスピーカー」の異業種コラボレーションのおかげで、サントリー友人のアドバイスから、売上の一部を「国土緑化推進機構」に寄付をし続けました。
そして、その商品がパイオニア社初めての「エコマーク商品」となりエコプロダクツ展への出品とつながりました。コラボレーション効果です。

さてさて、私の中では、「ピュアモルトスピーカー」の未来形が頭に浮かび、サントリー様とのコラボレーション第2世代の進化形が明滅し、そのポリシーとライフスタイルをご一緒に展開する構想があります。
“やってみなはれ”の精神で、いつか実現させることを愉しみにしています。

第35夜 価値創造から経営革新へ

佐治敬三

価値創造の知・第34夜 不易流行(ふえきりゅうこう)

2017年3月10日 不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず

不易流行という言葉を知っていますか?

前職・目黒本社に転勤となった35歳の時に、痛勤時間に一日一冊を読むということを自分に課していた時(第25夜)に、
「流行予知科学」(星野克美著)を読み、未来を推測する認知科学マーケティングに興味を持ちました。
『価値創造』にとって、「流行」の本質をどうしても掴みたかったのです。

 そのように『流行』の行先や本質に関心を持ちながら、「ヒット商品緊急開発プロジェクト」のリーダーになりました。(第14夜)
そして、サントリー様と「ピュアモルトスピーカー」でコラボレーションした時に、大阪・堂島の本社や山崎蒸留所に行きました。
その夜の懇親会で、「サントリー・不易流行研究所」があることを知り、『不易流行』の話しで盛り上がりました。(写真は、不易流行研究所の発行本)

「不易流行」とは俳聖・松尾芭蕉が「奥の細道」の旅の中で見出した蕉風俳諧の理念の一つです。

芭蕉の俳論をまとめた書物『去来抄』では、不易流行について、以下のように書かれています。
(引用:日本俳句研究会 俳句の作り方)
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「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」(去来抄)

噛み砕いて言うと、
「良い俳句が作りたかったら、まずは普遍的な俳句の基礎をちゃんと学ぼう。でも、時代の変化に沿った新しさも追い求めないと、
陳腐でツマラナイ句しか作れなくなるので、気を付けよう」 ということです。

例えば、明治時代に正岡子規は、江戸時代以来の陳腐な俳句を月並み句として批判し、俳句の革新を成し遂げましたが、彼はいきなり新しい句を作ったのではありません。
正岡子規の初期の作品は、彼が否定した月並み句そのまんまです。

正岡子規は、俳句の本質を学んでから、新しい俳句を目指すという、不易流行を体現したような人だったのです。

不易流行の『不易』とは、時を越えて不変の真理をさし、『流行』とは時代や環境の変化によって革新されていく法則のことです。
不易と流行とは、一見、矛盾しているように感じますが、これらは根本において結びついているものであると言います。

蕉門に、千歳不易(せんざいふえき)の句、一時流行の句といふあり。是を二つに分けて教え給へる、其の元は一つなり。(去来抄)

去来抄の中にある向井去来の言葉です。
「千年変らない句と、一時流行の句というのがある。
師匠である芭蕉はこれを二つに分けて教えたが、その根本は一つである」
という意味です。

その根本とは、「風雅の誠」であり、風雅の誠を追究する精神が、不易と流行の底に無ければならないと語っています。

師の風雅に万代不易あり。一時の変化あり。
この二つ究(きはま)り、其の本は一つなり。
その一つといふは、風雅の誠なり(三冊子)
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これまでの価値創造・夜話から、上記には下記「3つ」のことが浮かび上がります。

①「不易(変わらぬもの)と流行(変わるもの)の根本は一つである」
これは、第31夜~33夜でお伝えした“二つでありながら一つ”と同じです。つまり、不易流行も根本は一緒です。

② 正岡子規の“俳句の本質を学んでから、新しい俳句を目指す”は、
守破離(第5夜)そのものです。
“守って型に着き、
破って型へ出て、
離れて型を生む”

③虎屋の羊羹(第12夜)
さて、あの虎屋さんが「大切にすること」をご存知ですか?
違う切り口で質問すると、「変えていいもの」と「変えてはいけないもの」が何かです。
・変えていいものは「味」
・変えてはいけないものは、「お客様への感謝の気持ち」
です。素晴らしいですね。

そう、私たちは、未来を観るときに『本来と将来』を同時に観ることが必要です。
そして、過去を豊かにすることが、現在と未来を豊かにしてくれます。これがとっても重要です。

これは、“温故知新”でもありますね。
価値創造の“第2法則”です。

さて、サントリー様の関係者との懇親はとても楽しいものでした。それは、「不易流行」から始まり、「やってみなはれ」につながっていきました。
それらが美味しいお酒の肴になりながら、北新地の夜は更けていきました。

さてさて、赤坂で佐治敬三会長にプレゼンテーションをしました。「やってみなはれ」については、どこかの夜に綴りたいと想います。

第34夜・価値創造から経営革新へ

不易流行

 

価値創造の知・第33夜 禅と価値創造③

2017年3月1日 “二つでありながら一つ”

『禅(ZEN)』の修行で一番大切なコトは何だと思いますか?
それは、「二つ」にならないということにあります。
座禅の姿勢は、「結跏趺坐(けっかふざ)」という右足と左足を組んでいますね。

 この姿勢は、『二つではない、一つでもない』という「二元」性の「一者」性を表わしています。
これが、もっとも大事な教えです。(引用:禅マインド)

もし私達の心と身体が二つである、と考えるとそれは間違いです。心と身体が一つである、と考えるとそれも間違いです。私達の心と身体は、“二つでありながら一つ”なのです。
私達は普通、もし何かが一つ(単数)でなければ、それは二つ以上(複数)であると考えます。けれども実際の人生の経験に照らしてみましょう。
私達の人生は、複数であるばかりではなく、単一です。私達は、互いに支え合うと同時に自立しています。

『禅』が大事にするのは、今この時、現在です。
過去を考えれば、それは現在に戻り、未来を考えれば、それも現在に戻ります。
これも“二つ(過去と未来)でありながら一つ(現在)”なのです。

“人生が2度あれば”いいのですが、人生は単一です。

『禅』という字の意味がわかってきましたでしょうか。

さて、“二つでありながら一つ”と同じことを第17夜(「間(ま)」と「創造」)でお伝えしました。覚えておられますか?それは、『真(間)』です。
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「間」は日本独特の観念です。ただ、古代初期の日本では
「ま」には「間」ではなく、「真」の文字が充てられていました。

真理・真言・真剣・真相・・・
その「真」のコンセプトは「二」を意味していて、それも
一の次の序数としての二ではなく、一と一が両側から寄ってきて
つくりあげる合一としての「二」を象徴していたそうです。
「真」を成立させるもともとの「一」は「片」と呼ばれていて
この片が別の片と組み合わさって「真」になろうとする。
「二」である「真」はその内側に2つの「片」を含んでいるのです。
それなら片方と片方を取り出してみたらどうなるか。
その取り出した片方と片方を暫定的に置いておいた状態、
それこそが「間」なのです。
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『禅(ZEN)』の修行(方法)で一番大切なコトは、“二つでありながら一つ”ということです。

如何でしょうか?
「イノベーション」の代表格の“スティーブジョブズ”が禅寺に通っていたということが意味をもってきますね。
さあこれで、第31夜「アイデア」、第32夜「イノベーション」、第33夜「禅(ZEN)」の一番大事な方法・原理が同じだということをお伝えできたでしょうか?

この方法・原理を習得することが、どれだけ意義のあることかが、ご納得いただけたら嬉しいですね。

さて、ブッダの基本的な教えは、ものごとは移ろうということ、変化ということ、それは“無常”であるということです。
無常迅速であるから、人は悩み、事業は変化に対応するのです。
そこで、『禅(ZEN)』が教えるのは、“初心”です。“ありのままに在ること”“大元(おおもと)に在ること”です。
それは、第6夜(「色即是空・空即是色」)に記しました。

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「色即是空」というのは、「現実=色」に問題・課題があるのなら、先ず心を無にして、「大元=空=大切なこと=真心」に戻りなさいと教えてくれているように思います。
そして、「空=大元=真心」に戻って従来のしがらみや常識から解き放たれて、その本質(=コンセプト=核心)を把えてから「現実=色」を観ると
新しい世界(=現実=色=確信)が観えるということではないでしょうか。その確信を革新するのがイノベーションであり価値創造です。
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ここにも“二つでありながら一つ”がありますね。
「空」=「大元」に意識を置くこと(超意識)が重要です。
そのため、多くの経営者やイノベーターが「禅(ZEN)」や「「超越瞑想」の門を叩く理由なのでは、と思っています。

それでは、前夜に記した「マーケティング」と「イノベーティング」についてお話しします。
マネジメントの神様の「ピータードラッカー」は、企業(事業)の目的を

“顧客を創造すること”=“顧客価値を創造すること”

と云っています。顧客価値を創造できなければ、企業は倒産します。これが現実です。

そして、企業の中でそれを実現できるのは、「マーケティング」と「イノベーション」の二つだけだと言いきっています。
さて、またここに出てきましたね。

“二つ(マーケティングとイノベーション)でありながら一つ(顧客価値創造)”

ここがポイントです。
そうすると、イノベーションという言葉が引っ掛かります。
そうであれば、これは「イノベーティング」が適当なのではないかと。

昨夜(第32夜)は、「イノベーション」について記しました。

イノベーションとは、『①「モノやコト」が新しく結びつき、②それが新しい価値として社会的に受け入れられて、経済が発展している状態(ing)のコト』

そう、つまり顧客価値創造から見れば、「イノベーティング」なのです。

“二つ(マーケティングとイノベーティング)でありながら一つ(顧客価値創造)”

ここから、顧客価値創造の神髄となる三位一体としての「トリニティイノベーション」(第21夜の図)が出来上がりました。

おそらく、何年かすると事業開発や価値創造の領域では、「イノベーティング」と呼ばれるようになると思います。きっと。
それは、本日の夜話がきっかけになって・・・。笑

第33夜 価値創造による経営革新

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価値創造の知・第32夜 イノベーションと価値創造②

2017年2月28日 イノベーションの真髄

前夜に引き続き、「アイデア・イノベーション・禅」の共通項を紐解いていきます。
これが観えたときに、自分の中の価値創造の風景がステップアップしました。(第8夜 「わかる」ことは「かわる」こと)
その時の『かわる』を皆さんと共有できると嬉しいですね。

 さあ、今夜は「イノベーション」です。
イノベーションの元祖であるジョセフ・シュンペーターは、イノベーションを「新結合」と呼んで、次のように云っています。

イノベーションとは、『①「モノやコト」が新しく結びつき、②それが新しい価値として社会的に受け入れられて、経済が発展している状態(ing)のコト』
 新結合 = New Combination

前夜の「アイデアのつくり方」(ジェームス・W・ヤング)は、『アイデアとは既存の要素の新しい組合せ以外の何ものでもない』でした。
そして、今夜のイノベーションの前半は『①「モノやコト」が新しく結びつき』が『新結合 = New Combination』になっています。

つまり、「アイデアのつくり方」の方法と、「イノベーション」の前半の方法は殆ど同じことを云っています。
それは、ゼロから何かを生み出すことではなくて(=発明:インベンション)、既にあるモノ(コト)同士を組み合わせることによって新しい価値を生み出す方法、原理を意味します。(=イノベーション)
なので、私たちは誰でもイノベーションを生み出す、価値を創造することができるのです。

それまでになかった新しい組み合わせ、新結合の理解を進めるために、自分ゴトを含め、三つの事例を記します。
①活版印刷
ルネッサンス期の世界の三大発明と云われるグーテンベルクの活版印刷も、グーテンベルクの実家の刻印機と周辺のワイン製造のぶどう絞り機の新結合によって生まれました。(写真)
②ピュアモルトスピーカー等
第4夜(不足転じて満足となす:用意と卒意)と第17夜(「間(ま)」と「創造」)で、私がプロデュースした異業種コラボレーションによるヒット商品群を記しましたが、それはまさしく新結合そのものです。
③iPhone
世の中を変えたスティーブジョブズのiPhoneは、「iPodとデジカメと携帯電話、ネット」の新結合です。

さて皆さん、イノベーションへの挑戦に、俄然やる気が出てきましたか?

やる気が出てこられた方は、第1夜(「創造性」による生産性向上と働き方改革)をご覧ください。
そこには、
・模倣的(イミテイティブ)
・創造的(クリエイティブ)
・革新的(イノベイティブ)
のことを記しています。

昨夜(第31夜)は、「アイデアのつくり方」ですが、これは『・創造的(クリエイティブ』に属します。
「イノベイティブ」とは、iPhoneに代表されるように、「新しい世界を創り出すコト=現実を変えるコト」、「それが新しい価値として社会的に受け入れられて、経済が発展している状態(ing)のコト」にあります。
ゆえに、『クリエイティブは、イノベイティブの前段です』

クリエイティブ以上の『イノべイティブ』に到達するのに必要なのは、
・第21夜(気立て・見立て・仕立て)の気立てと仕立ての用意と卒意
・第17夜(「間(ま)」と「創造」)のダイアグラム作成 がポイントになります。

何れにしても、重要なことは、第11夜(イノベーションの心得:「本気・本質・本流」編)でも記しましたが、結果として、次のS曲線(本流)に乗り移れるかどうかにかかっています。
『イノベーション』の理解のお役に立てれば幸甚です。

今までの多くの経験から、いくらいい構想があっても既存組織には足を引っ張る力が働きます。(コメント写真:イノベーションのジレンマ)ここを乗り越えることも必要です。
更に、世の中はとっくにイノベーションが進化した『オープンイノベーション』の時代です。本気・本質、そしてビジネスの『型』を際立たせましょう。
モタモタしてはいる時間はありませんね。

次の夜に記しますが、私はイノベーションという言い方をマーケティングと同様に、『イノベーティング』と云いたいと思っています。
その理由は「禅」との関係から・・・

第32夜 価値創造による経営革新

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