橋本元司の「価値創造の知」第378夜:「価値創造の知 」 教育機関向け-AI時代の価値創造教育プログラム

2026年5月12日: AI時代における「価値創造人財教育」の再設計に向けて

 第370夜から第376夜にかけて、
 AI時代に、「価値創造」という人間の側が持つべき最も重要な『知』」を図解化・時系列化・体系化してお伝えしてきました。
 本夜はこれまでの「価値創造の知」を大編集して、次世代を創る「教育機関の高等教育・アントレプレナーシップ人財創生」に向けた「価値創造教育プログラム」を公開します。

■提案要旨
~AI時代における「価値創造人財教育」の再設計に向けて~

 本提案は、AI時代における大学教育・起業家教育の高度化に対応するため、 「価値創造」を再現可能な知(工学)として体系化した教育プログラムの導入を目的とするものです。
 従来の教育が「知識の習得」に重きを置いてきたのに対し、
本プログラムは「問いを創り、価値を構想し、社会に実装する力」
の育成・養成を中核とします。

 現在、生成AIをはじめとする技術の進展により、「知識の獲得」そのものの価値は相対的に、劇的に低下しています。
 下図の「AI登場による価値観」の変化をご覧ください。
 いま、左側の常識領域(正規分布曲線)では、「AIが瞬時に正解を出す」ことを私たちは目の当たりにしています。 そのことが否応なく私たちの未来を大きく変えていきます。諸行無常です。

 これから人間の側は、右側の未常識領域(M字型)に向けた、
「 人々に役立つ『問い・意味・価値』を創る」ことができる

「型破り・異端児・イノベーター」

 というAIが苦手とする「斬新的な本質の発掘」が求められる時代になっていきます。
(現代では、「異端児」とは「業界の異端児」のように、主流派(左側)とは異なるアプローチで結果を出す人物への敬意や独創性への賛辞として使われることが多い)
 
 下図の変容に対応・適応できなければ、国・地域・産業は、成長ではなく衰退の道を辿ります。
このことにより、高等教育・起業家人財教育に求められる教育機関の役割は大きく変化せざるを得ません。 

◆ 「立つ」時代の心得と方法

 いま、令和の地球沸騰環境(生命サステナブル)、ビジネス環境(AIデジタル等)等の「後戻りしない変化(=トランスフォーメーションX)」の前では、「立つ・立ち上がる・自立する・両立する・役立つ」 という動詞が、これまで以上に経営や事業創発のコア技術になります。

 事業が立ち上がる、経営・組織を立て直す、人財が自立する、経済価値と社会価値両立する、──これらはすべて、「価値創造のプロセスをどう設計できるか」にかかっています。

 価値創造とは、切実・驚きの『心のトリガー』が逸脱を呼び、『智慧の編集』が別様の価値を構築する」という、一種の“立ち上げ工学”です。

  本プログラムでは、下図の価値創造「らせんプロセス体系図」で表すように、

『切実(気立て)→ 逸脱(見立て) → 別様(仕立て)』

という「価値創造の本質プロセス」を中核に据えて、それを教育現場、アントレプレナー人財教育現場で扱えるように「見える化構造化」しています。

*実践:「価値創造プロセス体系」全体像

らせんプロセス学習テーマ学習内容(ワークショップ例)
1. 切実(心)「問い」の採掘
⇒自分だけの違和感を言語化
● 違和感ジャーナル: 日常の不平・不満・驚きを書き出し、その裏にある「自分はどうありたいか(切実心)」を特定するワーク。
● 物語の起点づくり: 過去の受難や逆境を振り返り、それを価値創造のエネルギー(魂)に変換するストーリー化演習 。
2. 逸脱(智慧)「意味」の構築
⇒常識を疑い、新結合を構想
● Think out of the box: 「正解」をあえて否定し、独自の「3つの知」で新たな意味を上書きする「型破り」発想法ワーク 。
● シナリオ: 既存の枠組みから「逸脱」した未来を描き、なぜその未来に価値があるのか(意味)を決定するコンセプト立案。
3. 別様(統合・実践)「判断」と「実装」
⇒構想を具体的な形にする
● 「三かき」プロジェクト: 夢をかき、恥をかき、汗をかく実践プロセスを通じ、プロトタイプを制作して現場(社会)へ接続 。
● 別流の価値提案: 既存のものを使って、これまでにない「できる」を創り出す、具体的な事業プランや政策提言の作成 。

  1. 切実 (Seriousness / Urgency):
     現状の課題や問題意識を深く、真剣に受け止める段階です。これは、新しいものを生み出すための出発点となる「問い」や「危機感」に相当します。既存の枠組みでは解決できない切実な状況や欲求が、変革のエネルギーとなります。
  2. 逸脱 (Deviation / Transcendence): 切実な問いに対して、既存の常識や枠組み、成功体験から意図的に離れる段階です。従来のルールや考え方にとらわれず、あえて異なる視点や発想を試みることで、新たな可能性を模索します。
  3. 別様 (Difference / Alternative):
     逸脱した結果として、これまでにない新しいアイデア、視点、解決策、あるいは価値が生まれる段階です。これは、単なる「違い」ではなく、新しい「あり方」や「様式」を意味し、新たな価値創造の実現を指します。

*実践:「問い創造プロセス体系」

フェーズテーマ学習内容(ワークショップ例)
A. 心の揺れ「感性・心性」の解凍常識の中に潜む「違和感」・「ズレ」を言語化する。AIには検知できない「人間の内面・内発」をリスト化する。
B. 疑問「Why・疑念」の深掘りなぜその違和感があるのか?「切実心・好奇心」を起点に、課題の本質を抽出する。
C. 探求/探究「別流」の探索「守破離」と「真善美」を往復し、AIが提案する「最適解」ではない「別流の解決策」を練る。
D. 問い「志・信念」の構造化磨き上げた問いを、最強の「プロンプト(成長の設計図)」へと変換する。

教育的構図のポイント

  1. 受動から能動への転換: ステップA・Bは、外部の変化に対する「受動的な心の揺れ」を起点としますが、ステップC・Dを経て「能動的な問い」へと進化させることで、学生の主体性を引き出します 。
  1. AIとの差別化指標: AIが得意なのは「効率的な実行」です。このプログラムでは、AIには不可能な「切実な動機(A・B)」と、既存の枠を越える「意味の構築(C・D)」に学習の重心を置いています 。
  1. 「3つの知」による判断: ステップDで問いを構造化する際には、別途提示されている「深い知(人間)・高い知(未来)・広い知(社会)」を羅針盤として用いることで、独りよがりではない、社会価値と両立する「強い志」を形成します 。

 この体系表を用いることで、「どの段階でどのような知的負荷を学生にかけるべきか」が明確になり、学生は「自分の違和感がどうやって社会価値に変わるのか」という道筋(OS)をインストールすることが可能になります。
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 上記の様に、

  • 「正解」を学ぶ教育から
  • 「問い」と「意味・意義(meaning)」を創り、「別様・別流の価値」を構想する人財教育へ

 の迅速な転換・先取りが、教育界や産業界に不可欠となっています。

本提案は、このような時代背景を踏まえ、
「価値創造」を単なる理念・机上ではなく、
・これまで現場で培った「実践と理論」を両輪とした
「再現可能な『知の体系』として構造化・工学化」
したものを明示します。

 さらに本提案では、このプロセスを理解・実践するための統合フレームとして、
→ 問い創造工学
→ シナリオプランニング
→ セレンディピティ
→ 3つの知(トリニティ・イノベーション)
→ 価値創造工学

からなる 「価値創造の知・統合マップ(五位一体のナビゲーション)」 を提示します。

 上図は、単なる思考法ではなく、
•学生の主体的思考力の育成
•学生の地域課題への実践的接続
•産学官連携への展開

を同時に実現する教育モデルです。

■ 本プログラム

  1. 提案の全体構造

    本提案の核心は、価値創造を以下の5つの機能「五位一体のナビゲーション」として統合的に捉える点にあります。

    ⦿要約「五位一体のナビゲーション」
    「問い」が方向を指し示し、      (未来の行き先)
    「シナリオ」が歩むべき可能性を広げ、 (未来の想像) 
    ・ 「セレンディピティ」が加速を生み、  (未来との遭遇)
    ・ 「3つの知」が羅針盤をつくり、    (未来の創造)
    「価値創造」が未来を先取りする。    (未来の戦略)
フェーズ役割目的(大学・地域実装の視点)
1. 問い創造工学航路の決定:第372夜詳細「自分・地域・国の困りごと」を「未来への問い」へ昇華させる
2. シナリオプランニング海図の作成:第373夜詳細不確実な未来を「リスク」ではなく「可能性の束」として捉える
3. セレンディピティ追い風の活用:第375夜詳細準備された心で、偶然の出会いをイノベーションへ転換する
4. 3つの知判断の羅針盤:第376夜詳細ミッション・ビジョン・イノベーションの視点から意思決定を導く
5. 価値創造工学操船の基盤(OS):第370~371夜上記をシステムとして回し、具体的な価値を社会に実装する

[各フェーズの役割と本質]
① 問い創造工学(起点):第372夜詳細
 •役割:航路の決定
 •本質:現実の「切実さ・驚き」を問いへ昇華する
 ⦿ 教育的意義
 ・問題設定能力の獲得
 ・主体的思考の起点形成

② シナリオプランニング(展開):第373夜詳細
 •役割:未来の海図作成
 •本質:不確実性を「可能性」として構造化する
 ⦿ 教育的意義
 ・複数未来の理解
 ・ 「仮説思考・構想力」の育成

③ セレンディピティ(創発)
:第375夜詳細
 •役割:偶然の価値化 (やってくる偶然と迎えにいく偶然)
 •本質:異質な要素の結合による新規性・独自性の創出
 ⦿ 教育的意義
 ・柔軟な発想
 ・異分野融合能力

④ 3つの知(判断):第376夜詳細
 •深い知(人間):ミッション
 •高い知(未来):ビジョン
 •広い知(社会):イノベーション
 ⦿ 教育的意義
 ・「判断力」の育成
 ・「意味・倫理・社会性」の統合

⑤ 価値創造工学(実装)
:第370~371夜詳細
 •役割:価値の社会実装
 •本質:構想を現実の価値へ転換する
 ⦿ 教育的意義
 ・実践力
 ・社会接続能力

上記プロセスは、「知の点(問い)」が一本の強力な「知の線」となり、 さらに立体的な「知の型(3つの知)」へと進化する「黄金のリレー」です。
 それぞれがつながるように、理解を促進する実例と演習を用意しています。
(新価値創造研究所HPのコラム「価値創造の知」第370~377夜に各演習等の詳細を記載しています)

2.教育的価値

 本質的な「問い」がなければ「価値」は迷走し、単なる既存の改善(カイゼン)に留まってしまいます。
優れた価値創造には、既存の枠組みを疑う「問いの質」が不可欠であり、 真のイノベーション(価値創造)を起こすためには、その手前にある「問い」を設計する工学的なアプローチが不可欠です。

概念役割基本的視点
問い創造工学基盤・エンジン・源流「何を成すべきか」を定義する。これがないと、どれだけ技術があっても無価値なものが生まれる。
価値創造工学実装・アウトプット・別流「どう実現するかを形にする。問いによって定義された価値を、実際に社会へ届ける。

◆教育の転換(従来とこれから)
 生成AIの進展により、
  •知識取得の効率化
  •正解探索の自動化
 が急速に進んでいます。
 その結果、大学教育・起業家教育には以下の転換が求められています。

従来これから
知識習得問い創造
正解理解価値構想
個別学習社会接続

◆本質的課題
⇒ 価値創造は重要だが、教えにくい
理由:
  •プロセスが見えにくい
  •再現性が低い
  •属人的になりやすい

 その課題解決に向けて、本プログラムは再現可能な「問い創造工学・価値創造工学」として以下の能力を統合的に育成します。
①  問いを立てる力
 → AIには代替されにくい中核能力
②  不確実性を扱う力
 → 未来を「予測」ではなく「設計」する力
③  意味を創る力
 → 単なる機能ではなく価値を「構想」する力
④  判断する力
 → 技術・社会・人間を「横断」する思考
⑤  実装する力
 → 社会と「接続」する実践能力

*参考: 実践「問い創造工学体系」図解

⇒「問い創造工学」とは、人や社会の切実な問題から、 「なぜ:Why?」「何を:What?」「どうやって:How?」を問い続け、既存の枠を越えた「別流・別様の価値」を構想・実装するための思考と実践の方法論です。
⇒新しい価値を生むための「問い」とは、「常識・当たり前」という壁の向こう側にある「まだ見ぬ未来」へ手を伸ばすためのチケットです。
 上図は、そのチケットを手に入れ、実際に未来を形にするまでの「心の動き」と「行動」を表しています。

*参考:価値創造の「らせんプロセス体系図」

⇒ 価値創造は、単なるアイデア発想やフレームワークの活用だけでは不十分であり、「心(熱意・決意)」と「智慧(方法)」を一体化、統合化させた「らせん的プロセス」を辿ることで「真の価値創造(イノベーション)」が立ち上がります。
⇒この「気立て・見立て・仕立て」が揃ったとき、構想と戦略は「逸脱の精度と力」を極め、独自の輝きを放ち始めます。

*参考:体系的な顧客価値創造の「3つの知(型)」図解

⇒「3つの知」とは、不確実な時代において新しいビジネス価値を創造するための思考のフレームワークです。これらは「深い知(Why)」「高い知(What)」「広い知(How)」で構成され、ミッション、ビジョン、イノベーションを三位一体でつなぐ役割を果たします

深い知(Why / ミッション / 気立て): 禅的思考で己の根源を掘り下げ、揺るぎない「志」を立てる。
 ⇒ 何のために創るか?
 ・定義: 人間の本質的なニーズ、欲求、行動心理を深く洞察する知。
 ・目的: 表面的な課題ではなく、「なぜその人がそうしたいのか」というインサイトを突き止め、深い共感や新しい意味(「別流」)を見出す。
◆高い知(What / ビジョン / 見立て):
「過去と現在」から弁証法的に未来を統合し、ワクワクする「理想の姿」を描き出す。
 ⇒ 何を創るか?
 ・定義: 将来のありたい姿や理想の未来像を描く、鳥の目のような高い視点。
 ・目的: 短期的な利益だけでなく、長期的な「新潮流」や、サステナビリティ(持続可能性)を見据えた羅針盤となる。
広い知(How / イノベーション / 仕立て): 新結合の視点で、既存の枠組みを超えた「別流の具体的な解決策」を具現化する。
 ⇒ どうやって?
 ・定義: 自社や自業界の枠を超え、異分野、テクノロジー、グローバルな知見を幅広く取り入れる知。
 ・目的: 異なる知の組み合わせによって、ワンランク上の価値や新しい物語を創造する。

⇒ この「3つの知」が揃うことで、「知の点」が「知の線」となり、最終的に立体的な「知の型」へと進化し、新たな成長戦略へとつながります。

3.大学における適用可能性(案)

◆地域課題との接続
•人口減少
•若者流出
•地域産業の変革
•他地域との連携
•・・・

◆教育的価値
•地域理解の深化
•実践的学び
•主体性の向上

◆産学官連携
•学生アイデア → 企業連携
•地域課題 → 政策提案
•実証プロジェクト化

4.期待される成果

◆学生
•問いを立てる力
•価値構想力
•判断力
•実践力

◆大学
•教育の高度化
•社会的価値向上
•特色ある実践的教育プログラム
 ①ワークショップ
 ②プロジェクト型授業
 ③フィールド連携

◆地域
•新しい発想
•若者の関与
•イノベーション創出
・・・

5.導入ステップ(提案)
STEP1:試行導入
 •ワークショップ(単発)
STEP2:授業化
 •半期科目として展開
STEP3:プログラム化
 •産学官連携プロジェクト化

6.本提案の意義

本提案は、
 •理論(価値創造の構造・工学)
 •方法(教育プログラム)
 •実装(地域連携)

を統合した「次世代型教育モデル」です。

7. 最終メッセージ

 AIが進化するほど、人間の側は
 ① 問い(価値の起点と別様の方向性)
 ② 意味(なぜそれを行うのか?)
 ③ 別様の価値(将来の主流・本流)

 を問われます。
 本提案はそれを工学的・体系的・実践的に育成するものです。

 価値創造とは、「切実・驚きの『心のトリガー』が逸脱を呼び、『智慧の編集』が別様の価値を構築する」という、“立ち上げ工学”です。
上記を、学生が不確実な世界を自らの足で歩むための
・「実践的知性」
・「自分のOS」

 としてインストールできるような道筋となるように提示してきました。

 本提案が、将来に向けた教育的解答(人財創生・地域創生・事業創生)としてご活用いただけましたら幸いです。
                新価値創造研究所代表 橋本元司

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ