橋本元司の「価値創造の知・第228夜」:「佐藤優: 知の操縦法 」⑥「要約と敷衍(ふえん)」

2019年4月12日 ヘーゲルの弁証法

「未来をどう読むのか」というのが、「価値創造の知」第2法則(第二の矢:高い知)です。そこでの重要な方法が「ヘーゲルの弁証法」(第27夜、第87夜、第176夜)です。それを活用して、首記の「要約と敷衍(ふえん)」を行ったり来たりという繰り返しから新しい価値、新しい現実というものが洞察できます。写真の「知の巨人」「知の怪人」の二人はその別格の使い手であります。

それは普段から皆さんもきっと無意識のうちにされていることなのですが、「従来の常識を破る」という意識や熱意があるのか、覚悟があるのかということでアウトプットや人生が変わってきます。

それでは、「要約と敷衍」、「弁証法」を絡めながら、「知の操縦法」を加筆引用して、「価値創造の知」綴っていきます。

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—ヘーゲルの考え方は、「対立と矛盾」を弁証法で乗り越えていきます。(物のありようや関係を考えることによって問題を解決できるのが「矛盾」)

なにか相手と意見を異にした場合、自分には「対立」に見えているものが、相手には「矛盾」に見えているかもしれず、どのポイントでズレているのかを弁証法的に発展させて明らかにしていくことで、何らかの合意点が得られるかもしれません。援用することで物事を解決していくヒントが得られます。

弁証法的な訓練をしていくうえで重要になるのが「敷衍」というやり方です。物事をサマライズする「要約」の逆で、意味を広げていき、例などを挙げて説明することです。「敷衍」するには、かならず、どの部分が重要かを見極める要約の訓練が必要になります。

「要約」と「敷衍」は本来セットですが、私たちは要約には慣れていても、敷衍にはなじみがありません。この要約と敷衍が上手なのが、池上彰さんです。

学術的な用語や難しい世界情勢を、一般に理解できる説明をするので、池上さんのテレビの視聴率は高いし、本も売れるのです。こういう技術を身につけておけば、会社や学校であの人の話はおもしろい、わかりやすいと言われるようになります。

どうやって身につければよいかというと、要約したものを見て、もとを復元していけばいいのです。—

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この後に事例を紹介されているのですが、ここでは「要約」を簡単に記されていますが、TOYOTAのナゼナゼ分析の様に、深く深く本質を捉えることが重要です。何をどこまで要約したか、本質に迫れるかによって、「敷衍」も変わってきます。

「色即是空 空即是色」(第6夜)の「空」をどうとらえるかによって、「空即是色」のほうの「色=新しい現実}が変わってくるからです。ここ、とっても重要です。

弁証法は、自分の中で対話をしていくので、そこで要約することもあれば、敷衍していくこともあります。変幻自在にものごとを動かし、生成していくので、自分と相いれない意見が相手でも、途中で反論せずに、どういう理屈なのかをとらえて、わからないことがあったときは、話者に質問するのです。

相手が何を言っているのかを理解するための質問だから、

・ここがわかりづらいですが、こういう意味でしょうか
・具体例は~でしょうか

というように迎合的な質問をするのです。

—「反証」して、それに対して再反論して、というように批判的な論点を踏まえたうえで、自分なりにこの問題についての結論を出すのが、正反合の「合」のプロセスなのです。

会社・地域の中で、上記の「批判的な論点」を許さない雰囲気、環境があることが多いのですが、そのことによって、会社・地域が生成発展することを阻んでいることがよくあります。自分も前職やご支援先で多く経験してきました。将来を創れるか、ドボンして飲み込まれるかの分水嶺です。

特に、「AI・IoT・5G」が出揃った変化の本質を把えること、そして、「次の一手」を早く速く打つことが重要です。

危機の時代に、業界、自社を「深い知・高い知・広い知」で観れることが先決です。

上記の「正反合」を活用した「本来と将来の螺旋的発展物語」で多くの会社をご支援してきました。多くの方達(特に未来を生きる若い人達)に「深い知・高い知・広い知」を身につけていただきたいです。

そのためにも、「要約と敷衍」の能力を不断に磨かれることをお薦めします。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ
佐藤優06

橋本元司の「価値創造の知・第227夜」:「佐藤優: 知の操縦法 」⑤「理性による分析では表せないもの」

2019年4月10日 大切なものは目にみえません

第78夜で、「創発とは?」について綴りました。それは、「価値創造」の肝(きも)となるキーワードです。

「創発」(emergence)とは、「部分の単純な挙動が全体の高度な秩序を生み出す」というプロセスで、言葉を変えれば、「個の自発性が全体の秩序を生み出す」というプロセスです。

前職パイオニア社での異業種コラボレーションによる連続「ヒット商品」創出(第13夜、第14夜)は、まさに「創発」でした。それは、第78夜に詳細を記していますが、

「新オーディオ・オルタナティブビジョン」の元に、全てを異業種コラボレーションの創発により、足し算では到底発現しない『新しい性質』『新しい物語・ライフスタイル・文化』を紡ぎ出してヒット商品になりました。

“人間”を事例にすると、人間の要素をバラバラに分解すると、目、鼻、耳、脳、心臓、手、足、神経・・・となりますが、それらが集まることで、“命”が生まれます。それと同じ構図です。

『新価値創造研究所』は、多くの方達のより良き将来と幸せを目的にして「新しい性質、新しいライフスタイル、新しい文化、新しい命」づくりを皆さまと創発で実践してきました。

本夜は、上記とクロスする内容を「佐藤優: 知の操縦法 」より加筆引用します。

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— 解剖学では、心臓、腎臓、筋肉といった部分だけを議論しても、人間がどういうものかわかりません。

ところが、哲学では、「存在とは何か」、「概念とは何か」といったいろいろなカテゴリーの知見を寄せ集めることで全体が分かる、となっています。

これはカントの系譜の考え方なのですが、それに対して批判的な意見が述べられています。

「体系知」についての考えにも通じているのですが、部分と全体との関係において、全体が有機体として機能していないといけないという発想が、ヘーゲルにはあります。従って要素ごとに分けていく工学的な解析にも批判的でした。

たとえば、光をプリズムによって7つに分けるというような解析をすると、トータルな「光」から抜け落ちてしまうものが必ずあって、同じように理性による分析には抜け落ちるところがあると、ヘーゲルは考えるのです。—

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「命」というものは目にみえません。価値創造というのは、新しい「命」が生まれるのと似ています。私自身は、「ヒット商品」をプロデュースするときに、「二つの間に生まれる目に見えない命・文化」というものをいつも意識していました。

佐藤優さんは次の様に語っています。

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目に見えるものだけではなく、目にみえないものを把えることができるかが重要です。見えるものは個別の問題にしか当てはめることができず、思考に制限が出てしまいます。

目に見えないもの、いわばメタ的なものを把えることができるかどうかにより思考の幅が広くなります。—

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大切なものは目にみえません。そして、「メタ的なものを把えることができるかどうか」により思考の幅が広くなります。

星の王子さま サン・テグジュペリの名言に、
「いちばんたいせつなことは、心で見なくてはよく見えない」とあります。
そう、価値創造には、「心で見る力」を身につける必要があるのです。(第63夜)

ここが価値創造の難しいトコロ(負)なのですが、一番魅力的なトコロ(正)でもあるのです。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ
佐藤優05

橋本元司の「価値創造の知・第226夜」:「佐藤優: 知の操縦法 」④「現実の出来事を見るために古典を読む」

2019年4月8日 古典を読むことで観えることが多くある

第176夜に、古典「ヘーゲルの知」を綴りました。
きっかけは、昨年10月の仙台方面の「知の旅」への出遊でした。松岡正剛師匠が亭主の「知の倶楽部」(第26夜)です。
「佐藤優さん」というとびきりのゲストが来られて、「知の巨人」と「知の怪人」が語り合う2日間の秘密倶楽部は、間違いなく格別・別格の時空間でした。

師匠は、「松岡正剛の千夜千冊」において、すでに1700夜を超えていますが、その松岡師匠へ「知の旅」の終盤で相談をしました。

その相談とは、この連載中の「価値創造の知」のことです。

「価値創造の知の執筆で壁にぶち当たることがある」

という悩み事でした。

師匠から迅速な回答がありました。それは、

「古典を読むことで観えることが多くあるものだ」

という助言でした。

(それから、内外の『古典』に踏み入り、そこからの多くの気づきを綴ってきて今に続いています)

さて、その「知の倶楽部」では、佐藤さんから「知(インテリジェンス)の使い方」の徹底指南がありました。
佐藤さんの著書である「知の操縦法」を読むと、後半の多くが、古典ヘーゲルの知「精神現象学」に割かれているのでした。
その一部を加筆引用します。

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なぜヘーゲルのように難しくて、資格や語学みたく人生に直接的に役立たない面倒くさい本を読み解いていかなければならないのかと思う人もいるかもしれません。

しかし『ヘーゲルのような古典こそ現実の出来事を具体的に見ていくうえで役に立つ』のです。

すでに述べましたが『実用的なノウハウは使える用途が限られるので、その様な断片的な知識をいくら身につけても、長期的には役立ちません。

根源的な知を身につけ思考の土台を作り、実際に役に立つところまで落とし込んでいくこと』が求められています。

逆に云えば、実際に役立つところまで落とし込むことができないのならば、ヘーゲルを読む意味がありません。---

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ポイントは、

・『実用的なノウハウは使える用途が限られるので、その様な断片的な知識をいくら身につけても、長期的には役立ちません。根源的な知を身につけ思考の土台を作り、実際に役に立つところまで落とし込んでいくこと』が求められているコト。

・『ヘーゲルのような古典こそ現実の出来事を具体的に見ていくうえで役に立つ』

にあります。

若い時にそれを云われても、おそらく頭には響かず、今になると「肚にストンと落ちる」のです。
特に、自分のように、「新価値創造」をミッションとしている身としては尚更です。
上記には、何回か『役に立つ』という言葉が出てきますが、

『価値=役に立つこと』

なのです。

それは、第75夜(価値創造とは何か)に記しています。
・「価値」とは、世の中に役立つこと。
・「創造」とは、未来を先取りすること。
・「価値がない」とは、世の中に役だたないということ

特に、前夜に綴った

・「鉄道の時代(第141夜、第150夜)から「航海の時代(第156夜)」

・「農業⇒工業⇒情業⇒脳業の時代」(第109夜)

の様に、大きく時代が変化する時(=現在)には、それまでの実用的なノウハウでは使える用途が限られるので、その様な断片的な知識をいくら身につけても、役立たないということです。そこで役立つのは「根源的な知」です。

どう使うのかということですが、自分の使い方は、「色即是空 空即是色」(第85夜、第6夜)です。
(「色即是空」というのは、「現実=色」に問題・課題があるのなら、先ず心を無にして、「大元=空=大切なこと=真心」に戻りなさいと教えてくれているように思います。
そして、「空=大元=真心」に戻って従来のしがらみや常識から解き放たれて、その本質(=コンセプト=核心)を把えてから「現実=色」を観ると新しい世界(=現実=色=確信)が観えるということではないでしょうか。その確信を革新するのがイノベーションであり価値創造です)

空=大元=真心=根源の知

という「源」を豊かにすることで、新しい現実に向き合うことができるようになります。それは「温故知新」です。

『根源的な知を身につけ思考の土台を作り、実際に役に立つところまで落とし込んでいくこと』

皆さんも「古典」に触れるコトをお薦めします。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ
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橋本元司の「価値創造の知・第225夜」:「佐藤優: 知の操縦法 」③「問題は、能力はないけれどやる気がある人」

2019年4月1日 「オペレーションからイノベーション」へ

4月に入りました。今朝の通勤電車には「新人」が初々しい顔をして乗り込んできます。船出ですね。

そして、元号が変わりましたね。『令和(れいわ)』でした。

万葉集からの編集で、「日本古来の本来の良さを以って、将来につなげよう」という想いをそこから感じました。
ニュースをみながら、「新元号」というのは、国民全体に『心機一転』を促す、誘う大きなパワーを持っているように感じました。

過去のことを棚卸しして、これまでの延長線上にではなく、何かの節目で「切り替える」というのはとても意味のあることです。

さて、とっても残念ながら先週に、前職・パイオニア社が上場廃止になりました。「倒産」もそうなのですが殆どが「人災」です。

本夜は、パイオニア社を事例にあげながら、多くの会社・地域が「心機一転、将来をどう切り拓くか」「どう切り替えるか」ということと絡めて綴ろうと思います。

その中心となる「負」や「行き詰まり」を乗り越えるための原因やヒントが、昨年10月の松岡正剛師匠主宰「未詳倶楽部」の特別ゲストであり「知の怪人」とも呼ばれる「佐藤優」さんの話がありましたのでそれを記します。

佐藤優さんは、日本の外交官でもありました。『知』と連関する「能力とやる気」についてのパートで、4つの分類をされたところから始まりました。

① 能力があり、やる気がある人
② 能力があるけれど、やる気が無い人
③ 能力はないけれど、やる気がある人
④ 能力がなく、やる気が無い人

佐藤さんから、「一番問題のある人は誰だと思いますか?何番でしょうか?」という問いがありました。

皆さんは、どう思われますか?考えてみてください。

その時、自分の中では、前職・パイオニア社のトップを含む役員の顔がすぐに振り分けられました。そして、すぐに分かりました。
多くの人は②「能力があるけれど、やる気が無い人」を選びますがそれは間違いです。 答えは、③「能力はないけれど、やる気がある人」です。

「外交」でこれをやられると取り返しのつかないこと、後始末が大変なコトになりますね。

会社や地域でも同じです。そのような人が権限を持つと、「とてもやっかいな人」になるのです。それが、事業や研究所や会社をも衰退の道に導きます。

問題は、その人たちは、敷かれているレールの上で、もうやることが分かっている過去の「成長」のステージ(鉄道の時代:第141夜、第150夜))では能力を発揮した「オペレーター&マネージャー」なのです。

しかし、成熟から衰退に向かうステージで、「次の柱」や「新しい本流(オルタナティブ・第148夜)」に舵を切る、乗り出す「航海の時代:第156夜」の「価値創造イノベーション&イメジメント」にはまったく不向きなのでした。

そう、それは違う能力なのです。いまは「航海の時代(イノベーション)」なのに、「鉄道の時代(オペレーション)」の能力では太刀打ちできません。

「過去の能力(オペレーション)で以って将来も切り拓けるだろう」と重要部門のリーダーに選出される。そして、その能力でやる気を発揮してしまうことが・・・。

それが失われた15年でした。

振り返ると、「パイオニア」という会社は、節目節目で「とびきりの外部からの知」を取り入れていました。①「とびきりの能力があり、やる気がある人」を迎え入れる。それで成長・成功してきた会社です。松本望創始者もそれを実践する器量の大きい方でした。

さて、行き詰まりを打破する方策について第45夜、第147夜に綴りました。

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「行き詰まりの打破や、新たな成長を目指して、企業再生に取り組む切り口は3つあります。
①リストラクチャリング
「構造」の見直しを意味しますが、企業を縦串で見た時に必要のない部門を削除するものです。
②リエンジニアリング
「機能」の見直しを意味しますが、企業を横串で見た時に必要のない仕事を削除するものです。
③リオリエンテーション
「進むべき方向」の見直しを意味します。
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①②がDeleteに向かうのに対して、③は「我々はどの方向にむかうべきか」
を問うものです。

2000年以降、自分や自分の部署は、③リオリエンテーションの「新しいパイオニア」の準備と実際の提案をしてきましたが、パイオニア社が選択したのは、①リストラクチャリング、②リエンジニアリングでした。そのため、自分は早期退職という卒業に向かいました。

さてさて、上記の体験の中で「イノベーション&イメジメント」を磨く努力と新提案、そして、創造型人財開発・育成を重ねてきたことで、その後の自分の進路や使命に大きな影響を与えました。

『人間万事塞翁が馬』ですね。

・第13夜: 倒産
・第75夜: 価値創造とは何か?
・第172夜: なぜ、倒産?

それは、自分の中の反面教師として、今の仕事の土台になっています。何事も無駄はないのですね。

パイオニア社は、上場廃止にはなりましたが、前夜・前々夜に綴った「時代を先取りした大きな新物語」を構想・実践できれば、『復活』はありえます。
社員の「悲しい顔」を笑顔にしましょう。

誰が、それを「価値創造イノベーション&ナビゲーション」できるかにかかっています。結局「人・構想」です。

さてさて、現在、多くの会社や地域が同じような場面に遭遇しています。その現場にいます。
先ず、大企業が率先しましょう。やはり、影響力が大きいのを実感しています。

そのためにも、「③能力はないけれど、やる気がある人」ではなく、「①能力があり、やる気があり、大きい物語を構想できる人」をリーダーに選ぶコトが必要です。

本日の新元号『令和』を契機として、私たちの将来(会社・地域・日本)を隆々とするために、ご一緒に「リオリエンテーション」に向かいましょう。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ
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