橋本元司の「AI時代の価値創造の知」第381夜:「顕密思考」という新地平 —— 表層と深層を往還する価値創造

2026年7月13日: 「問い」につながる「顕密思考」誕生宣言

■ はじめに:要約

 教育の現場でも、ビジネスの現場でも、AIが弾き出す「効率的な正解」や「常識の枠内の解決策」に誰もが飛びつく時代になりました。しかし、それは人類がこれまで言語化・データ化してきた氷山の一角、すなわち下図の「顕(けん)の世界(目に見える記号やデータ)を消費しているにすぎません。

 これからの時代、人間が果たすべき真の役割、そして教育の側が踏み込むべき領域は、未だ言葉にならない深層──個人の内なる違和感や情動、美学といった「密(みつ)の世界(言語化されない本質や気配)」にこそ眠っています。

この「顕」と「密」のあいだを跳躍し、往還するための知のOS。
それこそが、本夜において誕生した「顕密思考 ── AI時代の価値創造に向けた認識工学 ──」です。

1. 新たなパラダイム「顕密思考(けんみつしこう)」の誕生宣言 
 -「問いを立てる」の、その先へその奥へ-

 コラム第366~380夜では、AI時代において「答えを出すこと」の価値が暴落し、「問いを立てること」こそが人間の仕事になる、という話をしてきました。

 しかし、最近学生たちと話していて、一つの壁にぶつかりました。
「先生、問いを立てるのが大事なのは分かりました。
でも、ChatGPTに『面白い問いを5つ考えて』と頼めば、それなりの問いを出してくれちゃうんです。
僕たちが立てる問いって、AIの問いと何が違うんですか?」

 鋭い指摘です。そうなのです。
「問いを立てる」ことすら、すでに当たり前のスキル(顕在化されたテクニック)になりつつある。
AIにプロンプトを打ち込めば、それらしい「問い」が返ってくる時代に、私たちはその一歩先、一歩奥にある「問いの源泉」に触れなければなりません。

 生成AIがあらゆる「答え」を瞬時に導き出す時代、私たちが日々目にする情報は平坦化し、表層的な最適化ばかりが加速しています。誰もが同じ正解にたどり着ける世界で、真の価値創造はどこから生まれるのでしょうか。 

・ AIが絶対に真似できない、人間だけの「価値創造の入り口」はどこにあるのか?

という「問い」を立てました。

 第378夜「AI時代の価値創造教育プログラム」をまとめているその時に、その「問い」に向けた強力なヒントが重層的に浮かび上がってきました。
 ①私の師である松岡正剛師匠の「編集工学」、
 ②師が遺した不朽の名著『空海の夢』、
 ③そして私の前職パイオニア社時代のヒット商品開発プロジェクト体験
です。

 そして、その鍵は、
「顕(目に見える記号やデータ)の背後に潜む、密(言語化されない本質や気配)を読み解く力」
 にあると洞察しました。

 上記をベースにして、本夜は、これからの知性・感性・脳性のあり方を決定づける
・新パラダイム「顕密思考(けんみつしこう)」誕生
 を読み解き、宣言していきます。

 表層と深層を自在に往還するこの思考法こそが、
AI時代における「価値創造の新たな地平を切り拓く」
 という核心であり、それが私の確信であり革新です。

2. 『編集工学』と『空海の夢』が教えてくれたこと

 正剛師匠の「編集工学」の本質は、世界のあらゆる情報を「つなぎ、重ね、新たな意味を創り出す」ことにあります。
 そして師匠がその編集思想の究極のモデルとして生涯追いかけ続けたのが、1200年前の天才、「空海」でした。(ご縁により、本年1月に空海誕生の地である「善通寺」に詣でました)

 空海は、仏教を「顕教(けんぎょう)」と「密教(みっきょう)」の二つに分けました。

  • 「顕教(顕)」:言葉やテキスト、論理で明確に説明できる教え。
  • 「密教(密)」:言葉では表現しきれない、身体の感覚、イメージ、実践そのもの。

 正剛師匠は著書『空海の夢』の中で、空海が成し遂げたのは「言葉(顕)」の背後に、決して言葉では語り尽くせない広大な「シンボルや身体性(密)」の海が広がっていることを、両界曼荼羅(まんだら)という壮大なシステムで可視化したことだと見抜かれました。

 上図を見てください。
 私たちが普段使っている言葉やデータ、テキスト(顕)は、巨大な海に浮かぶ「氷山の一角」にすぎません。その海面下には、言葉にできない「体験・身体性・実践」という、底知れない巨大な「密」の海が広がり、そして、「密」から生まれる未来の源・種が隠れています。

 AIという存在は、人類が過去に生み出した「言葉(顕)」をすべて編集・足し算して作られた、いわば「氷山の一角のマスター」です。データ化されたロジックの編集なら、人間が逆立ちしても敵いません。

 ですが、AIには「絶対にアクセスできない領域」があります。
それが、海面下に沈む「密」――すなわち、私たちが日々感じている生々しい身体の感覚、痛み、喜び、そして現場の空気感という「ナマの感覚」です。

 さて、私はパイオニア社35歳の時に、ご縁により、ビートルズにも影響を与えた「密」の世界である「マハリシ・ヨッギの『超越瞑想』」(第6夜、第235夜、第289夜)の門をたたきました。
 生業としている「音・音楽」が人間に与える波動・影響を体感したかったからです。

 そこに入門して驚いたのは、大手の企業経営者が多いことでした。彼らは、「(自分の)心を空(無)にする」ことで経営の方向性や生き方を見出していました。(第33夜)

 そう、そこでは「超越瞑想」で雑念をなくす、私心をなくすという「究極の引き算」を体験しました。
そして、
・大切なコトは何か?
・「密」の大元(おおもと)、大事なものに深くつながること
 を体得してきました。

そこで、「体性、知性、心性」を研ぎ澄まし、磨いたことが自分の将来にも大きな影響を与えてくれました。

→ 「禅(ZEN)」、「超越瞑想」は、「顕」と「密」を往還し、内省する優れた方法なので、もし機会があれば是非、体感・体得することをお勧めします。 

3. 氷山を90度回転させる「顕密思考」

 正剛師匠はかつて、情報には「地(背景・文脈)」と「図(目に見えるデータ)」があり、この2つがダイナミックに入れ替わることで新しい意味が生まれると説きました。(参照:https://note.com/discover21/n/n4238e6e02702

 正剛師匠は、情報や知識の編集を考えるときに、しばしば「地(ground)」と「図(figure)」の指南がありました。
 この「地と図」の関係を自在に動かすことができるようになると、「問い」の深み、高み、広みが拡張して、「顕密思考」・「問い創造工学」の上級者に向かいます。(ワークショップ等で、「地と図」を自在に動かす様々な事例・演習でお伝えしています)

A. 「図」とは、=目に見える情報・主題
 ・今まさに注目されている内容
 ・テーマ、主張、ストーリー
 ・表に現れている情報
 つまり、人が意識的に見ている情報です。

B.「地」とは=背景・文脈・知識のネットワーク
 一方の地は、図を成立させている背景全体です。
 ・文脈
 ・前提
 ・歴史、関連知識
 つまり、表に出ていないが、意味を支えている情報の場です。

「地と図」と「顕と密」は、多くの共通項をもっています。双方が「問い創造・価値創造」に近づく重要なスキルになりますので、どこかでその活用の方法と事例をお伝えします)

 私は、この「編集工学」のエッセンスを、「AI時代の価値創造の『顕密思考』」に重ね合わせて、氷山の図を「左回りに90度」ゴロリと回転させました。


  ここに誕生したのが、私が提唱する「顕密(けんみつ)思考」のOSです。(上図)

 左端の「過去」という原点(氷山の頂点)には、目に見える小さな「顕(言葉)」がある。
しかし、その背後には常に膨大な「密(体験・身体)」が地続きで控えています。

「問い創造」とは、マニュアル(顕)を読むことから始まるのではありません。
自分の身体感覚や現場の違和感(密)にダイブ(深く入り込む)し、それを「編集」して言葉(顕)へと海上に引き上げる瞬間に、AIには絶対に真似できない「本物の問い」が誕生するのです。
 

4. 顕密思考を具現化する「基本」と「応用」

 では、この「顕密思考」のOSを、私たちは日々どうやって駆動させればいいのでしょうか?(問い)
学生の皆さんが今日から実践できる、具現化の「基本」と「応用」の一部を伝授します。

【基本編】自分の「モヤモヤ(密)」を言葉(顕)に翻訳する

 基本は、日々の生活や学びの中で感じる「言葉にならない違和感(密)」を見逃さず、言葉(顕)の氷山として削り出す習慣です。

 たとえば、大学の講義を受けているとき、あるいはSNSを見ているとき、「データ(顕)は正しいと言っているのに、なぜか胸のあたりがモヤモヤする、腑に落ちない(密)」と感じる瞬間はありませんか?

そのとき、AIに答えを聞く前に、自分の身体(密)にダイブするのです。
・私はなぜ今、心がざわついたのか?
どの言葉に引っかかったのか?
と内省する。

 あるいは、最もわかりやすい事例が、
なぜ、この人(異性)をみると、ときめいたり、ドキドキしてしまうのか?

 そして、そのモヤモヤの正体に「自分だけの名前(言葉)」を付けてみる。(ラベリング)

 これこそが「密」から「顕」への往来であり、AIには絶対にインプットされていない、
あなただけの「独自の問い」が誕生する基本のステップです。

【応用編】他者の「身体・感情(密)」にダイブし、社会の価値(顕)を創る

 応用は、ビジネスやプロジェクトなど、社会の中で「新しい価値創造」を行うときの駆動法です。

「顕(ロジック)のフレームワーク」をあえて捨て、
他者の「密(ナマの体験)」に深く共感し、
それを新しい仕組み(顕)へと昇華させます。

 たとえば、ヒットしている新しいサービスを思い浮かべてください。
それらは「市場データ(顕)」の分析だけで生まれたのではありません。
・「夜遅く、一人で帰宅するときに感じる、言葉にできない寂しさと心細さ(密)」
・「育児中に、一瞬だけ社会から取り残されたように感じる孤独(密)」
 といった、人間の生々しい感情や体験の深淵(密)に、開発者が自らの身体を通じてダイブしたからこそ生まれたものです。

 [参考事例-1]
 事例として、私のセミナーや研修でよく活用する「アルコールフリービール」を紹介します。
 キリン(株)は、アルコールフリーという画期的な製品で新しいビール市場を開拓しました。
そのパイオニアである女性開発者の“大切にした想い”を紹介します。

 「2007年は、飲酒運転撲滅の雰囲気が世間にありました。いくつかの大きな事故があり、警察の取り締まりが強化されるなど、飲酒運転はダメという消費者の意識が強くありました。お酒が原因で悲しい事故が発生するのが嫌だったんです」

 開発者の大切で切実な願いは、
 ・「飲酒運転がなくなる幸せ」(密)
 でした。
 その“あり方”(密)が土台にあることで、技術開発やマーケティングの“やり方”も変わって成功につなげました。

[参考事例-2]
  私は、前職のパイオニア社時代、
・アナログレコード→CD
・FM放送→カセットテープ→CD-R
 という「Hi-fi(忠実再生):顕」で成長してきたオーディオ業界が限界を越えた「真っ只中(1993年)」(顕)にいました。それは将来の行方(ゆくえ)を考えるととても「切実」(密)な問題でした。

 その時、社内プロジェクトを立ち上げて、下図の様に、
①2005年に大きな変化(パッケージ系、通信系、放送系)がある可能性が高い?
 → それが、iPod、iPhoneの出現
②別流のオーディオの価値創造は?
 → それが、連続ヒット商品の創出
 をプロジェクトメンバーと共に予見、洞察しました。


 1995年、社長に直訴して「ヒット商品緊急開発プロジェクト」を立ち上げ、
音・音楽の「Hi-fi(忠実再生):図(ず)」ではなく、
別流の「音・音楽の新しい楽しみ方:地(じ)」
 を提案・実践して、下記の異業種コラボレーションによる「ネットワークの情業時代」の『連続ヒット商品』を創出することにつながりました。(第126夜、第370夜詳細)

 同様に、「Hi-fi(忠実再生)」ではないパイオニア社の「カラオケ」「CDJ」等の新しい文化経済の創造は、機械側の「Hi-fi(忠実再生)」(顕)ではなく、「人間の側の楽しみ・喜び(密)」を軸足にして企画創造(パイオニア)したものです。

 さて、31年前の1995年に経営会議で発表した通り、「AIがけん引する『脳業』」の時代」(顕)になりました。(下図)

[参考事例-3] 
 事例の3つ目は、これもセミナー等でよく紹介している「北海道旭川市にある旭山動物園」(第28夜、第364夜)です。
時は1997年にタイムシフトします。その頃、全国の動物園の来園者数は右肩下がりで減り続けていました。

 当時、旭山動物園の獣医係長(その後、園長)の坂東元さんは、従来の“パンダやコアラという奇獣、珍獣で来園者を集めるやり方や動物の姿を見てもらうための「形態展示」(顕)”ではなく、“普通の動物の本来の行動や生活を見てもらう「行動展示」(密)”へと転換を図りました。

 メディアにたびたび取り上げられ、国内外からたくさんの観光客がくるようになりました。

 さて、坂東園長が転換を決意した“最も大切にした想い”は何でしょうか?
ここは大事なので、皆さん少し考えてみてくださいね。

 旭山動物園が掲げる永遠のテーマは、
  ・「伝えるのは命」(密→顕)
   です。

 そこには、坂東さんが獣医として“動物の命”の大切さにずっと寄り添ってきたことが込められています。
そのテーマによって、これからの時代の主役になる子どもたちが、動物たちの未来や地球の未来を真剣に考える場所になっています。

 ここで重要なことは、経営の“あり方(目的・縦軸):密”が変わることで、“やり方(手段・横軸):顕”が変わることです。

 「経営」の“経”という字は、縦糸のことを表しています。“経”という縦糸(あり方:being)と“営(いとなむ:doing)”の横糸(やり方、行動)で織物が紡がれます。
 いま、日本の多くの企業が[横軸のやり方(HOW)」でコモディティ化して行き詰っています。
経営が行き詰っている時は、それまでの横軸の“やり方(doing)”が行き詰っていることが多いのです。

 是非、そのような時は経営の縦軸の“あり方(密)”(目的、道理、意味、真善美:being)に目を向けて、再定義することにトライされてください。(第372夜詳細)
 下図(価値創造の本質)の「おおもと(密)」が「経営のあり方」の源です。 


 旭山動物園は、それまでの「形態展示」から、「普通の動物の“行動展示”」というやり方に転換しました。そのことで、右肩下がりの来園者数が急激な右肩上がりになり、旭川市を含めて経済価値(利益)が上昇しました。

 下図の 「色即是空」というのは、「現実=色」(顕)に問題・課題があるのなら、先ず心を無にして、「大元=空=大切なこと=真心」(密)に戻りなさい。

 そして、「空=大元=真心」に戻って従来のしがらみや常識から解き放たれて、その本質(=コンセプト=核心)を把えてから「現実=色」を観ると新しい世界(=現実=色=確信)が観える(「空即是色」)ということです。(第85~86夜)

 人々から喜ばれる「新しい現実」を創るコトが「アントレプレナーシップ」「価値創造/イノベーション」の狙いです。(第28夜、第364夜)

 上記の3事例は、これまで業界が常識としていた「顕(ロジック)」のフレームワークをあえて捨てた物語です。
・アルコールフリーも、一番大事だと思っていた「アルコール」を捨てました。
・オーディオの「Hi-fi(忠実再生)」を捨てて、「人間の側の楽しみ・喜び(密)」へ
・「形態展示」(顕)”ではなく、“普通の動物の本来の行動や生活を見てもらう「行動展示」(密)”へと転換

  上図の「深い知」(第75夜、第364夜:3つの知のひとつ)は、不要なものを削いで取り除いて『核心』に辿りつく方法(奥義)です。
 それは、日本人が本来得意としてきたもので、禅、茶道、枯山水、わびさび、俳句・俳諧、おもてなし等に代表される奥義です。得意な「引き算の美学」(第6夜、第364夜詳細)なのです。
 それが、日本人が継承してきた「才能」(第340夜詳細)です。

 そして、それは「ビジネスの大元(経営のあり方)」につながる重要なスキルです。
 ・そもそも何のためにビジネスをおこなうのか?
 ・いったい世の中の何を変えたいのか?
 ・何を大切にするのか?
という大変化の時代(第361夜)の経営者の心の根本レベルの“あり方の再定義”が、社内外から求められています。その極意を是非、学生のうちから修練されてください。

 そのために経営者は、「深い知」の「あり方:being・真善美」を深堀していくことが必要になります。
・所有(○○が欲しい)→使用(こう使いたい)→あり様(こうでありたい):密 
「あり方・あり様」まで枠を超えられるかどうか(深堀)、本気かどうかが、成否の分岐点になります。

 ここで重要なことは、「いま自分(自地域、自社)が置かれた状況、局面」において、
 ①それは意味のあるコト(上図「深い知」ののmeaning)なのか
 ②それは必要性が高いコトなのか
 という社会性、経済性、環境性を確認・確信しておくことが、結果的に個人・地域・企業の持続性、成長性に大きく関わってくることをお伝えします。

  さて参考になりますが、1997年、正剛師匠から私に、
これからの時代は、
「性能<機能効能」(第85夜、第175夜夜詳細)
の流れを深く考えなさい、
 との指南がありました。
(20世紀は「所有」の時代でした。「所有」の時代の背景には、「モノの不足」があり、そこでは何馬力、何ワット、何デシベルというように『性能』が重視されていました。
それが満たされてくると、次の充足は『機能』に移りました。生活空間には、使わない機能でいっぱいの機器が溢れましたね。
「性能」自身の魅力が薄れていきました。魅力がなくなると、事業は廃れます。)

現在は、「モノ(顕)からココロ(密)」へと、よりインナーへの欲求(効能)に移っています。

それを時系列で表現すると
⇒ 性能 < 機能 <効能
となります。
→性能は「顕」で、効能は「密」です。

 いかがでしょうか?
これらの参考事例や「知」が少しでも皆さんの心・魂に響いて、「顕密思考」&「問い創造・価値創造」の理解・挑戦・実践の参考になれば幸いです。

 さてさて、学生の皆さん、上記でおわかりの通り、データやマニュアル(顕)を並べるだけのプレゼンはAIに任せましょう。
 皆さんは、ターゲットとなる人や社会(地域・顧客)・地球の「日常の痛みや喜び(密)」の海に深く潜り、そこから「これこそが、あの人や社会が本当に求めていた価値だ」という新しいビジョンや商品・サービスや言葉(顕)をすくい上げる。(第9夜、第277夜:3つのエコロジー)
 これこそが、顕密思考の応用である「価値創造の編集」です。

5. 時と共に広がる「智慧と慈悲」のイノベーション

 この「顕密思考」のOSを起動し、中心の水平な時間軸(現在から未来へ)を進むと、いったい何が起きるのでしょうか?

「顕密思考図」の右側を見てください。三角形の稜線が未来に向かって四方八方にダイナミックに広がっています。 「顕(論理)」だけで考えたビジネスは、一時的に流行ってもすぐにAIに模倣され、コモディティ化(陳腐化)してしぼんでしまいます。

 しかし、正剛師匠が『空海の夢』で描いたように、言葉(顕)を丸ごと包み込む巨大な宇宙の全OSとして「密」を捉え、そこから汲み上げられた問いは、時が経てば経つほど、より多くの人の心に響き、価値を大きく広げていきます。

 下図の空海が曼荼羅で示した宇宙の広がりは、現代でいう「価値創造の無限の可能性」そのものです。それは単に「儲かる仕組み」を作ることではありません。
 物事の本質を見抜く「智慧」と、他者の痛みや社会の課題に寄り添う「慈悲」が両輪となり重なって、時間と共にどこまでも拡大していくプロセスです。(第369夜:空海の両界曼荼羅) 

[参考]: 下図、空海の両界曼荼羅(りょうかいまんだら)は、宇宙の真理と悟りの世界を視覚化したものです。すべてを包み込む「胎蔵界(たいぞうかい)」と、真理を貫く「金剛界(こんごうかい)」の二つの世界が一つになることで、価値創造の源泉となる深い知恵と実践のプロセスを表しています。(第369夜)

「顕密思考」大整理

A. 正解のコモディティ化と「情報の平坦化」

 現代の情報環境は、空前の「最適化」を迎えています。
AIの前に問いを投げかければ、数秒のうちに極めて論理的で、破綻のない「正解」が返ってきます。しかし、この圧倒的な利便性の裏側で進行しているのは、「知の激しいコモディティ化」です。

 AIが導き出す回答は、人類がこれまでに記述してきた膨大な過去データの統計的パターンの集約にすぎません。つまり、誰もが同じ強力なAIツールを使うようになれば、必然的に行き着く結論やアイデアもまた均一化していきます。

 世界から「ノイズ」が削ぎ落とされ、あらゆる知の輪郭が滑らかになります。この「情報の平坦化」が進む世界において、他者と異なる真の独自性、すなわち新しい価値を創造することは極めて困難になりつつあります。

B. 「顕(けん)」の世界と「密(みつ)」の世界

 この閉塞感を打破するために、私たちはかつて日本仏教などが探求した「顕(けん)」と「密(みつ)」という、二次元の視座を現代の知性へと蘇らせる必要があります。

 まず「顕」の世界とは、目に見えるもの、すでに言語化されたデータ、そして客観的なロジックで説明がつく領域を指します。AIがその処理能力を爆発的に発揮するのは、まさにこの「顕」の領土です。
 一方で「密」の世界とは、未だ言葉にならない気配、数字に還元できない人間の情動、歴史や文化が重ねてきた文脈の重みなど、表層には現れてこない深層の領域を指す。

 それは論理の網の目からこぼれ落ちる、隠された本質です。

C. なぜAIは「密」に触れられないのか

 なぜ、どれほどLLM(大規模言語モデル)が進化しても、AIはこの「密」の領域に触れることができないのでしょうか。理由は、AIの存在本質が「記述されたものの処理」にあるからです。

 AIが学習できるのは、すでに誰かが言葉にし、記号化し、インターネットの海に放流した「顕」のデータだけです。しかし、人間の営みや自然の摂理、ビジネスにおける真のインサイトの多くは、言語化される手前の「暗黙知」として深層に埋もれています。


 データに還元できない「密(ひそ)やかなるもの」を感知し、その意味を察知するセンサーは、生身の身体を持ち、文脈を生きる人間にしか備わっていません。
 AIは「顕」の王者ではあっても、「密」の探索者にはなれません。

D. 顕密思考の真髄 —— 表層と深層の「往還」

 本夜、このコラムで提唱する「顕密思考」の真髄は、単に「密」という深層の世界に引きこもり、直感や神秘主義に頼ることではありません。真の価値創造は、下図の様に、表層の「顕」と深層の「密」をダイナミックに、かつ高速に「往還(おうかん)」するプロセスから生まれます。

 深層に潜り、まだ誰も言語化していない社会の違和感や気配(密)を掴み取る
そして、それをただの感覚で終わらせず、AIをも巻き込めるような明晰な言葉やロジック、プロダクト(顕)へと変換して表層へと引き揚げる。

 この往還のループを繰り返すことによってのみ、コモディティ化された「平坦な正解」を飛び越えた、圧倒的にユニークで深い価値がこの世界に誕生します。

E. 結び:顕密思考を実装する「問い」の作法

 「顕密思考」を自らの知性・体性、感性・脳性として実装するために、私たちは「問い」の作法を変えなければなりません。
  目の前のデータや、AIが提示したスマートな回答(顕)を見たとき、私たちは常にこう自問するべきです。

「この綺麗に整えられた言葉の背後で、削ぎ落とされた『密』なる気配は何だろうか?」と。

 「問い創造」の起点は次のような状況から始まります。(下図)

  • 人(自分)の困りごと
  • 社会の矛盾
  • 逆境や受難
  • 「このままでいいのか」という違和感
  • 対象を探求したいという好奇心
  • Others

この皆さんの「心の揺れ」を深く理解することが価値創造の原点です。
問いは「人間の切実さ(逆境・受難)や好奇心」から生まれてきます。
 その時に肝要なのは、「本気」でないと何事も生まれないということです。

 是非、「心の置き方(密)」と「モノの見方(顕)」をフェーズアップしてください。
それが「別流・別様の価値創造」につながってきます。


 上図の様に、効率性の網をすり抜けるノイズにこそ、「次の時代の意味」が眠っています。
・『表層の正解を疑い、深層への潜水を恐れない』

 この「顕密思考」という新地平へ足を踏み出すことこそが、
AI時代を生きる私たちが創造性を失わないための、唯一の羅針盤となるはずです。
下図が、「顕密思考」を組み込んだ「価値創造教育プログラム」のプロセスです。(第379~380夜詳細)

■ AI時代を生きる学生・教育機関向けの皆さんへ

 これまでの教育は、情報をそつなくまとめる「一般化(他人ゴト)」のトレーニングに終始しがちでした。しかし、それではAIが出す「それらしい一般解」を消費するだけの存在になってしまいます。

「顕密思考」は、自らの内に潜む「密(主観・切実)」を、独自のロジック(工学)によって社会の価値へと変換できると確信させるための思想です。「顕密思考」「問い創造」を揃えることで、学生の中に
「これは他ならぬ自分がやるべき仕事だ」
 という『主体化(自分ゴト)』に向かう勇気と自信が生まれます。

 AI時代のアントレプレナーシップ教育とは、単なるビジネススキルの伝授ではありません。
「顕密思考」という新しい認識のOSを学生にインストールし、「自らの人生の主人公」として社会に送り出すための、これからの高等教育が持つべき決定的な羅針盤なのです。

 学生の皆さん、画面の中のロジック(顕)だけにこもるのをやめましょう。
 正剛師匠が空海に見出したように、「自分の身体、五感、そして現場の違和感(密)」という巨大な海に飛び込んでください。
 そこからあなただけの言葉を紡ぎ出す(編集する)とき、あなたの未来は、図の右側の三角形のように、未来に向かって無限に広がっていくはずです。 

 これが、価値創造の「本来と将来」の姿です。

■ そして、「問い創造工学・価値創造工学」へようこそ

 皆さんは、本夜の「顕密思考」を通して、「問い創造」の入り口にきました。
 ここから先は、第378夜「AI時代の価値創造教育プログラム」をご用意していますので、下記をご覧ください。
 このワークを体感・習得することが、
本格化する「AI時代の波に飲み込まれずに、波に乗っていく秘訣」です。
https://shinkachi.biz/2026/05/12/%E6%A9%8B%E6%9C%AC%E5%85%83%E5%8F%B8%E3%81%AE%E3%80%8C%E4%BE%A1%E5%80%A4%E5%89%B5%E9%80%A0%E3%81%AE%E7%9F%A5%E3%80%8D%E7%AC%AC378%E5%A4%9C%EF%BC%9A%E3%80%8C%E4%BE%A1%E5%80%A4%E5%89%B5%E9%80%A0/?fbclid=IwY2xjawTCrdRleHRuA2FlbQIxMQBzcnRjBmFwcF9pZBAyMjIwMzkxNzg4MjAwODkyAAEe4irP6BzVdnh2WLKyixlo6b-IrJap8dEQ2T8gt7rtZUSxYfedTpA1ZlD2Dws_aem_RSBCRZPCVhrdP5mfvXJN3Q

 (参考) 大学生向け:実践「問い創造工学体系」の歩き方
 皆さん、新しい価値を生むため「問い」とは、常識という壁の向こう側にある「まだ見ぬ未来」へ手を伸ばすためのチケットです。この図は、そのチケットを手に入れてから、実際に未来を形にするまでの「心の動き」と「行動」を表しています。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司「AI時代の価値創造の知」第380夜:『顕』から『密』へ、そして「価値創造」へ ― 見えている世界を超え、まだ顕れていない価値に気づく認識論-

2026年7月11日:人間は「密(まだ顕れていない世界)」に気づき、新しい問いを創る

 前夜(第379夜)は、前前夜(第378夜)の「5位一体価値創造教育プログラム」に、「問い」創造の認識段階として、“「顕」は出発点、「密」は問いの源泉“を組み込んで更新しました。

 AI時代に肝要となる「問い」
に、それに先立つ「認識の段階」として、

  • 顕(見えている世界)
  • 密(見えない可能性の世界)

を置くと、教育プログラム全体が次のような一本の流れになります。

顕を見る → 密に気づく → 問いを創る → 未来を構想する → 偶然を活かす → 三つの知で意味を統合する → 新たな価値を創造する

 上記は、これまで構築してきた
「問い創造 → シナリオプランニング → セレンディピティ → 3つの知 → 価値創造」
という五位一体のナビゲーションの「入口」として、「顕」と「密」を配置することで、
教育プログラム全体が一つのブラシュアップストーリーとして完成しました。

 これまで「五位一体プログラム」をまとめ、顕在化させたことが、その奥に隠れていた「密」を呼び起こすことにつながり顕在化させた、と思っています。
 また、、この「顕」と「密」は、「問い創造工学」の前段階ではなく、価値創造教育「認識の教育」として位置づけるのが最もわかりやすい、美しい型・構造になるのでは、という洞察です。

 それは、これまで本コラムで一貫して追究してきた
「価値創造を再現可能な知として体系化する」
という構想に、新たな基礎層を与える理論になったのではないかという嬉しさを感じています。

 それでは、これらを具現化する「教育プログラム案」を提示いたします。


■価値創造教育プログラムコンセプト

→ AIは『顕(見えている世界)』を処理する
人間は『密(まだ顕れていない世界)』に気づき、新しい問いを創る」

AI時代に大学教育、アントレプレナーシップ教育が育てるべき能力は、「知識を覚えること」ではなく、
「見えていない価値に気づき、意味を創ること」です。


第1段階 「顕」を見る

テーマ「当たり前」を観察する力

学生への問い

  • 今日一日で「当たり前」だと思ったことは?
  • なぜそれが当たり前なのか?
  • 誰がその当たり前を作ったのか?

演習:「大学キャンパスの中にある『当たり前』を20個書き出す」

例えば、

  • 教室がある
  • 時間割がある
  • 試験がある
  • コンビニがある

ここではまだ評価しません。

目的は
「顕」を意識化すること
です。


第2段階 「密」に気づく

テーマ「見えていない価値」を探す

学生への問い

  • 本当に他の方法はないのか?
  • なぜ昔から変わらないのか?
  • 誰も困っていないのか?
  • 本当は何が欲しいのか?

演習

一つの「当たり前」を選び、
「他にもあり得た世界」
を書き出します。

例えば、
・教室→「教室が存在しない大学」
・試験→「試験のない大学」
・卒業→「卒業のない大学」

ここから
「密」
が現れてきます。


第3段階 問い創造

ここで初めて
「問い」
を作ります。

例えば、
・「大学は本当に教室で学ぶ場所なのか?」
・「卒業とは何のためにあるのか?」
・「地域は若者を失っているのか、それとも新しい価値を生み出しているのか?」


第4段階 シナリオプランニング

作った「問い」を使って、
「複数の未来の姿(像)」
を考えます。

例えば、
軸①:AI依存←→人間中心
軸②:地域密着←→世界連携

この2軸から4象限の未来が生まれます。


第5段階 セレンディピティ

異なるチーム同士で「問い」を交換します。

そこで
・偶然
・発見
・融合
を起こします。

ここでは「答え」ではなく
「予想外」「想定外」
を歓迎します。


第6段階 3つの知

最後にアイデアを三方向(価値創造の「3つの知」)から立案・構想・評価します。

・深い知:本当に人間にとって意味があるか?
・広い知:新しい組み合わせになっているか?
・高い知:未来を変える可能性があるか?


第7段階 価値創造

最後に学生自身が「新しい価値」を一枚にまとめます。

例えば、
テーマが「緑茶」(第370夜、377夜)なら、
「飲み物」
ではなく、

「人と人をつなぐ時間」
として再定義する。

ここで「価値」が生まれてきます。


[教育目標]

学生は知識を覚えるのではなく、
次の流れを体験します。

顕を見る

密に気づく

問いを創る

未来を描く

偶然を活かす

意味を統合する

価値を創る


■ AI時代に育てる7つの力

段階(プロセス)育成する力
観察力
気づく力
問い創造問題設定力
シナリオ構想力
セレンディピティ創発力
3つの知意味構築力
価値創造実践力

このプログラムの独自性

 ここで特に強調したいのは、「顕」と「密」を単なる「見える/見えない」の区別で終わらせず、
・「価値創造の出発点となる認識の転換
として位置づけることです。

整理すると、

  • =現実をそのまま受け入れる認識(観察)
  • =現実の奥に潜む可能性や文脈に気づく認識(洞察)

となり、この「密」があってこそ、初めて「問い」が生まれます。



つまり、
・「顕から密へと認識が深まり、密から問いが生まれ、問いから価値創造が始まる」

この一連の流れは、これまで提唱してきた「切実→逸脱→別様」という価値創造プロセスとも自然につながります。

この考え方を新価値創造研究所の新しい柱として、「顕密(けんみつ)思考」と名付けたいと思います。
次夜は、この「顕密(けんみつ)思考」を深堀し、顕在化していきます。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司「AI時代の価値創造の知」第379夜:『顕』から『密』へ ― AI時代に「問い」はどこから生まれるのか-

2026年7月9日: 見慣れた世界を「あたり前」と思わない力

 生成AIは、質問に対して驚くほど優れた答えを返してくれるようになりました。
しかし、AIは「問い」を与えられて初めて動く存在です。

つまり、AI時代に最も重要になる能力は、「答えを知ること」ではなく、
「何を問うか」
です。

では、その「問い」はどこから生まれるのでしょうか。
出発点として、「日常世界の顕在意識」
そして、
問いの源泉となる「密(みつ)」にあると考えています。

 本夜は、これまでまとめてきた「AI時代の価値創造教育プログラム」に、その前段階のプロセスを追加して、更新していきます。
 ここで、下記二つのキーワードと新ロゴマークを提示します。
・「顕」は出発点
・「密」は問いの源泉

■ 「日常世界の顕在意識」

◆ 私たちは「あたり前」の世界に生きている
毎日歩く道
毎日飲むお茶
毎日交わす挨拶
毎日使うスマートフォン
これらは、私たちにとって「あたり前」です。

しかし、本当に「あたり前」なのでしょうか。
「あたり前」と感じている瞬間、私たちの思考は止まっています。
「価値創造」は、この「あたり前」が崩れた瞬間から始まります。


◆ 顕在意識とは何か?

 顕在意識とは、
私たちが普段、自覚しながら見ている世界です。

しかし、顕在意識は
「見えている」のではなく、見慣れてしまっている世界
でもあります。

だからこそ、価値創造の第一歩は
「見慣れた世界を、もう一度見ること」
なのです。

◆「問い」は驚きから生まれる

私はこれまで、価値創造とは
「切実 → 逸脱 → 別様」

であると述べてきました。
その前段階には、もう一つ重要な出来事があります。

それは、
「驚き」「好奇心」です。

「あれ?」
「なぜ?」
「本当にそうなのか?」
この小さな違和感が、「問い」を生みます。


◆ 問いは世界の見え方を変える

同じ緑茶(第370夜、第377夜)でも、
「どう売るか」
という問いと
「なぜ人は緑茶を飲むのか」
という問いでは、
見える未来が全く違います。

・問いが変われば、未来が変わる。

だから私は、問い創造を
「価値創造のOS」
と呼んでいます。

■ AI時代の教育の在り方

これからの教育は、知識を覚える教育ではありません。
「問い」を見つける教育です。

そのためには、学生に「答え」を教える前に、
日常世界を
「あたり前ではない」
という
「見る力(知性)」
「感じとる力(感性)」
「考える力(脳性)」
 を育てる必要があります。

 もう一つの世界、別様の世界への気づき
  価値創造は、特別な才能から始まるのではありません。
毎日の生活の中で、「あたり前」に隠れている
“もう一つ(別様)の世界”
に気づくことから始まります。

 めったに起こらなそうなレアな事態ばかりが偶然性ではありません。
現実のすぐ目の前にあるそのことにいかに驚くか、
『あたり前』の世界に控える『他にもあり得た』世界を想像して、
目前の情景をいかに『あたり前でない』世界として見ることができるのか。


 それを、本コラムで繰り返し綴ってきました。

つまり、「問い」とは、
・「世界を見直す勇気」であり、
「未来を創る最初の一歩」です。

「顕」と「密」が、問い創造の入口




「価値創造の知」のこれまでの体系を整理すると、

問い創造 → シナリオプランニング → セレンディピティ → 3つの知 → 価値創造

となっています。
しかし、その前にはもう一段階、
「問いはどこから生まれるのか」
という根源的な問題があります。

私は、その答えが
「顕」から「密」へ向かう認識の転換
ではないかと洞察しました。

あらためて、「顕」とは何か?

「顕」とは、表面に現れている世界です。
つまり、

  • 日常
  • 常識
  • 習慣
  • データ
  • 事実
  • 見えているもの

 AIは、この「顕」の世界を非常に得意とします。
大量の情報を整理し、知識を要約し、最適解を導きます。
しかし、それだけでは価値創造には至りません。

「密」とは何か
「密」は「まだ現れていない意味の世界」
と考えます。
そこには

  • 違和感
  • 気配
  • 可能性
  • 関係性
  • 文脈
  • 人間の想い

があります。

つまり「密」は、
・「価値の種が眠っている世界」
なのです。

「顕在」と「潜在」との関係

ここで、心理学でいう
・「顕在意識」
・「潜在意識」
を重ねることもできます。

◎顕在

人が意識している世界
「こう思う」
「こう見える」
「こうあるべき」

潜在

まだ言葉になっていない世界
「何か違う」
「説明できない」
「気になる」
「なぜだろう」

つまり、「問い」は、
潜在意識から浮かび上がってきます。

◆問いは「顕」からではなく、「密」から生まれる

 例えば、学生が
「地方は人口減少しています」
というのは「顕」です。

しかし
「なぜ地方に帰りたくなる人がいるのだろう」
これは「密」です。

さらに
「人口減少を止めるには?」
ではなく
「人口減少を前提にすると、どんな新しい豊かさがあるのか?」
となると、「問い」は完全に「密の世界」へ入ります。

■ AI時代だからこそ「密」が重要

AIは「顕」を整理できます。
しかし「密」を感じることはできません。

だからこれからの教育では、学生に、
「密を見る力」
を育てる必要があります。

■「顕」と「密」を価値創造プロセスに組み込む

そのうえで「価値創造の知」のAI価値創造教育プログラム体系は、
次のように整理して、わかりやすい演習と実例を習得していくと、アントレプレナー・イノベーター(イントレプレナー)志向者には、更に扱いやすい流れ・内容に近づくようになります。

顕(日常・常識)
   ↓
違和感
   ↓
密(可能性・気配)
   ↓
問い創造
   ↓
シナリオプランニング
   ↓
セレンディピティ
   ↓
3つの知
   ↓
価値創造


つまり
・「顕」は出発点
・「密」は問いの源泉
になります。

◆「顕在」と「潜在」より、「顕」と「密」が良い理由

一般的には「顕在」「潜在」という言葉が使われますが、
本コラムでは「顕」と「密」を採用しました。

理由は、「潜在」は心理学では「意識されていないもの」
という意味で理解されがちですが、
「密」はもっと広く、

  • まだ顕れていない可能性
  • 見えない関係性
  • 熟していない価値
  • 将来芽吹く兆し

まで含むことができます。

つまり、
「密」は「価値が凝縮されている世界」
という独自の意味づけが可能になります。

■ 参考:「密」を紐解く

密教の「密(みつ)」という文字には、仏教の教義的な意味と、漢字そのものが持つ意味の、大きく分けて3つのレイヤー(意味合い)があります。

1. 「隠されていて、簡単には見えない・分からない」という意味

もっとも一般的な意味は、「秘密」「隠密」の密です。
言葉や文字、論理(=顕教)だけで、表面的な説明をいくら重ねても、世界の真理や宇宙の本質は捉えきれません。

そのように「人間の浅い知恵(言語や理屈)ではうかがい知ることができない、奥深くかすんだ領域」を指して「密」と言います。

2. 「仏と分が、隙間なくピッタリ重なり合っている」という意味

漢字の「密」には、「濃密」「親密」「精密」のように、隙間(すきま)がない状態を表す意味があります。密教では、宇宙の真理そのものである仏(大日如来)と、私たち人間は、本来は一つのものであると考えます(即身成仏)。

護摩(ごま)を焚き、手で印を結び、真言を唱えることで、仏の身体・言葉・心(三密)と、自分の身体・言葉・心(三密)が、隙間なく1対1でピタッと一体化する(三密加持)
この「仏と人間の距離がゼロになる状態」を「密」と表現しています。

3. 松岡正剛師匠の解釈:「関係性が畳み込まれている」という意味

 松岡師匠の視点を重ねると、ここでの「密」とは単に「隠す」という意味ではなく、「まだ開かれていない(フォルダが閉じている)状態」を指します。
すべての現象や意味がギュッと凝縮され、重ね合わされてそこに在る状態です。
これを緻密にデザインされたフレーム(曼荼羅など)を使ってパッと展開(解凍)すると「顕(目に見えるもの)」になり、また収束すると「密」に戻る。

つまり、密教の「密」とは、たんに「ケチって教えを秘密にしている」という意味ではなく、「言葉を超えた奥深い真理であり、仏と自分が隙間なく一体化する、極めて濃密で高度なシステムである」ということを表しています。

■ まとめ
 本年1月に、弘法大師空海が誕生した香川県善通寺にお参りしました。
そのご縁が、本コラムで私の背中を押して「AI時代の価値創造教育プログラム」の発信を促すように、と感じています。


 本コラムが少しでも日本の将来や皆様のお役に立てれば幸いです。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

 

橋本元司の「価値創造の知」第378夜: 教育機関向け-AI時代の価値創造教育プログラム

2026年5月12日: AI時代における「価値創造人財教育」の再設計に向けて

 [プロローグ]
 ----------
 AI時代だからこそ大切になる、
「価値を生み出す力」。
人間だからこそ発揮できる“価値創造”の考え方を、
図解・時系列・体系化し、
教育現場で活用いただける
「価値創造教育プログラム」として
まとめました。

 未来を切り拓く若い世代の育成や、
教育機関の皆さまの取り組みに、
少しでもお役立ていただければ幸いです。

----------

 本コラムの第370夜から第376夜にかけて、

 ・AI時代に、「価値創造」という
人間の側が持つべき最も重要な『知』

 をお伝えしてきました。

 本夜は、AI時代の「価値創造の知」のあり方と様式を大編集して、
次世代を創る
「教育機関の高等教育 及び アントレプレナーシップ人財創生
に向けた「価値創造教育プログラム」をご案内いたします。

■提案要旨
~AI時代における「価値創造人財教育」の再設計に向けて~

 本提案は、AI時代における大学教育・起業家教育の高度化に対応するため、 「価値創造」を再現可能な「知(工学)」として体系化した教育プログラムの導入を目的とするものです。

 従来の教育が「知識の習得」に重きを置いてきたのに対し、
本プログラムは「問いを創り、価値を構想し、社会に実装する力」
の育成・養成を中核とします。

 現在、生成AIをはじめとする技術の進展により、「知識の獲得」そのものの価値は相対的に、劇的に低下しています。
 下図の「AI登場による価値観」の変化をご覧ください。
 いま、左側の常識領域(正規分布曲線)では、「AIが瞬時に正解を出す」ことを私たちは目の当たりにしています。 そのことが否応なく私たちの未来を大きく変えていきます。

 これから人間の側は、右側の未常識領域(M字型)に向けた、
「 人々に役立つ『問い・意味・価値』を創る」ことができる

「型破り・異端児・イノベーター」

 というAIが苦手とする「斬新的な本質の発掘」が求められる時代になっていきます。
(現代では、「異端児」とは「業界の異端児」のように、主流派(左側)とは異なるアプローチで結果を出す人物への敬意や独創性への賛辞として使われることが多い)
 
 下図の変容に対応・適応できなければ、国・地域・産業は、成長ではなく衰退の道を辿ります。
このことにより、高等教育・起業家人財教育に求められる教育機関の役割は大きく変化せざるを得ません。 

◆ 「立つ」時代の心得と方法

 いま、「令和の地球沸騰環境(生命サステナブル)、ビジネス環境(AIデジタル)」(第360夜詳細)等の「後戻りしない変化(=トランスフォーメーションX)」の前では、私たちの未来を見据えて「立つ・立ち上がる・自立する・両立する・役立つ」 という動詞が、これまで以上に経営や事業創発のコア技術になります。

 事業が立ち上がる、経営・組織を立て直す、人財が自立する、経済価値と社会価値両立する、──これらはすべて、「価値創造のプロセスをどう設計できるか」にかかっています。

 価値創造とは、切実・驚きの『心のトリガー』が逸脱を呼び、『智慧の編集』が別様の価値を構築する」という、一種の“立ち上げ工学”です。

  本プログラムでは、下図の価値創造「らせんプロセス体系図」で表すように、

『切実(気立て)→ 逸脱(見立て) → 別様(仕立て)』

という「価値創造の本質プロセス」を中核に据えて、それを教育現場 及び アントレプレナー人財教育現場で扱えるように「見える化構造化」しました。

*実践:「価値創造プロセス体系」全体像

らせんプロセス学習テーマ学習内容(ワークショップ例)
1. 切実(心)「問い」の採掘
⇒自分だけの違和感を言語化
● 違和感ジャーナル: 日常の不実・不満・驚きを書き出し、その裏にある「自分はどうありたいか(切実心)」を特定するワーク。
● 物語の起点づくり: 過去の受難や逆境を振り返り、それを価値創造のエネルギー(魂)に変換するストーリー化演習 。
2. 逸脱(智慧)「意味」の構築
⇒常識を疑い、新結合を構想
● Think out of the box: 「正解」をあえて否定し、独自の「3つの知」で新たな意味を上書きする「型破り」発想法ワーク 。
● シナリオ: 既存の枠組みから「逸脱」した未来を描き、なぜその未来に価値があるのか(意味)を決定するコンセプト立案。
3. 別様(統合・実践)「価値判断」「実装」
⇒構想を具体的な形にする
● 「三かき」プロジェクト: 夢をかき、恥をかき、汗をかく実践プロセスを通じ、プロトタイプを制作して現場(社会)へ接続 。
● 別流の価値提案: 既存のものを使って、これまでにない「できる」を創り出す、具体的な事業プランや政策提言の作成 。

  1. 切実 (Seriousness / Urgency):
     現状の課題や問題意識を深く、真剣に受け止める段階です。これは、新しいものを生み出すための出発点となる「問い」や「危機感」に相当します。既存の枠組みでは解決できない切実な状況や欲求が、変革のエネルギーとなります。
  2. 逸脱 (Deviation / Transcendence): 切実な問いに対して、既存の常識や枠組み、成功体験から意図的に離れる段階です。従来のルールや考え方にとらわれず、あえて異なる視点や発想を試みることで、新たな可能性を模索します。
  3. 別様 (Difference / Alternative):
     逸脱した結果として、これまでにない新しいアイデア、視点、解決策、あるいは価値が生まれる段階です。これは、単なる「違い」ではなく、新しい「あり方」や「様式」を意味し、新たな価値創造の実現を指します。

*実践:「問い創造プロセス体系」

フェーズテーマ学習内容(ワークショップ例)
A. 心の揺れ「感性・心性」の解凍常識の中に潜む「違和感」・「ズレ」を言語化する。AIには検知できない「人間の内面・内発」をリスト化する。
B. 疑問「Why・疑念」の深掘りなぜその違和感があるのか?「切実心・好奇心」を起点に、課題の本質を抽出する。
C. 探求/探究「別流」の探索「守破離」と「真善美」を往復し、AIが提案する「最適解」ではない「別流の解決策」を練る。
D. 問い「志・信念」の構造化磨き上げた問いを、最強の「プロンプト(成長の設計図)」へと変換する。

教育的構図のポイント

  1. 受動から能動への転換: ステップA・Bは、外部の変化に対する「受動的な心の揺れ」を起点としますが、ステップC・Dを経て「能動的な問い」へと進化させることで、学生の主体性を引き出します 。
  1. AIとの差別化指標: AIが得意なのは「効率的な実行」です。このプログラムでは、AIには不可能な「切実な動機(A・B)」と、既存の枠を越える「意味の構築(C・D)」に学習の重心を置いています 。
  1. 「3つの知」による判断: ステップDで問いを構造化する際には、別途提示している「深い知(人間)・高い知(未来)・広い知(社会)」を羅針盤として用いることで、独りよがりではない、社会価値と両立する「強い志」を形成します 。

 この体系表を用いることで、「どの段階でどのような知的負荷を学生にかけるべきか」が明確になり、学生は「自分の違和感がどうやって社会価値に変わるのか」という道筋(OS)をインストールすることが可能になります。
---------------------------
 上記の様に、

  • 「正解」を学ぶ教育から
  • 「問い」と「意味・意義(meaning)」を創り、「別様・別流の価値」を構想する人財教育へ

 の迅速な転換・先取りが、教育界や産業界に不可欠となっています。

本提案は、このような時代背景を踏まえ、
「価値創造」を単なる理念・机上ではなく、
・これまでの現場で培った「実践と理論」を両輪として
「再現可能な『知の体系』として構造化・工学化」
したものを明示します。
「工学」とは、工学の本来の目的である「社会課題や人間の不便を解消する」ことを出発点として捉え、単なる技術的なモノづくり(How)ではなく、「人の役に立つ仕組みを考え、設計し、社会に実装するための再現性のある思考と実践の体系」 という意味で使っています)

 さらに本提案では、このプロセスを理解・実践するための統合フレームとして、
→ 問い創造工学
→ シナリオプランニング
→ セレンディピティ
→ 3つの知(トリニティ・イノベーション)
→ 価値創造工学

からなる 「価値創造の知・統合マップ(五位一体のナビゲーション)」 を提示します。

 上図は、単なる思考法ではなく、
•学生の主体的思考力の育成
•学生の地域課題への実践的接続
•産学官連携への展開

を同時に実現する教育モデルです。

■ 本プログラム

  1. 提案の全体構造

    本提案の核心は、価値創造を以下の5つの機能「五位一体のナビゲーション」として統合的に捉える点にあります。

    ⦿要約「五位一体のナビゲーション」
    「問い」が方向を指し示し、      (未来の行き先)
    「シナリオ」が歩むべき可能性を広げ、 (未来の想像) 
    ・ 「セレンディピティ」が加速を生み、  (未来との遭遇)
    ・ 「3つの知」が羅針盤をつくり、    (未来の創造)
    「価値創造」が未来を先取りする。    (未来の戦略)
フェーズ役割目的(大学・地域実装の視点)
1. 問い創造工学航路の決定:第372夜詳細「自分・地域・国の困りごと」を「未来への問い」へ昇華させる
2. シナリオプランニング海図の作成:第373夜詳細不確実な未来を「リスク」ではなく「可能性の束」として捉える
3. セレンディピティ追い風の活用:第375夜詳細準備された心で、偶然の出会いをイノベーションへ転換する
4. 3つの知判断の羅針盤:第376夜詳細ミッション・ビジョン・イノベーションの視点から意思決定を導く
5. 価値創造工学操船の基盤(OS):第370~371夜上記をシステムとして回し、具体的な価値を社会に実装する

[各フェーズの役割と本質]
① 問い創造工学(起点):第372夜詳細
 •役割:航路の決定
 •本質:現実の「切実さ・驚き」を問いへ昇華する
 ⦿ 教育的意義
 ・問題設定能力の獲得
 ・主体的思考の起点形成

② シナリオプランニング(展開):第373夜詳細
 •役割:未来の海図作成
 •本質:不確実性を「可能性」として構造化する
 ⦿ 教育的意義
 ・複数未来の理解
 ・ 「仮説思考・構想力」の育成

③ セレンディピティ(創発)
:第375夜詳細
 •役割:偶然の価値化 (やってくる偶然と迎えにいく偶然)
 •本質:異質な要素の結合による新規性・独自性の創出
 ⦿ 教育的意義
 ・柔軟な発想
 ・異分野融合能力

④ 3つの知(判断):第376夜詳細
 •深い知(人間):ミッション
 •高い知(未来):ビジョン
 •広い知(社会):イノベーション
 ⦿ 教育的意義
 ・「判断力」の育成
 ・「意味・倫理・社会性」の統合

⑤ 価値創造工学(実装)
:第370~371夜詳細
 •役割:価値の社会実装
 •本質:構想を現実の価値へ転換する
 ⦿ 教育的意義
 ・実践力
 ・社会接続能力

上記プロセスは、「知の点(問い)」が一本の強力な「知の線」となり、 さらに立体的な「知の型(3つの知)」へと進化する「黄金のリレー」です。
 それぞれがつながるように、理解を促進する実例と演習を用意しています。
(新価値創造研究所HPのコラム「価値創造の知」第370~377夜に各演習等の詳細を記載しています)

2.教育的価値

 本質的な「問い」がなければ「価値」は迷走し、単なる既存の改善(カイゼン)に留まってしまいます。
優れた価値創造には、既存の枠組みを疑う「問いの質」が不可欠であり、 真のイノベーション(価値創造)を起こすためには、その手前にある「問い」を設計する工学的なアプローチが不可欠です。

概念役割基本的視点
問い創造工学基盤・エンジン・源流「何を成すべきか」を定義する。これがないと、どれだけ技術があっても無価値なものが生まれる。
価値創造工学実装・アウトプット・別流「どう実現するかを形にする。問いによって定義された価値を、実際に社会へ届ける。

◆教育の転換(従来とこれから)
 生成AIの進展により、
  •知識取得の効率化
  •正解探索の自動化
 が急速に進んでいます。
 その結果、大学教育・起業家教育には以下の転換が求められています。

従来これから
知識習得問い創造
正解理解価値構想
個別学習社会接続

◆本質的課題
⇒ 価値創造は重要だが、教えにくい
理由:
  •プロセスが見えにくい
  •再現性が低い
  •属人的になりやすい

 その課題解決に向けて、本プログラムは再現可能な「問い創造工学・価値創造工学」として以下の能力を統合的に育成します。
①  問いを立てる力
 → AIには代替されにくい中核能力
②  不確実性を扱う力
 → 未来を「予測」ではなく「設計」する力
③  意味を創る力
 → 単なる機能ではなく価値を「構想」する力
④  判断する力
 → 技術・社会・人間を「横断」する思考
⑤  実装する力
 → 社会と「接続」する実践能力

*参考: 実践「問い創造工学体系」図解

「問い創造工学」とは、人や社会の切実な問題から、 「なぜ:Why?」「何を:What?」「どうやって:How?」を問い続け、既存の枠を越えた「別流・別様の価値」を構想・実装するための思考と実践の方法論です。
⇒新しい価値を生むための「問い」とは、「常識・当たり前」という壁の向こう側にある「まだ見ぬ未来」へ手を伸ばすためのチケットです。
 上図は、そのチケットを手に入れ、実際に未来を形にするまでの「心の動き」と「行動」を表しています。

*参考:価値創造の「らせんプロセス体系図」

⇒ 価値創造は、単なるアイデア発想やフレームワークの活用だけでは不十分であり、「心(熱意・決意)」と「智慧(方法)」を一体化、統合化させた「らせん的プロセス」を辿ることで「真の価値創造(イノベーション)」が立ち上がります。
⇒この「気立て・見立て・仕立て」が揃ったとき、構想と戦略は「逸脱の精度と力」を極め、独自の輝きを放ち始めます。

*参考:体系的な顧客価値創造の「3つの知(型)」図解

⇒「3つの知」とは、不確実な時代において新しいビジネス価値を創造するための思考のフレームワークです。これらは「深い知(Why)」「高い知(What)」「広い知(How)」で構成され、ミッション、ビジョン、イノベーションを三位一体でつなぐ役割を果たします

◆深い知(Why / ミッション / 気立て): 禅的思考で己の根源を掘り下げ、揺るぎない「志」を立てる。
 ⇒ 何のために創るか?
 ・定義: 人間の本質的なニーズ、欲求、行動心理を深く洞察する知。
 ・目的: 表面的な課題ではなく、「なぜその人がそうしたいのか」というインサイトを突き止め、深い共感や新しい意味(「別流」)を見出す。
◆高い知(What / ビジョン / 見立て):
「過去と現在」から弁証法的に未来を統合し、ワクワクする「理想の姿」を描き出す。
 ⇒ 何を創るか?
 ・定義: 将来のありたい姿や理想の未来像を描く、鳥の目のような高い視点。
 ・目的: 短期的な利益だけでなく、長期的な「新潮流」や、サステナビリティ(持続可能性)を見据えた羅針盤となる。
◆広い知(How / イノベーション / 仕立て): 新結合の視点で、既存の枠組みを超えた「別流の具体的な解決策」を具現化する。
 ⇒ どうやって?
 ・定義: 自社や自業界の枠を超え、異分野、テクノロジー、グローバルな知見を幅広く取り入れる知。
 ・目的: 異なる知の組み合わせによって、ワンランク上の価値や新しい物語を創造する。

⇒ この「3つの知」が揃うことで、「知の点」が「知の線」となり、最終的に立体的な「知の型」へと進化し、新たな成長戦略へとつながります。

3.大学における適用可能性(案)

◆地域課題との接続
•人口減少
•若者流出
•地域産業の変革
•他地域との連携

•・・・

◆教育的価値
•地域理解の深化
•実践的学び
•主体性の向上


◆産学官連携
•学生アイデア → 企業連携
•地域課題 → 政策提案
•実証プロジェクト化


4.期待される成果

◆学生
•問いを立てる力
•価値構想力
•判断力
•実践力


◆大学
•教育の高度化
•社会的価値向上
•特色ある実践的教育プログラム

 ①ワークショップ
 ②プロジェクト型授業
 ③フィールド連携

◆地域
•新しい発想
•若者の関与
•イノベーション創出

・・・

5.導入ステップ(提案)
⇒STEP1:試行導入
 •ワークショップ(単発)
⇒STEP2:授業化
 •半期科目として展開
⇒STEP3:プログラム化
 •産学官連携プロジェクト化


6.本提案の意義

本提案は、
 •理論(価値創造の構造・工学)
 •方法(教育プログラム)
 •実装(地域連携)

を統合した「次世代型教育モデル」です。

7. [エピローグ] 最終メッセージ

 AIが進化するほど、人間の側は
 ① 問い(価値の起点と別様の方向性)
 ② 意味(なぜそれを行うのか?)
 ③ 別様の価値(将来の主流・本流)

 を問われます。
 本提案はそれを工学的・体系的・実践的に育成するものです。

 価値創造とは、「切実・驚きの『心のトリガー』が逸脱を呼び、『智慧の編集』が別様の価値を構築する」という、“立ち上げ工学”です。
上記を、学生が不確実な世界を自らの足で歩むための
・「実践的知性」
・「自分のOS」

 としてインストールできるような道筋となるように提示してきました。

 本提案が、将来に向けた教育的解答(人財創生・地域創生・事業創生)としてご活用いただけましたら幸いです。
                新価値創造研究所代表 橋本元司

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第377夜:「価値創造の航海術 」-「問い創造」から「価値創造」へ

2026年4月7日: 知の連鎖が解き放つ未来への躍動

 これまで第370夜から第376夜にかけて、
・「価値創造」というAI時代に最も重要で、
・しかも目に見えない「切実→逸脱→別様」の営みを、
・いかにして再現可能な「知」 として体系化できるか

 を説明してきました。

 それは、「知の点(問い)」が一本の強力な「知の線」となり、
さらに立体的な「知の型(3つの知)」へと進化する「黄金のリレー」です。

さて、令和の地球沸騰環境(生命サステナブル)、ビジネス環境(AIデジタル等)等では、「立つ・立ち上がる・自立する・両立する」 という動詞が、これまで以上に経営事業創発のコア技術になります。

 事業が立ち上がる、経営・組織を立て直す、人財が自立する、経済価値と社会価値両立する、──これらはすべて、価値創造のプロセスをどう設計できるかにかかっています。

 価値創造とは、切実・驚きの『心のトリガー』が逸脱を呼び、『智慧の編集』が別様の価値を構築する」という、一種の“立ち上げ工学”です。

 上記を、大学生・ビジネスパーソン向けに、不確実な世界を自らの足で歩むための「実践的知性」及び、「自分のOS」としてインストールできるような道筋となるように提示してきました。
 
 ここで一旦、その道筋を区切りとして俯瞰し、それらがどのように響き合い、一つの大きな「うねり」となるのかを再整理・編集することが、「「きっと皆さんの役に立てるのではないか」と思いました。

1. 【起点】問い創造工学:「問い」がすべての起点となる(第372夜詳細)

 価値創造の第一歩は、正解を出すことではありません。
価値は「思いつく」ものではなく「立ち上げる」ものです。

すべての価値創造は「良質な問い」から始まります。
下図の「A.心のゆれ」を起点として「何を解くべきか」という問いそのものを設計することにあります。
そして、「問い」こそが「向かおうとする方向」を決めていきます。

 世の中に溢れる既存の延長線上にある課題(Problem)に埋没せず、
自らの「驚き・違和感」を「解くべき価値のある問い」へと工学的に純化させる。
この「問い」の強さが、プロジェクト(地域創生・事業創生・人財創生)の初速と深度を決めます。

2. 【拡張】シナリオプランニング:「不確実性」を地図に変え未来の「地図」を広げる(第373~374夜詳細)

 立てた「問い」に対し、未来は常に「複数の顔」を持って現れます。
一つの予測に固執することは、変化の激しい現代において最大のリスクとなります。

 これまでの競争環境が自分たちに不利な方向に大きく変化した時に、
その脅威の準備・適応ができていないことが、多くの企業の「破綻」の原因です。
それは、「国」「地域」「業界」も同様です。

 「心の置き方」と「モノの見方」のフェーズを上げることが重要です。(第373夜)

 シナリオプランニングとは、起こり得る複数の未来を可視化する技術です。
未来を「当てる」のではなく、複数の可能性を「拡張」「準備」しておくことで、
私たちの思考は硬直化から解放され、しなやかなレジリエンス(適応力)を獲得します。

 チャンスは、準備のあるところにやってきます。(ルイ・パスツール

3. 【触発】セレンディピティ:偶然を「追い風」に変える(第375夜詳細)

 「問い」を持ち、「複数のシナリオ」を描きながら行動を続けると、そこには必ず予期せぬ出会いや出来事——すなわちセレンディピティ——が訪れます。
それは単なる幸運ではありません。

「やってくる偶然(Outer)」「迎えにいく偶然(Inner)」が結びつく「格別な間(時空間)」を発見した時に、そこに大いなる不思議なエネルギーを感じます。
自分の内面的な意識や関心が、外の出来事と結びつく能動的で持続的な姿勢がそれを呼び込みます。

 そこでは「準備された心(Prepared Mind)」が、シナリオという地図を持っていたからこそ気づけた「意味のある偶然」「発見の力」です。
 この偶然を価値創造のエネルギーとして取り込むことで、当初の計画を超えたイノベーションが誘発されます。

4. 【深慮・羅針盤】3つの知:戦略に「魂」を吹き込む(第364夜、第376夜詳細)

 3つの知は、本体系における“判断の羅針盤”であり、
問いとシナリオによって広がった可能性の中から、
どの方向に進むべきかを決定する中核機能です

 令和の時代は、下図のように、
・「何のために創るか(①Why)」、
「何を創るか(②What)」を
「具体化する(③How)
 という「ひとつなぎ」を科学し、
工学の手法価値を設計するイノベーションの時代です。

  • 深い知(Why / ミッション / 気立て): 禅的思考で己の根源を掘り下げ、揺るぎない「志」を立てる。
  • 高い知(What / ビジョン / 見立て): 「過去と現在」から弁証法的に未来を統合し、ワクワクする「理想の姿」を描き出す。
  • 広い知(How / イノベーション / 仕立て): 新結合の視点で、既存の枠組みを超えた「別流の具体的な解決策」を具現化する。

この「気立て・見立て・仕立て」が揃ったとき、戦略は「逸脱の精度と力」を極め、独自の輝きを放ち始めます。

5. 【実装】価値創造工学:未来を「現実」へと定着させる「統合の知」(第370~371夜詳細)

「価値創造工学」とは、「人の役に立つ仕組みを考え、試し、社会に届けるための心得・思考・実践の方法論」です。
 そのために、「問い」「シナリオ」「セレンディピティ」「3つの知」をバラバラの点としてではなく、「点→線→面→立体」の一気通貫のシステムとして捉えるのが「価値創造工学」の特質です。

 「3つの知」で磨き抜かれた構想・戦略を「価値創造工学」という実行システムへとバトンタッチします。
人々に役立つ想い(想像)を構造化し、他者を巻き込み、社会に価値を実装(創造)していく。
ここに至って、思考は初めて「実体」を伴う成果へと昇華されます。

問いが方向を指し示し、(未来の行き先)
シナリオが歩むべき可能性を広げ、(未来の想像)
セレンディピティが加速を生み、(未来との遭遇)
3つの知が羅針盤をつくり、(未来の創造)
価値創造が未来を先取りする。(未来の戦略)

この連鎖を意識的に回し続けることで、価値創造は「一部の天才による閃き」から、「誰もが実践可能な知の技術」へと昇華されていきます。

■ 実践のフィールドへ

 ここで、「問い」から「実装」までを一気通貫で可視化し、戦略の精度を極めるための「価値創造の知・統合マップ(5ステップ版)」をご用意しました。
 このマップは、不確実な未来を自らの意志で切り拓くための「思考の航海図」として活用いただけます。

【価値創造の知・統合マップ:五位一体のプロセス】

  ステッププロセス名航海のメタファー役割と知のダイナミズム
 1問い創造工学
(気立て:切実・驚き)
航路の選定(起点)既成の目的地を疑い、自分たちだけの「別流の座標」を打ち込む。
 2シナリオプランニング
(見立て:未来の想像)
海図の作成(拡張)起こり得る複数の未来を可視化する。未来を予測するのではなく、不確実性を「可能性の束」として準備する。
 3セレンディピティ
(未来との遭遇)
潮流の感知(触発)海図にない「隠れ島」や「予期せぬ潮流」を発見し、チャンスとして捉えて推進力に変える。
 43つの知
(仕立て:未来の創造)
羅針盤(判断)【深い・高い・広い知】により、海図の中から「自分たちの進むべき別流の道」を構想して、新成長戦略の基盤・意思決定とする。
 5価値創造工学
(新成長戦略)
操船・実装(実践)磨き上げた戦略を、社会実装可能な形へと構造化する。想いやアイデアを、具体的な価値(仕組み)として現実に定着させる。

【統合マップの活用ガイド】

  • ステップ1〜3(探索フェーズ):

視野を広げ、枠を外し、未来の想像性の翼を広げて、外部環境(やってくる偶然)と自分の内部環境(迎えにいく偶然)が出会い、連想するフェーズです。ここでは「正解」を求めず、可能性を最大化させることが重要です。

  • ステップ4(戦略昇華フェーズ):

 集まった情報や偶然を、「ミッション(Why)」「ビジョン(What)」「イノベーション(How)」という3つのフィルターに通すことで、従来の常識を超える「本質的な違い」と「共感」を両立させた価値創造につながるステップとして位置づけです。

 3つの知は、本体系における“判断の羅針盤”であり、
問いとシナリオによって広がった可能性の中から、
どの方向に進むべきかを決定する中核機能です。

それが、誰の真似でもない、あなただけの「新成長戦略」へと進化させます。

  • ステップ5(完遂フェーズ):

研ぎ澄まされた知を、工学的なアプローチで社会へ繋ぎます。産官学の連携や、具体的なプロジェクト運営はこの段階で真価を発揮します。

この5ステップを回し続けることで、価値創造は「一過性の閃き」ではなく、再現性のある「体系的な知」へと進化します。大学での講座や、地域共創のプロジェクトを推進する際の共通言語としてぜひお役立てください。

フェーズ役割目的(大学・地域実装の視点)
1. 問い創造工学航路の決定「地域の困りごと」を「未来への問い」へ昇華させる
2. シナリオプランニング海図の作成不確実な未来を「リスク」ではなく「可能性の束」として捉える
3. セレンディピティ追い風の活用準備された心で、偶然の出会いをイノベーションへ転換する
4. 3つの知判断の羅針盤ミッション・ビジョン・イノベーションの視点から意思決定を導く
5. 価値創造工学操船の基盤(OS)上記をシステムとして回し、具体的な価値を社会に実装する

■ 大学生・ビジネスパーソンの皆さんへ
 ~AIは「答え」を出すが、人間は「問い」を創る~

 この「知の体系」は、机上の理論に留まっていてはその真価を発揮しません。
特に、次代を担う大学生や、産官学の最前線で地域・事業を「発想・構想・実装」する起業家・実務家たちにとって、これは「未来を切り拓くための航海術」そのものです。

 かつて、明治維新の日本は「立つ」時代でした。そこでは武士という階級は蒸発しました。
そして、AIが立ち上がった「令和」のいま、再び、日本・企業・地域・学校は、「立つ」時代に入りました。

(AIが「AIエージェント」「AIロボティクス」の先に、どのように進化していくかの複数のシナリオは、新価値創造研究所ではすでに「シナリオプランニング:AIの本来と将来」としてまとめていますが、どこかでご案内します)

 「問い創造工学」~「価値創造工学」は、「立つ」ための工学でした。
切実・驚きのトリガーが逸脱を呼び、智慧の編集が別様の価値を構築する」
という、一種の“立ち上げ工学”です。

 生成AIは、正解探索は得意ですが、問題設定は苦手です。
この「AI」が苦手の領域で、
「人間の側」の開拓領域である「問い」を自ら立てて、
不確実な未来に「シナリオ」を携えて飛び込み、
そこで起きる不思議な「偶然」を自分(たち)のものにして、
貪欲に「別流の価値」を創り上げていく。


生成AIは「答え」を出すが、人間は「問い」を創る
その様な時代の「幕」が2年前から上がっています。
このコラムの航海に例えれば、もう「船出」が始まっています。

 この第376夜のコラムから、自分ゴトとして始まるのは、
・皆さん一人ひとりが、自らのフィールドで「新たな問い」を立て、「別流の価値」をつかみ取るコト。
・そして、是非「実践」での素晴らしい実践と物語を紡いでいくコト。
 そのコトを切に願っています。

 参考に、新価値創造研究所の「価値創造の秘訣」(第82夜)をご紹介します。
 ここまでの多くの内容は、
1.自分を変える
2.他者を愛する
3.余白をつくる

 を説明してきました。

 これからの「実践モード」である
4.舞台をつくる
5.関係をつくる
6.信頼をつくる
7.成功をつかむ

 をできる限り早く体験モードに入って挑戦してください。

 応援・伴走支援します。


価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第376夜:「価値創造の3つの知 」-価値創造の「OS」を起動せよ

2016年4月5日 問い・シナリオ・3つの知の統合

  「価値創造の3つの知」は、本コラム「価値創造の知」の『大黒柱』であり、「人体」で言えば『背骨』、「航」で例えると「竜骨(キール)」です。

 この「3つの知」を成長経営の背骨にして、前職パイオニア社と現職(多業種業態、教育機関、自治体を支援伴走)で最大活用してきました。

 本夜は、下記「価値創造の4段階プロセス」の第3ステップに位置づけられる「3つの知」を「価値創造の全体の流れ」中で関連付けてお伝えします。

「3つの知」は、第364夜に詳述していますので、時代を、日本を、地域を、自分を、切り拓きたいと考えている「大学生・ビジネスパーソン」の皆さんは、下記、本コラムより先に、「第364夜」と「SDGs経営塾 第7回 世界観を持つ」をご覧いただくことをお薦めします。

■ 価値創造の4段階プロセス

新価値創造研究所が提唱する「独自のプロセス」は、以下の4つのステップで構成されます。

  1. 問い創造工学: 「何を解くべきか」という起点(ベクトル)を決める。
  2. シナリオプランニング: 不確実な未来を可視化し、可能性(地図)を広げる。
  3. 3つの知: 広げた未来を「自らの知」で濾過し、戦略の精度(逸脱)を磨く。
  4. 価値創造工学: 磨き上げた戦略を、社会実装可能な形へと構造化(バトンタッチ)する。

■「3つの知」:戦略に魂を吹き込み、精度を磨くフィルター

 第373~375夜でお伝えした「問い創造」→「シナリオプランニング&セレンディピティ」で未来の選択肢を広げただけでは、まだ「輪郭がぼやけている未来」に過ぎません。

シナリオプランニングの「未来の可能性の地図」を広げた後に、
 下図「3つの知」(第364夜)を活用して、他でもない、自らの
・深い知:「意志(Why?→気立て・ミッション)」
・高い知:「理想(What?→見立て・ビジョン)」
・広い知:「新結合(How?→仕立て・イノベーション)」
 というフィルターで濾過(ろか)することで、戦略としての精度(逸脱・別流の精度)を高める。
このプロセスこそが、価値創造を「自分(たち)ゴト(智慧×意志)」として着地させる羅針盤になります。
 ここで、成長戦略は「心と智慧」が統合した「唯一無二の価値」へと進化します。

 この流れを網羅して、本夜の「3つの知(深い知・高い知・広い知)」を綴ります。

① 深い知(Why?):ミッションと「錨(アンカー)」

  • 本質: 禅的思考により、「なぜ自分(自社)がやるのか?」「大切なことは何か?」という根源的な意義を問う。
  • 役割: 変化の激しい海の中で、自分たちが揺るがないための「錨」を下ろす。この「志」が、戦略に揺るぎない軸を与えます。

② 高い知(What?):ビジョンと「北極星」

  • 本質: 弁証法を用い、「正・反・合」「守・破・離」の先に「なりたい姿」を描く。
  • 役割: シナリオが示す複数の未来の中から、自分たちが目指すべき「北極星」を定める。「切実」の力やワクワクする「夢中・数寄」の力が、推進力の源となります。

③ 広い知(How?):イノベーションと「新結合」

  • 本質: シュンペーター的な新結合により、一見無関係な要素を「一つの視点」で結びつけて、別流の新しい化合物をつくる。
  • 役割: 自分たちの「得意技」(内側)と未来のニーズ(外側)を掛け合わせ、具体的な解決策を構想・設計する。ここで「一つ上の価値」が具現化します。

■ 逸脱の精度を磨き、価値創造工学へ

「3つの知」を通す(ろ過する)ことで、シナリオプランニングで描いた未来設計図は、「客観的な予測(智慧)」から「主観的な戦略(意志×智慧)」へと変貌します。

 『3つの知』は成長経営の羅針盤です。
それを習得・体得していただくために、下図の様に、「ドック」に入って、「心と智慧」「ミッション・ビジョン・イノベーション」をブラシュアップして、自社、自地域の「羅針盤」を作成します。

 参考ですが、このワークショップを通じて、「自分の未来の羅針盤」も作成することで、転職や大きく飛躍された方たちを見てきました。


 下図(切実→逸脱→別様)の様に、世の中の平均値からあえて「逸脱」し、そのズレを独自の価値として磨き上げること。この「逸脱の意志と智慧」を研ぎ澄ます精度こそが、イノベーションの成功確率を高めます。

こうして研ぎ澄まされた戦略のベースが、最終的に「価値創造工学」へとバトンタッチされます。ここでは、想いやアイデアが、具体的なビジネスモデルや社会システムとして「工学的」に設計され、現実の世界へと放たれていきます。

■ 大学生・ビジネスパーソンの皆さんへ

「問い」を立て、「シナリオ」で未来を広げ、「3つの知」で己を貫き、「価値創造工学」で形にする。

 この一連のプロセスを回し始めたとき、あなたは単なる「時代の傍観者」ではなく、未来を能動的に設計する「創造者」と変貌していきます。
 ○○大学から、○○企業から、そして○○地域から、この「知の型」を武器に新たな価値を創造するリーダーが生まれることを期待してやみません。


価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第375夜:「問い創造工学」と「セレンディピティ」

2026年4月4日: 「やってくる偶然」「迎えにいく偶然」

■ 要約:「問い創造とセレンディピティ」


・ 「問い」の創造が、セレンディピティ(偶然の幸運)を呼び込み、それが新たな価値を生み出す源泉になるコト
・ 「問い」の創造は、既存の前提を疑うことから始まり、それが偶発的な発見と結びつくことで、より本質的な価値創造につながるコト

 本夜の核心は、セレンディピティとは偶然ではなく、「二つの偶然の出会い」であるという点にあります。
そして、「偶有性:偶然の幸福に出逢う能力・場」について図解と共に、解き明かしていきます。
下図は、参考に図解したものです。

1.セレンディピティ偶然の幸福に出逢う能力の正体

セレンディピティは次の2つの結合で生まれる:

  • やってくる偶然(外からの変化・情報)
  • 迎えにいく偶然(自らの意図・問い・問題意識)

この2つが出会ったときに、はじめて価値ある発見が生じる。


2.「問い創造」の役割(核心)

「迎えにいく偶然」を成立させる「鍵」が、問い創造である。

  • 常に対象に対して
    • 疑問
    • 問題意識
    • 意図・意思
      を持ち続けること

これにより、
→ 偶然を“受け取れる状態”を準備する

つまり、
良質な問い=セレンディピティを引き寄せる「鍵」


3.シナリオプランニングとの関係

  • 「問い(鍵)」と「対象・情報(鍵穴)」を結びつける方法が
    シナリオプランニング
  • 不確実な未来に対して
    • 自分の問いを当てはめ
    • 意味を編集・再構成する

→ これが「価値創造のプロセス」


4.前提条件:「欠けたモデル」と「余白」

重要な認識:

  • 現実は常に 「欠けたモデル」
  • 自分の思考には 「余白」 が必要

これにより:

  • 新しい視点が入る余地が生まれる
  • 「やってくる偶然」を受け入れられる

5.「間(ま)」の創造=価値創造の場

セレンディピティは、

  • 「やってくる偶然」と「迎えにいく偶然」
  • 2つの“片”

が出会う 「間(ま)」 に発生する

→ この「間」

  • 思索の場
  • 実践の場
  • イノベーションの場

となる


6.価値創造=新結合(イノベーション)

  • 異なる要素(片と片)を
  • 組み合わせることで

新結合(New Combination)=価値創造

ただし重要なのは:

  • 何でも組み合わせればよいのではない
  • 「問いの質」と「意図・意思の強さ」が結果を左右する

■ 結論

 セレンディピティとは、
「問いによって準備された自己
(Inner)「外から来る偶然(Outer)」が、
「格別な間(ま)」

結びつくことで生まれる『価値創造』の醍醐味である。


■ 以下、本文

 前夜、前前夜(第373~374夜)に、「問い創造」と「シナリオプランニング」のつながりについて綴りました。要約すると、シナリオ「問いを立てるための舞台装置であり、問いその舞台で「新しい価値(物語)」を紡ぐためのエンジンである、という構造です。

 また、その二つを『鍵と鍵穴』に例えると、「問い」という『鍵』を使って、「シナリオプランニング」の4つの世界(象限)の『鍵穴』に入れて、「価値創造の扉」を次々に開けていくというイメージになります。
 あらゆる「問い」(鍵)には対応する背景や文脈や世界(鍵穴)が存在し、 AI時代には、それらを見つけ出し、つなぎ合わせるという「価値創造の知」を習得・体得する重要性が高まります。

 さて、これまでプロジェクトチームで挑んだ「シナリオプランニング」のナビゲーターの現場では、次々と偶然・偶発的なことが起きて不思議な感覚を覚えることがしばしばあります。
 そのような現象を「セレンディピティ」と言います。

 電話しようとした相手から、同時瞬間に電話がかかってくる。または、探していた「問い」にたいするヒントや答えが、突如、本やメディアから現れてくる「あの偶然の感覚」です。
 多くの方たちが、この摩訶不思議な「セレンディピティ」を経験してきているはずです。

 本夜は、その「問い」と「シナリオプランニング」の間(あいだ)で浮かび上がってくる「『やってくる偶然』『迎えにいく偶然』」の『セレンディピティ』を中心に綴ります。 

 その「セレンディピティ」について、松岡正剛師匠は、千夜千冊1304夜『セレンディピティの探求』で次のように記しています。参考に、その一部を加筆引用します。
---------
・・・セレンディピティは「やってくる偶然」「迎えにいく偶然」とがうまく出会ったときにおこっているというべきなのである。
 「やってくる偶然」は自分では律していない。向こうからやってくる。かつてメーテルリンクがさかんに強調したことだ(千夜千冊68夜)。
 一方、「迎えにいく偶然」には自分の意図や意思がいる。意図や意思の持続がいる。意図をもって偶然を迎えにいかなければならず、それゆえこれはふだんから準備していなければならない。

 その意図や意思には、「自分が何を求めているのか」ということを試行錯誤したプロセスをトレースしておくという努力がともなっている。これが「迎えにいく偶然」だ。このとき、ふいに「やってくる偶然」に出会って、格別のセレンディピティが生じる。・・・
---------

 キーワードは、「やってくる偶然」「迎えにいく偶然」です。

迎えにいく偶然」には自分の意図や意思の持続が必要で、これはふだんから準備していなければならない」
これが、「問い創造」の目に見えない「核心」「気立て」です。
言い換えると、「『迎えにいく偶然』には、ふだんから、対象に向かって『疑問・疑念や数寄』という強い意図、意思、問題意識を持ち続け、準備するることが肝要である」ということです。

 さて、私の家にはたくさんの購入書籍があります。
松岡正剛師匠にならって、本を読む時は、マーカーを手にして、たくさんのマークや書き込みを入れます。
数年経って、同じ本を読むと、前回はマークしていないところに、今の自分にとっては、重要なコトが書かれていることに驚くことがあります。

・今の自分の問題意識や「問い」
・今の自分がどんな出力を望んでいるのか?
・今の自分の将来に、何が不足なのか?何を考えたいのか?

それは、「時」を経て、自分の意図・意思が変化・進化しているからだと気づきます。

 読書では「著書(著者)」に表現されたことと、「自分の疑問・想像力・創造力」が「交じり合う・混ざりあう・のめり込む」格別の出会いの「場」になることを数多く経験してきました。
(その筆頭が、「松岡正剛師匠」「谷口正和師匠」の著書群でした)

 そこは、まさしく「やってくる偶然」と「迎えにいく」偶然の出逢いのまばゆい「場」になります。

その「思索の場」を「現実・実際の場」に移すときに、「やってくる変化・現実・偶然」と「迎えにいく自分(たち)の想像力・創造力」が交じり合う舞台が、「シナリオプランニング」です。
 つまり、自分(たち)の持つ知や関心(鍵)を、情報や対象(鍵穴)に当てはめて、「未来の複数の不確実な世界」を編集し、切り拓く『格別な場・舞台』なのです。 

 そこでは、「迎えにいく自分の『問い』」の『質』と『想いの強さ(切実・数寄)』が重要な『鍵』となることが感じられたならば幸いです。

 受動的で、「枠を外せない経営者」、「迎えにいく準備ができていないメンバー」が集まっても、想定以上の結果が出ない大きな原因・理由がここにあります。

■ 眼前の現実が「欠けたモデルである」

 シナリオプランニングに関わらず、すべての重要な認識は、今現在の「自分」「会社」「地域」「学校」「社会」の姿・状態は、「欠けたモデル」であることを出発点にすることにあります。

引き続き、松岡正剛師匠は、千夜千冊1304夜『セレンディピティの探求』を加筆引用します。
---------
・・・そもそも予測であれ、ひらめきであれ、シナリオの創造であれ、なんらかの先取りができるためには、自分がいま立っている発想や思索に多少の“ゆるみ”が生じる必要がある。

 これはどんな作業であってもブレイン・インベトリー(在庫、持ち物)な作業中のことだろうから、この途中で既存の分析に頼りすぎていたり、勝手知ったる解読に荷重をかけすぎているのでは、自分のブレイン・インベトリーに“ゆるみ”は生じない。そうではなくて、むしろ自分の“いま”に、不足や曖昧やまちがいや過度があることを許容したほうがいいはずだ。

 そうすると、進行中の作業や発想に、それをさらに進めるうえでの発想モデルや思考モデルが自分には“ない”ことに気がつく。これは自分の発想力や企画力や思考力に展望性や可塑性がないということだから、がっかりしてしまうこともある。

 しかし、がっかりしているのではまずい。なぜなら、自分に発想モデルや思考モデルがないということは、いいかえれば、ここが肝心なのだが、そこに「欠けたモデル」があったことに気がつけばいいということなのだ。

 このとき、この「欠けたモデル」に当たる“何か”が、向こうからやってくるときがある。これが「やってくる偶然」だ。これを「欠けたモデル」をもっている自分が「迎えにいく偶然」の鍵か鍵穴かの片われと出会えたらしいと思えたとき、そこにセレンディピティがおこるわけである。・・・
---------

 上記に関連して、松岡正剛師匠は、
・「自分の中に『余白』(第50夜、第89夜、第207夜詳細)を意識的に持つことが重要なのだ」
・「自分に余裕がないとき、いっぱいいっぱいになっている時に何かが入る余地がなくなる。そんな時にこそ、『余白』が必要なのだ」

 という指南がよくありました。(SDGs経営塾 第6回「大切なことは何か」参照)

 上記の「欠けたモデル」と「余白」は同じことを云ってます。

 参考に、SDGs成長経営セミナー等で、過去の成功体験、栄光から逃れられない「経営陣・社員」の方たちにお伝えするスライド2枚をアップします。

・常に会社は「倒産する方向」に向かって進んでいるコト
・眼前の現実が「欠けたモデルである」と共通認識するコト


「第 148 夜:『真の企業再生・創生』とは?」では、「再考・再興」の方法と心得の詳細を綴りましたが、
「3つの切り口・心得」を引用します。
①「未来から逃げない」こと
② 眼前の現実が「欠けたモデルである」と共通認識すること
③ 現状から「逸脱」すること


■ 格別な間(ま):価値を創造するセレンディピティ

 上記を綴っている最中に、「やってくる偶然」「迎えにいく偶然」を図解したいと思い始めました。
このワーク自体も、脳内で高速に「やってくる偶然」「迎えにいく偶然」が出会うセレンディピティで仕上げたのが下図になります。

 それは、「『間(ま)』の創造」(第17夜)と「イノベーション(ツープラスワン)」(第308~第313夜)の出会いです。これをまとめた時に、「○○成長セミナー」で具体例と共に、多くの方たちにお伝えできると直感しました。

 さて、「間(ま)」という言葉は、私たちは無意識に使っています。
間合い 間抜け 床の間 時間 空間 間際 間に合う 間違い
間にまに 世間 人間 仲間 間引き 間近 間奏 等々
 「間(ま)」とは何でしょうか?

 ここで、再度松岡正剛師匠の講義録を記します。
-----
・・・「間」は日本独特の観念です。ただ、古代初期の日本では
「ま」には「間」ではなく、「真」の文字が充てられていました。

真理・真言・真剣・真相・・・

その「真」のコンセプトは「二」を意味していて、それも
一の次の序数としての二ではなく、一と一が両側から寄ってきて
つくりあげる合一としての「二」を象徴していたそうです。
「真」を成立させるもともとの「一」は「片」と呼ばれていて
この片が別の片と組み合わさって「真」になろうとする。
「二」である「真」はその内側に2つの「片」を含んでいるのです。

それなら片方と片方を取り出してみたらどうなるか。
その取り出した片方と片方を暫定的に置いておいた状態、
それこそが「間(ま)」なのです。・・・
-----

 「やってくる偶然(片方)」「迎えにいく偶然(片方)」が出会う格別な『時間・場』がセレンディピティであり、シナリオプランニングです。
 上図の二つの絶妙な「出会い」「間合い」が、偶然を必然に変えていきます。

 あらためて、そのために必要なことは、
『迎えにいく偶然』には、ふだんから、対象に向かって『疑問や疑念』という強い意図、意思、問題意識を持ち続け、準備することです

 それを具体化するのに最適な、「問い」(鍵)と「シナリオプランニング」(鍵穴)」を是非活用されてみてください。

■ 「間(ま)」「セレンディピティ」「価値創造ダイアグラム」

 「価値創造(=イノベーション)」とは、「境界線」を外し、「枠「を超えて、交じり溶け合い、、「一段上の新しい関係・果実」を創ることです。

 片方と片方が交じり合う身近な例を上げます。
・空間: 縁側(内と外の境。内なのか外なのかわからない)
・時間: 黄昏(昼なのか、夜なのかわからない)
 私は、この交じり溶け合う「時間」「場」が大数寄です。
そのような境界がなくなる状態・状況が、何かが生まれる「価値創造=イノベーション」の「時空間」です。

 さて、「価値創造」は、上図のように「片方と片方を体内(脳内)」に入れて料理にして創出する行為と同じです。

「イノベーション」を提唱したシュンペーターは、イノベーションで一番重要なことは、「新結合(New Combination)」と言いました。 なので自分にとっては、それは「真と間」=「イノベーション」なのです。(第309夜、第361夜)

 そのうえで、セミナーや支援伴走では
・空間上の「真」を「横の新結合」
・時間上の「真」を「縦の新結合」

 として「3つの知」(第361夜、第364夜)の中心メソッドとして説明しています。(第75夜、第361夜詳細)

 ただ、何でも和えればいいものではありません。料理でもクラブDJや建築でも上手いものと上手くないものがあります。コツがいります。それは、絶妙な「間(ま)」にあるですが、それは「AI」ではなく、「人間の側」が保持・革新していきたいものですね。

 ただ何れにしても重要なことは、「多くの人々が共感・共振し、幸せになること」を心の奥底(気立て)におきながら、当たり前、常識(コモディティー)から離れ、逸脱して、「真と間」を追及して、「今までになかった格別な関係を創るコト(見立て)」が「価値創造(仕立て)」につながります。

 参考に、それを展開・実現する新価値創造研究所オリジナル「価値創造ダイアグラム」(第54夜)を添付します。下図の「発見・偶有性(=セレンディピティ)」がイノベーションの核心です。
本コラムでは、事例と共に、何回かご案内してきました。
使いこなすと、絶対にいいことがあります。ww

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第374夜:「問い創造工学」と「シナリオプランニング」後編

2026年4月1日: 『緑茶の本来と将来』を「問い」でシナリオプランニングする

本夜は、「問い創造工学」(第372夜)の第3部(3部作)です。

先日、妻が購入してきた「透明醤油」が食卓に並びました。
私には、「醤油とは黒いモノ」という先入観がしっかりとあることに気づき、目の前の「透明醬油」の発現によって、「既知」という自分の中に覆っているフィルターの向こう側にある、「未知」の広がりに「驚き」がありました。
「価値創造」の始まりは、このような「心の揺れ(驚き・切実・数寄)」から始まります。

“当たり前(既知)を疑えるかどうか”

 私たちは、「驚き・切実・数寄」を契機として、様々な「問い」を浮かび上げることが重要です。その中に「価値創造」の種が潜んで待ってくれているからです。
 それを「価値創造工学/問い創造工学」(第370~373夜)で図解とともにお伝えしてきました。

・「問い創造」「価値創造」は、目前の“あたり前”に驚ける人から始まりコト
未来は「待つ人(受動)」ではなく、価値創造者(能動)によって『創り変えられる』コト

 重要な認識は、
新しい価値や問いは、特別な出来事から生まれるとは限らないコトです。
 むしろ、普段見慣れている“あたり前の世界”の中にこそ、
たくさんのヒントがあることです。

 大切な心構えは、
『なぜこれが当たり前なのか?』
・『本当は違う形もあり得たのではないか?』

と疑い、目の前の現実を当たり前でないもの”として見ることです。
そのとき初めて、
驚きや違和感、好奇心が生まれ、
そこから『問い』が生まれ、
新しい『価値創造』につながってくることです」

 上記に関連して、九鬼周造「驚きの情と偶然性」より参考引用します。 
---------
 ・・・「驚き」という「情」は、偶然的なものに対して起こる「情」である。
偶然的なものとは「同一性」から離れているものである。同一性の圏内に在るものに対しては、当たり前のものとして、驚きを感じない。
 同一性から離れているものに対して、それはあたり前でないから驚くのである。・・・
--------- 

 上図の左側が「同一性圏内のあたり前」で、右側が「同一性から離れているもの」です。
「価値創造」「問い創造」が扱うのは、この右側の「人々の驚き」の領域です。
それを実現するのが、「イノベーション」(第364夜)です。
*イノベーションとは、『内側に異質なものを導入して新しくする(新結合:Innovare)こと』を実行(:-tion)して、経済や企業が発展すること。

 私の前職パイオニア社の連続ヒット商品プロデュースや、企業・教育機関・自治体の支援伴走のこれまでは、この『驚き創造』のイノベーション領域を相手にしてきました。

■ 「問い」によるシナリオプランニングの出力の違い

  それでは、この領域をターゲットにして、「緑茶の本来と将来」について、
・入門編(-X)
・基礎編(-Y)
・応用編(-Z)

 を用意しましたので、三つの「問い」・「問いの質」の違いによって「方向性、アウトプット」が大きく変わる「シナリオ(-X.-Y.-Z)」をご覧ください。
 
 さて身の回りのテーマとして、「緑茶」が“ 伝統 × 健康 × 技術 × グローバル化”が刺激的に交差するように見えるので、これまでの“あたり前(既知)”を書き換えてくれるシナリオプランニングに最適なテーマではないかと洞察しました。

 それでは、緑茶シナリオプランニングの「入門編」「基礎編」「応用編」の順番で提示しますので、複数の「問い」がどのような役割・活躍をするのかを意識しながらご覧ください。

■ 入門編シナリオプランニング-X: 緑茶の本来と将来

1.問い創造(Why)
 まずは「本質に迫る問い」を設定します。

ベースの問いから(学生への提示)
問い「緑茶とは何か?」


深めたい問い
問い:緑茶は「飲み物」なのか「文化」なのか?

  • なぜ現代人は緑茶を飲まなくなっているのか?
  • 緑茶の価値はこれからも続くのか?
  • 緑茶は未来にどんな意味を持つのか?

2.ForcalQustion = “焦点をあてる問い
(→ある問題や意思決定において、「何が最も重要な課題か」「何を解決すべきか」を明確にするための核心的な問いのコト)
ForcalQustion問い「緑茶はこれからの社会でどのような価値を持ち続けるのか?」

3. シナリオプランニング(What)

STEP1:変化要因
例(学生がポストイットを使って描き出す+補助)

  • 健康志向の高まり
  • カフェ文化の拡大
  • ペットボトル飲料の普及
  • 海外市場の拡大
  • 若者の嗜好変化
  • 茶農家の減少
  • AI・スマート農業
  • サステナビリティ
    ・・・

STEP2:2軸の選択(重要)

横軸健康・機能価値

低 ←→ 高

縦軸:文化・体験価値

低 ←→ 高


STEP3:4つの未来(世界)


4象限のシナリオ

・A世界:ウェルネス文化としての緑茶

  • 健康 × 文化
  • 高級・体験型
  • 茶道・マインドフルネス

・B世界:伝統文化としての緑茶

  • 文化は高いが健康価値は限定
  • 観光・文化保存
  • 一部の人のもの

・C世界:機能性飲料としての緑茶

  • 健康 × 低文化
  • サプリ・機能性飲料化
  • 日常消費

D世界:衰退する緑茶

  • 低健康 × 低文化
  • 消費減少
  • 代替飲料へ

4. 戦略(How)

問い 共通戦略:どの未来でも必要なことは?

  • 若者への再定義
  • ブランド価値の再構築

問い 最も起きそうな未来は?
  →仮に「C世界(機能性)」とすると

  • 科学的価値の強化
  • 健康マーケティング

問い 最も望ましい未来は?
 →多くの場合「A世界」

  • 文化 × 健康の融合
  • 体験型価値の創出

■ 基礎編シナリオプランニング-Y: 緑茶の本来と将来

 「寿司」が世界の食文化(ヘルシー、クール、職人技)を書き換えたように、次は「お茶・緑茶」が、単なる飲料を超えた「別流・別様の文化経済」を創れるか?

1. 現状の「切実・違和感」の発見

違和感: なぜ、私たちは「マインドフルネス」を求めながら、同時に「エナジードリンク」で自分を追い込み続けるのか?

不条理: 現代社会は「タイパ(タイムパフォーマンス)」を追求し、常に脳が覚醒・疲弊している。一方で、リラックスのための手段(アルコールや嗜好品)は健康を害したり、集中力を削いだりする。

2. 本質的な「問い」への変換

上記の不条理を、ライフスタイルと産業を変える「問い」に変換します。

  • ① ライフスタイルに関する問い:

「『飲む』という行為を、水分補給ではなく、『脳のOSを切り替える儀式(モードチェンジ)』へと再定義できるか?」

  • ② 世界的な産業の変化に関する問い:

「茶葉という『物質』の販売から、『時間と空間の質を制御するテクノロジー(バイオ・デジタル連携)』へと産業の境界線を溶かせるか?」

3. 価値創造のシナリオシミュレーション

これらの「問い」から導き出される、2030年代の「お茶・緑茶」が創り出す新しい世界線です。

【シナリオ:Social Zen Infrastructure(社会的「禅」インフラ)の誕生】

① ライフスタイルの変化: 「デジタル・デトックスの日常化」

  • 価値: お茶を淹れるプロセス(蒸らす時間、湯温の調整)が、Apple Watchの心拍数データと連動した「強制的なマインドフルネス・タイム」として生活に組み込まれる。
  • 具体像: 都市部のオフィスや家庭に、かつての「コーヒーメーカー」に代わり、AIがその時のストレス状態に合わせて最適なテアニン量を抽出する「スマート茶室ユニット」が普及。飲むだけでなく、その「香り」と「所作」が、仕事モードから休息モードへのスイッチになる。
  •  

② 産業の変化: 「ウェルビーイング・テックへの変容」

  • 価値: 農業としての「茶業」が、製薬・バイオ・ITと融合した「精密バイオ産業」へ進化する。
  • 具体像:
    • パーソナライズ茶葉: 個人の遺伝子や腸内細菌叢に合わせ、免疫力を最大化する特定の成分を強化した「機能性茶葉」のサブスクリプション。
    • 空間産業: 抹茶の「点てる」所作をVR/ARでガイドし、世界中の誰でも「茶人」としてコミュニティを主宰できるプラットフォーム。
    • 不動産・都市開発: 寿司が「カウンター越しの対話」を生んだように、緑茶を媒介とした「静寂を共有するサードプレイス(現代版・茶屋)」が、世界中の大都市の「孤独」を解消するインフラとして投資対象になる。

小まとめ:新価値創造流「別流の価値」

このシナリオにおける「別流の価値」とは、
・お茶を「喉を潤すもの」から「精神の調律(チューニング)デバイス」へと転換
 することにあります。

寿司が「生魚を食べる」というタブーを「高付加価値な体験」に逆転させたように、緑茶は「手間のかかる抽出」という弱点を「自分を取り戻す贅沢な時間」という強みに変換することで、世界的な新市場を創造します。

■ 応用編シナリオプランニング-Z: 緑茶の本来と将来

 お茶・緑茶が「世界のライフスタイルと産業を塗り替えるシナリオ(Y)」を、
さらに、
「不確実な未来の推進力(ドライビングフォース:DF)」と掛け合わせて深掘りしてみる。

1. 鍵となる3つのドライビングフォース(DF)

現在の社会潮流の中で、お茶の未来を決定づける「不確実だが強力な力」を3つ特定します。

  • DF①:Z世代を中心とした「ソバーキュリアス(あえて飲まない)」の加速
    • アルコールによる「酩酊」ではなく、クリアな意識で「整う」ことを選ぶ層の拡大。
  • DF②:AI・自動化による「余暇の質」への問い直し
    • 作業が効率化され、余った時間をどう「豊かに過ごすか(Being)」という価値へのシフト。
  • DF③:メンタルヘルス・パンデミック(孤独とストレス)
    • デジタル過剰社会における、精神的な「避難所」や「リアルなつながり」の欠乏。

2. 「別流の価値」を生み出すシミュレーション

これらのドライビングフォース(DF)が、先ほど立てた「本質的な問い」と衝突したとき、どのような新しい価値が生まれるでしょうか。

【未来線 A:パフォーマンス・ティ(機能的進化)】

  • DFの作用: 「ソバーキュリアス」×「AI社会での集中力維持」
  • 価値の変換: お茶は「リラックス」のためではなく、「脳のパフォーマンスを最大化する精密飲料」へ。
  • 具体像:
    • シリコンバレー、本郷バレーのエンジニアが、エナジードリンク(覚醒)ではなく、緑茶のテアニン(集中とリラックスの共存)を「スマート・ドラッグ」として常用。
    • 産業の変化: 茶葉の成分をナノカプセル化し、経皮吸収や超音波抽出で「即座にゾーン(集中状態)に入る」ためのバイオテック製品が、サプリメント市場を席巻する。

【未来線 B:ソーシャル・リチュアル(社会的儀式としての進化)】

  • DFの作用: 「メンタルヘルス」×「余暇の質の追求」
  • 価値の変換: お茶を「淹れるプロセス」が、「孤立を防ぐコミュニティのOS」へ。
  • 具体像:
    • 世界中のスターバックスが「茶室(ティー・サロン)」併設型へ転換。寿司屋のカウンターが「板前との対話」を生んだように、ティー・バリスタが客の体調に合わせた茶を点て、「静寂と対話を売るサードプレイス」として不動産価値が再定義される。
    • ライフスタイルの変化: 朝のコーヒーが「ONへの強制起動」なら、夕方のお茶は「自分と繋がるログアウト」という社会的な儀式(リチュアル)として定着。

3. シナリオの統合:価値創造工学が導く「お茶の未来」

これらを統合すると、お茶は単なる農産物から、以下の3層構造を持つ「ウェルビーイング・プラットフォーム」へと進化します。

  1. レイヤー1(物質): 高機能バイオ茶葉(パーソナライズされた成分)
  2. レイヤー2(体験): センシング茶器(心拍や脳波に合わせた抽出)
  3. レイヤー3(文化): デジタル禅コミュニティ(茶を媒介とした繋がり)

 「価値創造工学」の「問い」への回帰

ここで、私たちが立ち返るべき「本質的な問い」はこれです。

「私たちは、お茶を売りたいのか? それとも、過剰なデジタル社会に『立ち止まる自由』を実装したいのか?」

後者であれば、競合はコーヒーショップではなく、瞑想アプリやメンタルクリニックになります。これが、「別流・別様の価値」の創出の一つになります。

■ 参考: 「価値創造工学の『問い』」と「シナリオプランニング」を繋げる「ドライビングフォース」

「未来を創るためのOS」という観点で、「価値創造工学の問い」と「ドライビングフォース(DF)」には、以下の3つの本質的な共通点があります。

1. 「当たり前(既成概念)」を揺さぶる破壊力

  • 問い: 「そもそも、なぜこうなのか?」と現状の不条理を突き、既存の枠組みを無効化します。
  • DF: 政治、経済、技術などの大きな変化の潮流(PESTなど)を捉え、「今の延長線上に未来はない」ことを突きつけます。
  • 共通点: どちらも「現在の延長線上にある予測」を否定し、思考のロックを外すためのトリガーとして機能します。

2. 「不確実性」をエネルギーに変える構造

  • 問い: 正解がない(不確実な)状況だからこそ、独自の問いを立てることで「新しい意味」を創出します。
  • DF: 未来を左右する「不確実な要因」を特定し、複数の可能性を分岐させます。
  • 共通点: 不確実性をリスクとして排除するのではなく、「別流(オルタナティブ)な価値」を生み出すための余白(チャンス)として活用します。

3. 「客観的な変化」と「主観的な意志」の交差

  • 問い: 社会の不条理(客観)に対し、自分の「志(主観)」をぶつけて問いを立てます。
  • DF: 世の中の大きな動き(客観)を分析し、それが自分たちに何を強いるのか、どう動くべきかという戦略的意志を導き出します。
  • 共通点: 「外の世界で起きていること」と「自分たちが成すべきこと」を接続するための触媒となります。

■ まとめ
 上記の流れを見ていただくと少しお分かりいただけてきたかと思いますが、

「シナリオプランニングで描いた複数の未来(ドライビングフォースの掛け合わせ)に対し、それぞれの世界で通用する『本質的な問い』を立てることこそが、価値創造工学の実践である」

・つまり、シナリオ「問いを立てるための舞台装置であり、問いその舞台で「新しい価値(物語)」を紡ぐためのエンジンである、という構造です。

 さて、上記の3つのシナリオ(入門編・基礎編・応用編)に驚きはありましたか?
それらの予兆は現在に点滅しています。その予兆の本質を見極め、見通すことが重要です。

 いまから、15年前が現在と違っているように、10年後、15年後の未来は、「地球サステナブル・AIデジタル・日本流コネクタブル」(第359~361夜詳細)の進展で間違いなく現在と大きく違ってくると核心・確信しています。。

 「変わっていく原動力・求心軸の見極め」と先ほどの「予兆の本質」とを先取りして洞察することが、AI時代に、「人間の側に与えらえているフロンティア」です。
 それを本夜は綴ってきました。

 さてさて、ビジネスで一番大事なことは、「違い(驚き・想定外)と共感」(第82夜、第364夜詳細)の二つを両立させることです。「違い(驚き・想定外)」がなければ、コモディティ化して低価格合戦に陥り、顧客との「共感」(コト発想)がなければ対価を受け取れません。

 AI時代には、その「違い(驚き)と共感」の両立の出来不出来の格差が明確に顕在化してきています。
だからこそ、AIが苦手な領域で、人間の側が能力を発揮できる、発揮すべき「価値創造工学」「問い創造工学」「シナリオプランニング」を連載してきました。

 これからは、どちらかを選択(OR)するのではなく、両立(AND)して高みにジャンプする「価値創造=イノベーション」の時代です。二つの焦点を両立させる「新バロックの時代」(第278夜、第360夜詳細)です。

本夜もシナリオプランニングの「二つの軸(ドライビングフォース)」を提示・展開してきました。
最初は難しく感じますが、数回トライしていると慣れてきて、各人の持ち味も滲み出てきて、「問い」の使い方、シナリオプランニングの出力が上がってきます。
 是非、挑戦してみてください。
腕のいい、ファシリテーター、ナビゲーターを選ばれ、伴走されることを助言します。

 私の持ち味である「五感ビジネス(視覚・聴覚・触覚・味覚・臭覚)」を上記のシナリオに放り込むと、数々のヒット商品や文化の創出が目に浮かびます。
 このように、自分の数寄、強味、弱みがあると、その異質がフィルターになって、新しい価値を創造することができるようになります。

 さて、ここまでの三部作で「私の極意」を綴ってきました。学生・ビジネスパーソンのの皆さんは、下図の流れ、体系を把えながら、不確実な時代をわがものにして、日本の未来を切り拓いていって欲しいと思います。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第373夜:「問い創造工学」と「シナリオプランニング」前編

2026年3月26日:将来を変える『未常識の地図』を創る!

本夜は、「問い創造工学」(第372夜)の続編(3部作)です。

本夜(第373夜)を要約します。
---------
テーマ:「問い創造 × シナリオプランニング」
 1. 問い創造は「羅針盤」、シナリオは「地図」
 2. 未来は「予測」ではなく「構想」するもの
 3. 「未常識の地図」を描く
 4. 「2つの軸」で未来を展開する
 5. 「問い」がシナリオの質を決める
 6. シナリオの役割は「意思決定の質を上げること」
 7. 前編のまとめ(構造)
 ・問い創造(Why)
   ↓
 ・重要な問い設定
   ↓
 ・未来を動かす2軸抽出
   ↓
 ・シナリオ展開(What)
   ↓
 ・複数の未来地図
   ↓
 ・戦略思考(How)

 →AI時代においては、正解を出すことよりも、新たな問いを再定義する『問い創造工学』です。
  そして、「問いの生成装置」として『シナリオプランニング』が重要な役割を果たします。

 一言でまとめると
問い創造は、成し遂げたい「方向」を決め、
・その「方向」の将来価値の生成装置が「シナリオプランニング」である。

---------
  最初に、「パーソナルコンピュータの父」のアラン・ケイ(Alan Kay)の言葉から始めます。
 →未来を予測する最良の方法は、それを発明することだ
 (The best way to predict the future is to invent it)」
 つまり、私たちは未来は待つものではなく、自らの『感性・知性・脳性』と『創造性』で創発するもの」という認識が不可欠です。

 上記創発の核心となる「問い創造」「価値創造の羅針盤」です。
その「問い」を使って、「未来を動かすエンジンとなる二つの軸」を抽出・選択し、その2軸から「将来を変える可能性のある『未常識の地図を広げて、構想・戦略の羅針盤にする」という貴重な機能・効能を引き出してくれるのが「シナリオプランニング(後述)です。

 現在、この手法は企業・自治体が長期的な持続可能性を確保し、「新たな成長機会(価値)を創造」するための必須のスキルとして再注目されています。特に、学生・教職員と経営者・ビジネスパーソンのニーズが高くなっているのが最近の傾向です。

 下図の様に「問い創造」「価値創造工学の羅針盤」なら、「シナリオプランニング」は、その「問い」を基盤にして、「不確実な未来の地図を広げる力」・「問いの生成装置」という関係です。
 第370~372夜に綴ってきた「価値創造工学と問い創造工学」を橋渡しする最も刺激的で有効な手法「シナリオプランニング」なので、是非、学生の皆さん、ビジネスパーソンの方たちは、体得・習得されることをお勧めします。


 上図の「問い創造」(第372夜)「シナリオプランニング」はリバースなので、合わせ技で使いこなすことができるようになると、これからのAI時代に増大する「不確実性」を我がものにする可能性が飛躍的に高まります。
 ただ、そのためには、グループで「手を動かし、心を動かし、頭と脳を動かす」ことが必須になります
そこで獲得する「知」を、「手続きの知」(第364夜、第372夜、第374夜詳細)と言います。
これからは、この「手続きの知」が、AI時代にAIが専横する「検索の知」に対して、「人間の側が持つべき最も重要な知」になります。

 さて、初めて「シナリオプランニング」を見聞きした方がいると思いますので、その要約を図解と共にお伝えします。
 改めて、「シナリオプランニング」とは、「地球沸騰時代・AI時代を筆頭にした「不確実性が高い環境下」で、単一の未来を予測するのではなく、起こりうる複数のシナリオ(未来の姿)を描き、それに基づいて現在の戦略を導き出す手法(下図:参考シナリオ@2005年時点)です。

 私が学校・企業・自治体の研修やワークショップで使用している演習や具体的事例は、夜後編(第374夜)にてご紹介します。

 実は、私は、20年以上前の2005年、前職パイオニア社の「総合研究所」時代に、
「10年後のパイオニア社とそれに連動する研究テーマ創出をまとめる」
 というミッションを経営陣から受けていました。
 それで、上記シナリオプランニングの第一人者である「J・オグリビー氏」を目黒本社に招聘して、「シナリオプランニング」を直伝してもらいました。

 ただ、その直伝手法をそのまま使ってみて、二度ほどグループワークでトライしたのですが、思ったような出力ができませんでした。
 そのため、そのプロセスに「価値創造の『3つの知」(第364夜)を挿入して、「自分たちの価値創造」につながるように改変・編集することで、パイオニア社や異業種企業の基礎研究・新事業開発、そして、現職の「地域創生、事業創生、人財創生」の伴走支援等に活用して、効果・成果を上げることができるようになりました。

 さて、この「手法」を成果につなげるには、後述する「複数の重要な『問いが鍵で、それらを通して「本質的で豊かな複数のシナリオ(未来の姿、道筋)」を描き出し、会社・社会に実装展開することにつながります。

■ 「問い創造(別流)・守破離・シナリオプランニング」は相性抜群!

 第370~372夜に、「価値創造工学」とその基盤(OS)である「問い創造工学」についてまとめてきましたが、「卓越した価値創造(別流)」には、既存の枠組みを疑う「問いの質」が不可欠であり、 真の価値創造(イノベーション)を起こすためには、その手前にある「問い」を設計する工学的なアプローチが不可欠です。

 本コラムでは、一貫して「改善」や画一的な従来常識の延長線上ではない「別流の価値創造」が対象にしています「別流(オルタナティブ)」というのは、「将来の『次の主流・本流』になる可能性がある「流儀・様相」を意味しています。

 「次の主流・本流が狙いどころ(メインターゲット)である」と言うと、みなさん「前のめり」になってくるところが興味深いです。

 上図の「価値創造プロセス体系」の「3.別流・別様」に到達するには、既存の枠組みを疑い、これまでの画一的な価値観・常識から離れる、「2.逸脱」するということが必要です。それを体現・実践している「守破離」(第5夜、第88夜、第330夜)について、このコラムでは何回も取り上げてきました。

 改めて、『守破離』(下図)を説明します。
守って破って離れる、のではない。

『守破離』は、下図に示すように、
・守って「型」に着き、
・破って「型」へ出て、
・離れて「型」を生む。

 この素晴らしい思想は仏道の根本にも、それをとりこんで日本的な様式行為をつくった禅にも茶にも、また武芸等々にも開花結実していきました。(第5夜、第88夜、第330夜)

 日本人は、もともと逸脱して「別流の型」を生み出す「守破離」の実践が得意な民族なので、その才能を遺憾なく発揮して欲しいです。
 その思想と手法を、その『守破離』(第5夜、第88夜、第330夜)のプロセスから経験・体得することが「シナリオプランニング」策定にはたいへん有効です。

 改めて、私のこれまでの経験で、『次の主流・本流の可能性』を導き出す一番有効な方法が「シナリオプランニング」でした。アメリカでは「主流」であるこの思考法が日本はそれほど盛り上がりを見せていません。
・いったい、なぜでしょうか?(問い)
 その理由について、
「現状・効率・改善」を重んじる「オペレーション型」の日本と、
・「未来・不確実・革新」を重視するシリコンバレーのような「イノベーション型」のアメリカ
 の違いである(第372夜詳細)、と洞察しています。 
(第98夜の『砂の民、泥の民』も是非参考にされてください)

  そして、それこそが「日本が低迷(失われた35年)している主因」と確信しています。

  さて、上記「守破離」と「シナリオプランニング」とは、「将来の『価値創造』をゴール」としていることが共通です。
 「シナリオプランニング」ワークショップのファシリテーション・ナビゲーションをする際は、上記の「守破離」の「型」を意識しながら、「離(別流)」のステージに到達できるように進めていきます。

 私たちが日本の長い低迷を打破するためには、「問い」を使って「破のステージ」に上り、「シナリオプランニング」を使って、問いを生成して、「離のステージ」の型を創り上げていく思考とスキル・パワーを体得することが不可欠です。

■ 「シナリオプランニング」の背景、および、扱う領域(図解)

 ますます「シナリオプランニング」が必要になっている背景は、従来日本の「鉄道の時代(レールのあるオペレーション・改善型):(第141夜、第150夜)」から、AI進展の「航海の時代(レールのないイノベーション・変革型):(第156夜、第225夜)」の大変化にあります。
 レールのない「航海に出る時代」には、「羅針盤・航海図=シナリオプランニング」」が必要ですよね。

 それでは上記を下敷きにして、「航海の時代」に「シナリオプランニング」が扱う領域を二つの図解で紹介します。

1.不確実性を扱う「シナリオ思考の領域」
 下図の、従来の画一的な未来予測が左図で、日本は「改善・効率・安く」(オペレーション型)を追求してきましたが、「未来・未常識・効能」という「不確実性」を前提に物事を考えることが必要な時代(イノベーション型)では、右図の「シナリオ的思考」が求められます。


2.価値観の「M字型領域」
 さて、ここからが重要なのですが、「生成AI」は、「過去の情報・常識」を取り出すことが超得意で、下図の左側の日本が得意としてきた画一的価値観の常識領域では、これからもう人間の出る幕はありません。「生成AI」を相棒の様に活用している人は実感しているはずです。

 前夜にも綴りましたが、下図の右側の「未来の不確実な未常識」のM字型領域が未開拓であり、その領域が「生成AI」が苦手とするところであり、人間の側が「才能を発揮する」ところです。上図(新しい視座)の右側のシナリオ的思考領域の大きい丸の領域が、M字型領域と重なります。

 このイノベーションの領域が、AI時代の「人間側の価値創造領域」であり、「問い創造」と「シナリオプランニング」の間を行き来することで、「手続きの知「(第372夜)」が駆動して、そのプロセスで、深く・高く・広く考えることが、独自のスキル、パワー、構想になっていきます。

 上手のイノベーション領域を開拓するメインプレイヤー、ツールが「問い創造」になります。
本質的な「問い」を活用して、未常識の世界を広げてくれるのが「シナリオプランニング」です。

 将来を洞察すると、シナリオプランニングの有効性が、「生成AI」により、さらに脚光を浴びることは間違いありません。
 私たちの経済環境、社会環境は大きく変わっています。「生命サステナブル」「AIデジタル」「人口減少」「戦争」等々であり、それは「すでに起こった未来」です。
その変化に適応できなければ、将来は沈んでいきます。

■ 参考:学生向けの説明版-A

  皆さん、これまでは『1つの正解』を早く見つける人が優秀とされました(上図の左側)。
でも、その役割はAIに譲らざるを得ません。
 これから皆さんに必要なのは、上図の右側にある『まだ誰も注目していない両端の可能性(未常識)』を見つける力です。
 ここで、私の専門である『問い創造工学』と『シナリオプランニング』『価値創造工学』を合わせて、順を追ってお伝えします。

1.テーマ設定の「問い」FocalQuestion
 まず、「問い創造工学」を使って、
「いったい、『何を知る為のシナリオ』を作るのか?」
という、テーマ(FocalQuestion)を 設定します

2.将来を左右する主因となる力(=ドライビングフォース)を導きだす「問い」
 将来を左右する重要な変化 として、
・①自社でコントロールできない外部環境 (不確実度)
・②未来を大きく左右する要因 (インパクト)
 の①②を包含するモノはどこにあるか? という「問い」を立てます。
 これが未来を探るためのOS(基盤)になります。

3.(下図の)2軸で広がる4つの象限の世界への「問い」
 上記1.2.の「問い」から導き出された要因・力(ドライビングフォース)で、浮かび上がる複数の未来(4つの象限)のそれぞれの「問い:Why?What?How?(価値創造の3つの知:第364夜」から得られる姿を検討・描写・検証する。

4.「何れにせよやるべきこと」への「問い」

 上記1.2.3.で広がる「4つの世界」をグループ対話を通じて、
「問い」何れにせよやるべきことは?
 を検討します。
シナリオプランニングにおいて、どのような未来が訪れるかに関わらず、「何れにせよ(どのシナリオでも)やるべきこと」は、不確実な環境下での生存と成長の基盤を固めるアクションになります。

 参考例:
① 外部環境の定点観測とシグナルの検知
② 「対話」を通じた組織的なリスク意識の共有
③ レジリエンス(適応力・回復力)の向上
④ 成長のための「後悔しない一手」
⑤ 「学習する組織」への転換

重要なことは、共に上記を検討・対話・共感するプロセスの中で、「価値創造が発芽する」コトと、参加者の「関与する自覚」がそこから生まれるコトです。

つまり、『問い』によって、成長の未来の種を見つけ、『シナリオプランニング』によってその未来の歩き方を事前にトレーニングする
 この「問い」と「シナリオプランニング」の2つが組み合わせることを数回体験・習得・修練することで、不確実な時代でも、私たちは迷わずに『新しい価値』を創り出す側に「立つ」ことができます。

■ 整理タイム: AI時代の生存戦略「問い」と「シナリオ」

1.AIが「正解」を奪う時代(左側の山)

  • メッセージ: 過去のデータに基づく「平均的・論理的な正解」はAIの得意領域。
  • 内容:
    • これまでの常識(正規分布の頂点)はAIが瞬時に導き出す。
    • ここでは「効率」や「正確さ」が価値だったが、もはや人間が競う場所ではない。
    • 学生への問い: 「AIと同じ正解を出して、勝てるでしょうか?」

2.人間が輝く「M字型」の未常識(右側の山)

  • メッセージ: 私たちが磨くべきは、まだ誰も正解と言っていない「不確実な領域」。
  • 内容:
    • M字の両端にある「未常識」「不条理・ワクワク」「違和感」にこそ、次のイノベーションが眠っている。
    • このカオスな領域を探索するための「OS」が問い創造工学である。

3.問い創造工学とシナリオプランニングの「融合」

  • メッセージ: 「問い」が羅針盤なら、「シナリオ」は地図を広げる力。
  • 内容:
    • 問い創造工学: 「そもそも、将来を左右する変化の種は何なのか?」というOS(起点)
    • シナリオプランニング: その種がどう成長し、どんな未来(複数の可能性)を創るかを洞察する手法(プロセス)
    • 関係性: 質の高い「問い」を立てるからこそ、意味のある「シナリオ(道筋)」が描ける。

■ 「ドライビングフォース(未来を動かすエンジン)」と「問い」の交差点

 学生のみなさんにとって「シナリオプランニング」核心であるドライビングフォース(変化の駆動力・エンジン)と、「問い創造工学」をリンクさせることは、「未来を探索し、洞察する具体的手法」を理解実践する上で非常に効果的です。

 学生向けのワークショップでは、
「ドライビングフォースを見つける=問いを立てることだ」
 と直感的に理解できるように、下記のステップ形式でお伝えしていきます。

1. ドライビングフォースとは「未来を動かすエンジン」

  • 説明: 社会を大きく変える力(環境、技術、人口、価値観、規制など)の中で、特に、
    「①将来どうなるか予測がつかない(不確実)」かつ「②影響力が大きい」
    ものを指します。
  • 学生への例え: 「10年後のスマホ」を考えるとき、「通信速度が上がる」は予測可能な事実ですが、「人々が画面を見ることをやめるか?」は予測不能なドライビングフォースです。

2. 「問い」がドライビングフォースを発掘する

  • メッセージ: ドライビングフォースは、データ(過去の延長線上)の中にはありません。
    「未来の予兆」「問い」という光を当てることで、初めて見えてきます。
プロセス問い創造工学の役割(OS)シナリオプランニングの動き
発見「当たり前と思っていることの裏にある不条理ワクワクは何か?」社会を揺さぶる「変化の種(ドライビングフォース)」を特定する。
選定「その変化は、私たちの根幹を揺るがす本質的な問いか?」数ある要因から、未来を左右する「最重要の不確実性エンジン」を絞り込む。
展開「もしその問いの答えが『A』なら?『B』なら?」絞り込んだ軸を掛け合わせ、複数の未来(シナリオ)を描写する。

■ 参考:学生向けの説明版-B

 「皆さん、シナリオプランニングで最も重要なのは、未来を激変させる力である『ドライビングフォース』を見つけ出すことです。
 しかし、これは単なる『流行チェック』ではありません。ここで「問い創造工学」が必要になります。

 図のM字型の領域(未常識)を見てください。
左側の『常識』の山にいる限り、見えるのは『予測可能な未来』だけです。しかし、『なぜ、今これが当たり前だと思われているのか?』という鋭い問いを立てることで、M字の右側の山にある、まだ誰も気づいていない『変化の予兆(不条理&ワクワク)』がの片りんや輪郭が見えてきます。

『この「不条理&ワクワク」が解消・創造される方向に社会が動くとしたら、それはどんな力(ドライビングフォース)によるものだろうか?』

こう問い直すことで、単なるデータ分析では辿り着けない、未来を左右する本当の変数が抽出できます。
『問い』は、霧深い未来の中から、真に注目すべき『変化のエンジン』を照らし出すサーチライトです。

『不条理&ワクワクがドライビングフォースの源泉
 学生には、 『今の社会のヘンなところや自分の中のワクワク・数寄』が、未来を変える大きな力になります よー」とお伝えすると、彼らの内面や外部アンテナが敏感になってきます。

図との連動: M字型の「谷」の部分(常識が崩れる場所)にドライビングフォースが潜んでいると説明すると、視覚的にも納得感が高まります。


■ 前編のまとめ

 上記でご覧いただいたように、「卓越した価値創造」と「問い創造」を橋渡しするのが「シナリオプランニング」です。習得すると「アナタの卓越したスキル」になります。
 ただ私もそうでしたが、言葉や図で説明してもらっても実感がわかず、自分ゴトになれませんでした。
・何せ、未常識ゴト
 なのですから。

 ここに、「切実」「不条理・ワクワク」「本気(自分ゴト)」(第370夜)が必要になります。

上図プロセスを基盤にして「シナリオプランニング」は立ち上がっていきます。

 それは、仲間たちと共に、
・現在の中に点滅している『未来の兆し』」を収集し、
・ホワイトボードの前で、ポストイットを動かし、
・「問い」と「試行錯誤」を繰り返し、
・未来を変えうる二つの軸を選択し、
・そこに現れる4つの象限(世界)を描写する
・そして、「いずれにせよやるべきこと」を検討する。

 上記の「手続きの知」(第364夜、第372夜詳細)が未来の不確実性を「ワガモノ」に引き寄せてくれます。
そんな経験を数多く積み重ねてきました。

 さて、次夜(第374夜)は、本夜の後編を綴ります。
そこでは、「『緑茶』の本来と未来」をテーマにしてシナリオプランニングで描写します。

 是非、下図の「問い」→「シナリオプランニング」→「3つの知」→「価値創造」の流れを実感して頂ければ幸いです。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第372夜:実践『問い創造工学』宣言

2026年3月10日 「問い」が「価値創造」の源流である



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 「問い創造工学」の二つの要諦は、
1.「問い創造工学」とは、「まだ出現していない価値を創出する可能性へのアクセス」であり、
2.「問い創造工学」とは、「価値創造工学」(第370夜詳細)を成立させるための最重要かつ最上流の基盤(OS)である。
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「問い創造工学」宣言(第372夜)の超要約

1. 価値創造の出発点は「答え」ではなく「問い」

  • 社会や人が抱える切実な問題や違和感、不思議から価値創造は始まる。
  • 既存の知識や技術で答えを探すのではなく、
    「何を問うべきか」を見つけることが最も重要

→ つまり、
良い答えより「良い問い」が価値創造の源泉。


2. 問いは「Why → What → How」の循環で深まる

価値創造の思考は次の問いの循環で進む。

  1. Why(なぜ)
    本質的な意味や背景を問い直す
  2. What(何を)
    新しい価値の姿や方向を定義する
  3. How(どうやって)
    実装・仕組み・方法を設計する

この問いを繰り返し更新することで新しい価値が生まれる。


3. 問いは「人間の切実さ」から生まれる

問い創造の起点は次のような状況。

  • 人の困りごと
  • 社会の矛盾
  • 逆境や受難
  • 「このままでいいのか」という違和感

この切実さを深く理解することが価値創造の原点


4. 問いを通じて既存の枠組みを超える

問い創造の役割は

  • 常識
  • 既存ビジネスモデル
  • 業界の前提
  • 固定観念

を問い直し、別流の価値(新しい見立て)を生むこと


5. 育てたい人材像

目指す人材は

  • 正解を早く出す人
    ではなく
  • 問いを生み、問いを更新し続ける人

つまり
「問いを回すエンジニア、イノベーター」


まとめ(超要約)

問い創造工学」とは

人や社会の切実な問題から
「なぜ」「何を」「どうやって」を問い続け、
既存の枠を越えた「別流・別様の価値」を構想・実装するための思考と実践の方法論。


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 (参考) 大学生向け:実践「問い創造工学体系」の歩き方
 皆さん、新しい価値を生むため「問い」とは、常識という壁の向こう側にある「まだ見ぬ未来」へ手を伸ばすためのチケットです。この図は、そのチケットを手に入れてから、実際に未来を形にするまでの「心の動き」と「行動」を表しています。

1. 受動的な「心の揺れ」から始まる(A・B)
 価値創造のスタートは、意外にも「受動的」なものです。
日々の生活の中で感じる「えっ?(驚き)」や「なんか嫌だな(違和感)」という心の揺れを大切にしてください。それが、外側の世界への切実心や、内側への好奇心に変わったとき、あなたは「なぜ?」という疑問を抱きます。これが、自分と世界との間にある「未知の扉」の前に立った瞬間です。

学生向け)解説: 「数寄」とは、「好き、漉き、透き・・・」という、世の中の平均ではない「偏り、こだわり、型破り、不足、未完、執着・・」を好むこと、つまり「好きこそものの上手なれ」の究極の形です。自分の問いに対して、損得抜きで「なぜ?」「もっと知りたい!」と深掘りし続けること。それが結果として、これまでにない価値創造・新ライフスタイル・新技術・大発見につながる自分の内なる能動の「研究開発」の道です。

2. 能動的な「探求と問い」へ(C・D)
 扉の前に立ったら、次は自ら動く「能動的」なフェーズです。
常識(既知)にとらわれず、別のやり方・あり方(別流)を探る探求を始めましょう。そこで自分なりの「仮説」や「信念」が固まったとき、ただの疑問は、強い情熱・意志を伴う「問い」へと進化します。この「問い」こそが、まだ出現していない「別様の可能性」へのアクセスパスになるのです。

3. 「3つの知」(第364夜参照)で価値を形にする(価値創造)
 磨き上げた「問い」を手にしたら、最後はそれを社会に実装(仕立てる)段階です。
下記「3つの知(赤枠の空白)」のそれぞれの余白を埋めることで別流の世界が立ち上がってきます。

  • 深い知 (Why?): あなたにとって最も大切なコトは?(志・ミッション)
  • 高い知 (What?): それが実現した未来はどんな景色か?(方向・ビジョン)
  • 広い知 (How?): 自分(たち)の内側に「異質な何か」を導入してワンランク上になっているか?(実装・イノベーション)

■ なぜ、「問い創造工学」か?

 後述する、本格化してきたAX(AIトランスフォーメーション)時代を背景にして、人間に求められる能力・才能は、「価値創造力(目的)=イノベーション力(手段)」とその基盤(OS)となる「問い創造力」習得・獲得にシフトすることは間違いありません。これが、核心であり確信です。
(* 「X」で表わす「トランスフォーメーション」とは、「後戻りしない変化」のコト)

 ここ三か月ほど、「価値創造工学」のセミナー・研修・ワークショップを、「大学(学生・教職員)、企業、自治体」で演習と対話を繰り返してきましたが、想像以上の高い共感と反応・評価をいただきました。
 そうした中、自分の中で「価値創造」の基盤(OS)として、価値の方向性を決める「問い創造」領域のプロセス、メソッドの体系化の重要性・必要性が立ち上がってきました。
 そこで、「問い創造工学」の構造と体系を、文系理系を問わず、「工学の手法」で「設計・プロセス化・図解化」して、いち早く日本の皆様にお届けすることを思い立ちました。

 今、日本人にとって重要なことは、このAX時代の変わり目の大ピンチを大チャンスに変えるために、その変化の本質を把えて、「価値創造」と「問い創造」双方の構造と思考を結合・統合して、先取り・先行・展開することにあります。

 それでは、「価値創造工学」の最重要かつ最上流の基盤(OS)としての「問い創造工学」世界で初めて明らかにしていきます。

 ■ 「価値創造工学」と「問い創造工学」の関係は?
   ⇒ 「手段」としての価値創造と、「目的」を定める問い創造

 上記二つの「新しい工学」の関係は、情報の「図(分子)」と「地(分母)」にあたります。
 最も重要なことは、下図の本質的でインパクトのある「価値創造」(図・分子)の出力には、本質的・構造的な「問い創造」(地・分母・最上流の基盤)が欠かせないことです。
⇒ 理解を深めていただくために、最後方に「三つの事例」を用意しています。

 師匠の松岡正剛は、情報や知識の編集を考えるときに、しばしば「地(ground)」と「図(figure)」の指南がありました。
 この「地と図」の関係を自在に動かすことができるようになると、「問い」の深み、高み、広みが拡張して、「問い創造工学」の上級者に向かいます。

A. 「図」とは、=目に見える情報・主題
 ・今まさに注目されている内容
 ・テーマ、主張、ストーリー
 ・表に現れている情報
 つまり、人が意識的に見ている情報です。

B.「地」とは=背景・文脈・知識のネットワーク
 一方の地は、図を成立させている背景全体です。
 ・文脈
 ・前提
 ・歴史、関連知識
 つまり、表に出ていないが、意味を支えている情報の場です。

本夜のテーマにおいては、「価値創造」が「図(手段・別流・出力)」で、「問い創造」が「地(目的・源流・入力)」にあたります。

 「問い」がなければ「価値」は迷走し、単なる既存の改善(カイゼン)に留まってしまいます。優れた価値創造には、既存の枠組みを疑う「問いの質」が不可欠であり、 真のイノベーション(価値創造)を起こすためには、その手前にある「問い」を設計する工学的なアプローチが不可欠です。

概念役割基本的視点
問い創造工学基盤・エンジン・源流「何を成すべきか」を定義する。これがないと、どれだけ技術があっても無価値なものが生まれる。
価値創造工学実装・アウトプット・別流「どう実現するかを形にする。問いによって定義された価値を、実際に社会へ届ける。

■ 「問い創造工学」が必要とされる3つの背景(要約)

 それでは、「問い創造工学」が求められる3つの背景をお伝えします。
 俯瞰すれば、 2024年末に生成AIが自己学習能力(推論)を獲得したことによる大変容(X:トランスフォーメーション)の時代が到来したことが起因です。 

1.「正解」のコモディティ化(正規分布の終焉)
 AIは、既存事業や既存人財を「根こそぎ自動化代替する組織変容力」と、AI自身が「自動的・自律的に進歩させる自己変容力」を持つ大きな自動変容ツールです。
 これまでの論理的に導き出される「正解」はAIやITですぐに共有され、もはや差別化要因になりません。
①AIエージェント(ポスト・ホワイトカラー)
②AIロボティクス(ポスト・ブルーカラー)
 への代替がそれを現実化して、加速していきます。

2.本質的な「問い」が、人間側のこれからの「競争力の源泉」
 ⇒ 問う力、対話力(=プロンプト力)武器になる時代
 「正解」のコモディティ化の中、今後求められるのは、AIに何をやらせるかを定義できる人間です。
 「プロンプト」とは、AIに与える「指令文」ですが、これは単なる命令ではなく、
「問い」の構造設計そのものです。
 ・どんな切り口で情報を整理させるか?
 ・何を前提に答えさせるか?
 ・どの抽象度で出力させるか?

 これは単なるスキルではなく、「思考能力」と「構造化力」の複合体です。
 (「日本経済AI成長戦略」加筆引用)

 これからは、「どう創るか(How)」ではなく「何を問うべきか(Why、What)」という本質的な「問い」が、人間としての『競争力の源泉』となります。

3.「問い」による価値の再定義:M字型(未常識)への移行(シフト)
 ⇒ これからの人財教育は、「オペレーション型」から「イノベーション型」へ

 従来の「工学」は「いかに作るか(How)」に特化しすぎ、結果としてコモディティ化と失われた35年を招きました。(オペレーションの時代)
 令和の時代は、「何のために創るか(①Why)」、「何を創るか(②What)」を前提にして「具体化する(③How)」という「ひとつなぎ」を科学し、工学の手法価値を設計する必要に迫られています。(イノベーションの時代)

 下図の様に、これまで日本が得意だった、正確で速く効率的に解決する「オペレーション型」(左図)の正規分布曲線の価値観が「常識」でしたが、それらの領域は、上記「AIエージェント」や「AIロボティクス」で代替できるという新常識がはっきりしてきました。

 これからは、独自の視点で「本質的な問い」を立て、価値観の両極(M字型:未常識のユニークな本質)を掘り起こすことが、新しい価値(イノベーション)の創造につながります。その掘り起こすメソッドがこのコラムでお伝えしてきた「3つの知」(第364夜詳細)です。
 いま、「イノベーション型人財教育」シフトに日本人は迅速に気づき、次の一手に進むことが肝要です。
(本夜のコラムは、そのことを速く、強く、広く伝えることも目的にしています)

 昨今のニュースでも
・アマゾンはAI導入を背景に全従業員の約2%に当たる3万人の人員削減を発表
・大手コンサルティングファームでは、AIの台頭による業務代替やクライアントのコンサル離れにより、数千人規模の減員や再編が進んでいる
・みずほFGが事務職5000人削減へ。事務センターにAI本格導入、配置転換進め集客力強化
・・・
 が伝えられました。

 このニュースに「心の揺れ(自分と世界のズレ)」が発生しないで、「他人事」と思う人はアブナイです。
学生、企業人、行政人等、上記「価値創造/問い創造」に向かう人は、迅速に「自分ゴト」になる知性・感性・脳性が必要です。
 「AX時代」にこれからの人間に求められる能力は、右図の「価値創造(=イノベーション)」領域にシフトすることが納得いただけたら幸いです。

■ 小まとめ
 「問い創造工学」の二つの要諦である
A.「まだ出現していない価値」の可能性へのアクセス」
B.これまでの延長線上ではない「別流の価値創造」
 は、正規分布曲線のセンター(=常識)から離れたM字領域(未常識)にあるコト。
その領域の本質的な「価値を生み出す」基盤が「問い創造能力」になります。

■ 「問い創造工学」の「問い」の領域とは?
  ⇒ 「検索の知」から「手続きの知」

 本コラムで扱う「問い創造」の「問い」とは、
・明日の天気は?
・日経平均株価は?
・ここから「鎌倉駅」までの電車のルートは?
・「鎌倉駅周辺の」観光名所は?
・paypayの残高は?
 等々での会話やスマホ(グーグル検索やAI)への「検索の問い(知)」ではありません。

 いま、「検索の知」の領域は、AIの独壇場になることがはっきり実感できるようになりました。
これから、人間の側に重要な「知」は、情報をただの知識として蓄えるのではなく、それらを「編集(つなぐ・変える・再構成する)」して「新しい知や未常識」を創り出す「手続きの知」になります。



■ 「問い創造工学体系」図解

 それでは、上記を踏まえて「価値創造工学」の基盤(OS)となる「問い創造工学」体系を図解します。

 第370夜に提唱した「価値創造工学」は、文系・理系を問わず、「人の役に立つ仕組みを考え、試し、社会に届けるための[心得・思考・実践]の方法論」です。
 同様に、「価値創造工学」の基盤となる「問い創造工学」も同様に、文系・理系を問わず、「人の役に立つ仕組みを考え、試し、社会に届けるための[心得・思考・実践]の方法論」です。
 そのプロセス・構造・体系を展開・図解したのが下記になります。

 別様の価値を「生み出す(Output:別流)」ためには、
---------
A.心の揺れ(驚き・違和感)
 ⇒「内面の常識」と「外側の世界」とのズレの発生
  ・常識や既知の枠組み(既存のアルゴリズム)の外側にある「驚き・違和感」をキャッチする段階。
   これがAIにはできない「切実心(なんとかしたい)」の起点となります。

B.疑問(Why・疑念)

 ⇒内面に向かう「好奇心」と外側に向かう「切実心」
  ①「負」「不思議」の感情を観察する: 怒り、切実、はてな?といった感情が動く瞬間を捉えます。
  ②「当たり前」を疑う: 「業界の常識だから」「昔からこうだから」と見過ごされている
    不合理を、あえて「なぜ?」と見つめ直します。
  
C.探求(未知・探求)
 ⇒「外側の世界(過去・現在・未来)をどうどうとらえるか」という客観的な認識
 ⇒「志(自分はどんな世界を作りたいか)」という主観的な想い

  ①  事実の深掘り(Fact Finding)
  ②  背景の洞察(Context Analysis)
  ③ 本質的な問いへの変換(Reframing)
   ・「真善美(内側)」を問う研究開発的なアプローチと、
    「別流(外側)」を目指す事業開発的なアプローチが交差する段階。
    ここで「守破離」による既存知からの脱却が起こります。
   ・「どうすれば効率化できるか?」という「解くための問い」ではなく、
    「そもそも、これが必要な目的(本質)は何だったか?」という問いに変換します。
    例:「効率的なハンコのリレーはどうすればいいか?」ではなく、
      「確認と責任の所在を担保する、全く新しい方法は何か?」と問い直します。

D.問い(仮説・信念)

 ⇒ 内面に向かう「数寄(ミッション)」と外側に向かう「道標(ビジョン)」
 ⇒「数寄」と「道標(ビジョン)」がシンクロ(二つ以上の物事が同期・同調)
 ⇒「別流」に向かう「3つの知」(第364夜詳細)
  ① 道標(みちしるべ):事業開発的なアプローチ
   →一言で言うと: 「世界をどう変えるか?」という社会への実装
   → 自分の立てた問いを、社会をより良くするための「進むべき方向(道標)」として掲げることです。
   ビジネスやサービスを通じて、多くの人を巻き込み、具体的に世の中の不条理を解消していく「事業開発」の道です。
  ② 数寄(すき):研究開発的なアプローチ
   →一言で言うと: 「真理・大元(おおもと)はどうなっているのか?」という本質の探究
   →これは、「真理や色即是空(第6夜、第122夜)を探究するスペシャリスト」を目指す方向です。

  上記「D」が、「問い」を仮説と信念まで磨き上げる段階。
   これが最強の「プロンプト」となり、AIを「再設計(トランスフォーム)」するための
  強力な指令となります。

フェーズテーマ学習内容(ワークショップ例)
A. 心の揺れ「感性・心性」の解凍常識の中に潜む「違和感」・「ズレ」を言語化する。AIには検知できない「人間の内面・内発」をリスト化する。
B. 疑問「Why・疑念」の深掘りなぜその違和感があるのか?「切実心・好奇心」を起点に、課題の本質を抽出する。
C. 探求/探究「別流」の探索「守破離」と「真善美」を往復し、AIが提案する「最適解」ではない「別流の解決策」を練る。
D. 問い「志・信念」の構造化磨き上げた問いを、最強の「プロンプト(経営の設計図)」へと変換する。

 コラム第364夜の「新成長を生み出す3つの知」に旭山動物園のプロセス事例を上げていますので、それをご覧いただけると、さらに理解が進むと思います。
 他に、3つの事例を後方に用意していますのでご覧ください。


 それでは、上記を土台にして、「問い創造工学」を宣言します。

■ 『問い創造工学』宣言

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 問い創造工学とは、
文系・理系を問わず、
価値創造の起点となる『問い』を設計し、構造化し、
磨き上げるための[思考・対話・設計]の基盤(OS)である」

私たちは、単なる情報の処理や正解の検索を目的としない。
私たちが向き合うのは、
日常に潜む「切実」「不条理」や「驚き」「違和感」の中に、
潜み隠れた本質的な「問い」の種であり、
それを通して、AI(AX)時代における人間の
「競争力の源泉」や「真善美」を再構築することである。

問い創造工学は、
価値創造工学を駆動させるための「地(文脈・前提)」であり、
既存の「当たり前・常識」を疑い、
「何を問うべきか」という上位の設計図を描き、
複雑な事象をどの切り口、どの抽象度で把えるかを
構造化し、言語化し続けるための
知性感性・脳性の体系である 。

私たちは、
効率よく「解」を出すオペレーターではなく、
「問い」の構造そのものを設計し、
自らの内なる「了解(常識)」と、
激変する外側の世界との「ズレ(心の揺れ)」を見逃さず、
既知と未知が踵(きびす)を接する境界から
その人ならではの「問いのタネ」を引き出し、

価値のベクトルを定めるイノベーター(再構築者)を育てたい 。

「問う」とは、自分という「未知」を起動することであり、
それは、外から新しい知識や技術を詰め込むことではない。
ふとした瞬間に生まれる「なぜ?」や「おかしいな」という、
あなただけの切実・好奇心の現場を、逃さずにつかまえること。

「問い」を立てるプロセスは、
あなたの内側に眠ったまま、まだ一度も使われていない
「潜在的な力」を呼び覚ますプロセスです。

誰かが決めた正解をなぞるのではなく、
あなた自身の内部からしか生まれてこない
「唯一無二の視点」に自覚的になること。
それこそが「問う」ことの真意であり、
未来の価値を生み出すための、
最も新しく、最も本質的なアプローチです

問い創造工学とは、
人の「心の置き方(精神)」と「モノの見方(思考)」のフェーズを変え、
その両立を通して、
人々に役立つ価値が生まれるための「土壌(OS)」を耕す方法と営みです。
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■ 「問い創造」の理解・実行に向けた事例集
 下記の「3つの事例」を用意しました。
ワークショップでは、多くの事例と演習を通して習得していただきますが、
下記エッセンスから、「問い創造」を自分ゴトとして把えていただければ幸いです。

◆事例紹介A.実践「ピュアモルトスピーカー」(第35夜、第126夜、第340夜詳細)
 ⇒前職パイオニア時代、私がプロデュースした連続ヒット商品「ピュアモルトスピーカー」等を使って説明します。

[現状]:コモディティ化と赤字という「切実」
 1990年代初頭、パイオニア社のオーディオ事業は「コモディティ化」の限界に直面してました。
A. 「心の揺れ(驚き、不安、違和感)」:1992年、国内ホームオーディオ事業が赤字転落。
  「HiFiを核とした良いものを作れば大丈夫」という技術中心のこれまでの常識が崩れました。
B. 「疑問(疑念): 「なぜ赤字になったのか? それは続くのか?」
   ⇒「オーディオ活性化委員」「超高密度メディア委員」に選出される
C. 「探索(別流、探求)」(1993年):
   ⇒社長直轄の「ヒット商品緊急開発プロジェクト立ち上げ」を直訴 
   C-1. 別流:機能的な製品を売る時代から、下図の個人の生活様式(ライフスタイル)に
     寄り添い、新たな価値体験(Smile, Style, Story)を提供する時代

 
   ⇒ 探求:時代背景(1993年作成)と「楽音心理」の進化形(ハッピープログラム)

D-1.「問い」①: 
  ・「次のパイオニア」の流儀(別流)を創るには?
    →「エレクトロニクス業」から「エンタテインメント業」へ
    →「ハードウェア×ハートウェア」
  ・個人の生活様式(ライフスタイル)に寄り添うオーディオは?
    →「テクニカルポイント×アーティスティックポイント」の新結合
  ・それを実現する「異業種コラボレーション」の可能性は?
    →「社内横断型」から「社外ネットワーク型」へ
    →「ウィスキー」「ファッション」「インテリア」「家具」等々


D-2. 「問い」②:オーディオ事業の未来の洞察(非常識と未常識)
 
⇒ 1993年、超高密度メディア(SDカード、メモリスティック等)と放送系、通信系の進化を洞察した結果、12年後の2005年に大きな変化がくることが洞察できました。
 そう、予測した通り、2005年からアップル社スティーブジョブズの「iPad」「iPhone」が、携帯事業、オーディオ事業、カメラ事業等を直撃して、国内産業の数兆円が蒸発しました。

追記: 前職では、未だ現れていない「未常識(別様)の可能性」を数回提案してきましたが、これまでの成功体験・常識に照らし合わせた経営陣の多くからは、「理解できない」、「それが自分(たち)の既得権を犯してくる」と判断すると、「拒否」や「受け入れがたい」という反応が返ってきます。
 → 「多くの場合、人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」
そこの「たいへん」を何回か、潜り抜け、乗り越えたり、挫折もしてきましたが、その壁が結果的に「企画内容」と「自分(たち)の能力」を引き上げてくれます。

 ただ、時代を切り拓く「価値創造者(イノベーター、アントレプレナー、研究者)」たちのご支援に行きますが、彼らの悩みは、「未常識」への「拒否」や「無理解」にあります。(もちろん、タイミングもあります)
 しかし、上述したように、イマを生きる私たちは、AR時代の大変化を切り拓いていく精神、時代を動かす精神と知恵をもって挑戦することがこれから更に求められてきます。
 この「価値創造工学」、「問い創造工学」の心得とメソッドが、それらを打ち破る強い「ツールとロール」に役立つことを確信しています。

 それでは、時代を大きく切り拓き「スマホ文化」を創造した、自分と同年生まれの「スティーブジョブズ」の事例を次に取り上げます。

◆事例紹介B.「iPhone」(第83夜、第159~165夜詳細)
 ⇒「問い創造工学」から「価値創造工学」へのプロセス

〜iPhoneの事例に見る「あり方の問い」への転換〜
 従来の多くの企業が陥っていたのは、下図右側にある「よくある思考プロセス」です。
これは「売上・利益」を目的とし、そのための「解決策(やり方)」を模索するもの(=改善)」でしたが、結果として機能の同質化(コモディティ化)を招き、行き詰まりを見せることになります。(山口周「ニュータイプの時代」加筆引用)

 対して、ジョブズのiPhoneのプロセスは、「気立て→見立て→仕立て」(第367~368夜詳細)そのものであり、思考の起点を「あり方の問い」へとシフトさせたものでした。


1. 気立て:現状の不条理と「ありたい姿」のギャップ

 思考の起点は「どう売るか」ではなく、現状に対する「切実な不条理」と、真善美に基づく「ありたい姿」の間に生じるギャップです。

  • 現状の不条理: 
    ①当時は、携帯電話、カメラ、iPod、ボイスレコーダー等の情報機器を別々に持ち歩いていました。
    ②当時の携帯電話は、物理ボタンが画面を占領し、アプリごとに最適化できない「不自由さ」に満ちていました。
  • ありたい姿(志): ジョブズが掲げたのは「売れる製品」ではなく、
    「創造的な人々の知性を増進する道具を届けたい」
    という強烈な「あり方(Being)」の確信でした。

2. 見立て:本質的な「問い」への変換(問い創造工学)

ここで、図にある「Why(深い知)」「What(高い知)」による問いの再定義が行われます。

  • 従来の問い(やり方): 
    ・「携帯電話、カメラ、iPod、ボイスレコーダーの機器を別々に持ち歩くことは常識?」
    ・「どうすればキーボードを使いやすくして、他社より売れるか?」(コモディティ化への道)
  • 本質的な問い(あり方): 
    ・「電話・カメラ・音楽等の機器とコンテンツをシームレスにできないか?
    「なぜ、知性を拡張する道具が、固定されたハードウェアに縛られているのか?」
  • 問いの再定義: この「あり方の問い」が、既存の「電話」という概念を破壊し、
    「別流の可能性(シームレスな体験、全面液晶による無限のインターフェース)」
     という北極星を導き出しました。

3. 仕立て:価値の具現化(価値創造工学)

「問い」によって導かれた「ありたい姿」を、具体的な技術や仕組みで「仕立て(How:広い知)」ます。

  • 実装:「iOS」、「 マルチタッチ」、「エコシステム」を統合し、解決策を具現化。
  • 価値創造: その結果として生み出された「別様の価値」が、「スマホ文化」を創り、後追い的に「売上・利益」という結果をもたらしました。

◆「3つの知」による統合整理

「問い創造工学」体系図にある「問い」の構造を、「3つの知」(第364夜)で整理すると以下のようになります。

  1. 深い知(Why): 「あり方の問い」。個人の内面にある「真善美」や「志」から、不条理を打破する動機を汲み取る。(第85夜、第364夜詳細)
  2. 高い知(What): 「ありたい姿」。既存の枠組みを外れ(逸脱)、未来における「別流の可能性」を構想するビジョン。(第87~88夜、第364夜詳細)
  3. 広い知(How): 「解決策の構築」。問いを解決するために、多様な技術や手法を新結合させる知性。(第83~84夜、第364夜詳細)

結論:思考プロセスの転換

iPhoneの成功は、
① 単なる「やり方」の改善ではなく、思考プロセスそのものを「売上(出口)」から「問い(入口)」へと逆転させたこと
②「現状(不条理・既知)」と「ありたい姿(志・未知)」のギャップを直視し、「なぜ、何のためにそれをするのか」(創造的な人々の知性を増進する道具を届けたい!)という上位概念の問いを立てること。
 にありました。

 この「問い創造」こそが、多くの日本産業のコモディティ化の泥沼を抜け出し、真の価値を創造するための唯一のエンジンとなります。
 下図で説明しますが、「経営」の「経」とは「縦糸」を表しています。「営」とは、「営み」です。「あり方(縦糸・道理)」と「やり方(横糸・営み)」を編むことで経営は成り立っています。
 いま、日本の多くの企業が[横軸のやり方(HOW)」でコモディティ化して行き詰っています。必要なことは、[縦軸のあり方(道理・WHY)]を探求・発見することです。
 それについては、前述のコラム第364夜の「新成長を生み出す3つの知」に旭山動物園のプロセス事例(深い知)に詳細を綴っていますので、関心のある方は是非ご覧ください。


◆事例紹介C:覚えきれない「パスワード」の切実

Q. 増えるカードやアプリで、溢れる「パスワード」作成・管理でぜんぜんスマートになっていない。
 この不条理を「本質的な問い」に変換してみる

  1. 「事実」の深掘り(Fact Finding)
    まずは、現状の何が「不条理」なのかを分解します。
    現状: 安全のために「複雑にしろ」「使い回すな」と言われる。
    矛盾: 人間の記憶力には限界があるのに、システム側は「人間が記憶すること」を前提に設計されている。
    結果: パスワードを忘れて再発行を繰り返したり、結局メモに書いて貼ったりという、本末転倒な(セキュリティを下げて利便性を損なう)行動が起きている。
  2. 「背景」の洞察(Context Analysis)
    なぜこの不条理が放置されているのでしょうか?
    システムの都合: 「本人であることの証明」を、システム側が最も安価で管理しやすい「秘密の文字列の照合」に依存し続けているからです。
    責任の転嫁: 「忘れるほうが悪い」「管理できないほうが悪い」という、ユーザーへの責任転嫁が設計の根底にあります。
  3. 本質的な「問い」への変換(Reframing)
    ここからが「問い創造」の本番です。問いの抽象度を上げ、枠組みを変えます。

    ①改善の問い(従来): 「どうすればパスワードを忘れずに管理できるか?」
    これでは「パスワード管理アプリ」などの既存の解決策しか出てきません。
    ②本質的な問い:
    「そもそも、なぜ『記憶』という不確かなものを、個人の証明(アイデンティティ)の鍵に使わなければならないのか?」
    さらに視点を変えると、以下のような問いも生まれます。
    ・関係性の問い: 「『私は私である』ということを、証明(Proof)するのではなく、環境が自然に認知(Recognition)する状態を作るにはどうすればいいか?」
    ・存在の問い: 「デジタル社会において、鍵(パスワード)を持たずに、信頼という扉を開け続ける仕組みとは何か?」
  4. 価値創造へのヒント(仕立て)
    「記憶に頼らないアイデンティティの認知」という問いを立てると、解決策はパスワード管理の枠を超え始めます。
    生体認証の先: 指紋や顔だけでなく、歩き方、タイピングのリズム、生活圏のログなど、その人特有の「振る舞い」で常時認証される世界。
    ・分散型ID: 企業ごとに鍵を作るのではなく、自分が自分の鍵そのものになる仕組み。

    [ワークアウトのまとめ(案)]
    この不条理から導き出された「本質的な問い」は?

    「『覚えること』から人間を解放しつつ、どうすれば『自分であること』を社会に証明し続けられるか?」

    * この「問い」を立てることで、単なる「便利な管理ツール」ではなく、「認証という概念そのものを消し去るサービス」という新しい価値創造の地平が見えてこないか?

    * 「覚える必要がない世界」という問いの先に、どんな未来のサービスがあったら、あなたは「これこそスマートだ!」と感じるのか?
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■ 次夜、次次夜について

 次夜(第373夜)と次次夜(第374夜)は、本夜の「問い創造工学」と「価値創造工学」の間を橋渡しに最も有効な手法(思想)としての「シナリオプランニング」について綴っていきます。

■ 追記

・「変化」は今までと違う思考で始まり、今までとは違う行動から生まれる。
・「成長」のために、心の置き方(場所)モノゴトの見方のステージを上げる
・「挑戦」しないことこそが、1番の失敗である。

 上記を、起業志向に留まらずに、就職・研究・SDGs・事業開発・地域幸福・社会実装まで、
学部横断、社内横断、部局横断産学官連携で活用できる「基盤教育」として活用していただければと思います。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ