2026年7月13日: 「問い」につながる「顕密思考」誕生宣言
■ はじめに:要約
教育の現場でも、ビジネスの現場でも、AIが弾き出す「効率的な正解」や「常識の枠内の解決策」に誰もが飛びつく時代になりました。しかし、それは人類がこれまで言語化・データ化してきた氷山の一角、すなわち下図の「顕(けん)の世界 :(目に見える記号やデータ) を消費しているにすぎません。 これからの時代、人間が果たすべき真の役割、そして教育の側が踏み込むべき領域 は、未だ言葉にならない深層 ──個人の内なる違和感や情動、美学(真善美)といった「密(みつ)の世界 :(言語化されない本質や気配) 」にこそ眠っています。
この「顕」と「密」のあいだを跳躍し、往還するための知のOS。 それこそが、本夜において誕生した「顕密思考 ── AI時代の価値創造に向けた認識工学 ──」 です。 後述しますが、新しい価値を生むため の「顕密思考」「問い創造」 とは、常識という壁の向こう側にある「まだ見ぬ未来」へ手を伸ばすためのチケット です。
1. 新たなパラダイム「顕密思考(けんみつしこう)」の誕生 宣言 -「問いを立てる」の、その先へ 、その奥へ-
コラム第366~380夜では、AI時代において「答えを出すこと」 の価値が暴落し、「問いを立てること」 こそが人間の仕事になる、という話をしてきました。 しかし、最近学生たちと話していて、一つの壁にぶつかりました。 「先生、問いを立てるのが大事なのは分かりました。 でも、ChatGPTに『面白い問いを5つ考えて』と頼めば、それなりの問いを出してくれちゃうんです。 僕たちが立てる問いって、AIの問いと何が違うんですか?」 鋭い指摘です。そうなのです。「問いを立てる」 ことすら、すでに当たり前のスキル(顕在化されたテクニック)になりつつある。 AIにプロンプトを打ち込めば、それらしい「問い」が返ってくる時代に、私たちはその一歩先、一歩奥にある「問いの源泉」 に触れなければなりません。 生成AIがあらゆる「答え」を瞬時に導き出す時代、私たちが日々目にする情報は平坦化し、表層的な最適化ばかりが加速しています。誰もが同じ正解にたどり着ける世界で、真の価値創造はどこから生まれるのでしょうか。 ・ AIが絶対に真似できない、人間だけの「価値創造の入り口」はどこにあるのか? という「問い」 を立てました。 第378夜「AI時代の価値創造教育プログラム」 をまとめているその時に、その「問い」 に向けた強力なヒントが重層的に浮かび上がってきました。 ①私の師である松岡正剛師匠の「編集工学」、 ②師が遺した不朽の名著『空海の夢』、 ③そして私の前職パイオニア社時代のヒット商品開発プロジェクト体験 です。 そして、その鍵は、 ・「顕(目に見える記号やデータ)の背後に潜む、密(言語化されない本質や気配)を読み解く力」 にあると洞察しました。 上記をベースにして、本夜は、これからの知性・感性・脳性のあり方を決定づける ・新パラダイム「顕密思考(けんみつしこう)」誕生 を読み解き、宣言していきます。 表層と深層を自在に往還するこの思考法こそが、AI時代における「価値創造の新たな地平を切り拓く」 という核心であり、それが私の確信であり革新です。
2. 『編集工学』と『空海の夢』が教えてくれたこと
正剛師匠の「編集工学」の本質 は、世界のあらゆる情報を「つなぎ、重ね、新たな意味を創り出す」 ことにあります。 そして師匠がその編集思想の究極のモデルとして生涯追いかけ続けたのが、1200年前の天才、「空海」でした。(ご縁により、本年1月に空海誕生の地である「善通寺」に詣でました) 空海は、仏教を「顕教(けんぎょう)」と「密教(みっきょう)」の二つ に分けました。
「顕教(顕)」 :言葉やテキスト、論理で明確に説明できる教え。
「密教(密)」 :言葉では表現しきれない、身体の感覚、イメージ、実践そのもの。
正剛師匠は著書『空海の夢』の中で、空海が成し遂げたのは「言葉(顕)」の背後に、決して言葉では語り尽くせない広大な「シンボル*や身体性・真善美(密)」の海 が広がっていることを、両界曼荼羅(まんだら)という壮大なシステムで可視化したことだと見抜かれました。 * 上記「シンボル」 とは、 ・「目に見えない深層の情報(密)を、目に見える形(顕)へと変換し、両者をつなぐ動的なメディア(媒体)」 ・宇宙のエネルギーや仏の本質そのものが「そこに宿っている実体」
上図を見てください。 私たちが普段使っている言葉やデータ、テキスト(顕)は、巨大な海に浮かぶ「氷山の一角」 にすぎません。その海面下には、言葉にできない「体験・身体性・真善美・実践」 という、底知れない巨大な「密」の海が広がり、そして、「密」から生まれる未来の源・種が隠れています。 AIという存在は、人類が過去に生み出した「言葉(顕)」をすべて編集・足し算して作られた、いわば「氷山の一角のマスター」 です。データ化されたロジックの編集なら、人間が逆立ちしても敵いません。 ですが、AIには「絶対にアクセスできない領域」 があります。 それが、海面下に沈む「密」――すなわち、私たちが日々感じている生々しい身体の感覚、痛み、喜び、真善美、そして現場の空気感という「ナマの感覚」 です。 さて、私はパイオニア社35歳の時に、ご縁により、ビートルズにも影響を与えた「密」の世界である「マハリシ・ヨッギの『超越瞑想』」 (第6夜、第235夜、第289夜)の門をたたきました。 生業としている「音・音楽」が人間に与える波動・影響を体感したかったからです。 そこに入門して驚いたのは、大手の企業経営者が多いことでした。彼らは、「(自分の)心を空(無)にする」 ことで経営の方向性や生き方を見出していました。(第33夜) そう、そこでは「超越瞑想」で雑念をなくす、私心をなくすという「究極の引き算」を体験しました。 そして、 ・大切なコトは何か? ・「密」の大元(おおもと)、大事なものに深くつながること を体得してきました。 そこで、「体性、知性、心性」を研ぎ澄まし、磨いたことが自分の将来にも大きな影響を与えてくれました。 → 「禅(ZEN)」、「超越瞑想」は、「顕」と「密」を往還し、内省する優れた方法なので、もし機会があれば是非、体感・体得することをお勧めします。
3. 氷山を90度回転させる「顕密思考」
正剛師匠はかつて、情報には「地(背景・文脈)」と「図(目に見えるデータ)」 があり、この2つがダイナミックに入れ替わることで新しい意味が生まれると説きました。(参照:https://note.com/discover21/n/n4238e6e02702 ) 正剛師匠は、情報や知識の編集を考えるときに、しばしば「地(ground)」と「図(figure)」の指南がありました。 この「地と図」の関係を自在に動かすことができるようになると、「問い」の深み、高み、広み が拡張して、「顕密思考」・「問い創造工学」の上級者に向かいます。(ワークショップ等で、「地と図」を自在に動かす様々な事例・演習でお伝えしています)
A. 「図」とは、=目に見える情報・主題 ・今まさに注目されている内容 ・テーマ、主張、ストーリー ・表に現れている情報 つまり、人が意識的に見ている情報 です。
B.「地」とは=背景・文脈・知識のネットワーク 一方の地は、図を成立させている背景全体です。 ・文脈 ・前提 ・歴史、関連知識 つまり、表に出ていないが、意味を支えている情報の場 です。 (「地と図」 と「顕と密」 は、多くの共通項 をもっています。双方が「問い創造・価値創造」に近づく重要なスキルになりますので、どこかでその活用の方法と事例をお伝えします)
私は、この「編集工学」のエッセンスを、「AI時代の価値創造の『顕密思考』」に重ね合わせて、氷山の図を「左回りに90度」 ゴロリと回転させました。
ここに誕生したのが、私が提唱する「顕密(けんみつ)思考」のOS です。(上図)
左端の「過去」という原点(氷山の頂点)には、目に見える小さな「顕(言葉)」がある。 しかし、その背後には常に膨大な「密(体験・身体)」 が地続きで控えています。
「問い創造」とは、マニュアル(顕)を読むことから始まるのではありません。 自分の身体感覚や現場の違和感(密)にダイブ(深く入り込む)し、それを「編集」して言葉(顕)へと海上に引き上げる瞬間に、AIには絶対に真似できない「本物の問い」が誕生 するのです。
4. 顕密思考を具現化する「基本」と「応用」
では、この「顕密思考」のOSを、私たちは日々どうやって駆動させればいいのでしょうか?(問い) 学生の皆さんが今日から実践できる、具現化の「基本」と「応用」の一部 を伝授します。
【基本編】自分の「切実感、違和感(密)」を言葉(顕)に翻訳する
基本は、日々の生活や学びの中で感じる「言葉にならない違和感(密)」を見逃さず、言葉(顕)の氷山として削り出す習慣 です。
たとえば、大学の講義を受けているとき、あるいはSNSを見ているとき、「データ(顕)は正しいと言っているのに、なぜか胸のあたりがすっきりしない、腑に落ちない(密)」と感じる瞬間はありませんか? そのとき、AIに答えを聞く前に、自分の身体(密)にダイブするのです。・私はなぜ今、心がざわついたのか? ・どの言葉に引っかかったのか? と内省する。 あるいは、最もわかりやすい事例が、 ・「なぜ、この人(異性)をみると、ときめいたり、ドキドキしてしまうのか? 」 そして、その切実感の正体に「自分だけの名前(言葉)」 を付けてみる。(ラベリング) これこそが「密」から「顕」への往来であり、AIには絶対にインプットされていない、 あなただけの「独自の問い」が誕生する基本 のステップです。
【応用編】他者の「身体・感情(密)」にダイブし、社会の価値(顕)を創る
応用は、ビジネスやプロジェクトなど、社会の中で「新しい価値創造」を行うときの駆動法 です。「顕(ロジック)のフレームワーク」をあえて捨て、 他者の「密(ナマの体験)」に深く共感し、 それを新しい仕組み(顕)へと昇華 させます。
たとえば、ヒットしている新しいサービスを思い浮かべてください。 それらは「市場データ(顕)」の分析だけで生まれたのではありません。 ・「夜遅く、一人で帰宅するときに感じる、言葉にできない寂しさと心細さ(密)」 ・「育児中に、一瞬だけ社会から取り残されたように感じる孤独(密)」 といった、人間の生々しい感情や体験の深淵(密)に、開発者が自らの身体を通じてダイブ したからこそ生まれたものです。 [参考事例-1] 事例として、私のセミナーや研修でよく活用する「アルコールフリービール」 を紹介します。 キリン(株)は、アルコールフリーという画期的な製品で新しいビール市場を開拓しました。 そのパイオニアである女性開発者の“大切にした想い” を紹介します。 「2007年は、飲酒運転撲滅の雰囲気が世間にありました。いくつかの大きな事故があり、警察の取り締まりが強化されるなど、飲酒運転はダメという消費者の意識が強くありました。お酒が原因で悲しい事故が発生するのが嫌だったんです」 開発者の大切で切実な願いは、 ・「飲酒運転がなくなる幸せ」 (密) でした。 その“あり方” (密)が土台にあることで、技術開発やマーケティングの“やり方” も変わって成功につなげました。
[参考事例-2] 私は、前職のパイオニア社時代、 ・アナログレコード→CD ・FM放送→カセットテープ→CD-R という「Hi-fi(忠実再生):顕」で成長してきたオーディオ業界が限界を越えた「真っ只中(1993年)」(顕)にいました。それは将来の行方(ゆくえ)を考えるととても「切実」(密)な問題でした。 その時、社内プロジェクトを立ち上げて、下図の様に、 ①2005年に大きな変化(パッケージ系、通信系、放送系)がある可能性が高いのでは? → それが、iPod、iPhoneの出現 ②別流のオーディオの価値創造は? → それが、連続ヒット商品の創出 をプロジェクトメンバーと共に予見、洞察しました。
1995年、社長に直訴して「ヒット商品緊急開発プロジェクト」を立ち上げ、 音・音楽の「Hi-fi(忠実再生):図(ず)」ではなく、 別流・別様の「音・音楽の新しい楽しみ方:地(じ)」 を提案・実践して、下記の異業種コラボレーションによる「ネットワークの情業時代」の『連続ヒット商品』を創出することにつながりました。(第126夜、第370夜詳細) 同様に、「Hi-fi(忠実再生)」ではないパイオニア社の「カラオケ」「CDJ」等の新しい文化経済の創造は、送り手側・機械側の「Hi-fi(忠実再生)」(顕)ではなく、「人間の側の楽しみ・喜び(密)」を軸足 にして企画創造(パイオニア)したものです。 さて、31年前の1995年に経営会議で発表した通り、「AIがけん引する『脳業』」の時代」(顕) になりました。(下図)
[参考事例-3] 事例の3つ目は、これもセミナー等でよく紹介(演習)している「北海道旭川市にある旭山動物園」 (第28夜、第364夜)です。 時は1997年にタイムシフトします。その頃、全国の動物園の来園者数は右肩下がりで減り続けていました。 当時、旭山動物園の獣医係長(その後、園長)の坂東元さんは、従来の“パンダやコアラという奇獣、珍獣で来園者を集めるやり方や動物の姿を見てもらうための「形態展示」(顕)”ではなく、“普通の動物の本来の行動や生活を見てもらう「行動展示」(密)”へと転換 を図りました。 メディアにたびたび取り上げられ、国内外からたくさんの観光客がくるようになりました。
さて、坂東園長が転換を決意した“最も大切にした想い”は何でしょうか? ここは大事なので、皆さん少し考えてみてくださいね。
⇒ 旭山動物園が掲げる永遠のテーマは、 ・「伝えるのは命」(密→顕) です。
そこには、坂東さんが獣医として“動物の命”の大切さ にずっと寄り添ってきたことが込められています。 そのテーマによって、これからの時代の主役になる子どもたちが、動物たちの未来や地球の未来を真剣に考える場所 になっています。
ここで重要なことは、経営の“あり方(目的・縦軸):密”が変わることで、“やり方(手段・横軸):顕”が変わること です。 「経営」の“経”という字は、縦糸のことを表しています。“経”という縦糸(あり方:being)と“営(いとなむ:doing)”の横糸(やり方、行動)で織物が紡がれます。 いま、日本の多くの企業が[横軸のやり方(HOW)」でコモディティ化して行き詰っています。 経営が行き詰っている時は、それまでの横軸の“やり方(doing)”が行き詰っていることが多いのです。 是非、そのような時は経営の縦軸の“あり方(密)”(目的、道理、意味、真善美:being) に目を向けて、再定義することにトライされてください。(第372夜詳細) 下図(価値創造の本質)の「おおもと(密)」 が「経営のあり方」の源 です。
旭山動物園は、「伝えるのは命」 を大元(おおもと)にして、それまでの「形態展示」から、「普通の動物の“行動展示”」 というやり方に転換しました。そのことで、右肩下がりの来園者数が急激な右肩上がりになり、旭川市を含めて経済価値(利益)が上昇しました。 下図の 「色即是空」というのは、「現実=色」(顕)に問題・課題があるのなら、 先ず心を無にして、「大元=空=大切なこと=真心」(密) に戻りなさい。 そして、「空=大元=真心」に戻って従来のしがらみや常識から解き放たれて、その本質(=コンセプト=核心)を把えてから「現実=色」を観ると新しい世界(=現実=色=確信)が観える(「空即是色」) ということです。(第85~86夜) 人々から喜ばれる、感謝される「新しい現実」を創るコト が「アントレプレナーシップ」「価値創造/イノベーション」の狙いです。(第28夜、第364夜)
上記の3事例は、これまで業界が常識としていた「顕(ロジック)」のフレームワークをあえて捨てた物語です。 ・アルコールフリーも、一番大事だと思っていた「アルコール」を捨てました。 ・オーディオの「Hi-fi(忠実再生)」を捨てて、「人間の側の楽しみ・喜び(密)」へ ・「形態展示」(顕)”ではなく、“普通の動物の本来の行動や生活を見てもらう「行動展示」(密)”へと転換 上図の「深い知」 (第75夜、第364夜:3つの知のひとつ)は、不要なものを削いで取り除いて『核心』に辿りつく方法(奥義)です。 それは、日本人が本来得意としてきたもので、禅、茶道、枯山水、わびさび、俳句・俳諧、おもてなし等に代表される奥義です。得意な「引き算の美学」 (第6夜、第364夜詳細)なのです。 それが、日本人が継承してきた「才能」 (第340夜詳細)です。
そして、それは「ビジネスの大元(経営のあり方)」につながる重要なスキル です。 ・そもそも何のためにビジネスをおこなうのか? ・いったい世の中の何を変えたいのか? ・何を大切にするのか? という大変化の時代(第361夜)の経営者の心の根本レベルの“あり方の再定義” が、社内外から求められています。その極意を是非、学生のうちから修練されてください。
そのために経営者は、「深い知」の「あり方:being・真善美」を深堀していくことが必要になります。・所有(○○が欲しい)→使用(こう使いたい)→あり様(こうでありたい):密 「あり方・あり様」まで枠を超えられるかどうか(深堀)、本気かどうかが、成否の分岐点になります。 ここで重要なことは、「いま自分(自地域、自社)が置かれた状況、局面」において、 ①それは意味のあるコト(上図「深い知」のmeaning)なのか ②それは必要性が高いコトなのか という社会性、経済性、環境性 を確認・確信しておくことが、結果的に個人・地域・企業の持続性、成長性に大きく関わってくることをお伝えします。 さて参考になりますが、1997年、正剛師匠から私に、 これからの時代は、 ・「性能<機能< 効能」 (第85夜、第175夜夜詳細) の流れを深く考えなさい、 との指南がありました。 (20世紀は「所有」の時代でした。「所有」の時代の背景には、「モノの不足」があり、そこでは何馬力、何ワット、何デシベルというように『性能』が重視されていました。 それが満たされてくると、次の充足は『機能』に移りました。生活空間には、使わない機能でいっぱいの機器が溢れましたね。 「性能」自身の魅力が薄れていきました。魅力がなくなると、事業は廃れます。)
現在は、「モノ(顕)からココロ(密)」へと、よりインナーへの欲求(効能)に移っています。
それを時系列で表現すると ⇒ 性能 < 機能 <効能 となります。 →性能は「顕」で、効能は「密」です。
いかがでしょうか? これらの参考事例や「知」が少しでも皆さんの心・魂に響いて、「顕密思考」&「問い創造・価値創造」の理解・挑戦・実践の参考になれば幸いです。 さてさて、学生の皆さん、上記でおわかりの通り、データやマニュアル(顕)を並べるだけのプレゼンはAIに任せましょう。 皆さんは、ターゲットとなる人や社会(地域・顧客)・地球の「日常の痛みや喜び(密)」の海 に深く潜り、そこから「これこそが、あの人や社会が本当に求めていた価値だ 」という新しいビジョンや商品・サービスや言葉(顕)をすくい上げる。(第9夜、第277夜:3つのエコロジー) これこそが、顕密思考の応用である「価値創造の編集」 です。
5. 時と共に広がる「智慧と慈悲」のイノベーション
この「顕密思考」のOSを起動し、中心の水平な時間軸(現在から未来へ)を進む と、いったい何が起きるのでしょうか?
「顕密思考図」の右側を見てください。三角形の稜線が未来に向かって四方八方にダイナミックに広がっています。 「顕(論理)」だけで考えたビジネスは、一時的に流行ってもすぐにAIに模倣され、コモディティ化(陳腐化)してしぼんでしまいます。 しかし、正剛師匠が『空海の夢』で描いたように、言葉(顕)を丸ごと包み込む巨大な宇宙の全OSとして「密」を捉え、 そこから汲み上げられた問いは、時が経てば経つほど、より多くの人の心に響き、価値を大きく広げていきます。 下図の空海が曼荼羅で示した宇宙の広がりは、現代でいう「価値創造の無限の可能性」 そのものです。それは単に「儲かる仕組み」を作ることではありません。 物事の本質を見抜く「智慧」 と、他者の痛みや社会の課題に寄り添う「慈悲」 が両輪となり重なって、時間と共にどこまでも拡大していくプロセスです。(第369夜:空海の両界曼荼羅) [参考]: 下図、空海の両界曼荼羅(りょうかいまんだら)は、宇宙の真理と悟りの世界を視覚化したものです。すべてを包み込む「胎蔵界(たいぞうかい)」と、真理を貫く「金剛界(こんごうかい)」の二つの世界が一つになることで、価値創造の源泉となる深い知恵と実践のプロセスを表しています 。(第369夜)
■「顕密思考」大整理 A. 正解のコモディティ化と「情報の平坦化」
現代の情報環境は、空前の「最適化」を迎えています。 AIの前に問いを投げかければ、数秒のうちに極めて論理的で、破綻のない「正解」が返ってきます。しかし、この圧倒的な利便性の裏側で進行しているのは、「知の激しいコモディティ化」 です。
AIが導き出す回答は、人類がこれまでに記述してきた膨大な過去データの統計的パターンの集約にすぎません。つまり、誰もが同じ強力なAIツールを使うようになれば、必然的に行き着く結論やアイデアもまた均一化していきます。 世界から「ノイズ」が削ぎ落とされ、あらゆる知の輪郭が滑らかになります。この「情報の平坦化」 が進む世界において、他者と異なる真の独自性、すなわち新しい価値を創造することは極めて困難になりつつあります。
B. 「顕(けん)」の世界と「密(みつ)」の世界
この閉塞感を打破するために、私たちはかつて日本仏教などが探求した「顕(けん)」と「密(みつ)」という、二次元の視座 を現代の知性へと蘇らせる必要があります。
まず「顕」の世界とは、目に見えるもの、すでに言語化されたデータ、そして客観的なロジックで説明がつく領域を指します。AIがその処理能力を爆発的に発揮するのは、まさにこの「顕」の領土です。 一方で「密」の世界とは、未だ言葉にならない気配、数字に還元できない人間の情動、歴史や文化が重ねてきた文脈の重みなど、表層には現れてこない深層の領域 を指す。 それは論理の網の目からこぼれ落ちる、隠された本質 です。
C. なぜAIは「密」に触れられないのか
なぜ、どれほどLLM(大規模言語モデル)が進化しても、AIはこの「密」の領域に触れることができないのでしょうか。理由は、AIの存在本質が「記述されたものの処理」 にあるからです。
AIが学習できるのは、すでに誰かが言葉にし、記号化し、インターネットの海に放流した「顕」のデータ だけです。しかし、人間の営みや自然の摂理、ビジネスにおける真のインサイトの多くは、言語化される手前の「暗黙知」として深層 に埋もれています。
データに還元できない「密(ひそ)やかなるもの」を感知 し、その意味を察知するセンサーは、生身の身体を持ち、文脈を生きる人間 にしか備わっていません。 AIは「顕」の王者ではあっても、「密」の探索者にはなれません。
D. 顕密思考の真髄 —— 表層と深層の「往還」
本夜、このコラムで提唱する「顕密思考」の真髄 は、単に「密」という深層の世界に引きこもり、直感や神秘主義に頼ることではありません。真の価値創造は、下図の様に、表層の「顕」と深層の「密」をダイナミックに、かつ高速に「往還(おうかん)」するプロセスから生まれます。
深層に潜り、まだ誰も言語化していない社会の違和感や気配(密)を掴み取る 。 そして、それをただの感覚で終わらせず、AIをも巻き込めるような明晰な言葉やロジック、プロダクト(顕)へと変換して表層へと引き揚げる。 この往還のループを繰り返すことによってのみ、コモディティ化された「平坦な正解」を飛び越えた、圧倒的にユニークで深い価値 がこの世界に誕生します。
E. 結び:顕密思考を実装する「問い」の作法
「顕密思考」を自らの知性・体性、感性・脳性として実装するために、私たちは「問い」の作法 を変えなければなりません。 目の前のデータや、AIが提示したスマートな回答(顕)を見たとき、私たちは常にこう自問するべきです。 ・「この綺麗に整えられた言葉の背後で、削ぎ落とされた『密』なる気配は何だろうか?」と。 「問い創造」の起点 は次のような状況から始まります。(下図)
人(自分)の困りごと
社会の矛盾
逆境や受難
「このままでいいのか」という違和感
対象を探求したいという好奇心
Others
この皆さんの「心の揺れ」を深く理解することが価値創造の原点 です。問いは「人間の切実さ(逆境・受難)や好奇心」から生まれ てきます。 その時に肝要なのは、「本気」 でないと何事も生まれないということです。 是非、「心の置き方(密)」と「モノの見方(顕)」 をフェーズアップしてください。 それが「別流・別様の価値創造」につながってきます。
上図の様に、効率性の網をすり抜けるノイズにこそ、「次の時代の意味」 が眠っています。 ・『表層の正解を疑い、深層への潜水を恐れない』 この「顕密思考」という新地平へ足を踏み出すこと こそが、 AI時代を生きる私たちが創造性を失わないための、唯一の羅針盤となるはずです。 下図が、「顕密思考」を組み込んだ「価値創造教育プログラム」のプロセスです。(第379~380夜詳細)
■ AI時代を生きる学生・教育機関向けの皆さんへ
これまでの教育は、情報をそつなくまとめる「一般化(他人ゴト)」のトレーニングに終始しがちでした。しかし、それではAIが出す「それらしい一般解」を消費するだけの存在になってしまいます。
「顕密思考」は、自らの内に潜む「密(主観・切実)」を、独自のロジック(工学)によって社会の価値へと変換できると確信させるための思想です。「顕密思考」「問い創造」を揃えることで、学生の中に ・「これは他ならぬ自分がやるべき仕事だ」 という『主体化(自分ゴト)』に向かう勇気と自信 が生まれます。
AI時代のアントレプレナーシップ教育とは、単なるビジネススキルの伝授ではありません。 「顕密思考」という新しい認識のOSを学生にインストールし、「自らの人生の主人公」 として社会に送り出すための、これからの高等教育が持つべき決定的な羅針盤 なのです。
学生の皆さん、画面の中のロジック(顕)だけにこもるのをやめましょう。 正剛師匠が空海に見出したように、「自分の身体、五感、そして現場の違和感(密)」という巨大な海 に飛び込んでください。 そこからあなただけの言葉を紡ぎ出す(編集する)とき、あなたの未来は、図の右側の三角形のように、未来に向かって無限に広がっていくはずです。 これが、価値創造の「本来と将来」 の姿です。
■ そして、「問い創造工学・価値創造工学」へようこそ
皆さんは、本夜の「顕密思考」 を通して、「問い創造」の入り口 にきました。 ここから先は、第378夜「AI時代の価値創造教育プログラム」 をご用意していますので、下記をご覧ください。https://note.com/noble_deer8902/n/n45907a33343d このワークを体感・習得することが、 本格化する「AI時代の波に飲み込まれずに、波に乗っていく秘訣」 です。
重要: 大学生向け:実践「問い創造工学体系」の歩き方 皆さん、新しい価値を生むため の「顕密思考」「問い創造」 とは、常識という壁の向こう側にある「まだ見ぬ未来」へ手を伸ばすためのチケット です。 この図は、そのチケットを手に入れてから、実際に未来を形にするまでの「心の動き」と「行動」 を表しています。 是非、挑戦してください。それが、皆さんの「やりがい」「生きがい」 に絶対つながります。
価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ