2024年11月27日 イノベーションへの壁(反対、痛み)
本夜は、イノベーションを提起するときに起こる関係者の障壁と軋轢(あつれき)をお伝えします。それは、自分が経験してきた「反対の大声」と「痛み」でもあります。
本研究所のコラム「価値創造とは何か」でお伝えしたように、
『創造』とは、“未来の先取り”です。
それは、これまでの「常識」を変えていくもの、超えていくもの、です。
なので、まだ「未常識(未だ常識になっていない)状態」なのです。
さて、令和の時代の日本成長の「2本柱」を2020年12月に菅首相が発表したのが、
「グリーン(GX)とデジタル(DX)」です。
それをセミナーで説明したスライドが下記です。

そのため、これまでの成功してきた過去の「常識」をオペレーションしてきた多くの既得権者にとっては、「変えたくないモノ」であることは理解できます。
その既得権者の多くが現在の経営陣です。「イノベーションのジレンマ」(既存事業の経営者にとって、延長線上にない新しい技術、ビジネスモデルは非常に困難な意思決定をともないます)に記されたベストセラーには、そのジレンマが起こる理由が記されています。
ただ、そのオペレーションで「成長」しているステージではいいのですが、そのオペレーション(やり方)が通用しない行き詰まりのステージでは、「イノベーション(あり方)」が必要です。対象(事業等)が、右肩下がり、衰退に向かっている時に、従来の「常識」「オペレーション」の一本足打法では、船は沈んでしまいますね。
それが、「両利きの経営」(第314夜)の源流です。
行き詰まりから『逸脱』して、『別流』『別様の可能性』『オルタナティブ』を用意することが経営には肝要です。
(行き詰まりを早く予知できて、手を打つ経営者が[持続的経営(サステナブル&サバイバル)]に向かいます。
これまでお伝えしてきた「2+1」「価値創造DG」はそのための方法、体系を記しています。
いま私が生業(なりわい)としている「事業創生、地域創生、学校」等の仕事の依頼は、まさに上記の[オペレーションからイノベーションへ]が中心です。
『非常識と未常識』については、多くのセミナー・研修の『場』でご紹介してきました。
前職パイオニア社での私の提案と反対(壁)の流れを知っていただくことで、皆さまの決断や行動の今後のお役に立てれば幸いです。
時代は「アナログ→デジタル→キュービタル」(第303夜)と進展しています。(2000年に作成しました)
この『進展の方向(別様の可能性)』が分かっているかいないかで「モノゴトの見え方」が変わってきます。
それでは「図」を見ていただきながら私の経験してきた事例で「常識と未常識」を説明します。

1.オーディオ業界の衰退
1989年オーディオ業界はピークを迎え、ここから衰退に向かっていきました。
その「オーディオスタイル」がコモディティ化したからです。
製造する場所を人件費の安い東南アジアに移していきました。
その傾向が明らかになった時(=赤字)に二つの委員会が1993年に発足しました。
①オーディオ活性委員会
→「オーディオ」を復活、活性化するにはどうしたらよいか?
②超高密度(パッケージ系)メディア委員会
→SDカード、メモリースティック等が進展した時に、コストでCDメディアを凌駕するのはいつ頃か?
また、それはどのような可能性と変化をもたらすのか?
その二つの委員ともに選ばれてメンバーと検討を重ねました。
・①で検討したホップ・ステップ・ジャンプの「ホップ」が、「ヒット商品緊急開発プロジェクト」(第314夜)の『異業種コラボレーションによる連続ヒット』につながりました。
・②の検討、シミュレーション(1993年)で、超高密度(パッケージ系)メディアが、2005年前後に、「CD」を凌駕する可能性が出てきました。
同時検討で、2005年前後は、放送系・通信系が大きく変わることが洞察され、そこに、このパッケージ系が加わることで、これまでのCDメディアが安泰でないことがメンバー間で確認されました。
・たまたま、私が二つの委員会を兼ねていたこともあって、12年後の2005年前後に、経営に大きなインパクトが起こることが洞察されること。そのため、7年後の2000年くらいまでに次の「稼ぎ頭」開発に注力することが求められる旨の発表を経営会議で行いました。
当時は「CD全盛」であり、ある役員に呼ばれ、「橋本よ、そんなことは起きないよ」と言われました。
2005年のパッケージ系・放送系・通信系の変化は、『未常識』だったのです。
・その後も、社長直轄の「ヒット商品緊急開発プロジェクト」「新事業創造室・室長」で、インターネットの進展等も含め上記の行く末が気になっていました。
2005年にアップル社から『iPod』が発売されたときに、「これは大変なことになる」と上申し、
2007年に『iPhone』は発売されたときに、オーディオ業界の崩壊が頭に浮かびました。
それほど、1993年に経営会議で①②をプレゼンした自分にとって、『iPod』『iPhone』の登場は衝撃でした。
(ただ、ソニー社[ネットオーディオ]、パイオニア社[携帯]も結構いいところまで、iPhoneに近づいていたのです)
結果、カメラ業界、携帯業界、ボイスレコーダー業界、オーディオ業界が大きな打撃を受けました。
数兆円の事業が蒸発しました。
「iPhone」出現の「インパクトと行方」が様々な業界を変容させていきました。
先日、東京メトロの始発に載りましたが、目の前に座った人たちの全員が「iPhone(スマホ)」を触っていました。
「新しい文化」を創造したのです。
次夜は、上記をご理解いただきながら、「iPhone・価値創造DG」を見ていただけると、もっと深く、広い風景が見られるのではないかと思います。
さてさて、「iPod」登場した2006年、総合研究所から、
インターネットが進展する時代の行く末、可能性を
・10年後の将来をシナリオプランニングで洞察したい
・5年後、10年後の研究テーマを探索したい
という要望、オーダーが私(新事業創造室)のところにあり、
6つの研究室から、若手各1名参加してもらうプロジェクトを発足させました。
4象限で作成したそのシナリオプランニングを10分ビデオと各象限を4枚の模造紙でまとめ発表しました。
10年後の2017年の「インターネット×パイオニア社」の新結合(2+1)でまとめたものは、10年後の変化をびっくりするほどピタリと言い当てました。
『未常識をしっかりと洞察・解明』したのです。
しかし、10年後の新提案に、新しい所長の反応は鈍いものがありました。
私と若手メンバーの落胆は大きいものがありました。

前述の「常識と未常識」の壁がそこにはありました。
ただ、その提案を見た事業部長から、シナリオプランニング策定の依頼があり、その事業部は大きな飛躍を見せました。
前職と現職の社内外で、『人』が将来を左右する事例を数多くみてきました。

いまは、「こなし型(オペレーション)」から、「しかけ型(イノベーション)」への移行(認識と構想、実践)が急務です。
価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ