橋本元司の「価値創造の知」第325夜:クックパッド「価値共創4.0」

2024年12月3日 クックパッド「家庭に“楽しみ”を創る料理サイト」(両利きの経営)

前夜に続き、15年前の2009年に文化経済研究会で講演された『ベンチャー企業:クックパッド』を「2+1」で紐解きたいと思います。
 第98夜・「新価値創造イニシアティブ」で、クックパッド価値共創4.0を綴っていますので、詳細は是非そちらをご覧ください。


「インターネットを駆使したベンチャー成長企業として、私のセミナーや研修の「事例・演習コンテンツ」としてよく活用していました。
そこには、ネットによる「両利きの経営」の初期モデルがありました。

 現在は、2012年から3年続いて業績不振(第3ステージ:競合サービスの激化、プレミアム会員の減少等)なのですが、当時は「日の出の勢いのある眩しい会社」でした。
前職パイオニア本社(目黒駅)と当時のクックパッド本社(白金駅)は歩いて10分くらいの近さで、私は何回か白金本社に訪問して、異業種コラボレーションを検討していました。

 2009年当時の講演を加筆引用します。
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「文化経済研究会」第44回定期セミナー・ゲスト山岸延好氏 クックパッド株式会社  執行役 副社長兼COO

家庭に「楽しみ」を創る料理サイトの戦略
■“おうちご飯”志向が急増するなか、料理レシピの閲覧・投稿サイトを運営する「クックパッド」は、今年7月マザーズ上場を果たし注目を集めます。 月間利用者数680万人、60万品を超える料理レシピが投稿されており、競合がひしめくレシピサイトの中でNo.1の支持を集める人気サイトとなった 原動力とは何か。
膨大なレシピと投稿による相互コミュニケーションだけでなく、料理の伝承ネットワークが食卓の意思決定メディアとなったいま、主婦の買い物動線に情報を載せてメーカーや流通の広告支援へと事業の幅を広げている。人気サイトの原動力とその戦略、今後の構想を学びます。
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■日本最大の料理サイト

 ・・・クックパッドのミッションは『毎日の料理を楽しみにすることで心からの笑顔を増やす』です。
これは社長の佐野が10年前に会社を始めたときから変わりません。

 彼は世の中に対して
『自分にできることは何だろう、心からの笑顔を増やすために何ができるのだろう』
と考えていました。
 佐野は学生時代に、ソーラーパネルを使った電動自動車の研究もしていました。地球を見渡したときに食糧問題、エネルギー、水、とにかく色々なことが変化している中で
「僕たちが変えていかないと世の中まずいぞ」
という危機意識が彼の中にありました。
 例えば原子力エネルギー、「あれはよいことなのか」と「なぜ」を20回くらい繰り返すとどこかで行詰まるのです。でも彼が一つだけ確信を持てたことが「料理が楽しくなると間違いなく笑顔は増えるよね」。どんな側面から見ても「なぜ」を30回、40回繰り返しても、誰かが不幸になるとか、破綻することはなかったのです。
 『世の中で料理を楽しみにすることだけの会社が1社くらいあってもいいのではないか』
ということで、クックパッドという会社はスタートしました。

 われわれのゴールは『すべての家庭のあらゆるシーンで料理が楽しみになるきっかけを提供する』です。
すべての家庭というのは、全世界の家庭です。日本はいま4700万世帯あるのでしょうか。世界は60億人ですから数十億世帯あります。
あらゆるシーンというのは、朝起きてから夜寝るまでの間、通勤したり、週末であればドライブしたり、冷蔵庫を開ける瞬間、買い物に行く瞬間、とにかくすべてのシーンに、料理が楽しみになるきっかけを事業として埋め込み、実現していこうというのがゴールです。会社は1997年、大学を卒業した年にスタートしました。
 いま月間816万人(10月末現在)の利用者がいます。

 「若い人は料理をしなくなった」と、よく耳にするかと思います。「料理をしなくなった」とは一体何でしょうか。「料理をしたくない」のでしょうか。でもクックパッドの利用者は増えています。816万人のうち30代の女性が30%前後、日本の人口で割り戻すと40%の人が利用している計算になります。この実態、あるいはユーザー1人ひとりのクックパッド内での行動を見ると、

 じつは「料理をしたくない」のではなく、「わからない」だけだと思います。

つまり料理が伝承されず途絶えているのです。祖母から母へ、そして子どもへと家庭の中で伝承されてきたものが途絶え、若い主婦がいざ料理をしようとしたときに、そのやり方がわからない。例えば大根1本、カボチャ1玉あったときに「これ、どうやって食べたらいいの」と。自分の中にレシピの引き出しがない状況なのです。

利用者の声を見ると、クックパッドが料理の伝承を解決していると実感します。
・「結婚して17年。料理は苦手で嫌いでした。仕事をしているので料理を作ることを逃げてばかりいました。これまで本は何冊も買いましたが中途半端。でもクックパッドに出会ってから変わりました。たくさん載っているので、1つのメニューでも好みのものを選べます。お料理が楽しい。主人も喜んでいます。
・「感謝」「毎日利用させてもらっています。参考にしながら毎日の食卓が少しでも豊かになるように、楽しみながら作るようにしています」
・「家族みなが『おいしい』の連発。ここのところマンネリ化で何を作ろうかと悩む時間が、クックパッドのおかげで楽しくなっています」
・「アメリカに住んでいます。作る料理は日本食が多いのですが、材料に限りがあります。料理本もなかなか手に入りません。でもクックパッドを友人に教えてもらい感激。ニューヨークの日本人の間でも流行っています」
・「見ているとお料理意欲がふつふつと沸いてきます。どんな高級料理店よりもおいしいレシピがいっぱいだと思います」
・「芸能人のブログで紹介され、知りました。外食から自炊へと変わりました」「気が重かったお料理が、クックパッドのおかげで楽しくなりました」。
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『価値創造の知』からの着目は、ゴールを

『すべての家庭のあらゆるシーンで料理が楽しみになるきっかけを提供する』

 に設定されたことです。

それを「2+1」で表します。

 そうすると、『B』で何をすべきか、何をしたらよいのか、ということに集中できますね。
新しいミッション・ビジョンを設定することが、新しい成長につながる格別な事例でした。

そして、若い女性は「料理をしたくない」のではなく、「わからない」だけだ
という仮説を持ちました。

 料理サイトを通して、「顧客との響きあい、共創」が始まりました。


その時に、私が作成したのが「クックパッドのビジネスモデル」です。
当時、これは画期的な事例と発見でした。

・顧客は『ドラマに参加したい!響き合いたい!』
・「素敵なドラマ、ストーリーがあれば参加しますよ!」 

 というように私は解釈してその後の「価値創造」「事業創生」「地域創生」に活用していきました。

 このようなビジョン、インサイト、仮説が、重要なところです。
結果として、この会社は、

「B2C」の会社が「B2B」の両利きの会社(第314夜)になりました。
ここから大きな成長が始まりました。
上記をベースに、「クックパッド・ビデオ観察」でセミナー研修を行ってきました。

 さて、私は異業種コラボレーションで「ヒット商品」を創出していましたが、
この「クックパッド」と連携する「パイオニア・サウンドパッド」があると、ワクワクするコラボと事業成長ができると妄想しました。

・こだわりの料理に合わせた、音・音楽を提供することで、料理ウェアが更に楽しくなる。
 たとえば、エスニック料理に、エスニック音楽が流れるのです。
 それを世界中のライフスタイルにする。

 そんな構想をして社内提案しましたが、パイオニア社内がそれを検討・推進する環境ではありませんでした。

いまでも、このコラボモデルは『イケル!』と思っています。
残念!

「温故知新」です。是非参考事例にされてください。

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