橋本元司の「価値創造の知」第340夜:『才』と『能』の二つを合わせる

2025年1月8日 『価値創造の知』と『才能』

 新年を迎えて初のコラムなので、本夜は『価値創造の知』にとっても密接な関係にある『才能』についてお伝えしたいと思います。
・「才能」とは何か?
・「才能」をブラッシュアップするには?
・「才能」を「匠」と「価値創造」につなげるには?

実は、私が依頼される「企業創生・地域創生」ご支援の入り口は、
すぐ後に綴る、その企業や地域の「才」と「能」の結び目をみつけることがポイントです。
それが、「価値創造(目的)」「イノベーション(手段)」に繋がります。
 そして次に、「才」と「能」の結び目をみつけられる、つまり価値創造できる「人財」を数多く創生する、輩出することが次のポイントになります。

 それでは、「才能」という言葉についても、松岡正剛師匠主催の「未詳俱楽部の遊行」で度々話された内容をお伝えします。
そして、私の具体的体験と提案もそれに交えて綴っていこうと思います。

「匠の流儀:~経済と技能のあいだ~」(松岡正剛編著)より加筆引用します。

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 ・・・かつて日本の職人たちは、「才能」という言葉を「才」と「能」に分けて実感できるようにしてきた。
ごく簡単にいうと、「才」は大工や陶芸家や庭師などの人間の側がもっているもので、「能」は木や石や鉄などの素材が持っている潜在力のことである。
 人間が持っている「才」が素材に潜む「能」をはたらかせるということ、この「才」と「能」との二つが合わさって「才能」だとみなしたのだった。

 ・・・もともと「たくみ」という言葉には技巧性、企画性、工匠性、意匠性といった意味があった。いずれも「巧みなこと」に長けていることをいう。
しかし、これらをもっと“巧み”にまとめ、仕事に従事する職人たちの才能を最大限いかすことができる者を、いつしか「匠」と呼ぶようになった。

 ・・・陶芸や土木や庭師だけではない。茶の湯にも能楽にも絵画にも、俳諧にも立花にも服飾にも楽曲にも、すぐれた「匠」たちがいた。
珠光、紹鷗、利休、世阿弥、禅竹、狩野派の光信や探幽、池坊の専応や専好、芭蕉や蕪村、乾山や木米、近松や馬琴・・・・。
空海や道元、新井白石や本居宣長、本年NHK大河ドラマの蔦屋重三郎・・等々、みんな「匠」なのである。
「匠」は大工さんだけではなかったのだ。・・・

 ・・・「匠」たちが素晴らしいのは、そこにスタイル、モデル、パターン、フォーム、モード、テンプレートといった「型」の違いを自在に持ち込んで、
それらの「型」を適切に選別しながら新たな可能性や可塑性を引き出せるのではないかと、私は思っている。・・・

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 2015年に、上記「匠の流儀」が上梓された時に読んで、いの一番に思ったことは、
2013年10月に立ち上げた「新価値創造研究所」のメインミッションである「価値創造」と「才能」・「匠」が密接な関係でつながっているという感動でした。

A.人間側が持っている「才」
B.素材(対象)に潜んでいる「能」
C.互いに関係しあう上記の二つを結び目を見つけて掛け合わせてカタチにする「匠」 

 それを「図(2+1)」で表します。(添付)

 当時(2015年)の私の想いは、
・これからは、「新価値創造=イノベーション」こそが『成長の源』となること
 (価値創造は目的であり、それを実現する手段がイノベーションであるコト:第309夜)
・それを創出できる企業・地域をご支援すること(企業創生・地域創生)
・それを駆使できる人財(=価値創造の匠)を輩出すること(人財創生)
 という「価値創造から、企業創生・地域創生・人財創生」にありました。
 その意味で、第308~339夜に綴ってきたことは、その「価値創造の仕組みと実践例」です。

・どのような「才」を持っていて、どのような(潜在的な)「能」を引き出しているのか?
・(潜在的な)「能」を引き出すためには、どのような「才(才覚、才知)」が必要なのか?、磨き上げなければならないのか?
・そこで私たちが分母的に持っていたい『知』が、「社会知」「経済知」「環境知」です。

 さて、上記の図を展開した三つをアッピしますので、
そのことが少しでも皆様のご理解につながりましたら幸いです。

■ 展開事例①: SDGs成長経営

 一つ目は、「才:本業」×「能:SDGs(17の開発目標)」です。
本業が持っている「才」と対象(SDGs)が持っている「潜在能」を掛け合わせて、新しい結び目を見つけることで、新しい価値創造、新しい成長を構想・実現に向かうことです。
これが「令和の時代」のビジネスのど真ん中です。

・(皆さんの)本業には、どのような「多様な才」があるのでしょうか?
・SDGs(17の社会課題)には、どのような「多様な能」があるのでしょうか?
 多様な「才」と「能」の中で、どのような「ご縁」「数寄」があり、どのような「結び目」をみつけ「選択」をするのかが肝要です。
それによって本業の新しい道筋や行方(ゆくえ)が大きく変わってきます。


⇒その方法を、昨年9月の
・「川崎市主催SDGsバリューアップ経営セミナー」、
https://www.city.kawasaki.jp/templates/prs/cmsfiles/contents/0000167/167984/tirashi.pdf
・「京都銀行定例講演会」
https://www.kyotobank.co.jp/houjin/kpa/pdf/seminar20240919.pdf
等でお伝えしてきました。

■ 展開事例②: 前職パイオニア社・オーディオ新事業展開

 二つ目は、前職パイオニア社オーディオ事業の事例です。
・1970~80年代の「オーディオ事業(業界)」は、「音楽を高忠実再生する(Hi-fi)」という手段が目的化していました。
 それで成長してきたピークが1989年でした。
・しかし、それが一般化(コモディティ化)したことで、1990年代は「継続成長」の「常識」が崩れました。(=切実)
・当時、私は「音楽を高忠実再生する(Hi-fi)」以外の「能」(潜在的な可能性)を考察しました。(=逸脱)
・事業目的を「音楽を高忠実再生する(Hi-fi)」から、「音・音楽」を『能』(潜在能、可能性)として楽しむ(新事業)」ことにシフト(逸脱)してみると、
 ① カラオケ(歌部をカットして、ユーザーが主役になる)
 ② ヒット商品緊急開発プロジェクト(異業種コラボ)
 ③ サウンドスケープ(音×楽音)
 ④ CDJのバージョンアップ(DJによるリミックス)
 ⑤ カーエンターテイメント(地図×楽曲×DJ×顧客参加)
 ⑥ 五感コンダクター事業
 ⑦ AUI(オーディブル・インターフェース)事業
 ⑧ 「音・音楽」事業のホップステップジャンプ提案
 等々が想起され、それらに取り組み、幾つかの特許も取得しました。
在職中に、それらを展開できなかったことが悔やまれます。

⇒「能」(潜在的な可能性、別様の可能性)を見出すことで、「才」が動き出し、輝きだします。
それが、「巧み」「匠」に繋がっていきます。

■ 展開事例③: ピュアモルトスピーカー(第318夜)

 このコラムでは何回もとりあげてきた「ピュアモルトスピーカー」を取り上げます。
ポイントは、「能」(潜在的な可能性、別様の可能性)として、サントリー社の廃材となるウィスキー樽が、「スピーカーのキャビネット」にならないかという妄想・置き換え(「才」)です。


 この「匠の目線」が、「エコロジー×エコノミー」として多くの「賞」をいただくきっかけになりました。
「能」は、私たちの周りにいっぱいあります。

 さて、ウィスキー樽は、樹齢100年のオーク材を使用していますが、だいたい50年でウィスキー樽の役目を終えてしまいます。木材(「能」)としては、まだ50年使えるのです。
これもヒット商品になった「物語」です。
 ただ、スピーカーに使われる音響ユニットは、8年間の保証しかしていません。樽材キャビネットとしては50年間使えるのに勿体ないのです。

それで、社長とスピーカー事業部長に、
 「あと、50年間使えるオーク材キャビネットなので、音(おと)が少し変わっても、50年間保証する音響ユニットの仕組みをつくりたい」
と申し入れをしました。
 それまで多くの「スピーカー」が、「大量生産」という名目のもとで、使い捨てだったのです。(環境性)
時代は、大量生産・使い捨ての時代から、「エコロジー×エコノミー」の時代になっていました。(社会性)

・家庭の「お宝」になる「ピュアモルトスピーカー」は、スピーカーユニットを50年保証します、と。

・それは、「ピュアモルトスピーカー」だけに限らず、ユニットを取り付ける位置も業界で統一して、使い捨てではなく長く使える商品にする。
・それが、「オーディオ業界」の盟主がやることではないですか。
・そのことによって、修理等も受け付ける「静脈産業」の盟主に先駆けてなれる可能性もあります。
・これまでの「動脈事業」と「静脈事業」を結んだ二刀流になります。

 結局この提案は通りませんでしたが、もしも進めていれば「新しいスピーカー事業(文化)」や「サントリーとパイオニア」の次世代コラボレーションが誕生していたと思います。(そのような企画書を用意していました)


 ここでお伝えしたかったのは、「能」(潜在的な可能性、別様の可能性)と、それを引き出す「才」の関係です。人間側に、引き出そうとする気持ち、志、情熱がなければみえてきません。
そして、「構想」「行動」につなげること。

 是非、「ご自分や社員、学生」及び「会社や地域」の「才」と「能」と「匠」を紐解かれてみてください。
 
 いま、日に日に「経済環境」、「社会環境」、「文化環境」の結び目をみつける重要さが増しています。それはつまり、「経済力」「環境力」「社会力」「文化力」の最適な組み合わせが要請されているということです。
そこに必要なのは、「才」と「能」と「匠」です。

⇒その「匠」の別格の人を『師匠』『巨匠』といいます。

是非、たくさんの方たちに、「才」と「能」を結びつけて、「匠=イノベーター」への道筋を歩んでいって欲しいと思っています。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ