橋本元司の「価値創造の知」第344夜:発表:『日本の再成長』を構想・図解する -1/2

2025年1月22日: 「日本再成長の構図」と「ジャポニズム(日本様式)」

 前夜に、「航海の時代」は、日本が失われた30年を取り戻し、本格的に『構想(=未来をどうしたいか)』を掲げて、新たな転換のためにギアチェンジを図り、行動・実践する時代です。ということを記しました。
 その想いとこれまでのコラムの流れで、 本夜は、正面から「日本の失われた30年を取り戻すための『構想』」をシナリオプランニング(第15夜、第147夜)を使って、図解と共に綴ってみます。(その一部はすでに、セミナーや企業ご支援等でお伝えしています)


 この内容は、「非常識」ではなく「未常識」(第29夜、第319夜)です。
「未常識」の発表には、「変わりたくない既得権者」からの、非難・反対・軋轢が必ずあります。それを乗り超えることを複数体験してきました。
そのような人たちによって、「成長」が阻害されたり、遅れたり、潰されたりしない時代にしたいですね。
 それでは、順を追ってお伝えします。

■失われた30年: 日本経済低下の現状認識、問題意識

 いまの日本経済の環境を見てみましょう。
・世界における日本の一人当たりの名目GDPの低下(34位:2023年IMF統計)
・国際競争力の低下
・空洞化
・財政収支の悪化(巨大な財政赤字)
・止まらない人口減少
・円安
等々

→つまり、日本の「稼ぐ力」が継続的に、相対的に減少していることが大きな問題です。

■「欧米に追いつき追い越せ」からの脱却・転換

 前夜に綴った日本高度成長期の「鉄道の時代」は、欧米のお手本がある中での、「やり方(How)」・「オペレーション」をいかに最適化することで成長できた時代でした。
私はそれを前職パイオニア社(製造販売業)で体験(1977年~)してきました。
 そして、バブルが崩壊(1991~1993年)し、「失われた30年」に突入しました。

 ここでの認識は時代のフェーズ(段階、局面)が変わったということです。
 1980年代からの日米経済摩擦、そして、前夜でお伝えしたように製造現場が賃金の安い国(中国をはじめとするアジア諸国)に移動しました。
グローバル化による日本の「空洞化」です。

 高度成長期と違う一番の問題は、目指す「お手本」がなくなったということです。そして、世界がフラット化しました。
このことの意味するところは、従来の「やり方/オペレーション」が賞味期限を終えていて、将来の成長の「あり方」を考え、実行に移さなければならない時代になったことです。

 経営の「あり方」と「やり方」については、第321夜、第333夜に綴りました。
「経営」の“経”という字は、縦糸のことを表しています。“経”という縦糸(あり方)と“営(いとなむ)”の横糸(やり方、行動)で織物が紡がれます。
つまり、経営というのは、“経”という縦軸と、“経”という横軸で成立しています。

 日本の高度成長期の「鉄道の時代」は、横軸の「やり方(=How)」を最大化した時代した。
「お手本があり、どうすれば成長できるか」が分かっていたからです。
つまり、その時代は、縦軸の「あり方(=Why・What)」を考えることをしなくて良かった時代です。

 しかし、「お手本」のない時代は、自ら、新しい成長の「あり方」を探求・発掘しなければなりません。
さきほどの、「縦軸(あり方:Why・What)」と「横軸(やり方:How)」を見ていただければ、縦軸方向に『立つ』ことの必要性が見えてきます。
これが、第342夜に綴った「気立て(想像力)・見立て(構想力)・仕立て(創造力)」のことです。
 いま、この3つの『立つ』ことが求められているのです。
これまでの教育の「平均主義的な仕組み」の土台からの、抜本的な変革が必要なことはお分かりいただけると思います。

明治という時代は、『立つ』(立国・立志・立身・立憲)時代でしたが、失われた30年を負のバネとして、「令和」が『立つ』ことを担う時代です。

 そのため、新価値創造研究所(2013年設立)は、「価値創造」・「イノベーション・ジャンプ」という「立つ」ことに重点を置いて活動してきました。(第338夜)

■「立つ」を「SDGs成長経営」で実現する

 2015年、私は『立つ』を世の中に実践するためには、

・「SDGs成長経営」(第281夜)

 を「企業や自治体」に伝授するのが最適ではないか、と思うようになりました。

 「企業・地域」が再成長するための大要素は、『社会課題の解決』にあります。それは、誰からも大きな「共感」を得られるので成長に向かいます。
「目的:何のために行うのか?」の実現です。(「パーパス経営」が脚光を浴びているのはそのためです)

 本業(企業・地域)を本格的な『社会課題の解決』との交錯・飛翔に向かわせるのです。

 片手(半分)には、その志・情熱・数寄(第331夜)を持ち、もう片手(半分)には、実現する手段を持つという姿・状態です。
そして、その異質の二つを交り合わせることで化合物(価値創造)を創る。

・「本業×SDGs(17の社会課題)」

 から醸成される「価値創造(事業の目的)」「イノベーション(目的の実現」(第309夜)です。
これが、「SDGs成長経営」の公式です。
 従来、「社会課題の解決」は、プロフィット(利益)ではなく、コスト(費用)として考えられていましたが、「本業」と「社会課題」を両立させてプロフィット(利益)を出す時代に突入しています。

 昨年9月に、上記の構造と具体的をまとめたもの(を
・「川崎市主催SDGsバリューアップ経営セミナー」
・「京都銀行定例講演会」
 で、講演(第340夜)してきました

■ 日本再成長の要素

 日本再成長の要素を二つ(半分と半分)に分類します。
多くの要素の中から、シナリオプランニング(第15夜、第147)を活用して、日本の再成長と継続に、最も影響を与える明滅する項目をピックアップしました。

A.半分:社会課題(危機の認識)
 1.地球沸騰危機(人類の生命の危機)
 2.エネルギー危機(石油に頼れない)
 3,人口減少危機(少子高齢)

B.半分:テクノロジー(明滅している予兆)
 1.AI/量子もつれ(キュービタル):本郷バレー
 2.IOWN構想(ナチュラル):オールフォトニクス
 3.自動ロボット(コントロール)

 この選出した[AとB]が「2+1(ツープラスワン)」(第312夜)の左と右の半分となります。
これを展開し、推し進める方法に下記「C」という方法を入れ込みます。

C.「日本の方法」:「独自のルール」と「メディアミクス」
 1.コードをモード化(日本様式化)する:第119夜、第144夜)
 2.テクノアニミズム(機械に生命が宿る:八百万の神、無常、小さきもの)
 3.デュアル・スタンダード(2つの価値を行ったり来たりするような矛盾を残した仕組み):第308夜
 4.未完成(負、余白)の美学(枯山水、松林屏風等):第149夜、第207夜
 5.匠と長屋的共同体同一性(チームワーク):第144夜
 6.親しいガラパゴス(日本が日本のためにつくったものがヒットする)

 上記は、明治維新から続けてきた「西洋化」から脱却するために、もともと持っていた「日本の方法(知)」であり、現状を打開する「第3の方法」(第324夜)の一部です。

 例えば、「1.コードをモード化(日本様式化)する」ですが、
 「外来のコード」をつかって、これを日本文化にふさわしい「内生のモード」に編集しなおす、植え換えをするという方法が脈々と受け継がれています。
古代から、 日本は外国から「コード」、いわゆる文化や技術の基本要素を取り入れて、それを日本なりの「モード」(「仮置きの文化」や、「苗代」のような小さいエージェントを作る能力)にしていく、様式にしていくということが、たいへん得意な国だったのです。
 重要なことは、『外からのコード(基本要素)をそのまま受け取らずに、自分の中で編集してモード(様式)化』していく能力を持っているということです。

 →「わかる」方たちには、わかるのですが、多くの方たちには、それがどのように[A]と[B]に紐づくのかは「わからない」と推察します。

■ 上記A・B・Cを「2+1」(第312夜)に組み込む

 これが、私がシナリオプランニングで洞察した「日本成長の構図(公式)」です。

この「構図」が、日本の成長を牽引していくことを、皆さんも「想像→構想→創造」されてみてください。 

・[A]と[B]の共通項を抽出して、「漠然」ではなくて、「渾然一体」で掛け合わせるという「匠の技」です。
 その方法は、第308夜から前夜まで綴ってきました。
・そこに、[C:日本様式]というフィルターを入れて、「編集」することがポイントです。

 その「方法の知」の真髄と別格の方法を、未詳俱楽部等で「松岡正剛師匠」から受け取ってきましたが、その著作や放送を下記紹介します。
・日本という方法
・プランニング編集術
・連塾 方法日本Ⅱ「詫び・数寄・余白」
・日本流
・日本力
・日本問答
・日本文化の核心
・匠の流儀
・別日本で、いい
・参考:世界サブカルチャー史 欲望の系譜 ジャポニズム編(松岡正剛)

  上記の内容と「方法の知」については、もう少し具体的な内容を次夜に綴ります。

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