橋本元司の「価値創造の知」第348夜:「2軸で考える」

2025年2月27日: 「2軸思考」・「両立思考」
「価値創造(目的)とイノベーション(方法)」(第309夜)の二つはコインの裏表であり、その本質は「異質なものを自分の内部に導入して、一段高い次元での解決策(新バージョン)で成長する」ことにあります。そこで本夜は、その異質なもの同士を「両立・ジャンプ」させる考え方と方法ををお伝えしたいと思います。

■ 『二つでありながら一つ』(両立思考)

 価値創造の知「第308夜」から「第347夜」を読み通していただくと、
・『二つでありながら一つ』(第33夜、第175夜、第347夜)
 という『両立するコト・交じり合うコト』が重要な「キーワード」・「思考軸」であることがおわかりいただけたと思います。
either・どちらか一方という「OR(△△あるいは□□)」ではなく、both・両方「AND(「○○と○○」)」です。

「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一翁(第276夜)は、約500もの企業を育て、同時に約600の社会公共事業にも関わりましたが、そのコンセプトは、「道徳経済合一」です。
それは、「経済」と「道徳」を両立するということです。
「論語(道徳)と算盤(経済・利益)」という「AND(「○○と○○」)」の本を著していますが、

『道徳的な商売が一番儲かる』

 と語っています。
 「論語(道徳)か算盤(経済・利益)」という選択ではなく、「論語と算盤」で両立させることが、価値創造であり社会に役立つということです。

 「論語と算盤」で両立モデルが、このコラムでは何回も取り上げてきた「SDGsビジネスモデル(第275夜、第310夜」です。
これも[「本業」と「17の社会課題」]を統合「2+1(ツープラスワン)」(第312夜、第339夜)することで、成長経営に脱皮するメインビジネスモデルであることを紹介してきました。

 また、このコラムでよく取り上げる「ピュアモルトスピーカー」(第36夜。第318夜、第340夜)は、[「サントリー社(ウィスキー樽材)」と「パイオニア社(音響)」]の「2+1(ツープラスワン)」(第312夜、第339夜)ですが、「片方」だけでは生まれない異業種コラボレーション事業です。
「YOASOBI」の二人も同じ構図ではないでしょうか。

 その流れで、一番イメージが浮かびやすく、納得できる事例が「赤ちゃん」です。
異質同士の「男と女」から「新しい生命」が誕生します。
“二つでありながら一つ”の体現です。

  前夜でもお伝えしましたが、
『禅(ZEN)』の修行で一番大切なコトは何だと思いますか?(「禅マインド」から加筆引用)
 座禅の姿勢は、「結跏趺坐(けっかふざ)」という右足と左足を組んでいますね。
この姿勢は、『二つではない、一つでもない』という「二元」性の「一者」性を表わしています。
それは、「二つ」にならないということにあります。
一番大切な思考は、“二つでありながら一つ”ということです。 
 

■ 自ら「余白」をつくる

 さて、私が1970年後半から関わってきた「音響事業」「家電業界」「クルマ業界」は大きく様変わりしました。
・万物はいつも流転(るてん)し、変化・消滅がたえない「諸行無常」です。
 後述(「二者択一以外の道))しますが、「量」が、一定の水準を超えると、「質」が劇的に変化します。(第10夜、第11夜、複雑系)

 グローバル主義もトランプ大統領の登場で終焉に向かっているように思います。
日本の人口動態も、高度成長時代のピラミッド型から、現在は、逆ピラミッド型に移行しています。
人口減と少子高齢化です。これは一例ですが、それまでの「質」(第347夜)が変化して様々な問題が発生しています。
 年金、医療、学校、地方行政や、昨今問題が出ている上下水管メンテナンス、そこで生じる行き詰まり等々が大きな課題です。
(その事例は、「二者択一以外」の道で後述します)

 問題の大小にかかわらず、仕事や人生、社会等で、誰でも大きな行き詰まりに出くわします。
そんな時は、「余裕」「余白」や「新しい視座」が見つけられないことが原因であることが多いのです。
 前職パイオニア社時代の40歳頃、「行き詰まりの悩み」を松岡正剛師匠(第308夜)に相談すると、
 ・有意義な『余白』を意識して見つけるコト(第89夜)
という指南、アドバイスをいただきました。
 その指南から、自分の使命となる「価値創造の知」の3つの余白(第88夜、第333夜、第347夜)が生まれました。

■ 「2軸思考」・「デュアル思考」(第346夜)・「バロック思考」

 行き詰っている時に、有意義な「余白」を見つける方法をお伝えします。
(これは、ビジネスでも人生や様々な創生で有効です)

 前夜でも、その中の本質的な方法の一つである「やり方とあり方」(第321夜、第333夜、第347夜)を図解しました。
「やり方」で行き詰った横軸だけでは、「余白」は生まれません、(多くの会社がこの状態にあります)
新しい「あり方」という「縦軸」を通す(立てる)と「4つの象限」が立ち上がります。
(「あり方」というのは、「新しい目的:第333夜」をつくることです)
二つの軸に、それぞれ「現在(過去)」と「未来」を記入してみてください。

 それが、図解「成長経営マトリクス」になります。

・本業(既存事業)⇒開発(右下)⇒開拓(左上)⇒業際(右上)
 というステップです。
多くのご支援(企業創生、地域創生)で活用して成果を上げてきました。
ポイントは、既存の象限から逸脱することです。
(切実→逸脱→別様:第333~334夜)
 参考に、「健康をはかる」から「健康をつくる」へシフトされた「タニタ」(第245夜)のマトリクス(新価値創造研究所作成版)をアップします。

 上記は、「有意義な余白」を見つける肝要な方法ですが、後述の有効な方法もありますのでそれを綴ります。

■ 「有意義な2軸」

 「あり方」と「やり方」以外の2軸を上げてみます。

・「世界(時間)」と「世間(空間)」
・「時間軸」と「空間軸」
・「タテ軸」と「ヨコ軸」
・「垂直思考」と「水平思考」
・「コード」と「モード」
・「変化」と「安定」
・「効能」と「効率」
・「東洋思想」と「西洋思想」
・「既存事業」と「戦略事業」
・「イノベーション」と「オペレーション」
・「デュアルスタンダード」と「ワングローバルスタンダード」
・「テクニカルポイント」と「アーティスティックポイント」
・「バロック」と「ルネサンス」
・「デジタル」と「アナログ」(⇒「キュービタル」)
・ Others

 上記は、個人ご支援、企業ご支援、地域ご支援の際の「基本型」です。
ご支援に伺うと、二つの内のどちらか一方は気に留めないていない、アプローチしないことが多いのです。
 第337夜に詳しく記しましたが、「鉄道の時代(オペレーション型)」はそれでもよかったのですが、今の「航海の時代(イノベーション型)」はこれまでの「枠」「制限」を超えることが求められています。
 是非、「もう一つの軸」をピックアップして、2軸をクロスして取り組まれることをお薦めします。

 さて、とっても参考になるのが、「価値創造の知・第324夜」にマザーハウスの山口絵里子さんが挑戦された「2軸」です。
検討・具体化される際のヒント満載です。
●「途上国」と「世界」
 ⇒「途上国から」と「ブランドをつくる」
●「大量生産」と「手仕事」
 →手仕事を“効率的”にやるには?
●「社会性とビジネス」
●「デザインと経営」
●「個人と組織」
●「グローバルとローカル」
 異質な二つの両立に、果敢に挑戦されて「Third Way」として成果を上げています。

 山口絵里子さんのコメントを記します。
・『今年、来年の数字を見る姿勢では何も生まれません』
 私たちは、ついつい「妥協点を探る行為」を求めがちだけれど、きっとそれだけでは消耗していく。
私は両者の交差点で生まれるアイデアや共感、相互作用が『もう一段高い次元での解決策を、広く社会に提供するもの』であると信じている。
 何より、その方が楽しい。ワクワクする。無理がなくて、長続きする。
だから、サードウェイという考え方を一人でも多くの人に知ってほしいと強く思った。・・・

■「間(ま)」を上手に使いこなす

 2軸があるということは、「間(ま)}(第17夜、第311夜)が発生するということです。
どちらかを選択するという二者択一ではなく、重層的に双方を両立させていく方法を日本は持っていました。

・モノとコト
・天皇と将軍
・公家と武家
・金決済と銀決済
・神と仏(神仏習合)
・冥と顕
・浄土と穢土
・善と悪
・ウツとウツロ
・空(クウ)と色(シキ)
・男と女
・てり(照り)とむくり(起り)
・平仮名と片仮名
・記号(コード)と様式(モード)
・Others

 二つのAIDAの絶妙な「間(ま)」をつくることがポイントです。
それについては、第311夜(間をしる)に綴りました。
 正剛師匠は、「(異質な)二つのものを関係させることは、それが遠いものほど価値が生まれる」と言われていました。
(対角線を折る、斜めに見るという「編集」の方法については、いつかこのコラムで綴ります)
 本来の日本の方法は、一対(二つ)のものを両方活かす(デュアルスタンダード)ことが優れていたので、日本人と「間(MA)」とのつきあい、相性は抜群です。
日本人は、既存の二つのもの(第310夜:半分と半分)を両方活かすという特性、センスがあるのです。
 どちらかを選択するのではなく、両方を活かすことを『2項同体』といいます。「二者択一」ではない、この把え方を習得することが肝要です。
それらを「バロック(二つの焦点=楕円)で見る」、「デュアルに見る」という言い方を正剛師匠は言われてました。
(真円は「ルネッサンス」、楕円は「バロック」。二つの焦点があることで、動的になります)

 価値創造&イノベーションとは、「既存の組み合わせ」によってできる1ランク上が生じた新しい全体(魅力・価値)です。(第308~310夜)
「既存の組み合わせ」「2軸の組み合わせ」というイノベーションを挑戦することによって、企業人、行政人や学生にとって最も有益なことは、
「既存の異質の組み合わせで、自分オリジナルの思考や考えを持つことができること、そして、その成果に自信を持てること」
にあります。

■参考:「二者択一以外」の道(第29夜)

「常識の非常識」(山本七平著)より加筆引用します。

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・・・日本に、カモシカ問題がある。同じようにどの国でも、絶滅に瀕した動物を保護すると、急速に増加するが、今度はその動物による食害問題が起こる。

すると、保護をやめて一定数以上は射殺・捕獲すべきか、あくまで保護すべきかが当然問題になる。日本でも檜の苗木をばりばり食べられてしまえば、山林業者にとってはカモシカは害獣ということになるであろう。保護を続けるなら、山林の保護をどうするか、業者への損害保障はどうすべきかが当然問題になる。

そして、こういう場合、議論はしばしば保護か、捕獲・射殺かの二者択一になりやすく、多くの場合、両者とも自説を固持して譲らないという対立になりやすい。

これはすべての問題についていえる。環境問題、貿易問題、また企業内の問題、各人の抱える問題、そのすべてについて、問題が二者択一のように見えてきたら、そのいずれでもない「第3の道」があるのではないか、ともう一度、探索してみる必要があるのであろう。・・・
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 上記には、ビジネスのイノベーション・価値創造の本質が記されています。
・「量」が、一定の水準を超えると、「質」が劇的に変化する(第10夜、第11夜、複雑系)
・「矛盾」とは、発展の原動力“矛盾の止揚”である(第15夜、第17夜、第18夜)
この「質への変化」「矛盾の止揚」の視点・視座を柔軟に活用できることが、創造性「クリエイティブ&イノベイティブ」(第1夜)への本筋です。

ただ、実際の現場では、それまでの「常識」で成功した人達や組織が存在して権力(既得権)を持っているので、新しい「常識」に移行するのが遅くなったり、困難になることがあります。若い人たちのは、大きなジレンマ・ストレスになっています。
 そこで重要になるのが、不易流行(何が変わって、何が変わらないのか)という認識です。
「不易流行」(第34夜、第245夜)の「不易」と「流行」を両立することがポイントです。

 「両立する」ことは、とても労力がいる、骨がおれるですが、それがそのまま「価値創造」につながります。
これが、令和の時代に私たちが取り組む「生きる道」です。
 「企業」「学校」「地域」の多くの場で、上記をお伝えしています。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第347夜:本質とは何か?洞察力とは何か?

2025年2月12日: 洞察力とは「本質」を見抜く力、見通す力のコト

■「本質」と「洞察」
 「本質」という言葉が、より多くのTV放送等の情報メディアで使われるようになりました。
「これから先がどうなるのか」を読み解くには、表層情報ではなく、もっとその奥にある「深層の根源的なモノを把え、見抜くことが肝要である」というように推察しています。

 私は『本質』を把えるコトが大数寄(第331夜)人間です。
「本質」を把えることができると、モノゴトの動きや流れや未来の常識(未常識)が掴みやすく、視えやすくなることを実感してきました。

 情報過多の時代には、情報の見方や考え方の「要(かなめ)」が何かを見究めることが必要・重要になってきます。
表層の情報に惑わされることなく、根源の「要(かなめ)」となる「本質」を把えることが「価値創造」の出力に大きな影響を及ぼします。
私は、『本質』を深く把えたくて、35歳の時に「瞑想」や「禅」の門を叩きました。
何故ここで、「瞑想」「禅(ZEN)」のことに触れるかというと、それらが物事の「本質」を真正面から把える方法に繋がってくるからです。

 いま、スマホが私たちのライフスタイルに組み込まれ、自分の「目」が外に、外に向かっています。「目」の文化です「目」は自分の外側に向かっています。
「目」を閉じて、雑念をはらい、心を鎮めて、内に内に向かっていく「瞑想」「禅」は「耳」の文化、方法です。「耳」のカタチは、自分の内側に、心に向かっていきますね。
それが、「本質」に向かっていく「道筋」です。

 本夜は、「価値創造の知」の要(かなめ)となる『本質』と『洞察』を綴ります。

■「本質」とは何か?
 「本質」を把えるために反対からみてみましょう。
「本質」の反対は、現象、表象です。木で言えば、「枝葉」です。
・「現象」は、外から見える「外面」「外身」「顕在」です。
 それに対して「本質」は、外から見え辛い『内面』『中身』『潜在』です。

 さて「本質」の「質」とは何でしょうか?
⇒「質」とは、物事が成り立つ「もと(本・元)」として考えられるもの。中身。要(かなめ)。
 もう一つの「本」とは何でしょうか?
⇒「本(元・基)」とは、物事がそれによって成り立つ(大事な)所。それを生ずる初めの部分。

 双方、同じ様なことをいってますが、その「本」と「質」の二つを合わせた「本質」とはいったい何でしょうか?
⇒「本質」とは、「そのものとして欠くことができない、最も大事な根本の性質・要素」と言われています。

 それでは、その「本質」を更に突き詰めていくと何処に行きつくのでしょうか?
⇒「本質」とは、「大元(おおもと)」です。
 (「大元(おおもと)」については後述しますが、「瞑想」「禅(ZEN)」は、「大元(おおもと)」につながることが目的の一つです)

「価値創造の知」においては、
⇒「本質」とは、将来の「本筋」「本流(別流)」をつくる「大元(おおもと)」「源流」になります。

■「瞑想」「禅」と「大元(おおもと)」
 「大元(おおもと)」の領域は第333夜に図解しました。(新価値創造研究所オリジナルです)
 「イノベーションの時代」は、「潜在意識」「空意識」の下部を“探求する”“創(きず)つける”“掘り当てる”ことが求められます。(第332夜)
上述のように、自分は35歳の時にビートルズにも影響を与えた「マハリシ・ヨッギの超越瞑想」の門をご縁によりたたきました。(第6夜、第33夜)
そこに入って驚いたのは、大手の企業経営者が多く集ってことでした。彼らは、「心を空にする」ことで経営の方向性や生き方を見出しているようでした。(空即是色)

そう、そこでは雑念をなくす、私心をなくすことを体得して、大事なコトは何か?そして、大事なものにつながることを体験してきました。
「体性、知性、心性」を澄まし、磨いたことが自分の将来に大きな影響を与えました。

 『禅(ZEN)』の修行で一番大切なコトは何だと思いますか?(「禅マインド」から加筆引用)
 座禅の姿勢は、「結跏趺坐(けっかふざ)」という右足と左足を組んでいますね。
この姿勢は、『二つではない、一つでもない』という「二元」性の「一者」性を表わしています。
それは、「二つ」にならないということにあります。
一番大切なコトは、“二つでありながら一つ”ということです。
これまでずっとお伝えしてきた「2+1(ツープラスワン)」(第312夜)のことです。

 「空・虚・大元(おおもと)」の意識領域で、「あり方・あり様(第333夜)」(⇒核心)とつながると、
それが、ミッション(第89夜・使命:何に命を使うか)になります。
そこから、「新しいやり方」「新しい現実」「ビジョン」(⇒確信)が見えてくる。
それを実行・実践するのが「イノベーション」(⇒革新)という流れです。
 
これが、「核心」→「確信」→「革新」(第332夜)という「イノベーション」の流れです。

 さて、上記の「空・虚・大元(おおもと)」掴む感覚は、お寺(禅宗等)の「坐禅の会」などに参加するのも一つの手です。
「坐禅」「瞑想」を行ずると、最初は「雑念」がいっぱい湧き出てきます。それを次々に「無」にしていくのです。(=空じる、行じる)
「無」というのは、「ナイ」「ナクス」のではなく、「雑念」が湧き出てきたら、心・意識の遠くにはらう、「空じる」のです。
それに慣れて繰り返していると、心の中の雑念である「ポカリスエット」の様な「濁り」が徐々に消えてきて、透明に近くなっていきます。(第235夜)
引いて、引いて、心を澄ませていって、「大元(おおもと)」に辿り着いていくのが初歩の行(ぎょう)です。

■「本質」「大元(おおもと)」の図解

 この説明は言葉ではなかなか伝わりづらい、響きづらいですよね。
そのため、それをビジネスワークショップでは、「観察」を通した「旭山動物園」等の複数の分かりやすい演習で疑似体験していただいてます。(第28夜、第333夜)(SDGs経営塾 第6回)

[左上領域:これまでの現実、常識、目的]
・2000年、動物園の来園者数は右肩下がりでした。
・珍獣、奇獣の「パンダ」や「コアラ」で、何とか来園数を上げる「やり方」でしのいでいましたが、それでも右肩下がりでした。
[下部領域:大元・空・虚]
・ここに、旭山動物園の坂東元・獣医係長(後の園長)が登場します。
・普通の動物の“命の大切さ”を子供たちに伝えたい(=あり方、在り様、未常識)
[右上領域:新しい現実、新しいやり方、新しい目的]
・形態展示から行動展示へ
・SDGs対応

 ここで重要なことは、経営の“あり方(目的)”が変わることで、“やり方(手段)”が変わることです。
それまでの「形態展示」から、「普通の動物の“行動展示”」というやり方に転換しました。
そのことで、右肩下がりの来園者数が急激な右肩上がりになり、旭川市を含めて経済価値(利益)が上昇しました。

 旭山動物園が掲げる永遠のテーマは、「伝えるのは命」です。

そこには、元係長の坂東園長が獣医として“動物の命”の大切さにずっと寄り添ってきたことが込められています。そのテーマによって、これからの時代の主役になる子どもたちが、「動物たちの未来」や「地球と自分たちの未来」を真剣に考える場所になっています。

 この演習に、「価値創造」「成長経営」の大きなヒントがあります。
「経営」の“経”という字は、縦糸のことを表しています。“経”という縦糸(あり方)と“営(いとなむ)”の横糸(やり方、行動)で織物が紡がれます。

経営が行き詰っている時は、それまでの横軸の業界の“やり方”が行き詰っていることが多いものです。是非、そのような時は、先んじて経営の縦軸の“あり方”(目的、道理、大元)に目を向けて、再定義することにトライされてください。

図中の「価値創造」の流れがみえてきたのではないでしょうか。
・行き詰まり → 大元・空・虚 → 新しい成長
・ 切実       逸脱       別様
・ 本気       本質      次の本流

■「洞察」とは何か? 

 前夜に『再成長』の構想」に必要になる3項目を綴りました。
2番目に『洞察』があります。
1.予測:未来がどうなるのか?
2.洞察:未来をどう見通すのか?
3.構想:未来をどうしたいのか?

 「未来の不確実性」に適応した「構想」の出来、不出来に最も大きな影響を与えるのが『洞察』のスキルです。
[1.予測]では、各々の業界情報や、様々なメディアからの「情報発信」等を合理的に理詰めで考える顕在意識の左脳活用が中心になります。
(前職パイオニア社では、2年間本社で調査課の課長も兼務していたので少し得意です)
[2.洞察]は、未来という「不確実の洞」の奥底にあるものを見抜くこと、物事(対象)の本質を見通すコト、見抜くコト、見究めるコトにあり、潜在意識の右脳活用が求められます。(右脳活用に、「瞑想」「禅」が有効です。右脳と左脳が統合・相乗すると出力が大きくなりますね)
[3.構想]は、「2+1(ツープラスワン)」(第312夜)です。[1.予測]という「方」と、[2.洞察]という「方」が交じり合って、[3.構想(右脳×左脳)]という一つ上のレベルに飛翔(イノベーション)するのです。

 ここでお判りのように[1.予測]領域では、「情報」に大きな差が生まれまないことがわかります。
[2.洞察]のステージで、対象(モノゴト)の『本質』を見通すコト、見抜くコト、見究めるコト、が「価値創出」「構想」に大きな影響を及ぼすことを実務やご支援で経験してきました、
『才能』について第340夜に綴りましたが、対象の[能]にある可能性を、人間側の[才]が引き出すコトをお伝えしました。
本質を見通す、見究める「才能」が『洞察力』です。

 つまり、
⇒『洞察力』とは「本質」を見抜く、見通す力です。

■「3つの洞察力(=3つの知)」

 激変するビジネス環境の中、私たちには新しい時代に適応した発想・構想を生み出すことができる「イノベーティブ・スキル」が求められています。
そのスキルが、
 ①人を読み(Insight)
 ②先を読み(Foresight)
 ③新しい全体を読む(Gestalt)
という「3つの洞察力(=3つの知)」(第89夜、第128夜、第333夜)から発想・構想を生み出す「価値創造技術(エンジニアリング)」です。
その原動力となるのが、上記①②③の「本質」を見抜く、見通す『洞察力』です。

 その価値創造の原動力となる「洞察力」には、3つのベクトルがあります。
つまり、3つの「洞察力」があるということです。
この「3つの洞察力」を習得・駆使していただくのが、人財育成の肝(きも)になります。

 それは、「人間(じんかん)」「時間」「空間」という『間(かん)』・『洞』の中にあります。
「洞察力」は、その3つの『間(かん)』を「表象・現象・る外面」から「見えていない根っこ(根源)、核心、大元」まで見抜いていく力です。
それでは、「人間(じんかん)」「時間」「空間」を紐解きます。

 あらためて、『洞察力』とは、
 ①「人間(じんかん)軸」インサイト(INSIGHT):深く人を読む(最も大切なコトを見抜く):第85~86夜、第89夜
 ②「時間軸」:フォーサイト(FORESIGHT):高く未来を読む(未来に向けた先見性)第87~88夜、第89夜
 ③「空間軸」:ゲシュタルト(GESTALT):広く全体を読む(新しい全体をつくる):第83~84夜、第89夜
という三つの軸にあるそれぞれの「本質」を突き詰めて体系化することです。(第21夜)
すると、「価値創造」のイメージが浮かび上がり、それらが交じり合い選定ができて『構想』が立ってきます。
これが「見立て」(第343夜)です。

 具体的には、図にある様に、従来の既知の常識の領域を『3つの洞察力』で超えて『3つの赤枠』(第89夜)を探求し、ゲットすることにあります。
それは、従来の常識に把われた考え方ややり方を手放し、殻を破って、その先にある「本質」「内面」「赤枠」をつかみとろうと本気になることです。
「価値創造」における「本質」は、通常の常識の枠を超えたところに「潜んでいる」ので、簡単には「姿」を現してくれません。
なので、「切実」「逸脱」が不可欠であることを、何度も繰り返し綴ってきました。

■ミッション・ビジョン・イノベーション(第89夜)

 ビジネスで最も大切なコトは、『本質的な違いと共感』を生み、創ることを第82夜に綴りました。
それから第88夜に亘り『本質的な違い』を生み出す3つの抽象化能力(『深い知』『高い知』『広い知』)について、その構造と方法を明示しました。

それは、従来のやり方、考え方、常識を超える方法です。そして、その方法は、決して特別なものでなく『革新』を起こすために様々に使用されてきた価値創造の『知』です。
ただ、それを構造としてまとめ、トリニティイノベーション体系(第67夜)として、3つの関係性を明確にしました。(第77夜)

 その図解をご覧いただくと直ぐにおわかりいただけると思いますが、赤い枠線(▽・〇・◇)の中が「空白・余白」になっています。そうなんです。課題や対象に向けて、意識的に『空白・余白』を設定することで、そこの中身をしっかり洞察し、イメージングすることになります。

ビジネスの「行き詰まり」というのは、余白(=新しい可能性)が思い浮かばないことです。
でも、クライアントのお話しに耳を傾けていると、「自ら制約を設けてしまって、モノゴトの見方や視座を狭くしてしまっていること。そして、本当はこれまで通りにして、変わりたくないこと」を感じます。

その『制約』や『常識』の殻を丁寧に剥がさせて貰って、下記3つの余白から、新しい補助線を差し上げた時に、そこにはワクワクする視界が広がっていることを認識される喜びを数多く経験しています。

さて、「3つの知」を進める順番なのですが、『深い知(人間軸)』⇒『高い知(時間軸)』⇒『広い知(空間軸)』で行うことをお薦めします。

『深い知』は、事業の再定義につながり、ミッション(使命)を生み出します。自分達が何に「命を使う」のかに関わってきます。当然、ワクワクするものに命を使いたいですよね。それは第85~86夜に綴りましたが、大元(おおもと)に戻ることです(=色即是空)。そのために、違う業種業態の幾つかの納得する分かりやすい事例をお示ししています。禅や瞑想の方法もお伝えします。

 茶、枯山水、わびさび、俳句に代表される、『深い知』へ至る方法は、日本人が本来得意とするものです。是非、自信をもって挑戦してください。
それらのヒント、演習を体験した後に、「自らの課題・問題」のテーマに当てはめると、今までの制約・常識と異なるワクワクの新しい風景が見えてきます。それが、船でいう錨(アンカー)です。

 実際のご支援プロジェクトでは、ここまでで30~40%の到達になります。場合によっては、50~60%を超えることもあります。

 次に、ワクワクする拠り所・錨の元に『高い知』のステップに移ります。
その詳細は、第87~88夜に綴りました。『高い知』のポイントは、「温故知新(故きを温ねて新しきを知る)」です。現在と過去を豊かにすることが将来を豊かにすることに繋がります。それがないままに、未来に向かうおうとするので失敗することが多いのです。

「故き」をどこに設定するのかも重要です。この設定がこちらの腕の見せ所になります。それは課題をお聴きし、現在の変化の元(もと)がどこにあるのかを一緒(デュアル)にして捉え編集するのがコツです。そのために、『深い知』『高い知』の多くの経験が必要です。

プロジェクトでは、『高い知』の、複数の分かりやすい事例を提示し、ビデオも数本見て観察いただき、演習で慣れていただき、自らのテーマ・課題に向かうと目指す将来の姿が見えてきます。これが『ビジョン』となります。

これが、船・航海で例えると、「北極星」を見つけたことになります。そして、『深い知』からの新しい形(世界と世間:第80夜)を見つけることに繋がります。(=空即是色)
私自身が、複数の将来を捉えるのが得意な「シナリオプランニング」のプロでもあるので、これが共有できると、プロジェクトは60~70%は到達したようなものです。
プロジェクトの「バリュー・メンバー」の参加者達の目が輝きます。

上記の『深い知』『高い知』を結ぶ軸が、ビジネスの新機軸になります。ミッションとビジョンがつながります。それをメンバーと一緒に、「シナリオマトリクス」「成長マトリクス」に展開して、其々一枚のシートにまとめます。将来を「見える化」「魅せる化」するのです。

そうすると、将来に向けてやらなければならない自分たちの不足が見えてきます。それを自分たちだけで捉えるのか、パートナーと異業種コラボレーションするのかの見極めが必要になってきます。外部コラボには、いい『ご縁』が必要です。

 ここの詳細は、第83~84夜の『広い知』に綴りました。『深い知』『高い知』と同様に、多くの事例をプロジェクトでご紹介し、これまで紹介してきた大三角形「新しい命・物語」を創る方法と心得をお伝えし、自分達でも扱えるようになってきます。

 前職の異業種コラボの「連続ヒット商品」で培った失敗と成功をお伝えすることも役立つようです。勿論、実行に移す時は、異業種連携のプロですので、実践のコラボレーションのお手伝いもします。この「広い知」が、新しい市場・文化・スタイルを創る「イノベーション(新結合)」です。

これまでの3つの余白を埋めることで、「ミッション」「ビジョン」「イノベーション」が三位一体でつながります。経営戦略の基盤が出来上がります。

 さてさて、本夜は「イノベーション実践」の秘訣をいつもより長く綴ってしまいました。
是非、ご活用ください。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第346夜:中堅・中小企業のためのReビジネス(再成長)と具体事例

2025年2月5日:「リオリエンテーション」の時代の展開事例
 前夜、前前夜と、大きなテーマである「『日本の再成長』を構想・図解する」を綴りました。
ここで必要になるのが下記の3項目です。
 1.予測:未来がどうなるのか?
 2.洞察:未来をどう洞察するか?
 3.構想:未来をどうしたいのか?
この「予測・洞察・構想」に手を動かし、心と脳と足を使うことが求められています。

■ 質問①:「自社の未来をどうしたいのですか」
 ・質問②:「あなたは事業・会社を伸ばすためにどのような努力をされていますか」

 是非、ペンを握って、白紙に書きだしてください。

 現場にいって、上記を経営者の方たちに質問すると、
・従業員による改善提案
・従来の「やり方」の改善
・新しい事業の元になって欲しい試作品やサービスの開発
 等々を聴かせていただけるのですが、

・「どうしたら事業・会社を成長させていけるのか」
・「やり方ではなく、自社の将来の“あり方”について」

 という『構想』(第341~344夜に記述)を描けていないことが大半です。
その原因と方法を第308夜から綴ってきましたが、
 本夜は、「3つのRe」の視点とセミナーで経営者からの反応が高い「具体的事例(:佐藤製作所)」(第314夜)をご紹介します。

■「リオリエンテーション:“進むべき方向”の抜本的見直し」(第147夜)

 1991年にバブルは崩壊し、日本経済は長期の経済停滞に突入しました。
その頃、妹尾堅一郎先生が「真の企業再生のための3つの切り口」を提唱・整理されていましたが、その切り口を参考に加筆引用します。
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「行き詰まりの打破や、新たな成長を目指して、企業再生に取り組む切り口は3つあります。
①リストラクチャリング
「構造」の見直しを意味しますが、企業を縦串で見た時に必要のない部門を削除するものです。
②リエンジニアリング
「機能」の見直しを意味しますが、企業を横串で見た時に必要のない仕事を削除するものです。
③リオリエンテーション
「進むべき方向」の抜本的見直しを意味します。
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 バブル崩壊(1991年)から、①リストラクチャリング、②リエンジニアリングについては、どの会社も取り組まれてきましたが「失われた30年」と言われる様に、
③リオリエンテーション(:進むべき方向の抜本的見直し)については、なかなか進まなかったのが現状です。

・「農業社会→工業社会→情報社会→脳業社会→○○社会」

 前夜(第345夜)に、上記の「社会の進展」と「3C(Computer、Communication、Control)」について綴りましたが、
待ったなしで、「工業社会→情報社会→脳業社会→興(幸)業社会」(SDGsシフト55「価値創造の知・第300夜記念」)に大きく移行(シフト)していくことが洞察されます。
 そして、次述する「後戻りしない変化:トランスフォーメーション」と本業の両立による収益化が成長するか、しないかの大きな分かれ道になります。

 そのような大変化の中で、
・「どうしたら事業・会社を成長させていけるのか」
 が中心の課題になります。

■ 「成長経営」の3つの視点

 その課題を解決するために、私の「成長経営セミナー」では、大きく3つの視点と方法でお伝えしています。
A.後戻りしない変化(トランスフォーメーション)
⇒2020年10月に、菅・元首相の所信演説で、下記GX、DXがこれからの日本の成長の柱であると表明して、大規模なお金が注ぎ込まれることになりました。
・SX(SDGs): サステナブル・トランスフォーメーション(=気候変動、人権等、17の社会的課題)
・GX:グリーントランスフォーメーション(カーボンニュートラル等)
・DX:デジタルトランスフォーメーション
 上記の後戻りしない変化であるトランスフォーメーション(SX.GX.DX)を、どう本業と「2+1」(第312~314夜)させるのかが重要になります。


 
B.「本業と社会的課題」の両立(=イノベーション)のよる価値創造
⇒上記Aの「SXやESG評価」(第257夜)に関連して、「“環境・社会・経済”の三位一体経営」への本格的取り組みが重要です。


C.「価値創造の3つの知」(第122夜、第149夜、第323夜)
⇒上記Bを具体化する方法が、「深い知・高い知・広い知」になります。
 図中では隠れているのですが、①②③の3つの赤枠の空白・余白を見つけることで、価値創造につながります。

■ 成長の具体的事例: 佐藤製作所(東京都目黒区)

⇒詳細は、第314夜をご覧ください。
 お伝えしたいことは、高齢男性だけの職場が、積極的に女性新入を採用し、活用し、活躍する環境をつくったことで、異なる能力を活用することで、「Reオリエンテーション」への道が拓かれたことです。

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 「(株)佐藤製作所(東京都目黒区)」は、令和3年度・東京都女性活躍推進大賞、令和4年度・第20回勇気ある経営大賞特別賞を受賞された会社です。
https://www.city.meguro.tokyo.jp/sangyoukeizai/shigoto/sangyou/satouseisakusho20210216.html 

金属加工、特に銀ロウ付け溶接の展開を得意とされている会社ですが、10年前は、連続赤字で倒産を考えられていました。 
取引先が5社(B2B)だった10年前から、現在は約500社(B2B、B2B2C、B2C)の取引先となり、7年連続の賃上げを実現されています。つまり、佐藤製作所は、「B2B(既知)」と「B2C(未知)」を両立されて成長している会社です。 
 10年前の倒産危機の『切実』から、全社員の反対を押し切って女性新入社員を採用し、活用し、活躍という『逸脱』を推進されました。


そのことで、『別様』の新しい事業展開の道が拓けました。
(現状は、10年前の高齢男性だけの職場から、現在は社員数16名のうち、半分が20代、6名が女性に代謝さています)

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・10年前の赤字状態が   「会社バージョン1.0」
・現在の連続賃上げ状態が、「会社バージョン2.0」
・これからの10年の経営が、「会社バージョン3.0」
という次のバージョンアップが楽しみな成長企業に脱皮されました。
 
成長の一手、道筋は、「切実→逸脱→別様」(第333~334夜)にあります。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ