2025年2月27日: 「2軸思考」・「両立思考」
「価値創造(目的)とイノベーション(方法)」(第309夜)の二つはコインの裏表であり、その本質は「異質なものを自分の内部に導入して、一段高い次元での解決策(新バージョン)で成長する」ことにあります。そこで本夜は、その異質なもの同士を「両立・ジャンプ」させる考え方と方法ををお伝えしたいと思います。
■ 『二つでありながら一つ』(両立思考)
価値創造の知「第308夜」から「第347夜」を読み通していただくと、
・『二つでありながら一つ』(第33夜、第175夜、第347夜)
という『両立するコト・交じり合うコト』が重要な「キーワード」・「思考軸」であることがおわかりいただけたと思います。
either・どちらか一方という「OR(△△あるいは□□)」ではなく、both・両方「AND(「○○と○○」)」です。
「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一翁(第276夜)は、約500もの企業を育て、同時に約600の社会公共事業にも関わりましたが、そのコンセプトは、「道徳経済合一」です。
それは、「経済」と「道徳」を両立するということです。
「論語(道徳)と算盤(経済・利益)」という「AND(「○○と○○」)」の本を著していますが、
『道徳的な商売が一番儲かる』
と語っています。
「論語(道徳)か算盤(経済・利益)」という選択ではなく、「論語と算盤」で両立させることが、価値創造であり社会に役立つということです。

「論語と算盤」で両立モデルが、このコラムでは何回も取り上げてきた「SDGsビジネスモデル(第275夜、第310夜」です。
これも[「本業」と「17の社会課題」]を統合「2+1(ツープラスワン)」(第312夜、第339夜)することで、成長経営に脱皮するメインビジネスモデルであることを紹介してきました。
また、このコラムでよく取り上げる「ピュアモルトスピーカー」(第36夜。第318夜、第340夜)は、[「サントリー社(ウィスキー樽材)」と「パイオニア社(音響)」]の「2+1(ツープラスワン)」(第312夜、第339夜)ですが、「片方」だけでは生まれない異業種コラボレーション事業です。
「YOASOBI」の二人も同じ構図ではないでしょうか。
その流れで、一番イメージが浮かびやすく、納得できる事例が「赤ちゃん」です。
異質同士の「男と女」から「新しい生命」が誕生します。
“二つでありながら一つ”の体現です。
前夜でもお伝えしましたが、
『禅(ZEN)』の修行で一番大切なコトは何だと思いますか?(「禅マインド」から加筆引用)
座禅の姿勢は、「結跏趺坐(けっかふざ)」という右足と左足を組んでいますね。
この姿勢は、『二つではない、一つでもない』という「二元」性の「一者」性を表わしています。
それは、「二つ」にならないということにあります。
一番大切な思考は、“二つでありながら一つ”ということです。
■ 自ら「余白」をつくる
さて、私が1970年後半から関わってきた「音響事業」「家電業界」「クルマ業界」は大きく様変わりしました。
・万物はいつも流転(るてん)し、変化・消滅がたえない「諸行無常」です。
後述(「二者択一以外の道))しますが、「量」が、一定の水準を超えると、「質」が劇的に変化します。(第10夜、第11夜、複雑系)
グローバル主義もトランプ大統領の登場で終焉に向かっているように思います。
日本の人口動態も、高度成長時代のピラミッド型から、現在は、逆ピラミッド型に移行しています。
人口減と少子高齢化です。これは一例ですが、それまでの「質」(第347夜)が変化して様々な問題が発生しています。
年金、医療、学校、地方行政や、昨今問題が出ている上下水管メンテナンス、そこで生じる行き詰まり等々が大きな課題です。
(その事例は、「二者択一以外」の道で後述します)
問題の大小にかかわらず、仕事や人生、社会等で、誰でも大きな行き詰まりに出くわします。
そんな時は、「余裕」「余白」や「新しい視座」が見つけられないことが原因であることが多いのです。
前職パイオニア社時代の40歳頃、「行き詰まりの悩み」を松岡正剛師匠(第308夜)に相談すると、
・有意義な『余白』を意識して見つけるコト(第89夜)
という指南、アドバイスをいただきました。
その指南から、自分の使命となる「価値創造の知」の3つの余白(第88夜、第333夜、第347夜)が生まれました。

■ 「2軸思考」・「デュアル思考」(第346夜)・「バロック思考」
行き詰っている時に、有意義な「余白」を見つける方法をお伝えします。
(これは、ビジネスでも人生や様々な創生で有効です)
前夜でも、その中の本質的な方法の一つである「やり方とあり方」(第321夜、第333夜、第347夜)を図解しました。
「やり方」で行き詰った横軸だけでは、「余白」は生まれません、(多くの会社がこの状態にあります)
新しい「あり方」という「縦軸」を通す(立てる)と「4つの象限」が立ち上がります。
(「あり方」というのは、「新しい目的:第333夜」をつくることです)
二つの軸に、それぞれ「現在(過去)」と「未来」を記入してみてください。
それが、図解「成長経営マトリクス」になります。

・本業(既存事業)⇒開発(右下)⇒開拓(左上)⇒業際(右上)
というステップです。
多くのご支援(企業創生、地域創生)で活用して成果を上げてきました。
ポイントは、既存の象限から逸脱することです。
(切実→逸脱→別様:第333~334夜)
参考に、「健康をはかる」から「健康をつくる」へシフトされた「タニタ」(第245夜)のマトリクス(新価値創造研究所作成版)をアップします。

上記は、「有意義な余白」を見つける肝要な方法ですが、後述の有効な方法もありますのでそれを綴ります。
■ 「有意義な2軸」
「あり方」と「やり方」以外の2軸を上げてみます。
・「世界(時間)」と「世間(空間)」
・「時間軸」と「空間軸」
・「タテ軸」と「ヨコ軸」
・「垂直思考」と「水平思考」
・「コード」と「モード」
・「変化」と「安定」
・「効能」と「効率」
・「東洋思想」と「西洋思想」
・「既存事業」と「戦略事業」
・「イノベーション」と「オペレーション」
・「デュアルスタンダード」と「ワングローバルスタンダード」
・「テクニカルポイント」と「アーティスティックポイント」
・「バロック」と「ルネサンス」
・「デジタル」と「アナログ」(⇒「キュービタル」)
・ Others
上記は、個人ご支援、企業ご支援、地域ご支援の際の「基本型」です。
ご支援に伺うと、二つの内のどちらか一方は気に留めないていない、アプローチしないことが多いのです。
第337夜に詳しく記しましたが、「鉄道の時代(オペレーション型)」はそれでもよかったのですが、今の「航海の時代(イノベーション型)」はこれまでの「枠」「制限」を超えることが求められています。
是非、「もう一つの軸」をピックアップして、2軸をクロスして取り組まれることをお薦めします。
さて、とっても参考になるのが、「価値創造の知・第324夜」にマザーハウスの山口絵里子さんが挑戦された「2軸」です。
検討・具体化される際のヒント満載です。
●「途上国」と「世界」
⇒「途上国から」と「ブランドをつくる」
●「大量生産」と「手仕事」
→手仕事を“効率的”にやるには?
●「社会性とビジネス」
●「デザインと経営」
●「個人と組織」
●「グローバルとローカル」
異質な二つの両立に、果敢に挑戦されて「Third Way」として成果を上げています。

山口絵里子さんのコメントを記します。
・『今年、来年の数字を見る姿勢では何も生まれません』
私たちは、ついつい「妥協点を探る行為」を求めがちだけれど、きっとそれだけでは消耗していく。
私は両者の交差点で生まれるアイデアや共感、相互作用が『もう一段高い次元での解決策を、広く社会に提供するもの』であると信じている。
何より、その方が楽しい。ワクワクする。無理がなくて、長続きする。
だから、サードウェイという考え方を一人でも多くの人に知ってほしいと強く思った。・・・
■「間(ま)」を上手に使いこなす
2軸があるということは、「間(ま)}(第17夜、第311夜)が発生するということです。
どちらかを選択するという二者択一ではなく、重層的に双方を両立させていく方法を日本は持っていました。

・モノとコト
・天皇と将軍
・公家と武家
・金決済と銀決済
・神と仏(神仏習合)
・冥と顕
・浄土と穢土
・善と悪
・ウツとウツロ
・空(クウ)と色(シキ)
・男と女
・てり(照り)とむくり(起り)
・平仮名と片仮名
・記号(コード)と様式(モード)
・Others
二つのAIDAの絶妙な「間(ま)」をつくることがポイントです。
それについては、第311夜(間をしる)に綴りました。
正剛師匠は、「(異質な)二つのものを関係させることは、それが遠いものほど価値が生まれる」と言われていました。
(対角線を折る、斜めに見るという「編集」の方法については、いつかこのコラムで綴ります)
本来の日本の方法は、一対(二つ)のものを両方活かす(デュアルスタンダード)ことが優れていたので、日本人と「間(MA)」とのつきあい、相性は抜群です。
日本人は、既存の二つのもの(第310夜:半分と半分)を両方活かすという特性、センスがあるのです。
どちらかを選択するのではなく、両方を活かすことを『2項同体』といいます。「二者択一」ではない、この把え方を習得することが肝要です。
それらを「バロック(二つの焦点=楕円)で見る」、「デュアルに見る」という言い方を正剛師匠は言われてました。
(真円は「ルネッサンス」、楕円は「バロック」。二つの焦点があることで、動的になります)
価値創造&イノベーションとは、「既存の組み合わせ」によってできる1ランク上が生じた新しい全体(魅力・価値)です。(第308~310夜)
「既存の組み合わせ」「2軸の組み合わせ」というイノベーションを挑戦することによって、企業人、行政人や学生にとって最も有益なことは、
「既存の異質の組み合わせで、自分オリジナルの思考や考えを持つことができること、そして、その成果に自信を持てること」
にあります。
■参考:「二者択一以外」の道(第29夜)
「常識の非常識」(山本七平著)より加筆引用します。
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・・・日本に、カモシカ問題がある。同じようにどの国でも、絶滅に瀕した動物を保護すると、急速に増加するが、今度はその動物による食害問題が起こる。
すると、保護をやめて一定数以上は射殺・捕獲すべきか、あくまで保護すべきかが当然問題になる。日本でも檜の苗木をばりばり食べられてしまえば、山林業者にとってはカモシカは害獣ということになるであろう。保護を続けるなら、山林の保護をどうするか、業者への損害保障はどうすべきかが当然問題になる。
そして、こういう場合、議論はしばしば保護か、捕獲・射殺かの二者択一になりやすく、多くの場合、両者とも自説を固持して譲らないという対立になりやすい。
これはすべての問題についていえる。環境問題、貿易問題、また企業内の問題、各人の抱える問題、そのすべてについて、問題が二者択一のように見えてきたら、そのいずれでもない「第3の道」があるのではないか、ともう一度、探索してみる必要があるのであろう。・・・
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上記には、ビジネスのイノベーション・価値創造の本質が記されています。
・「量」が、一定の水準を超えると、「質」が劇的に変化する(第10夜、第11夜、複雑系)
・「矛盾」とは、発展の原動力“矛盾の止揚”である(第15夜、第17夜、第18夜)
この「質への変化」「矛盾の止揚」の視点・視座を柔軟に活用できることが、創造性「クリエイティブ&イノベイティブ」(第1夜)への本筋です。
ただ、実際の現場では、それまでの「常識」で成功した人達や組織が存在して権力(既得権)を持っているので、新しい「常識」に移行するのが遅くなったり、困難になることがあります。若い人たちのは、大きなジレンマ・ストレスになっています。
そこで重要になるのが、不易流行(何が変わって、何が変わらないのか)という認識です。
「不易流行」(第34夜、第245夜)の「不易」と「流行」を両立することがポイントです。
「両立する」ことは、とても労力がいる、骨がおれるですが、それがそのまま「価値創造」につながります。
これが、令和の時代に私たちが取り組む「生きる道」です。
「企業」「学校」「地域」の多くの場で、上記をお伝えしています。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ















