2025年3月5日: 「思考の補助線」
■ 時代の転換点
2月28日、トランプ大統領は、報道陣の面前でゼレンスキー大統領と激しく口論しました。
予想はしていましたが、はっきりと明確に「時代の大きな転換点」を認識した日だったのではないでしょうか。
・「アメリカ・ファースト」
への本気、脅しを全世界の人たちの脳に刻み付けました。
作用反作用はありますが、自国の国益を最優先にするということです。
かつての古き良き時代のアメリカからの衰退、苛立ち、余裕がなくなる等が、感情的な言葉に表出しているように思います。
それは、国際社会への関与を徹底的に控え、「関税」「ディール」を前面に出して、「自由貿易」「グローバル主義」からの脱却に拍車をかけた動きです。
本年1月の「パリ協定」からの離脱の大統領署名は、同じ地球に生まれた生命体として連鎖する「アーシアン」「地球視点」の価値認識を欠いていることが、アメリカへの「信用・信頼」を大きく疑わせることになりました。
そして、私たちは、ウクライナ・ガザの二つの戦争の「国連の無力」を何回も目の当たりにして、これまでの「法の支配」を拠り所にした理想・希望から、19世紀からの「大国の力(暴力)による支配」への移行を危惧していますが、その様な最悪のシナリオに同盟国も備えることが必要になりそうです。
その様な「グローバル主義の終焉」「力による支配」というベクトルに、私たちはどう対応し備えたらいいのでしょうか?
「切実」として、他人事ではなく、自分ゴトで考え、構想し、行動することが求められてきます。
まさしく、
・「切実→逸脱→別様」(第333~334夜)
です。
いずれにしても、上記に立ち向かうための『自立と自律』の精神と認識が求められる時代に突入したのではないでしょうか。
本夜は、これからの認識の助けとして、下記「一本の補助線」としての『グローバル主義の終焉』を綴ります。
それに向かう迅速な認識の有無で、「世界の見え方、風景」と「それに向けた戦略・行動」が大きく変わると思いますので、下記が皆様の参考に少しでもなれば幸いです。
■内なる情熱
さて、この「価値創造の知」コラムでは、従来からの転換の発火点としての「情熱」(第157夜、第322夜)、「切実」(第314夜、第330夜)を何度も取り上げてきました。
「情熱(Passion)」という言葉は、「受難(Passion)」と同じ語源を持っています。この世で「難」を受け、「困ったこと」「切実」があるから「情熱」が生まれてきます。
上記の両大統領の口論から「受難」「切実」「苛立ち」からの、なりふり構わないトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」という「情熱(Passion)」を感じます。
大局的にみれば、「国際的に何が正しいか」という規範よりも、「受難」「切実」「苛立ち」から「アメリカ・ファースト(自国の国益最優先)」を実現したいという情熱が上回り、それをアメリカの半分以上の人たちの共感・支持を得たということになります。
「受難」と「情熱」はコインの裏表です。

良し悪しは別として、このような『情熱の強さ』によって、様々なモノゴトや世界・世間が変わっていくことの重要性をこのコラムでは取り上げてきました。
■ 「一本の補助線」
さてさて、私は中学・高校時代に「幾何学の問題」を解くことが好きでした。
たった一本の補助線を引くことで解答・証明への道筋につながる面白さと喜びを感じていました。
それは、自分が社会人になっても続き、商品設計や企画、研究開発、事業開発の現場でも、「一本の補助線」「思考の補助線」を引くことで、それまで無関係そうに見えていた間(第348夜)に、新しい関係の脈絡がついて、そこに気づかなかった風景・様相が拡がり成果に繋がるコトに喜びを感じていました。
そのビジネス現場では、インサイト(INSIGHT:第68夜)、フォーサイト(FORESIGHT:第89夜)、コンセプト(CONCEPT)等の言葉が使われますがそれも同類の様に思います。
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参考: 第347夜から引用します。
①人を読み(Insight)
②先を読み(Foresight)
③新しい全体を読む(Gestalt)
という「3つの洞察力(=3つの知)」(第89夜、第128夜、第333夜)から発想・構想を生み出す「価値創造技術(エンジニアリング)」です。
その原動力となるのが、上記①②③の「本質」を見抜く、見通す『洞察力』。
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それらによるこれまでになかった「違い」「共感」に到達すると、それまでのモヤモヤが消えて、ワクワクする新しい世界が見えて、解決への道筋が拡がってくる感覚・体感があります。この喜び感覚をより多くの方たちに体験していただきたいと思っています。
本夜は、トランプ・アメリカ大統領が就任してから、顕著に変わってきた地球世界の情勢と秩序をどの様に把えていけばいいのかを「一本の補助線」を踏まえて、仮説・洞察したいと思います。「内なる情熱」「受難」を絡めながら、これから顕在化する「グローバル主義の終焉」という「一本の補助線」を紐解いていきます。
そのうえで、ピンチをチャンスに変える「価値創造」を皆と共有・革新していきたいと思っています。
■ 参考:「思考の補助線」
茂木健一郎さんは、「クオリア」をキーワードとして、心と脳の関係を探求されています。
前職パイオニア社の研究所時代では、「音楽と五感」の研究をしていた関係で、2度ほどお会いしました。
その時に話された「思考の補助線」という言葉が自分の脳に響いたのを覚えています。
松岡正剛師匠と茂木健一郎氏の共著である「脳と日本人」の対談は、自分の中に大きな刺激と整理をもたらしてくれました。
著書「思考の補助線」の「序」から引用します。
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・・・トータルの「未知」の量は、どうやら変わらないらしい。
それでも、できることならば、「不思議」という観念を、人間の経験を真摯で忠実に反映したかたちで抱いていたい。
タコツボの中の不思議も味わいがあるが、もっと広い視野から、はるか遠くまで見て途方に暮れたい。
一見関係ないことの間に脈絡をつけたい。そのうえで、不思議と感じたい。
そんな思いで、私は「クオリア」という補助線を精神と物質の間に引きたい。
それで問題が解けるかどうかはわからない。しかし、明らかに不思議の質が変わる。・・・
「整合しなければならぬ」
・・・そのうえで、生きることの情熱とまっすぐに結びついた輝ける不思議を、たった一度しかない人生の中で、受難しつくしたい。
私の内なる情熱はそのように告げている。
・・・小林秀雄が講演の中で現代の知識人を揶揄して使った言葉、
「悩みも悟りもしないやつら」
にならないためにも、一見両立させようがないように見えるものの間を結び、そこに気づかなかった風景を見たい。
何時間かけて考えても解けなかった幾何学の問題が、たった一本の補助線を引くだけで見通しがつき、一挙に解決に向かうように、何らかの新しい視点を得る努力をしてみたい。・・・
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どこに、どのような「補助線を引く」かで見通しがつく、風景が変わることを経験してきたので大変参考になりました。
■ 「自由貿易とは?」「グローバル主義とは?」
今回の「アメリカ・ファースト」宣言の背景として、
・製造業
・農業
等のラストベルトの衰退を復活させたいというトランプ大統領の言動がありました。
翻って、日本の製造業も「グローバル化」によって、中国・東南アジアにシフトして空洞化しました。
私自身も前職パイオニア社でヒット商品緊急開発プロジェクトリーダー(第343夜)の時に、初めて中国(東莞工場)に入って生産導入を決めた当事者でした。
当時(1995年)の東莞は、日本の賃金の六十分の一(1/60)でした。
現場(東莞工場)に何回か足を運びましたが、日本と同じ「生産技術・製造技術」で造るので、品質に大きな差はありません。
その「製造原価」で日本で造ろうと思ったら、極論すると製造現場(埼玉の所沢工場、山形の天童工場等)の社員の給料を1/60にしなければなりません。
これが日本の製造業や他産業を苦しめる「空洞化」の始まりでした。
その後、アメリカビジネス界は、例えばアップル社iPhone生産(2006年~)に見られるように自前で工場を持たないファブレス化という中国生産で利益を最大化していきました。
それらの参入の結果、中国が世界の工場になり中国は急成長しました。(豊かになれば、民主主義の国になるとの希望がありましたが裏目に出ました)
自由貿易(貿易の自由化)によって傷んだのは、製造業等の空洞化が進んだ先進国でした。
そして、世界を見渡していただければお判りのように、成長している国は、先進国よりも賃金の安いところです。
・「空洞化して傷むのは、しょうがない」
・「それに代わる新しい価値を持った次なる産業の構築」
という認識です。
「グローバル主義」「自由貿易」とは、このような傷みをもたらすものでした。
そのことを誰よりも実感しているのが「日本」ではないでしょうか。
■ 「グローバル主義」の終焉
上記の自国の「傷み(受難)」に我慢がならなかったのが、トランプ大統領だったと洞察します。
傷んだ「製造業」「農業」等を復活させることを「公約」に掲げました。
それを推進するのが、「関税」のラッシュです。
それが結果的に、アメリカによる「グローバル主義の終焉」につながります。
そのことで最大の影響を受ける国はどこでしょうか?
それが、グローバル主義で一番恩恵を受けてきた「中国」です。
トランプ大統領は、「自由貿易の終焉」で「中国の衰退」を画策しているようにも見えます。
その影響、意図を中国サイドは十分に承知しているはずです。
中国は、これまで恩恵に授かった「自由貿易」を世界に向けて発信していくと思います。
(国策として低価格でつくったものは自由貿易の火種になります)
本当は、「開く(オープン)」ことの嫌いな中国のジレンマの始まりです。
さて、本夜お伝えしたいことは、これまでの時代において「常識」と思われていた主流の考え方や規範そのものが変わっていく時代だということです。
過去の価値観や認識を引きずっていると、これまでの常識に縛られてしまい「変化」に対応しきれなくなります。
それが、「グローバル主義の終焉」の認識です。

これからは「オープンとクローズ」のせめぎあいの時代、両立させる時代になるのは間違いありません。
それに適応して、私たちはこれまでになかった新しい選択肢や方策や産業を創り出す必要があります。
先ず重要な認識は、「グローバル主義の終焉」という「一本の補助線」を持ってこれからのモノゴトを視るか、従来の延長線上で視るかの違いで、打つ手が大きく変わってくることです。
■ 「自立と自律」の時代
「コロナ禍」「プーチン禍」「トランプ禍」と世の中は安定しませんね。
変化を恐れ、不安の要因として受け止められないのであれば、それは現状への依存体質が染みついてしまっているのかもしれません。
いま私たちは、望むと望まざるとにかかわらず、「変化」が凄まじい速度と規模でやってくることを知っています。
これらの危機、変化を逆転的に活用し、チャンスだと思う、変えることが「未来の入り口」と思います。
変化に対応・適応するのに、もちろん「協調、共同、連携」も必要ですが、
「トランプ禍」で特に求められるのは、様々な「自立と自律」です。
・自立とは、他者の助けを借りずに自分の力で行動すること
・自律とは、自分の立てた規範に従って行動すること
ここで重要になってくるのが、第309夜で綴った
・未来に向けた価値創造(目的)
・未来に向けたイノベーション(手段)
です。
ここで求められる力は、
・「課題」に対してどのようなアプローチであなたか解決できるかどうか
の一点だけです。
・「3つの知(第333夜)」「2軸・両立で考える思考(第348夜)」の活用で「未来構想」することがポイントです。
■ 「自活力」
一つの価値観や概念にとらわれていては、新しい発想やイノベーションは生まれません。
両立思考・デュアル思考(第348夜)でも綴りましたが、対抗概念をのみ込んで、一段上の新しい価値を創る時代の本格到来です。
「オープン(開放・自由)とクローズ(関税)」時代のはざまで、私たちに必要なのは、一段上の新しい価値を創る『覚悟』と『自活力』です。
価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ