橋本元司の「価値創造の知」第350夜:これからの「会社創生・地域創生」と「人財創生」

2025年3月11日: 「人財創生の3つの輪(トライアングル)」

■ 「トランプ主義=グローバル主義の終焉」の影響
 前夜にお伝えしたことは、トランプ大統領の言動により、これまでの時代において「常識」と思われていた主流の考え方や規範そのものが変わっていく時代であり、過去の価値観や認識を引きずっていると、これまでの常識に縛られてしまい「変化」に対応しきれなくなることをお伝えしました。
その思考の補助線が「グローバル主義の終焉」の認識です。
 
 これからは、それに伴う「オープン(グローバル主義)とクローズ(反グローバル主義)」のせめぎあいの時代であり、双方の「両立に挑戦する時代(第388夜)」になるのは間違いありません。それに対応・適応して、私たちはこれまでになかった新しい選択肢や方策や産業を創り出してゆく必要があります。
(それが、第308夜これまで綴ってきた「航海の時代(第333夜)」「バリューイノベーションの時代」です)
 その対応の良し悪しは、私たちの国家戦略、経営戦略、地域戦略に大きな影響を及ぼします。

 そして、そのことが働く人たちの「人財創生・育成」や「教育の見直し」にも深く関わっていくことは間違いありません。
それは後述する「キャリア形成」3つの輪の「すべきこと(Shuold)」の円が大きくなることから始まります。
「すべきこと(Shuold)」に対応・適応することを「やらざるを得ない時代」になってくるからです。

 それを「やらざるを得ない(MUST)」とネガティブに考えるか、「すべきこと(Should」とポジティブに把えるかで、社員の成長とやる気に大きな違いができてきます。
本夜は、企業経営に高まりを見せる「人的資本経営」の視点から、「人財創生」、「キャリア形成」という「3つの輪」を図解を通してお伝えします。

 その「人財創生」、「キャリア形成」は、下記「人的資本経営」と不可分な関係があります。

■ 「人的資本経営」の加速

 2018年、国際標準化機構(ISO)から「人的資本」に関する情報開示のガイドライン「ISO30414」が発表されました。
その目的は、
1.企業や投資家が「状態を把握」しやすくすること
2.企業経営の「持続可能性をサポート」すること
 の二つにあります。

 『人的資本経営』とは、人材を「資本」と把え、その価値を最大限に引き出して企業価値を向上させる経営手法です。
日本でも世界的な潮流を受けて、人的資本の情報開示が求められるようになったため、多くの企業や自治体で取り組まれています。
 、
 さて、この「人的資本経営」が注目される背景には、
・企業の競争力を高めるには「人材への投資」が不可欠であるという考え方の広がり
・技術革新や少子高齢化、働き方の多様化
 等々があります。
 その結果、人的資本経営では「人財」に投資するため、「従業員のスキルアップと成長」が促されます。 
前夜(第348夜)に綴ったトランプ大統領の反グローバル主義からの「時代の大きな転換点」への対応・適応は、上記「人的資本経営」への更なる取組みに繋がる道筋を綴ります。

・「グローバル主義の終焉」→反グローバル主義
   ↓
・「経営戦略・地域戦略・人生設計」の大きな見直し
   ↓
・これまでの「依存体質」から「自立・自律体質」への迅速転換
   ↓
・「するべきコト(Should)」(図解)の増大
   ↓
・「できるコト(Can)」「やりたいコト(Will)」(図解)の輪を大きくする

 という「流れ」が、国家・地域・企業・学校・個人で、今後加速することが洞察されます。

■ 「人財創生」「キャリア形成」の「3つの輪」から
 
 「キャリア形成」とは、仕事を通じて経験やスキルを積み重ね、自己実現を図るプロセスです。
「将来なりたい姿(Will)」を見据えて、自分の成長や達成感を得ることを目的としています。
 2年前、岸田政権は、「構造的賃上げ」の実現を優先課題に掲げ、それを達成する具体的手段として
・「リスキリング(学び直し)」
・「日本型職務給(ジョブ型)の導入」
・「成長分野への円滑な労働移動」
 の3つを「三位一体の労働市場改革」としていました。

 少子高齢化による労働力減少などの影響を受けて、「雇用流動化」「労働市場の流動化」により、
「人材が企業間を移りやすくして、労働力の流動化を図ることにより、企業の生産性が向上して経済成長につながる」
という考え方です。

 従来の「終身雇用制度」から、年齢や在籍年数ではなく、「成果主義(従業員の成果や実力に応じて評価や待遇を決定する方法)」に移行しています。
このことが、若者や労働者に、企業の「キャリア形成導入」の促進につながっています。
 「ボー」っとしていると社員が他の会社に移動してしまい、人材採用も困難になっている時代です。

 さて、「キャリア形成」のフレームワークに「3つの輪」があります。
(ただ、対象や領域の把え方で、単語や意味合いが変えた表現の違いが見られます)

「3つの輪」は、、
・「Will・Would(やりたいコト)」
・「Can(できるコト)」
・「Must・Should(やらなければならないコト・するべきコト)」
の3つの視点に分けて考えられています。(図1)

■ 「航海の時代」の3つの輪
 
 高度成長時の「鉄道の時代」「オペレーションの時代」(第333夜)には、ゴールが共有されているので、左側の「Can(できるコト)」と上側の「Will(やりたいコト)」が中心でしたが、「グローバル主義の終焉」という「航海の時代」(第338夜)には、

・「すべきコト(Should)」の円が大きくなる(図2)
  ↓
・「自立・自律」への強い認識
  ↓
・「できるコト(Can)」の領域を大きくする(円が大きくなる)
  ↓
・「やりたいコト(Will)」を大きくする

 という「善循環」への転換が成長の鍵になります。

 上記流れで、「すべきコト(Should)」に迅速に取り組むコトは、「ピンチではなくチャンスである」という認識・行動につながります。
そこでは、トップがその認識を持てるかどうかが大きなポイントになってきます。
トップが「いやいやながらやる(Must)」という消極性が社員に見えると、それは「Can」「Will」の円が大きくならないことにつながり、成長の速度や結果に悪い影響を及ぼします。

■ 「2+1(第312夜)」と「すべきコト(Should)」

 「グローバル主義の終焉」に伴って、「社会的課題(Should)」が顕在化してきます。
その「課題(Should)」と「本業(Can)」を交り合わせて、一段上の価値を創り出す。
それは、このコラムで数多くの「2+1(第312夜)」の事例を通して紹介してきました。

 「一段上の価値創造」を「Will(実現したいこと、やりたいコト)」として掲げて、
そこにベクトルを合わせて、「すべきコト(Should)」として力を結集する。
それが、次の成長の源になります。

 それは、「個人のキャリア形成」に留まらず、「事業開発」「地域開発」と同類であることがおわかりいただけると思います。
「グローバル主義の終焉」によって、「経営戦略」の見直しが図られ、それに基づいてそれを実現する「人財戦略」「人財創生」をブラッシュアップする時代です。
これまでの「狭いキャリア形成」から、上記の「激動のキャリア形成」を図ることが求められます。

・ピンチはチャンスである

 そこへの気づき、アプローチの遅速が、「国家」「企業」「地域」「学校」の成長に大きく関わってきます。
前夜にも綴りましたが、「オープン(グローバル主義)とクローズ(反グローバル主義)」の時代のはざまで、私たちに必要なのは、一段上の新しい価値を創る『覚悟』と『自活力』です。
 対抗概念をのみ込んで、一段上の新しい価値を創る時代の本格到来です。
 
価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ