2025年4月6日: 「自立・自律・自強」
■ プロローグ
先週半ばに大事件が発生しました。
トランプ大統領の「相互関税」の発表・衝撃により、全世界レベルで『経済・ビジネスの前提条件』が変わります。
前提条件が変わるということは、言葉を変えると、
・「拠り所が変わる」
・「土台が変わる」
・「土俵が変わる」
ということです。
そのことで私たちは、これまでの
・「アメリカ市場への依存体質」
・「国際分業体制(各国が得意とする商品を生産して輸出し合う経済連携の仕組み」
等々から、否応なく『自立・自律・自強』に向かう覚悟と知恵と行動が必要となってきます。
この「価値創造の知」コラムでは、上記に対応するかのように、
・第350夜: これからの「会社創生・地域創生」と「人財創生」
・第351夜:「サスティナブル」の一歩先を行く「リジェネラティブ」へ
・第352夜:「維持ではなく、垣根を超える」
・第353夜:「閉じこもっていては発展しない」
・第354夜:「イノベーションと人的資本経営」前編
を綴ってきました。
そう、日本経済界、日本産業界は今回の大事が起きる前から、「失われた35年」に対応する必要がありました。
⇒「禍福は糾える縄の如し(第292夜、第348夜)」
幸福と不幸は表裏一体で、かわるがわる来るものだ。
私たちは、今回の大事件発生を「ピンチはチャンス」に変えるいい機会だとポジティブに把え、「再成長」に向かうターニングポイントにしていく必要があります。
アメリカ、ロシア、中国の3つの大国は、「過去の栄光を『取り戻す』コト」を掲げて国際社会に混乱を起こしていますが、
私たちに必要なのは、「取り戻す」ことではなく、『未来を創り出すコト』にあります。
それはちょうど、前夜からの「イノベーションと人的資本経営」について理解するグッドタイミングの「事例」となります。
■ トランプ流「相互関税」の波紋
あらためて、トランプ大統領の「相互関税」の発表で「これまで想定していた前提条件」が大きく崩れてしまい、「経営戦略」を見直さなければならない企業が続出する可能性があります。
⇒「相互関税」発動→(上流からの)発注量減少→事業の縮小→これまでの延長線上の事業の見直し
という流れがすぐに頭をよぎります。
早速、トランプ流「相互関税」発表の翌日のWBS(ワールドビジネスサテライト)放送では、中小企業の「(株)極東精機製作所の鈴木亮介社長」のコメントを紹介していました。
そこでは、
①ビジネスモデルの見直しが必要。(第107夜、第142夜、第350夜)
②下請け体質から抜け出すために、自分たちでモノを考える。(第314夜、第345夜)
③(下請けから抜け出すために)一般消費者向けに注力する。(→両利きの経営:第335夜、第348夜)
という「これまでのやり方と『別様の可能性』」に踏み出さざるを得ない「切実」を物語っていました。
■ 『別様の可能性』:「下請けから脱皮したい、抜け出したい」
さて、新価値創造研究所には、この「相互関税」発動の3~4年ほど前から
・「これまでのビジネスモデルでは将来がない。下請けから脱皮したい、抜け出したい」(第314夜)
という切実な中小企業経営者からの依頼が急増していました。
・発注先の経営が右肩下がり
・度重なるコストダウン要求への嫌気
・自社の将来成長の見通しが立たない、展望が開けない
・近年政府が謳う賃上げに対応できない
等々です。
今回の問題に衝撃が走ったのは、日本産業界の最後の柱(1本柱)である「自動車産業」に火がついたことにあります。
(ただ、この自動車産業も「クルマのiPhone化」「EV化」等の前提条件が変わることにより、ビジネスモデルの見直しが急でした)
「日本の再成長」については、第334~335夜、第349~350夜に綴っています。
先ず、これまでの「やり方」では埒が明かず、「前提・土台」・「あり方」(第321夜、第333夜)から見直すという認識が肝要です。
この時代の大きな変わり目には、昭和時代の「オペレーション型」から、価値を向上する「イノベーションの型(第333~334夜)」への迅速な転換が求められています。
そのための「心得」「体系的方法」「実例」をこのコラムでは繰り返し綴ってきました。
■ 「経営戦略の見直し」:「市場価値軸(横軸)」と「時間(縦軸)」という2軸
上記の様に、これまでの「経営の前提条件」が変われば、当然、「経営戦略」の見直しが必要になってきます。
そこでは、「市場価値軸(横軸)」と「時間(縦軸)」という2軸のもとに、図のように4つの象限(世界)が現れます。

上記、「(株)極東精機製作所の鈴木亮介社長」は、右側の「動的経営」に舵を切ろうとしているのです。
それは、左側の「静的経営」を無しにするのではなく、新しい「動的経営・戦略事業」への可能性に挑戦する「二刀流経営」です。
これをビジネスの場では、右手(既存事業)と左手(戦略事業)が両方使える「両利きの経営(第314夜、SDGs経営塾・第10回)」といいます。
前述のように、3~4年ほど前から
・「これまでのビジネスモデルでは将来がない。下請けから脱皮したい、抜け出したい」(第314夜)
という切実な中小企業経営者からの依頼がありました。
・切実→逸脱→別様(第333~334夜)

という次の本流のための道筋です。
その先駆者、先達者が挑戦・実現してきた多くの先取り実例をこのコラムで綴ってきました。
たいへんなのですが、早く速い「決断・覚悟」と「逸脱・別様」が功を奏します。それは後述します。
ただ、ここでも右側の「静的経営」に留まる企業経営者が多いのあれば、「失われた35年」のように、日本の経済界・産業界がまた遅れることは間違いありません。
・「ピンチはチャンス」 「禍を転じて福と為す」(第290夜)
・「閉じこもらず、垣根を超えてジャンプしましょう」(第330夜、第352夜、第353夜)
次夜に綴りますが、新しい領域に踏み込もうとする時に『偶有性・別様の可能性(コンティンジェンシー)』が生まれてくることを先にお伝えします。
■ 「イノベーションと人的資本経営」
上記の図解「経営戦略の見直し」では、「現在の状態(as is)」から、「3つの展開(上、右、斜め上)」があります。
その展開・挑戦に、「静的イノベーション、動的イノベーション」の出番があります。
繰り返しになりますが、挑戦することで昭和の「オペレーション型」から、令和の「イノベーション型」への移行が進みます。
「経営戦略の見直し」があれば、それにともなって、当然「人事戦略」も連動します。
左側の「静的経営」であれは、従来の延長線でやるのでしょう。ただ、早晩その先の新展開は困難になっていくことが洞察されます。
次に、これから移行が増加する右側の「動的経営」であれば、当然「人事戦略・人的資本経営(第354夜)」は「経営戦略」に連動した『経営人事』に移行します。
■ 「経営人事・ダイアグラム」
それでは、前夜に提示した「経営人事・ダイアグラム」をご覧ください。

前編では、令和の時代が「経営人事領域」で「経営(事業)戦略と人事戦略」が本格的に連動するトキである背景と、「3つの外圧(should)」を有機的に統合して、ピンチをチャンスに変えるための「構造図」をお伝えしました。
トランプ流「相互関税」は、「経営戦略の見直し」を促し、その『切実な』課題・問題を解決に導く「新・経営戦略」に基づいた「新・人事戦略」(「3つの外圧(should)」を有機的に統合)を策定する必要があります。
「3つの外圧(should)」は、下記3つの要素です。
1.「企業価値の向上」を目的とした「自社の人的資本経営」
2.「人財獲得」の武器となる「自社の成長ストーリー」
3.「人財情報の深さ・高さ・広さ」を可視化する「デジタルAI」
上記の「3つの外圧」を有機的に統合する「新・経営人事体系図」を解説します。
A.図の左側は、「企業(事業)のパーパス」と「成長戦略ストーリー」という「自社の『将来の姿』」の情報公開です。
⇒ 3年後の中期計画(改善)があっても、企業価値向上の「将来の姿=成長戦略ストーリー」を描けていない企業が多いのが問題です。
⇒ 「パーパス、ありたい姿、成長ストーリー」を描く方法は、このコラム全般に、その方法と実例を綴っています。
B.図の右側は、左側の「将来の姿」を実現するための「個人と組織の能力開発」の道筋です。
⇒ 上記「成長戦略ストーリー」が描けていないと、企業説明会、就活イベントや転職フェアや社内従業員に向けた魅力的なキャリアプランを提示できません。
⇒ 「才能」(第340夜):「才」と「能」を結びつけて、「匠=イノベーター」への道筋を歩んでもらうことが企業価値向上につながります。
C.図の下側は、上記「パーパス(目的)」と「能力開発(手段)」を両立するための「土壌づくり」です。
⇒ 上記A.B.が定まると、「学習と成長」領域の「投資:土壌づくり」の枠組みが見えてきます。
⇒ 「デジタルAI」によって、「人財情報の深さ・高さ・広さ」を画期的に可視化することができます。
■ 「経営人事」戦略の見直し:「市場価値軸(横軸)」と「時間(縦軸)」という2軸
それでは、上記「経営戦略の見直し:2軸」(図解)に連動した「『経営人事』戦略の見直し:人的資本・才能開発の2軸」を図解します。

「経営戦略の見直し」で、図の左上象限、右下象限、右上象限のどこの象限を目指すのかで、「経営人事」戦略が変わることはお分かりと思います。
多くの企業が、社内で通用する「左側の人事戦略」を運用しています。
そのため、社内用の「狭いキャリア自律」対応の取組みになっています。
しかし、上記の「経営変動化」「雇用の流動化」「デジタルAI化」等により、
・変動に対応した「人的資本経営」
・変動に対応した「成長ストーリー」
・変動に対応した「ダイナミックなキャリア自律」
が求められています。
つまり、
1.「人的資本経営化」:「経営価値向上(人的資本の情報開示義務)」
2.「成長ストーリーの明確化」:「人財獲得競争」
3.「価値創造支援としての人事化」:「デジタル活用」
これらが有機的に連動することが重要になっています。
これに向かって、顔晴って頑張っている企業、地域を応援しています。
■エピローグ
いま、私たちには上記「変動」等に対応した「変革」が求められています。
「先見性」「目的性」「革新性」に向かわず、立ち止まってしまったことが、世界のイノベーションランキングの中で日本が圧倒的に遅れた大きなファクターです。
繰り返しになりますが、
・第346夜:「中堅・中小企業」のためのReビジネス(再成長)と具体事例
・第352夜:「維持ではなく、垣根を超える」
・第353夜:「閉じこもっていては発展しない」
それは、「失われ35年」を更に続けないために・・・。
次夜は、「イノベーションと人的資本経営」ー続編 として、その事例を綴ろうと思います。
価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ