橋本元司の「価値創造の知」第357夜:「アントレプレナー→イノベーション→スタートアップ」

2025年6月12日: 「気立て→見立て→仕立て」

■「失われた35年」への処方箋1990年初頭の「バブル崩壊」により、日本は「失われた35年」を持続しています。
そのことで、
・年金問題
・人口減少問題
・IT/AI分野の遅れ
 等々、
 それらは、若者から見たら、自分(たち)の「未来が抉られている」ように見えるでしょう。

 いま、上記に対応する、日本に最も求められている唯一の解決手段は『経済成長』です。
そして、「経済成長」の『源・おおもと』は、“価値創造”であり、実現する方法が“イノベーション”です。
(*“価値創造”が目的であり、“イノベーション”が手段・方法です)

 国会の論議、選挙で最優先されるのは、「経済成長」構想と実装なのに、「本格的な議論・構想・実装」には程遠いのが現状です。
その処方箋について本コラムでは繰り返し記してきましたが、大きくは日本社会全体が「オペレーション型体質」から「イノベーション型体質」(第333~334夜、第354~355夜)に移行できていないことが一番のポイントです。
(教える側に「イノベーション型人財」が極端に不足していることがボトルネックになっています)
 それを待っているわけにはいかないので、学校教育を含めて、先ず[5%]の人たちを「価値創造/イノベーション」人財に迅速に転換・創生することが求められます。

■日本政府「スタートアップ育成5か年計画」(2022年)

 2022年1月の岸田総理の「スタートアップ創出元年」宣言を受けて、同年11月に、今後5年間の「官民によるスタートアップ集中支援の全体像」をとりまとめ。人材、資金、オープンイノベーションを計画の柱として位置付け、網羅的に課題を整理していますので、関心のある方は、是非そちらをご覧ください。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/su-portal/index.html

 文部科学省も経済産業省も力が入ってきましたね。
 上記計画が発表され、補助金も含めて、“起業/スタートアップ/アントレプレナーシップ”に少なからず火が灯り、2023年には、「スタートアップ/アントレプレナー」関係の書籍がビジネス書の中央に並ぶようになりました。
 それでは、「スタートアップ/アントレプレナー」を整理してみます。

■ 「アントレプレナーシップ」と「イノベーション」→「スタートアップ」

 『アントレプレナー』は、新しい事業やサービスを生み出す「起業家」や「事業家」を意味します。
特に、ゼロから事業を立ち上げ、新しい価値を創造する人や、起業家精神を持つ人を指すことが多くみられます。
そして、『アントレプレナーシップ』とは、上記の「新しい事業やサービスを生み出すための精神的な姿勢や能力」を云います。

 一方、『イノベーション』という提唱者であるJ.シュンペーターは、「イノベーションとは、“モノやコト”が新しく結びつき、それが新しい価値として社会的に受け入れられて、経済が発展した状態のコト」と定義しています。
(*イノベーションとその本質を『新結合(New Combination)』と表しています)

・『アントレプレナーシップ』とは、「困難や変化に立ち向かい、新たな価値(新しい事業やサービス)を生み出していく精神や姿勢のコト」
・『イノベーション』とは、『「モノやコト」が新しく結びつき、それが新しい価値として社会的に受け入れられて、経済が発展した状態のコト」
 補足:『イノベーション』は、ヨーゼフ・シュンペーター(経済成長の創案者)の造語であり、イノベーションとは『内側に異質なものを導入して新しくする(新結合:Innovare)こと』を実行(:-tion)して、経済や企業が発展するコトです。
(*「技術革新」は、イノベーションの一部という認識が必要です)

 つまり、上記二つは「新しい事業やサービスを生み出すコト=『創業』」が共通項であり、
・新しい価値を生み出す『ヒト・姿勢』に着目しているのが、「アントレプレナー」
・新しい価値を生み出す『方法・革新』に着目しているのが、「イノベーション」
 という認識です。
 
■アントレプレナーシップとスタートアップの関係

 次に、アントレプレナーシップとスタートアップの関係ですが、「アントレプレナーシップ」が「スタートアップ(起業)の創出や成長」を牽引する重要な役割を持っています。具体的には、アントレプレナーシップは起業家精神、つまり、新しい事業や価値を生み出すための挑戦的な姿勢を指し、スタートアップはそうした精神を持つ人々によって創出され
 つまり、アントレプレナーシップはスタートアップの基盤です。

 新しいコトに挑戦するには、次々に「壁」「抵抗」が立ってきますので、それを乗り超える強い「意欲」・「熱量」が必要になります。
その強い「意欲」・「熱量」が壁を乗り超えたり、トンネルに穴を開ける突破力になります。
そして、新しいコトは、一人では成し遂げることができないので、人を巻き込むことが必要になります。
人を巻き込む求心力(この指とまれ)になるのが「意欲」・「熱量」の大きさです。

■「アントレプレナーシップ」→「イノベーション」→「スタートアップ」

 この様に整理すると見えてくるものがあります。
・「精神」→「方法」→「実践」
 の流れに当てはめると
・「A.アントレプレナーシップ(精神)」→「B.イノベーション(方法)」→「C.スタートアップ(実践)」
 になります。

 多くの「アントレプレナー/スタートアップ」書籍に不足しているのが、上記A.とC.をつなぐ(橋渡しする)方法・手段が総花的で体系的になっていないことにあります。

■『A.気立て』→『B.見立て』→『C.仕立て』

『A.気立て』(強い「意欲」・「熱量」)があっても、構想的な『B.見立て』(対象テーマの本質や解決する「智慧」「方法」と「体系」)がないと、創造的な『C.仕立て』につながらないことを体験し、多くの案件に携わってきました。
 これが第342夜に綴った『気立て(想像力)・見立て(構想力)・仕立て(創造力)』です。

この図でワカルことは、「見立て」「構想力」は単独で生まれるものではないということです。
それは、「2+1(ツープラスワン」(第312夜)です。
・「気立て」→「仕立て」→「見立て」
 →「見立て」は「気立て」と「仕立て」のよい「間(ま)」(第311夜)から生まれてきます。
・「想像力(イマジネーション)」→「創造力(イノベーション)」→「構想力(インテグレーション)」
 →「構想力」は「想像力」と「創造力」のよい「間(ま)」から生まれてきます。

 上記から、「未来の可能性」と「ミッション・ビジョン・イノベーション」(第89夜、第122夜)が見えてきます。
 是非、アントレプレナー/スタートアップ人財を目指す方たちは、上記、「想像力」「構想力」「創造力」を体系的に習得されてください。
皆様の参考になれば幸いです。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第356夜:「イノベーションと人的資本経営」ー続編

2025年6月3日: 「分け入れば思わぬ道もある」

 本夜は「イノベーションと人的資本経営」の続編です。
これまでの「前編・後編」の整理・おさらい(振り返り)から入り、その参考になる具体例をアップしますので、皆さまの理解の一助になればと思います。

■【概要】「イノベーションと人的資本経営(前編・後編)」のおさらい
【前編のポイント】
人的資本経営が注目される理由や背景について
● なぜ人的資本が注目されているのか?
企業の競争力を高めるには「人材への投資」が不可欠、という考えが広まっている。
目的は「企業価値の向上」、その手段として「人的資本経営」がある。
● 変化のきっかけ
2023年3月期決算から、人的資本に関する情報の開示が義務化。
 ①経営戦略の土台(どんなビジョンか)
 ②組織の仕組み(企業文化や風土)
 ③人材戦略(どう育てて、活かしているか)
→ これら3つを有機的に組み合わせて「成長する企業像」を見せることが求められている。
● 時代の変化
今は「経営戦略」と「人事戦略」が密接に連動する時代(令和の新常識)。
外部からの圧力(3つの“should”)もあり、危機をチャンスに変えるには、構造的な理解が必要。
その構造を示す「図解(ダイアグラム)」を紹介しました。

【後編のポイント】
変化の時代における人的資本・キャリア戦略
● 新たな図解(2軸:市場価値 × 時間)で人的資本を捉える
社員の才能やスキルを「市場でどれだけ価値があるか」「それがどれだけ持続するか」で見る視点。
● 適応すべき社会の3つの変化
 ・経営環境の変動
 ・雇用の流動化(終身雇用の終わり)
 ・デジタル化・AIの普及
→ これらの変化に対応するには、次の3つの連動が重要:
 ①柔軟な人的資本経営
 ②将来を見据えた成長戦略
 ③自律的なキャリア形成

【応用編】人事部の新たな役割とは?
● 「人事部」から「価値創造支援部」へ
従来の「労務管理中心の人事部」ではなく、
「経営戦略の実現に向けて価値を生む」部門になる必要がある。

● 新たな人事部の使命
・経営戦略を理解し、社内で人材育成の仕組みを整える
・社外に向けては、自社の成長ビジョンを発信し、共感する人材を引きつける
・成長意欲ある人材に、育成環境や仕組みをしっかり伝える

● 現実とのギャップ
多くの企業では、この理想の「人事部」と現状にはまだ大きな差がある

【まとめ】
人的資本経営とは、「人材を単なるコストではなく、未来への投資」と捉える新しい考え方です。
その実現には、企業戦略と人事戦略の連携が不可欠であり、人事部門には“価値を生む組織”としての進化が求められています。

■ 重要ポイント
 ここで一番大切なポイントは、「自分ゴト(SDGs経営塾 第4回)」として捉えられるかどうかにあります。

 「人的資本に関する情報の開示」が 2023年3月期の決算から、義務化されました。
そのため、「やらなきゃいけないから仕方なくやる」といった受け身の姿勢になりがちですが、
これをチャンスと捉えて、前向きに取組んでいただくことが成長につながっていきます。
しかし、経営トップ自身が受け身であれば、それがすぐに社員に伝わり、「価値創造」や「企業(事業)の成長」の可能性は著しく低くなります。

・「これは自分(たち)の課題だ」と本気で取り組めるか、
・そして、「やる気(ファイティングスピリット)」をもって取り組めるか
・トップが、課題解決のための戦略を明示できるかどうか、
上記を乗り超える意志の有無が成功のカギになります。

 本夜は、実際に取組みを進めている金融機関「イノベーションと人的資本経営」の事例・図解をご紹介しますので、是非先行事例の参考にされてください。
■ ひろぎんグループ(広島銀行)の取組みと展開
 多様な金融機関とご縁があり、ビジュアル上のお付き合いをしてきましたが、その多くが従来の延長上のやり方(事業モデル)には限界があることを痛感して、業態を再構築されています。
 その様な中、「ひろぎんグループの先行性、取組み・仕組み、展開」は秀逸に見えます。

 前夜(第355夜)に、「経営戦略の見直し:2軸(市場価値と時間)」を綴りましたが、「ひろぎんグループ」は、右手(既存事業)と左手(戦略事業)が両方使える「両利きの経営(第314夜、SDGs経営塾・第10回)」を明示して展開されていることが判ります。
・ ビジュアル化とそれに基づいた先見性・革新性・実践性
・ 何よりもそれを「打ち出せる人財」がいること、そして経営が承認・バックアップしていることがとっても重要です。

 具体的には、お客さまとのリレーションの最前線にいる営業店が金融以外のお客さまの課題・ニーズを掴み、把握した情報を正確かつ的確にそれぞれの事業会社につなぐ。
 そして事業会社はそれぞれ、専門性を活かして、課題解決・ニーズを踏まえたソリューションを提案していく。
 そして、それらが循環してスパイラルアップしていく。

 その取組みは、
・お客様目線の獲得(深く読む)
・1ランク上からの俯瞰目線(高く読む)
・異質と専門性を活かした課題解決(広く読む)
 につながります。(第89夜、第128夜、第333夜)

 そして、重要なことは、
・『分け入れば思わぬ道もある』
 ということです。
思いもよらない「偶有性・チャンス」が飛び込んでくるのです。

そのことで、様々なイノベーションチャンスの到来と人財創生(人的資本経営)が同時に図れることは、経験上間違いありません。

● 「人の能力やスキル」に応じた研修カリキュラム

 さて、ひろぎんホールディングス・経営管理部 人事総務グループ人材開発室の平山 剛寛室長は、これからのビジネスを担う「自律型人材育成の鍵と方向性」について、次のように話されています。
1.「どのような能力を有する人財がどこにどれぐらいいるか、あるべき姿に向けてどの能力やスキルを伸ばす必要があるかを考えることが“人財育成の鍵”」
2.今後の人財育成の方向性について、、
 ①1点目は、求められる知識やスキルがより専門化・多様化してきますので、個々人にパーソナライズされた学びが必要
 ②一方で、世の中の変化のスピードも速いので、せっかく得た知識・スキルが陳腐化することも容易に想定されることから、
  「土台となる人間力をしっかり鍛え、環境変化に適応できる人財を育成していきたい」
と話されています。 

● ひろぎんグループの「人財育成体系」について

 ひろぎんグループの人財育成体系は、「経営理念の実現に向けた人財戦略」を起点とし、経営理念や中期計画と育成体系が連動するように設計。
さまざまな外部環境変化を踏まえ、従業員エンゲージメントを土台に、個人と組織の両面から自律的なキャリア形成、自己啓発があり、OJTを中心とした育成体系と、それに連動する形でOff-JTを構成されています。

 上記の様に、ひろぎんグループは「これからのビジネスを担う自律型人財を創生する」ための様々な仕組み、取組みを用意・展開されています。
 いまは、情報時代ですから、是非「ひろぎんグループの企業戦略と連動した人事戦略」等を収集して、自社に合うように編集されてみてください。

 きっと、皆さまの「価値創造」と「成長」に役立つと想って紹介しています。
 
価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ