橋本元司の「価値創造の知」第356夜:「イノベーションと人的資本経営」ー続編

2025年6月3日: 「分け入れば思わぬ道もある」

 本夜は「イノベーションと人的資本経営」の続編です。
これまでの「前編・後編」の整理・おさらい(振り返り)から入り、その参考になる具体例をアップしますので、皆さまの理解の一助になればと思います。

■【概要】「イノベーションと人的資本経営(前編・後編)」のおさらい
【前編のポイント】
人的資本経営が注目される理由や背景について
● なぜ人的資本が注目されているのか?
企業の競争力を高めるには「人材への投資」が不可欠、という考えが広まっている。
目的は「企業価値の向上」、その手段として「人的資本経営」がある。
● 変化のきっかけ
2023年3月期決算から、人的資本に関する情報の開示が義務化。
 ①経営戦略の土台(どんなビジョンか)
 ②組織の仕組み(企業文化や風土)
 ③人材戦略(どう育てて、活かしているか)
→ これら3つを有機的に組み合わせて「成長する企業像」を見せることが求められている。
● 時代の変化
今は「経営戦略」と「人事戦略」が密接に連動する時代(令和の新常識)。
外部からの圧力(3つの“should”)もあり、危機をチャンスに変えるには、構造的な理解が必要。
その構造を示す「図解(ダイアグラム)」を紹介しました。

【後編のポイント】
変化の時代における人的資本・キャリア戦略
● 新たな図解(2軸:市場価値 × 時間)で人的資本を捉える
社員の才能やスキルを「市場でどれだけ価値があるか」「それがどれだけ持続するか」で見る視点。
● 適応すべき社会の3つの変化
 ・経営環境の変動
 ・雇用の流動化(終身雇用の終わり)
 ・デジタル化・AIの普及
→ これらの変化に対応するには、次の3つの連動が重要:
 ①柔軟な人的資本経営
 ②将来を見据えた成長戦略
 ③自律的なキャリア形成

【応用編】人事部の新たな役割とは?
● 「人事部」から「価値創造支援部」へ
従来の「労務管理中心の人事部」ではなく、
「経営戦略の実現に向けて価値を生む」部門になる必要がある。

● 新たな人事部の使命
・経営戦略を理解し、社内で人材育成の仕組みを整える
・社外に向けては、自社の成長ビジョンを発信し、共感する人材を引きつける
・成長意欲ある人材に、育成環境や仕組みをしっかり伝える

● 現実とのギャップ
多くの企業では、この理想の「人事部」と現状にはまだ大きな差がある

【まとめ】
人的資本経営とは、「人材を単なるコストではなく、未来への投資」と捉える新しい考え方です。
その実現には、企業戦略と人事戦略の連携が不可欠であり、人事部門には“価値を生む組織”としての進化が求められています。

■ 重要ポイント
 ここで一番大切なポイントは、「自分ゴト(SDGs経営塾 第4回)」として捉えられるかどうかにあります。

 「人的資本に関する情報の開示」が 2023年3月期の決算から、義務化されました。
そのため、「やらなきゃいけないから仕方なくやる」といった受け身の姿勢になりがちですが、
これをチャンスと捉えて、前向きに取組んでいただくことが成長につながっていきます。
しかし、経営トップ自身が受け身であれば、それがすぐに社員に伝わり、「価値創造」や「企業(事業)の成長」の可能性は著しく低くなります。

・「これは自分(たち)の課題だ」と本気で取り組めるか、
・そして、「やる気(ファイティングスピリット)」をもって取り組めるか
・トップが、課題解決のための戦略を明示できるかどうか、
上記を乗り超える意志の有無が成功のカギになります。

 本夜は、実際に取組みを進めている金融機関「イノベーションと人的資本経営」の事例・図解をご紹介しますので、是非先行事例の参考にされてください。
■ ひろぎんグループ(広島銀行)の取組みと展開
 多様な金融機関とご縁があり、ビジュアル上のお付き合いをしてきましたが、その多くが従来の延長上のやり方(事業モデル)には限界があることを痛感して、業態を再構築されています。
 その様な中、「ひろぎんグループの先行性、取組み・仕組み、展開」は秀逸に見えます。

 前夜(第355夜)に、「経営戦略の見直し:2軸(市場価値と時間)」を綴りましたが、「ひろぎんグループ」は、右手(既存事業)と左手(戦略事業)が両方使える「両利きの経営(第314夜、SDGs経営塾・第10回)」を明示して展開されていることが判ります。
・ ビジュアル化とそれに基づいた先見性・革新性・実践性
・ 何よりもそれを「打ち出せる人財」がいること、そして経営が承認・バックアップしていることがとっても重要です。

 具体的には、お客さまとのリレーションの最前線にいる営業店が金融以外のお客さまの課題・ニーズを掴み、把握した情報を正確かつ的確にそれぞれの事業会社につなぐ。
 そして事業会社はそれぞれ、専門性を活かして、課題解決・ニーズを踏まえたソリューションを提案していく。
 そして、それらが循環してスパイラルアップしていく。

 その取組みは、
・お客様目線の獲得(深く読む)
・1ランク上からの俯瞰目線(高く読む)
・異質と専門性を活かした課題解決(広く読む)
 につながります。(第89夜、第128夜、第333夜)

 そして、重要なことは、
・『分け入れば思わぬ道もある』
 ということです。
思いもよらない「偶有性・チャンス」が飛び込んでくるのです。

そのことで、様々なイノベーションチャンスの到来と人財創生(人的資本経営)が同時に図れることは、経験上間違いありません。

● 「人の能力やスキル」に応じた研修カリキュラム

 さて、ひろぎんホールディングス・経営管理部 人事総務グループ人材開発室の平山 剛寛室長は、これからのビジネスを担う「自律型人材育成の鍵と方向性」について、次のように話されています。
1.「どのような能力を有する人財がどこにどれぐらいいるか、あるべき姿に向けてどの能力やスキルを伸ばす必要があるかを考えることが“人財育成の鍵”」
2.今後の人財育成の方向性について、、
 ①1点目は、求められる知識やスキルがより専門化・多様化してきますので、個々人にパーソナライズされた学びが必要
 ②一方で、世の中の変化のスピードも速いので、せっかく得た知識・スキルが陳腐化することも容易に想定されることから、
  「土台となる人間力をしっかり鍛え、環境変化に適応できる人財を育成していきたい」
と話されています。 

● ひろぎんグループの「人財育成体系」について

 ひろぎんグループの人財育成体系は、「経営理念の実現に向けた人財戦略」を起点とし、経営理念や中期計画と育成体系が連動するように設計。
さまざまな外部環境変化を踏まえ、従業員エンゲージメントを土台に、個人と組織の両面から自律的なキャリア形成、自己啓発があり、OJTを中心とした育成体系と、それに連動する形でOff-JTを構成されています。

 上記の様に、ひろぎんグループは「これからのビジネスを担う自律型人財を創生する」ための様々な仕組み、取組みを用意・展開されています。
 いまは、情報時代ですから、是非「ひろぎんグループの企業戦略と連動した人事戦略」等を収集して、自社に合うように編集されてみてください。

 きっと、皆さまの「価値創造」と「成長」に役立つと想って紹介しています。
 
価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ