橋本元司の「価値創造の知」第365夜:『価値の高い仕事は何か』を考え抜く

2025年11月28日:価値の高い『あてど(当て所)』を突き詰めて考える

 前夜では、「価値」を生み出す「3つの知」の体系をお伝えしてきました。
重要な観点は、
①「価値創造」の答えは、「3つの知」の余白にあるコト
②その「余白を見つける共通の手法」は、これまでの「常識、枠、境界」をまたぐ、越えるコト(=卵の殻を破ること)
③それら「三つの余白」を突き詰めて答えを出すコト
 にあります。

■ 『あてど(当て所)』」を突き詰める
 それらを踏まえて本夜は「価値創造の『あてど(当て所)』」に注力して案内したいと思います。
「あてど」という言葉のもともとの意味は、
・「そこ(的:まと)をねらって矢などを命中させる」
・「刀などを当てる所、当てようとする場所」
 のことですが、転じて、
⇒「物事をするにあたって、目あて・目的とするところ」
 をいうようになりました。

 さて、「価値創造による成長経営」を遂行するにあたって、目の前の局面のどこ(Where,What)を「あてど(当て所)」にするかで、結果は大きく変わってきますね。
それでは、下図(「イシューから始めよ」加筆引用)」をご覧ください。


 この図は、
横軸が、「課題解決の必要性の高さ(度合い)」
縦軸が、「課題の解決レベルの高さ(度合い)」

 で、簡易的に4つの箱(A.B.C.Ð)に分けています。

 さて、「皆さんの仕事やテーマは、どこにプロット(観測値を点でグラフに描き入れる)されますか? その仕事の「本来と将来」を考えて、書き入れてください。
 という演習を下記ワークショップの出だしのタイミングで行うことが多くなってきました。
・企業、自治体の「成長経営」ご支援
・起業(アントレプレナーシップ、スタートアップ)の研修、講演
・「発想・構想・実装」の研修、講演

 やはり価値のある「あてど(当て所)」は、右上B(価値の高い仕事)の象限(箱)ですよね。
 課題解決の必要性が高く、解決レベルが高いものを両立できれば、世の中(社会)から喜ばれ、評価され、顧客からの対価が大きくなります。結果的に、地域や企業が『成長』する一丁目一番地の象限(箱)です。

 若い人たちも右上の仕事を早期から携わることで、やる気や生きがい、対価、そして人生が変わってくるのは容易に想像できます。
そうであれば、このB箱(領域)の「価値(バリュー)の高い仕事は何か」を時間をかけてでも突き詰めることがとっても重要なのが分かります。このことに賢明な「外部の知」を活用することも有益です。(第2創業、第3創業の時に呼ばれることが多いです)

 そのワークショップから、皆さんの「プロット分布」から見えてくるのが、「A箱(領域)」のプロットが多いことと「C箱(領域)」のプロットが少ないことです。
経験上、この「A箱」ルートから「B箱」に移行することは余ほどのことがなければありません。それは、もともと「課題解決の必要性」の弱い(低い)ことが底流にあるからです。

 挑戦するのは、「C箱」から「B箱」に移行するルートです。その時に重要なのが、将来の「B箱(価値の高い仕事)」が何かをしっかりと突き詰めておくことで、その準備、溜めとして「C箱」で磨きをかけることです。
 そして、その時に役立つのが、前夜(第364夜)に詳細と事例を綴った「3つの知」です。
「3つの知」を突き詰めると、これまでの機能や常識とは異なる別流の意味(深い知)、将来像(高い知)、ワンランク上の価値(広い知)が生まれてくることを後述します。

 この「C箱」から「B箱」に自動的に移行している最適事例が、下記の「SDGsシフト経営」です。その「本来と将来」が自分の中でイメージできたため、10年前の2015年から、新価値創造研究所は、イノベーションによる「SDGsシフト経営」の伴走支援に舵をきりました。

■ 「SDGsシフト経営」とは、「B箱(領域)」経営!
  対象課題を「深く読み、高く読み、広く読む」こと(=3つの知)で、「B箱」の将来の姿が浮かびあがってきます。その姿(価値)を持って、下図の様に、現在に還ってくる、逆算して展開することがポイントです。

 SDGsとは、「必要性」が高く、迅速に実現して欲しい「17の社会課題」が選択されています。
つまり、「SDGs経営」にシフトすることはとても「意味のあるコト」「大切なコト」であり、それは「B箱(領域)」経営そのものです。

 それを、ボランティア活動やSDGsウォッシュ(企業が実態が伴わないにもかかわらず、あたかもSDGsに熱心に取り組んでいるように見せかけること)にしないで、企業、自治体は、「本業×SDGs社会課題」を両立して対価(利益)を持続的に創出することが『成長の源』です。
 これまで「SDGs成長経営」に深く関わってきましたが、周りを見渡すと、多くの企業が「C箱(領域)」でとどまっていて、「SDGsウォッシュ」のままなのが残念です。
 どう解決するかは、「SDGs経営の多くの図解と事例」(第281夜、SDGs 経営塾:全 10 回コラム詳細)で、実例と共にお伝えしてきましたのでそちらを参考にされてください。
https://www.kiraboshi-consul.co.jp/column/sdgs_vol2/

  前夜にも紹介しましたが、上図の逆算について中学生、高校生、大学生、社会人が納得されるコンテンツが、「大谷翔平選手の高校時代に目標達成シート」(下図)です。「なりたい姿からの逆算」が現在を変えていくのが実感できます。
 上記「目標達成シート(マンダラチャート)を自分ゴト(会社・地域)としてワクワクと検討され、そこを埋めて隆々とした姿、状況をイメージすることを通して、「C箱」から「B箱」にルートが容易になります。
 各研修、セミナー、ご支援プロジェクトでは、皆さんにシート作成に挑戦していただいています。効果絶大です。

■ 『成長経営』は、B箱「価値の高い仕事」から得られる
 B箱「価値の高い仕事」は、二つの要素(軸)でできています。
その二つの要素をしっかり認識して両立することが『成長経営』につながります。
それでは、その要素を確認していきます。
① 横軸「必要性の高さ」=大切なコト、意味のあるコト ⇒「深い知」
② 縦軸「解決レベルの高さ」=解決スキル ⇒「高い知」・「広い知」

 ①の横軸「必要性の高さ」は、「心の領域」です。
それは、下図の「大切なコト、意味のあるコト」「meaning」です。
第364夜でお伝えした「3つの知」の中の「深い知」を突き詰めるコトです。
そして、「新しい現実」という高い価値が生まれてきます。


 ②の縦軸「解決レベルの高さ」は、「解決スキル」の領域です。
第364夜でお伝えした「3つの知」の中の「高い知」「広い知」を突き詰めるコトです。
・「高い知」は、上記「深い知」を基盤として、「将来、何を目指すか」を突き詰めます。
 ⇒ それは、過去と現在をから「未来」を豊かにする方法です(=温故知新)
・「広い知」は、上記「深い知」と「高い知」を「具現化する方法」を突き詰めます。
 ⇒ それは、異質な二つを掛け合わせて一つ上のレベルの価値を創出(=主客一体)
上記「高い知」と「広い知」に共通するのは、
下記の様に、二つのものを両立させることです。
・「高い知」:過去と現在(時間軸)
 事例: 過去(寺子屋、よろづや、炭焼き等)
・「広い知」:異質な二つ(空間軸) 
 事例:本業×SDGs社会課題、本業×AIデジタル

■「A箱」のアウトプットをキッチリ出すのに必要なコト

 上記を踏まえて、本当に「大事なコト」をお伝えします。
 それは、
・心の領域: 切実、本気、自分ゴト、志、おおもと(深い知)
・モノゴトの見方の領域: 時間軸(高い知)、空間軸(広い知)
 という皆さんの内側にある二つの領域「心」と「モノゴトの見方」のステージ、フェーズを変える、上げるコトにあります。
 もう一歩踏み込んで言えば、「心の領域(大切なコト、意味のあるコト)」のレベルを上げる(志、本気)ことができれば、「モノゴトの見方」は必ず追随してきます。
 あなたの「心」のスイッチは他の誰からも入れられず、「あなた」しかONできません。
ただ、「高い知」「広い知」を習得することで、「深い知」のスイッチが入った経営者もおられたことを申し添えます。

 最後に、「価値の高い仕事」を突き詰めると「価値の高い人生」に繋がってきます。
その高みに変容する皆さんの声、表情、姿を現場で目撃するのが大数寄です。

そして、ここから「事業創生、地域創生、人財創生」の物語が始まります。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第364夜:「新成長」を生み出す「3つの知」

2025年11月19日:価値創造を実現する「3つの知」を「しる→わかる→かわる」

 「事業(企業)の大目的は『顧客価値の創造』です」(第82夜、第170夜、SDGs経営塾第10回に詳細)
「顧客価値の創造」が継続的にできなければ、急速に商品・サービス・ブランドの魅力がなくなります。それは、顧客からの「対価」がなくなることを意味しています。企業は、先を読んで『世の中の変化』に適応して、「新しい価値」を創造し続けなければ生き残れないことをこのコラムでは繰り返しお伝えしてきました。

 「顧客価値の創造」とは、「世の中に役立つ未来を先取りすること」を目的(鍵穴)として、「イノベーション(3つの知)」の方法(鍵)を通して実現することにあります。下図の様に、「価値創造」と「イノベーション」」はコインの裏表です。

 日本の失われた35年から「離脱・脱皮」する最上の方法が『価値創造』です。従来通りの「事業の業務改善」だけでは立ちいかない「後戻りしない変化(トランスフォーメーション)」による様々な課題が顕在化しています。そこに必要なのは、「業務改善」対応ではなく、「事業革新(改革)のための『価値創造』」です。

 それをスティーブジョブズは、「Think outside the box(=箱を出る)」と言っていました。彼の口癖だったそうです。これまでの「価値観の箱(常識・枠・殻)」をはみ出る、跨ぐことです。
従来の「枠・境界」を越えて「逸脱」しないと「新しい価値」は生まれません。
下図は成長経営するための境目・境界を乗り超える『逸脱』の「3つの知」軸を表しています。
そこに、『深い知(人間軸)・高い知(時間軸)・広い知(空間軸)』という体系的な「3つの知」があります。

・下図の様に、「価値創造・3つの知」は、成長経営の羅針盤(ミッション・ビジョン・イノベーション)そのものに直接つながってきます。

・そして下図の様に、この「3つの知(型)」は相互に関係しあって、
「Why?→What?→How?」という本筋となります。

■ 「価値創造」のための「逸脱」の方法:「Think outside the box」(第170夜詳細)
  「顧客価値創造」のための『逸脱(=箱を出る)』の方法は二つだけです。(第75夜)
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1.不要なものを削いで取り除いて核心に辿りつく方法(深い知)
2.モノやコトを新しく結びつけて革新に辿りつく方法(高い知、広い知)

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 この二つは、もともと日本が得意としてきた二つの方法です。(第362夜に詳細)
「2.モノやコトを新しく結びつけて革新に辿りつく方法」の「高い知」と「広い知」は同じ方法なのですが、対象が「時間軸(高い知)」「空間軸(広い知)」が違うものです。
 詳細は図解と共に後述します。

 ⇒上記1.2.二つ(2軸)が、『ビジネスで最も大切なコト』です。
1.『A.共感』を生み出すコト:不要なものを削いで取り除いて核心に辿りつく
2.『B.違い』を創るコト:モノやコトを新しく結びつけて革新に辿りつく
 上記二つは、『経営の2大戦略』に繋がってきます。

 さて、この二つは「別々のもの」ではなく、「二つでありながら一つ」です(第82夜:「違いと共感」に詳細)。 身近な例では、「鍵と鍵穴」「表と裏」「陰と陽」「心と身体」「夫婦」「坐禅の結跏趺坐」「縁側」「陰翳礼讃」等があります。
 (参考:私達の心と身体が二つである、と考えるとそれは間違いです。心と身体が一つである、と考えるとそれも間違いです。私達の心と身体は、“二つでありながら一つ”なのです)

 それでは、それぞれ、「共感」と「違い」を要約していきます。

⦿ [A.共感]: 『共感度』が低ければ対価も下がります。現在の市場の短期的な「共感」にだけフォーカスしていると「違い」への逸脱ができ辛くなります。「共感」にもグラデーションがあって、慣れてくると価値が薄れてきます。他との「共感度」に差がなくなれば、図解の左側の低い「共感」に向かいます。顧客の「NEXT共感」を明確にして顧客を捉える想像力が必要です。

⦿ [B.違い]: 他と『違い』がなければ、「低い提供価値」になります。そうなると、顧客の関心・興味が薄れて対価が減り、次の価値づくり、投資が出来なくなります。事業継続の維持が危ぶまれてきます。
 前職パイオニア社では「総合研究所や技術研究所」に在籍していましたが、シーズの「違い」ばかりに目を奪われて、それが世の中に、顧客に、本当に役立つのか、ニーズがあるのか、共感するのか、を見極めないで突っ走り、結局何も成果が出せなかったという事例を多くみてきました。複数の他業種の研究所に、「シナリオプランニング」のご支援でうかがいましたが、どこも同様の悩みがありました。

 あらためて、「企業の目的は、“顧客価値”をつくること」にあります。それを維持・継続できなければ、企業の存続は困難になります。 その“顧客価値”をつくることができる、ただ二つの機能が上記の『違いと共感』です。

 さて、『違い』をつくるのは「技:イノベーション」で、『共感』を生み出すのは「心:マーケティング」です。(第32夜参照)
 因みに、企業では「イノベーション(違い)」は、主に研究開発・技術開発部門が担当し、イノベーションは『技(Skill&Style):新結合』を扱い、「マーケティング(共感)」は主にマーケティング部門が『心(Will&Smile)』を扱います。

 図解の様に、“二つ(2軸)でありながら一つ”の高み(右上の象限)に持っていくこと、両立することがポイントです。 詳細は第82夜をご覧ください。

■ 「顧客価値創造」を実現する「3つの知」

「1.不要なものを削いで取り除いて核心に辿りつく方法」が「深い知」(方法A)です。
「2.モノやコトを新しく結びつけて革新に辿りつく方法」は2種類あります。
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・一つ目は、時間(過去、現在、未来)を結びつける「縦の新結合」
      =「高い知」(方法B)
・二つ目は、空間上で複数のモノ・コトを結びつける「横の新結合」

      =「広い知」(方法C)
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 それぞれ、「SDGs経営塾(全10回コラム)」に詳細を上げていますので、事例や図解は下記のURLでご覧ください。要約は後述します。
⇒「A.深い知」:人間軸のイノベーション
https://www.kiraboshi-consul.co.jp/column/sdgs_vol6/
⇒「B,高い知」;時間軸のイノベーション
https://www.kiraboshi-consul.co.jp/column/sdgs_vol5/
⇒「C,広い知」;空間軸のイノベーション(=主客一体)
https://www.kiraboshi-consul.co.jp/column/sdgs_vol4/

■「A.深い知」:人間軸のイノベーション(禅的思考)
 https://www.kiraboshi-consul.co.jp/column/sdgs_vol6/
・「A.深い知」は、不要なものを削いで取り除いて『核心』に辿りつく方法(深い知)です。
それは、日本人が本来得意としてきたもので、禅、茶道、枯山水、わびさび、俳句・俳諧、おもてなし等に代表される奥義です。

 それは、「ビジネスの大元(経営のあり方)」につながる重要なスキルです。
 ・そもそも何のためにビジネスをおこなうのか?
 ・いったい世の中の何を変えたいのか?
 ・何を大切にするのか?
という大変化の時代(第361夜)の経営者の心の根本レベルの“あり方の再定義”が、社内外から求められています。

そのために経営者は、下記の生活者ニーズの変化を先取り、深堀していくことが必要になります。
・所有(○○が欲しい)→使用(こう使いたい)→あり様(こうでありたい) 
「あり方、あり様」まで枠を超えられるかどうか(深堀)が、成長有無の分岐点になります。
 ここで重要なことは、「いま自分(自地域、自社)が置かれた状況、局面」において、
 ①それは意味のあるコト(下図のmeaning)なのか
 ②それは必要性が高いコトなのか
 という社会性、経済性、環境性を確認・確信しておくことが、結果的に持続性、成長性に大きく関わってきます。
(事例を使って後述します)

 今の時代、下方の赤枠の三角形には、“本当はこうでありたい”という『真善美』の価値を見つけること、『意味(meaning)』を見つけることが、事業(企業)の成長につながってきます。(これも後述します)
 『真善美』(第235夜詳細:素直な心)とは、人間が生きる上での理想の状態を3つで、
・「真:偽りのないこと」
・「善:良いこと・道徳的に正しいこと」
・「美:美しいこと・調和していること」
を表現した言葉です。社会性に大きく関与してきます。

 実例の図解でお伝えしますが、「あり様:being」の領域には、『真善美』に深く紐づいた経営者の深い言葉(コンセプト)が入ってきます。それが、経営(事業)の「ミッション(使命)」「パーパス(存在意義」や「創業」に繋がってきます。

・事例の一つ目に、「アルコールフリービール」を上げます。
 キリン(株)は、アルコールフリーという画期的な製品で新しいビール市場を開拓しました。その女性開発者の“大切にした想い”を紹介します。
 「2007年は、飲酒運転撲滅の雰囲気が世間にありました。いくつかの大きな事故があり、警察の取り締まりが強化されるなど、飲酒運転はダメという消費者の意識が強くありました。お酒が原因で悲しい事故が発生するのが嫌だったんです」
 開発者の大切で切実な願いは、
 ・「飲酒運転がなくなる幸せ」
 でした。
 その“あり方”が土台にあることで、技術開発やマーケティングの“やり方”も変わって成功につなげました。

 さて、ビール事業にとってのコアは“酔えるアルコール”です。その一番のコアを無くしてしまうのは凄い決断だと思いませんか?でも、女性開発者にとって重要な熱い想いは、“飲酒運転のない幸せ”でした。本業と社会課題(飲酒運転)が結合して、ここから「アルコールフリー」という新しいビール市場(新事業)が創出されました。

 前職のパイオニア社が開発した“カラオケ市場”も上記と同様に、歌手にとって一番大事な“歌”の部分を抜いてしまいました。そのことで、歌手ではない一般の人たちが“主役”になって新しい市場と文化が生まれました。

 2013年に東京国立博物館がWEBサイト上で行った人気投票「あなたが観たい国宝は?」で一位に輝いたのは、長谷川等伯の『松林図屏風』でしたが、引いて引いた余白の負の美学がそこにはあります。 その引き算、余白、空白が観る人の想像力をかき立てます。

 方丈の前の庭である京都の龍安寺の『枯山水』はどうでしょうか?水を感じさせるために水を抜いた枯山水は、日本人の究極の美学をあらわしていますね。

 能、禅、わびさび、俳句、山水画等々、引いて引いく『引き算の美』『余白の美』という方法が日本には息づいています。

 そう、「本業のコア」に執着しないことがポイントです。“大切なこと”、“大切な想い”、“社会課題”に思いを馳せて、様々な制約をはずして、引いて引いて自在になって「余白」をつくること、「別流(another)」をつくることが新しい価値を創造します。

・事例の二つ目として、「北海道旭川市にある旭山動物園」を上げます。
 時は1997年にタイムシフトします。その頃、全国の動物園の来園者数は右肩下がりで減り続けていました。
 当時、旭山動物園の獣医係長(現園長)の坂東元さんは、従来の“パンダやコアラという奇獣、珍獣で来園者を集めるやり方や動物の姿を見てもらうための「形態展示」”ではなく、“普通の動物の本来の行動や生活を見てもらう「行動展示」”へと転換を図りました。メディアにたびたび取り上げられ、国内外からたくさんの観光客がくるようになりました。

 さて、坂東園長が転換を決意した“最も大切にした想い”は何でしょうか?
ここは大事なので、皆さん少し考えてみてくださいね。

⇒旭山動物園が掲げる永遠のテーマは、「伝えるのは命」です。

そこには、坂東さんが獣医として“動物の命”の大切さにずっと寄り添ってきたことが込められています。そのテーマによって、これからの時代の主役になる子どもたちが、動物たちの未来や地球の未来を真剣に考える場所になっています。

 旭山動物園が大事にする赤枠の中に入る言葉は「命の大切さ(を伝える)」でした。

 ここで重要なことは、経営の“あり方(目的・縦軸)”が変わることで、“やり方(手段・横軸)”が変わることです。それまでの「形態展示」から、「普通の動物の“行動展示”」というやり方に転換しました。そのことで、右肩下がりの来園者数が急激な右肩上がりになり、旭川市を含めて経済価値(利益)が上昇しました。


 「色即是空」というのは、「現実=色」に問題・課題があるのなら、先ず心を無にして、「大元=空=大切なこと=真心」に戻りなさい。そして、「空=大元=真心」に戻って従来のしがらみや常識から解き放たれて、その本質(=コンセプト=核心)を把えてから「現実=色」を観ると新しい世界(=現実=色=確信)が観える(「空即是色」)ということです。(第85~86夜)
 人々から喜ばれる「新しい現実」を創るコトが「価値創造/イノベーション」の狙いです。

 研修、セミナーや新事業開発プロジェクト/創業プロジェクトご支援では、
「A.現実→B.大元→C.新しい現実」の流れを「色即是空・空即是色」を使って、理解を深めていただいて、自社向けに展開・策定していただいています。

 下図に、「経営」を図解しています。
「経営」の“経”という字は、縦糸のことを表しています。“経”という縦糸(あり方:being)と“営(いとなむ:doing)”の横糸(やり方、行動)で織物が紡がれます。
 経営が行き詰っている時は、それまでの横軸の“やり方(doing)”が行き詰っていることが多いものです。是非、そのような時は経営の縦軸の“あり方”(目的、道理、意味:being)に目を向けて、再定義することにトライされてください。
 上図の「おおもと」が「経営のあり方」です。その再定義の挑戦の場が赤枠の三角形です。

■「B.高い知」;時間軸のイノベーション(=温故知新)
https://www.kiraboshi-consul.co.jp/column/sdgs_vol5/
・「B.高い知」は、「将来、何を目指すのか」という経営の「ビジョン」に繋がってきます。
・いきなり、現在から未来を見るのではなく、過去を紐解くと「未来が豊か」に見えてきます。
・“過去と現在”を縦(時間軸)に配置して、双方を新結合でブリッジして、新しい全体(1ランク上の価値創造)を創出する方法です。(事例を後述します)

 それは。過去を温(たず)ねて、元々のあり方(本来)を知ることにより、過去と現在の“両方の知”を豊かにして結合することで将来の新しい価値が生み出す方法です。 
 弓道のイラスト図を載せましたが、 矢を的(まと)に的中するには、弓を後方に引いて溜めをつくりますね。いきなり未来を考えないで、この大きな溜めが前に飛翔するための原動力になります。将来という的を射抜くために、過去と現在の十分な溜めが肝要というイメージがこの図から伝われば幸いです。

 参考に、10年前の2015年にご支援して、作成したものをご案内します。
 ①コンビニの本来と将来(2015年に作成)

 ②エネルギー事業の本来と将来(2015年に作成)

 是非、本業や業界の本来を紐解いてみてください。
改めて、どのように将来を紐解いていくのかのコツを下図でお伝えします。
ポイントは“A: 過去のGood!”という現在の中では薄れてしまったものが、“B: 現在のBad!(社会課題)”と新結合することで、新しい全体として、“C: 将来のGreat!”に甦ってくるという図式です。
ただ、この図式はすぐには使いこなせないという声が上がります。
・A: いったい何を過去(本来)に置いたらいいのかわからない
・B: 現在のBad!に何を入れたらいいのか
・C: Great!に記した内容に自信が持てない

そのため、成長経営のご支援では、“時間軸のイノベーション”事例をビデオや演習で体感いただき、“インターホンの本来と未来”という誰でもわかる事例から、次々に複数のテーマを検討してもらうと、だんだん手法に慣れてきて、“自社(業界)の本来と将来”を自ら導きだすことができるようになってきます。
 本業の“本来と将来”“のありたい姿”が明確になり、成長経営への道を進まれている多くの社員・経営者の方々を輩出してきました。

 ・下図は、もう25年前の2000年頃に作成したものですが、これから世の中を大きく変えていく「デジタルの本来と将来」も載せますので参考にされてください。(詳細は、第363夜をご覧ください)

・下図のように、現在は「現状から積み上げる(フォアキャスティング)中期計画」では行き詰まりが多く見られます。SDGs成長経営やAIデジタル成長経営等で、私たちに重要なのは未来から現在を見る(バックキャスティング)という視点の転換です。
 この「未来の姿」を導き出すのが「高い知」の方法です。
企業、地方自治体の「ビジョン」(何を目指すのか?何を変えたいのか?なりたい姿は?)」につながって成長経営に直結します。
これまで多くの高校生、大学生、社会人(企業・自治体)の方たちと共に作成してきましたが、これからが楽しみです。

 上図について、中学生、高校生、大学生、社会人が納得されるコンテンツが、「大谷翔平選手の高校時代に目標達成シート」(下図)です。「なりたい姿からの逆算」が現在を変えていくのが実感できます。
 各研修、セミナー、ご支援プロジェクトでは、皆さんにシート作成に挑戦していただいています。効果絶大です。

■「C.広い知」;空間軸のイノベーション(=主客一体)
https://www.kiraboshi-consul.co.jp/column/sdgs_vol4/

 「イノベーション」の本質は、『内側に異質なものを導入して新しくする(新結合:Innovare)こと』を実行(:-tion)して、経済や企業が発展することです。それは「『異質なもの』を自分の内部に導入して、一段高い次元での解決策(新バージョン)で成長する」ことにあります。(第361夜)

・「広い知」は、空間上で異質な複数のモノ・コトを両サイドにおいて、二つを結びつけて1レベル上の価値を創出する「横の新結合」です。

 分かりやすい事例が下図の
・「異業種コラボレーション」(第312~313夜他)
・「本業×SDGs(17の社会課題)」(第314夜他)
・「本業×AIデジタル」(第363夜他)
 等であり、それは、新しい市場・文化・スタイルを創る基盤になります。本コラムでは、数多くの事例をお届けしてきたのでご覧ください。

⇒「生成AI」(第363夜)と「人不足」を掛け合わせて、悩んでいる現場と結びつけてみましょう。

・AIロボティクス×医療介護(介護の現場、高度施術、認知症、コミュニケーション・・・)
・AIロボティクス×建築現場(解体、搬入搬出、カスタマイズ設計・・・)
・AIロボティクス×農業・漁業・林業等
・AIエージェント×全ての業務(経営、企画、設計、マーケティング、営業・・・)
Others

 参考に、広い知「本業×SDGs」の企業実例をご紹介します。

・そして、これからの日本の原動力となる「新成長ルル三条」を上げます。
 本コラムの第359~363夜に詳細を綴っています。


■ 体系的「3つの知」

 ここまで「深い知」「高い知」「広い知」をご案内してきました。
それらは、従来のやり方、考え方、常識を超える方法です。そして、その方法は、決して特別なものでなく『革新』を起こすために様々に使用されてきた価値創造の『知』です。

 下図をご覧いただくと直ぐにおわかりいただけると思いますが、赤い枠線(▽・〇・◇)の中が「空白・余白」になっています。首記に記した「Think outside the box(=箱を出る)」です。
 それは、これまでの「価値観の箱(常識・枠)」をはみ出たところにあります。従来の「枠」を越えて「逸脱」しないと「新しい価値」は生まれてきません。

 ビジネスの「行き詰まり」というのは、余白(=新しい可能性)が思い浮かばないことです。
でも、クライアントのお話しに耳を傾けていると、「自ら制約を設けてしまって、モノゴトの見方や視座を狭くしてしまっている」ことが多いことを実感します。

よく経営者から聴く「行き詰っている」というのは、この「空白・余白」が見えていないことが多いのが実感です。実際のご支援では、共にその『制約』や『常識』の殻を破って「3つの空白・余白」を埋めることで、ワクワクする視界が広がってくる喜びを数多く経験してきました。

さて、「3つの知」を進める順番なのですが、『深い知』⇒『高い知』⇒『広い知』で行うことをお薦めします。

『深い知』は、「大切にすることは何か」という事業の再定義につながり、ミッション(使命)を生み出します。自分達が何に「命を使う」のかに関わってきます。当然、ワクワクするものに命を使いたいですよね。船でいう錨(アンカー)の役割です。
『高い知』は、「何を目指すのか」という「新しいビジョン」に繋がります。そのポイントは、「温故知新(故きを温ねて新しきを知る)」です。現在と過去を豊かにすることが将来を豊かにすることに繋がります。
 これが、船・航海で例えると、「北極星」を見つけたことになります。そして、『深い知』からの新しい形(世界と世間:第80夜)を見つけることに繋がります。(=空即是色)
『広い知』は、上記「深い知(ミッション)」と「高い知(ビジョン)」をつなげたビジネスの新機軸の世界を具現化する『イノベーション』の役割(下図)を持ちます。
 この「広い知」が、『内側に異質なものを導入して新しくする(新結合:Innovare)こと』を実行(:-tion)して、経済や企業が発展すること(=イノベーション)そのものです。それは「『異質なもの』を自分の内部に導入して、一段高い次元での解決策(新バージョン)で成長する」ことで、新しい市場・文化・スタイルを創ります。

 是非、多くの方達にその方法と心得を挑戦・習得いただいて、「本質的な違いづくり、共感づくり」、「地域(地球)幸福」、「成長経営」そして、「事業創生・地域創生・人財創生」を通した「幸せづくり(Well-being)」に挑戦していただけると嬉しいです。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第363夜:「AIデジタル」の先を読み解く

2025年11月14日:「「AIに職を奪われるのではない。AIを使いこなす誰かに職を奪われるのだ」

 「新成長ルル三条」を第360~361夜に綴りましたが、その中の技術である「2.量子技術⇒「AI・デジタル」を読み解きます。
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新成長ルル三条: 日本新成長の変革(トランスフォーメーション=X)に不可欠な3大要素
1.気候沸騰⇒「生命・サステナブル」:SX⇒あり続けたい(Outer)
2.量子技術⇒「AI・デジタル」  :AX⇒知能技術活用(I/F)
3.文化経済⇒「日本流コネクタブル」:JX⇒見立て仕立て(Inner)
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  「生成AI、AIデジタル」ついては、既に第358~359夜で、その背景と関わり方を綴りました。
 本夜は、そのポイントを要約してから、昨年末「ChatGPT」が「リーズニング(reasoning)」という『論理的な思考や推論』ができるようになったことで、これからの私たちのライフスタイルやビジネス環境を大きく変えることをお伝えしたいと思います。
 そして、「生成AI成長経営」を最後に図解します。

■ 「AIデジタル」のコンセプトワード

 「デジタル」の次は何でしょうか?
それは、その未来を考える前に過去を見ることが必要です。つまり、「温故知新」です。

・「アナログ→デジタル→キュービタル」

 それは、量子技術(quantum technology)を駆使して、「アナログ(現実世界)」と「デジタル(サイバー世界)」が両立した世界です。
(「キュービタル」とは、キュービット(量子力学)とデジタルの造語です)

 既に現実となった「自動運転」や「AIロボット」は、それまで閉じ込められたサイバー空間と現実世界が統合してきた序章です、
製造現場で使われてる「クロスリアリティ(XR)」は、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった技術の総称ですが、
・『現実世界と仮想世界を融合した空間』
を創出する技術です。
 製造業においては、このクロスリアリティー技術が製品開発、生産プロセス、研修、保守・点検など、幅広い分野で活用されており、業務効率化やコスト削減、作業品質の向上に貢献しています。
 さて、メディアに目を転じると、「故人と、故人の声で会話ができる」「戦争で使われているドローン兵器」のように、私たちの生活や社会に入り込んできています。

 「キュービタル世界」が少し実感できたでしょうか。

日本は「課題先進国」ですが、その「キュービタル技術」をそれぞれの課題解決(人材不足、医療介護現場、物流等々)に向かわせることが、「生産性向上」「新事業開発」「地域開発」「日本新成長」につながってきます。

■ AIが「推論(リーズニング)」を獲得

 2024年末に、「ChatGPT」が 「論理的な思考や推論(=リーズニング)」ができるようになりました、
 それは、これまでの単に知識を検索・再生するだけでなく、『情報の関係性を理解し、新しい結論を導く能力を持つ』という意味です。
 ChatGPTのようなLLM(大規模言語モデル)が 「推論(reasoning)」を本格的に行えるようになると、これまでの単に知識を検索・再生するだけでなく、『情報の関係性を理解し、新しい結論を導く能力を持つ』ことで、ビジネスには単なる自動化以上の“質的な変化”が生まれます。

それは、「情報や事実を基に、結論に至るまでの筋道を立てて考えるプロセス」を指し、人間だけでなく、AIが高度な問題を解決するための能力としても使われるようになります。

・「知識」⇒「知恵」
 への大ジャンプです。

 第358~359夜でお伝えしてきたのが、
 大きな時代の流れ(『農業→工業→情業→脳業→幸業』)の中で、
A.「AIエージェント」=頭脳労働を代替
B,「AIロボティクス」=肉体労働を代替
 という上記A,Bの「AIエージェント(=AI社員)」・「AIロボティクス」の積極的活用で、明治維新の武士という存在が消えていった時と同じ状況が発生すること
 を綴ってきました。

以下に、代表的な事象や効果を体系的に上げます。

  1. 高度な意思決定の自動化
     ・従来は人間の判断が必要だった業務まで、AIが一貫して判断できるようになります
      ⇒これにより、中間管理職レベルの判断の一部が自動化されます
  2. 複雑な“原因–結果”の説明が可能になる
     ・AIが推論できるということは、結論だけでなく根拠の説明、シナリオ比較ができるということです。
      ⇒これにより、AIが「ブラックボックスな答えだけ出す存在」から、“考え方を共有するパートナー”に変わります
  3. 仕様書・戦略・企画などの知的生産がグレードアップ
     ・理由づけができるため、抽象度の高い業務の質が大幅に上がります
      ⇒「あるべき構造」を推論しながら文書を作るため、人間の“シニアレベル”の仕事を下支えできます
  4. 業務の“暗黙知”を形式知化できる
     ・熟練者のノウハウを抽象化し、ルールや判断基準としてAIが学習・実践できるようになります
      ⇒•ベテラン営業、熟練エンジニア、プロマネ等のスキル、知恵をAIが推論し、新人が即座に利用可能になり、組織内の知識流通が“量的”ではなく“質的”に変わります
  5. マルチステップ作業の自動遂行
     ・推論能力は、「手順を考える力」を意味します
      ⇒「タスクをどう進めるか」を理解できるため、人間の補助ではなく“仮想社員(AIエージェント)”のように動けるようになります
  6. 部門横断の調停・整理が可能になる
     ・推論能力は「矛盾点の検出」や「整合性の調整」も強化します
      ⇒組織全体の“認知負荷の削減”につながります
  7. “人 × AI” のチームの生産性が爆発的に向上
     ・推論とは「文脈理解・過程理解・意図理解」でもあります
      ⇒•指示の不足点、改善案を逆提案、不整合等を指摘しより良い判断材料を提示できるようになり、人間の作業が指数関数的に加速します  以上を「小まとめ」すると、
     『推論がもたらす最大の価値』は、単なる自動化ではなく、
    “知的労働のレイヤー自体が変わる”という点にあります。
     •作業 → 自動化
     •判断 → 半自動化
     •説明・構造化 → AIが主体
     •企画・推論 → 共同思考
    AI は「実行者」から「思考パートナー」「準意思決定主体」へ変わるということです。
    AIが推論を獲得することによるインパクトを実感できたでしょうか?

■ 主な「推論(リーズニング)」

 「ChatGPTが推論(リーズニング)できる」というのは、単に知識を検索・再生するだけでなく、情報の関係性を理解し、新しい結論を導く能力を持つという意味です。
以下で、主なリーズニングの種類・例・影響を簡潔に整理して説明します。

1.演繹的推論(Deductive reasoning)
 ・一般原則から個別の結論を導く
 例:「すべての人間は死ぬ」+「ソクラテスは人間」→「ソクラテスは死ぬ」
2,帰納的推論(Inductive reasoning)
 ・具体的事例から一般的ルールを導く
 例:何度もA社のキャンペーン成功例を分析 → 「A社の顧客は割引に強く反応する」と結論
3,アブダクティブ推論(Abductive reasoning)
 ・不完全な情報から最もありそうな説明を推測する
 例:売上が急減→「季節要因か広告停止か?」と仮説を立てる
4,類推的推論(Analogical reasoning)
 ・類似したケースから洞察を得る
 例:「Netflixの成功モデル」→「自社のサブスク戦略に応用できるのでは?」
5.因果推論(Causal reasoning)
 ・原因と結果の関係を分析する
 例:広告クリック率上昇 → 「新しいクリエイティブの影響」と推定
6.道徳的・価値判断推論(Ethical reasoning)
 ・行動の妥当性や影響を考慮する
 例;「AIで採用判断するのは公平か?」といった倫理的判断

 本コラム「価値創造の知」では、「価値創造/イノベーション」について、その構造と実例を数多く綴ってきました。上記の「3,アブダクティブ推論」「4,類推的推論」を身につけることが有効であることを下記でお伝えします。

■ 参考:「3,アブダクティブ推論」と「価値創造/イノベーション」の関係

 『アブダクション(アブダクティブ推論)』は、既存の枠組みや論理では説明できない状況に直面した際、新しい世界や領域からアイデアを「誘拐 (abduct)」してくるような創造的なプロセスであり、特に以下のような点で価値創造に貢献します。
・イノベーションの源泉: 既存の知見を組み合わせたり、異なる分野の概念を取り入れたりすることで、新しいビジネスモデルや製品の着想につながります。
・顧客ニーズの発見: 顧客の行動という「結果」から、その背後にある真のニーズや欲求という「原因(仮説)」を推測し、新しい経験価値を提供する製品・サービスを生み出すことができます。
・構想力の強化: 新しいアイデアやビジョンを構想する能力(構想力)の基盤となる思考法として重要視されています。

 松岡正剛師匠は、「『アブダクション(アブダクティブ推論)』を以下のように説明しています。
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1,アブダクションは「われわれが直接に観察したこととは違う種類の何ものか」を推論できるということです。残念ながら帰納法には「違う種類のもの」は入りません。似たものばかりが集まってくる。けれどもアブダクションは「違うもの」を引き込むことができる。ここがとても重要なところです。

2.アブダクションは「われわれにとってしばしば直接には観察不可能な何ものか」を仮説できるという特色があります。いまだに例示されたことのない仮説的な命題や事例を想定することができるのです。これは哲学や社会学がこれまで前提にしてきた概念で言うと、いわば「ないもの」さえ推論のプロセスにもちこむことができるということで、きわめて大胆な特色になります。ぼくが気に入っているのは、ここなんですね。
このような驚くべき特徴は、アブダクションには例外性や意外性をとりこめる「飛躍」(leap)があるということを示します。・・・
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 ⇒イノベーションは、「価値創造のリープ/ジャンプ」(第338夜、第345夜)です。
価値創造の本筋は『切実→逸脱→別様』(第309夜、第333~334夜詳細)であり、『逸脱』して『別様』につなげる最の有効な推論(思考)が「アブダクション(アブダクティブ推論)になります。

■ 「推論(リーズニング)」の具体的な応用・効果

 上記の主な「推論」の効果を上げてみると、

1.ライフスタイル
 ・事例:健康データから生活改善の仮説を立てる
 ・事例:家計簿から無駄遣いの原因を推論
  ⇒効果:自己理解が深まり、意思決定が合理的になる
2.教育/学習
 ・事例、学習者の誤答パターンから苦手分野を推定
 ・事例、最適な学習順序を提案
  ⇒効果:効率的な学びと習熟の加速
3.経営戦略
 ・事例:市場変化の要因分析
 ・事例:他業界の成功事例からの戦略類推
  ⇒効果;仮説構築力・意思決定力の強化
4.創造/企画
 ・事例:類似分野から新しいアイデアを抽出
  ⇒効果:イノベーションの質とスピードが向上
5,マーケティング
 ・事例:顧客データから購入動機を推定
 ・事例:キャンペーン効果の因果分析
  ⇒ROIの最大化、戦略の精緻化

 以上、ChatGPTの推論がもたらす影響を「小まとめ」すると、

 •思考の補助輪として、論理構築・仮説生成・判断支援を高速化。
 •○○人間の創造性と組み合わせることで「知的パートナー」になる。
 •結果的に、時間短縮・精度向上・新しい洞察の発見につながる

 上記はほんの一例ですが、多業種業態で「AI改革」が進展するということがおわかりいただけたと思います。
その入口となるのが、前述した
A.「AIエージェント」=頭脳労働を代替
B,「AIロボティクス」=肉体労働を代替
 になります。

■ 「生成AI成長経営」図解

 『推論(リーズニング)』を手に入れた「AIデジタル」についてご案内してきましたが、日本はアメリカ、中国から2周遅れていると言われています。
「会社」「自治体」「教育機関」は、これまでの「様子見」では立ちいかないことがおわかりいただけると幸いです。
そして、既にアメリカでは「起こった未来」ですが、「AIデジタル」による失業者が生まれてきています。
ここでのメッセージは、
 ⇒「AIに職を奪われるのではない。AIを使いこなす誰かに職を奪われるのだ」
ということです。

・工業(MT):産業革命→人に変わる「機械」革命
・情業(IT):パソコン、インターネット革命
・脳業(AI):AI革命

 第358~359を引用します。、
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 ・・・本年の「AI博覧会 Summer 2025」(8月)では、
『AIという超優秀な社員が、従来の働き手にとって代わっていく未来』が多くの職種でリアルに感じられました。
 実際、そうなると思います。
 アメリカの大学卒が、「上記AI社員」と比較されて就職難になっている、というニュースが届きましたが、これは他人事ではありません。
ホワイトカラーは勿論のこと、AIロボティクスで、ブルーカラーも同様です。(将来の移民政策にも大きな影響を及ぼすと洞察します)

■「AI維新の時代」に
 明治維新に、武士という存在が時代の波に消えていったように、私たちには「劇的で大きな変化」が待ち受けています。
いま、日本や私たちに必要なのは、「仕事が無くなる」ことだけに右往左往するのではなく、その先に向けて、価値創造を起こし、素敵なライフスタイル、ワクワクするビジネススタイルが立ち上げることを、想像・創造・構想して、双方を両立させる力です。(これに対応するコンセプトと体系的な社長教育、社員教育、自治体教育、学校教育等々が必要不可欠です)・・・
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このピンチ(切実)をチャンス(逸脱・別様)に変えるための『覚悟(心の置き方)』と『戦略(ものの見方』のステージを上げる必要があります。
それを先取りすることが「新継続力」になります。
 「生成AI]は、
・AIエージェント
・AIロボティクス
・AI・・・
・AIドラえもん
・AI空海
 と進展していくと洞察します。
 是非、「Well-being」を目指して、「本業(半分)」×「生成AI(半分)」から、[一(いち)」となる「価値創造/新継続力」を生み出してください。

 再度お伝えします。
⇒「AIに職を奪われるのではない。AIを使いこなす誰かに職を奪われるのだ」

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第362夜:「日本流コネクタブル」と「日本人の美意識」

2025年11月11日:「日本流コネクタブル」を「しる→わかる→かわる」

 前夜、前前夜(第360~361夜)に、「新成長ルル三条」を綴りました。
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新成長ルル三条: 日本新成長の変革(トランスフォーメーション=X)に不可欠な3大要素
1.気候沸騰⇒「生命・サステナブル」:SX⇒あり続けたい(Outer)
2.量子技術⇒「AI・デジタル」  :AX⇒知能技術活用(I/F)
3.文化経済⇒「日本流コネクタブル」:JX⇒見立て仕立て(Inner)
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 これは、新価値創造研究所が「日本新成長のステージ」を整理、再編集した『大きい切り口』の表現であり、「日本新成長のコンセプト」です。
この内容を自治体や中小企業の皆さまにお伝えした時の反応は、
・この『大きい切り口』では「手に負えない、扱い辛い」
 との声が上がることを体験してきました。
その時に、このままの『大きい切り口』ではなくて、後述しますが、いったん『小さい切り口、小さいサイズ』の複数の事例を上げながら、例えば、それを構成する要素(部品、モジュールやサービス等)や機能、属性を使い勝手の良い状態で検討していただくと、それが『大きい切り口』に繋がることで納得、展開されることを経験してきました。
 「新成長ルル三条」は、単独として存在するのではなく、体系的に[Outer、I/F、Inner]としてつながっています。
この3つを重ね、組み合わせることで、著しい相乗効果が生じてきます。

 そこに、皆さんの「本業」と「新成長ルル三条」を組み合わせることで、新しい価値や成長の糸口が浮かび上がってきます。
そのための処方箋をお届けしていきます。

■ 「日本流」の土壌

 それでは、3番目の『日本流コネクタブル』を紐解いていきます。
「日本流」は、皆、なじみがあり染みついているはずなのですが、その「方法」「流儀」を知らない人のほうが多数ではないでしょうか。

 筆者は、幸運なことに「日本流」第一人者の松岡正剛師匠に入門(1998年)して、師匠主宰の「未詳俱楽部」(第5夜、第136夜)という場で「日本流」を体験してきました。
 そこでは、毎回、格別・別格の一流人のゲストがおられる「場」に出遊して、ゲストと共に「日本という方法」を一泊二日で体験します。そのゲストを交えて夜のプログラムは進み、夜中を越えて主客一体となります。
 そのゲストの方々は、樂家第15代楽吉左衛門さん、(能楽囃子大倉流大鼓方能楽師)大倉正之助さん、(下掛宝生流能楽師)安田登さん、(遠州流家元)小堀宗実さん、隈研吾さん、エバレットブラウンさん・・・

 そこでは、主人と客は分離されていなくて、「一期一会」の至福の時空間が展開されていきます。
「能、大鼓、三味線、謳い、俳句、料理、書、歌、茶道、茶碗(第5夜)、建築・・・・」
それは、「日本という方法」を身をもって体感できる「格別・別格」の極上の「場」と「トキ」となりました。
その未詳俱楽部が20年続きました。日本の一流の系譜を心身で受け取りました。
その至極の体験が、本夜コラムを綴る土壌になっています。

■ 「日本流」と「文化経済」

「新成長ルル三条」の「1.生命・サステナブル」「2.AIデジタル」は、後戻りしない「気候沸騰と量子技術」の大要因で、間違いなくどの国も挑戦、適応してくるのですが、その二つの『ル』に、他の国が持っていない「日本の文化力」である3つ目の「3.日本流コネクタブル」を組み合わせることで、新しい価値が生まれてくるという見立て、確信です。

 一例を上げますが、いま急進中の「2.AIデジタル」に、「おもてなし」を重ね合わせ、組み込むだけで、新しい価値・化合物が生まれてきます。
 これも後述しますが、上記「おもてなし」とは、「しつらい(ハードウェア)」「ふるまい(ソフトウェア)」「こころづかい(ハートウェア)」の三位一体でできています。
 その奥義・本質を知るとビジネスの様相、見え方が大きく変わり、「2.AIデジタル」を組み合わせる道筋が見えてきます。

 「日本流」の『「匠(たくみ)』、『間(ま)』、『勿体(もったい)ない』、『○○道』、『アニミズム』等々は、外国人には理解しづらい、他国に見られない日本の「文化力」が息づいています。
そして、その「文化力」が触媒となって「社会力」「経済力」につながっていきます。

・「文化が先行して、その後に経済が起こる」(第136夜)

 21世紀は、「文化」が経済を引き連れてくる「文化経済の時代」の本格的到来です。
(アップルは、「iPhone文化」を創ることで、経済(利益)を大きくしていきましたね)
前職パイオニア時代も、オーディオ製品やヒット商品創出の先にある「文化を創る」(カラオケ、CD・DJ、異業種コラボレーション等)ことをいつも念頭においていました。

■ 「日本流」と「美意識」

 それでは、「日本流」を彩る項目をピックアップします。

A.「おもてなし」の心
B.「匠(たくみ)」の技
C,「間(ま)」の知
D,「もののあはれ」
E.「勿体(もったい)ない」
F,「○○道」

 いかがでしょうか。
 あらためて、小さい時から知らず知らずに私たちの生活や意識の中に入り込んで、それらが息づいていますね。
 それぞれの説明することが、言葉では説明し辛いし、私たちは学校教育の中で、その「中身」「方法」「構造」も含め教えてもらっていません。
その為、上記A.B.Cの構造・方法については後述しますが、

 重要なことは、そこに通底するのは、日本人の『美意識』ではないでしょうか。

・何故、海外から多くの外国人観光客が来るのでしょうか?
・いったい、日本の何に興味・関心があり、体験したいのでしょうか?

 私たちはもっと「日本人の美意識」という土台・基盤(OS)を「しる→わかる」必要があります。
なぜならば、それが、上記「1.生命・サステナブル」「2.AIデジタル」を花開かせる土台・基盤(OS)になるからです。
 自分(日本)の家(「1.生命・サステナブル」「2.AIデジタル」)を建てる(組み込む)時に、土台をしっかり構築している必要がありますよね。

 新価値創造研究所では、その家づくり(日本新成長づくり」の「土台」を『3つの知』に置いています。
その「3つの知(方法)」と「日本人の美意識(心)」はコインの裏表です。

■ A,「おもてなし」とは?

 「おもてなし」については、本コラムで多くを綴ってきました。(第2夜、第4夜、第93夜、第209夜)
・茶道、花街、旅館、着物、祭、・・・
サービスの極意は日本文化の「おもてなし」にあります。
 それは、禅を源流とする「主客一体」「一期一会」の思想を根底に抱き、「主客分離」「関係構築」を前提とした欧米の「サービス」の精神とは、全く異なった深みを持っています。

 価値創造の知・第2夜から、一部を引用します。
ーーーーーーーーーーーー
・・・古くから日本に伝わる「おもてなし」とは何でしょうか。
お茶会に遊ぶと、それは、

①しつらい:茶室の和のしつらい。
②ふるまい:作法。ふるまうこと。
③心づかい:あれこれと気を配ること
の三位一体でできていることを広島県の上田宗箇流茶会や一流の方達との交流で実感しました。

それを価値創造ビジネスに当てはめてみると、
①しつらい=ハードウェア
②ふるまい=ソフトウェア(メニュー・プログラム等)
③心づかい=ハートウェア(ヒューマンウェア))
の三位一体となります。

 これからの「ビジネスの高度化(図解)」にはその変遷を載せていますが、
私達のビジネスは、

モノ → コト → ヒト

を三位一体でプロデュースする時代になっています。
元々「おもてなし」のDNAを持っている民族ですから、ニッポンの出番です・・・
ーーーーーーーーーーーー

 ここでお伝えしたいのは、「おもてなし」とは、「しつらい・ふるまい・心づかい」の三位一体でできていることです。
重要なことは、『一流』を体験することです。広島県の上田宗箇流茶会で「おもてなし・三位一体」の『別格・格別』を体感したときに自分の中のおもてなしの世界がガラリと変わりました。
 それが「わかる」と、生活やビジネスのあらゆる『場』で応用することが可能になります。(第93~99夜参考)

・ 「しつらい・ふるまい・心づかい」に本当に必要なのは、[持ち合わせ][間に合わせ][取り合わせ]を自分で考えることです。侘び茶でいう[詫ぶ]とは、[手持ちに良いものがない]ことが前提。足りないから、待ち合わせ、間に合わせで工夫し、精一杯のおもてなしをする。
 それが素晴らしいおもてなしとなるわけです。(松岡正剛師匠談加筆引用)

 ビジネス、行政、教育の現場では、「課題・不足」がいっぱいです。
その様な「完全」ではなく「不完全」な中で、「侘び茶」に見られる[持ち合わせ][間に合わせ][取り合わせ]を考えて、
・「不足を転じて満足となす」
 そのためには、「用意(=事前に準備をしておくこと)」と「卒意(=その場の空気や出来事に応じて、判断・行動すること)」がイノベーションの実現に求められます。

■ B.「匠(たくみ)」の技(ワザ)

 「匠」については、「匠の流儀」(松岡正剛師匠編著)をベースにして本コラムで綴っています。(第309夜、第340夜参考)

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 ・・・かつて日本の職人たちは、「才能」という言葉を「才」と「能」に分けて実感できるようにしてきた。
ごく簡単にいうと、「才」は大工や陶芸家や庭師などの人間の側がもっているもので、「能」は木や石や鉄などの素材が持っている潜在力のことである。
 人間が持っている「才」が素材に潜む「能」をはたらかせるということ、この「才」と「能」との二つが合わさって「才能」だとみなしたのだった。

 ・・・もともと「たくみ」という言葉には技巧性、企画性、工匠性、意匠性といった意味があった。いずれも「巧みなこと」に長けていることをいう。
しかし、これらをもっと“巧み”にまとめ、仕事に従事する職人たちの才能を最大限いかすことができる者を、いつしか「匠」と呼ぶようになった。

 ・・・陶芸や土木や庭師だけではない。茶の湯にも能楽にも絵画にも、俳諧にも立花にも服飾にも楽曲にも、すぐれた「匠」たちがいた。
珠光、紹鷗、利休、世阿弥、禅竹、狩野派の光信や探幽、池坊の専応や専好、芭蕉や蕪村、乾山や木米、近松や馬琴・・・・。
空海や道元、新井白石や本居宣長、本年NHK大河ドラマの蔦屋重三郎・・等々、みんな「匠」なのである。
「匠」は大工さんだけではなかったのだ。・・・

 ・・・「匠」たちが素晴らしいのは、そこにスタイル、モデル、パターン、フォーム、モード、テンプレートといった「型」の違いを自在に持ち込んで、
それらの「型」を適切に選別しながら新たな可能性や可塑性を引き出せるのではないかと、私は思っている。・・・

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 2015年に、上記「匠の流儀」が上梓された時に通読して、いの一番に思ったことは、
2013年10月に立ち上げた「新価値創造研究所」のメインミッションである「価値創造」と「才能」・「匠」が密接な関係でつながっているという感動でした。

A.人間側が持っている「才」
B.素材(対象)に潜んでいる「能」
C.互いに関係しあう上記の二つを結び目を見つけて掛け合わせてカタチにする「匠」 

 それを「図(2+1)」で表しました。

■ 参考:「匠の流儀」

 「匠の流儀」(松岡正剛師匠編著)を下記3つに編集しましたが上記と合わせてご覧ください。

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1. 匠とは、「技」だけでなく「文(あや)」を編む存在

 「匠」は単なる熟練職人ではなく、技術と文化・文脈を結ぶ人です。
つまり、「手の技」に加えて、
・「なぜこの形なのか」
・「どんな美意識や思想がそこにあるのか」
 を理解し、それを次代へ伝える存在です。
→ 匠=「技」を超えて「意味」を編み出す人

2. 匠の流儀は、「継承」と「創造」のあわいにある

 匠は伝統をただ守る人ではありません。むしろ、伝統を読み替え、いまに活かす翻訳者です。
古い形式を反復するのではなく、「何を残し、何を変えるか」を見極めながら、新しい文脈を生み出します。
→ 匠=過去と未来をつなぐ「媒介者」

3. 匠の道は、「自己を通して世界を整える」道

 匠の仕事は、自分の技を磨くだけでなく、それを通じて世界を調える行為でもあります。
素材や場、人との関係を丁寧に読み、調和を生み出す。その過程で、自己もまた鍛えられていく。
→ 匠=「世界と自己の調律者」
ーーーーーーーーーーーー
 上記の関係を図で表したので参考になれば幸いです。

■ C.「間(ま)」

 「間(ま)」についても、本コラムで多くを綴ってきました。(第17夜、第33夜、第175夜、第151夜、第311夜)


 最初に、松岡正剛師匠の講義を引用します。
-----
・・・「間」は日本独特の観念です。ただ、古代初期の日本では「ま」には「間」ではなく、「真」の文字が充てられていました。

真理・真言・真剣・真相・・・

その「真」のコンセプトは「二」を意味していて、それも
一の次の序数としての二ではなく、一と一が両側から寄ってきて
つくりあげる合一としての「二」を象徴していたそうです。
「真」を成立させるもともとの「一」は「片」と呼ばれていて
この片が別の片と組み合わさって「真」になろうとする。
「二」である「真」はその内側に2つの「片」を含んでいるのです。

それなら片方と片方を取り出してみたらどうなるか。
その取り出した片方と片方を暫定的に置いておいた状態、
それこそが「間」なのです。・・・

・・・日本人にとって、「間」というのは、本当は
「あいだ」という意味じゃないんですね。、
AとBがあって、ふつうはこの二つの間が
「間」というふうに考えられているんだけれども、
実際は、AとBを取り巻く空間が「間」なわけです。・・・ 
-----
 上記を図解したものがありますのでご覧ください。

 次に、「間(ま)」と「イノベーション」の絶妙の関係を第311夜から引用します。

 ・・・イノベーションとは、「既存の組み合わせ」によってできる新しい全体(魅力・価値)です。(第308~310夜)
イノベーションを挑戦することによって、企業人、行政人や学生にとって最も有益なことは、
「既存の組み合わせで、自分オリジナルの思考や考えを持つことができること、そして、その成果に自信を持てること」
にあります。これがとっても重要です。
(アントレプレナーシップ養成/スタートアップ講座でも必ずお伝えしています)

 さて、日本人は、既存の二つのもの(第310夜:半分と半分)を両方活かすという特性、センスがあります。
それが、「間(MA」です。
 「間(MA」は、落語、映画、会話、勝負事(剣道、野球、相撲等)、茶道、書道、華道、建築(桂離宮)、等々に深く広く関わっています。
 
 目的を「イノベーション」とした時に、その実現手段(方法)がこの「間(MA」です。
これから、「間(MA」の奥にある方法を取り出し、「新しい関係性を発見する」ための入り口から綴っていきます。

 改めて「間(MA)」とは何でしょうか?
普段の言葉の中で、いっぱい使われていますね。

間際、間違い、間合い、間抜け、間延び、床の間、間かいい、間にまに、間仕切り、
間が持てない、間を合わせる、間を置く、間を欠く、あっという間
時間、空間。人間(関係)
等々
 私たちは、人生・世間(せけん)でたくさんの「間(MA)」に遭遇します。
前夜(第310夜)の「一対、新しい全体」でできる『さまざまな場』が『間(MA)』です・・・
-----

 私たちは、既存の二つのもの(第310夜:半分と半分、片方と片方)を両方活かして(=両立思考)、新しい[一(いち)]を創りましょう。
それが、「間(ま)」の知です。
 上記でお伝えしたことがらおわかりいただけただけると思いますが、
・「イノベーション(内側に異質なものを導入して新しくすること:第112夜、第309夜、第361夜)」
・「間(ま)」
 はコインの裏表です。

■ 参考:「間(ま)」の構造
 
 松岡正剛師匠の「間(ま)」の指南を参考にお届けします。

1. 「空(くう)」―構造としての間

「間」はまず、“空いている”のではなく、“働いている”空である。

ここでの「間」は単なる余白ではなく、構造的な“可変の場”。
西洋の「スペース(space)」が静的な座標であるのに対し、東洋的「間」は事と事をつなぐ働き。
松岡師匠はこれを「関係のデザイン」と呼び、
空白が情報の流れを編集する「装置」として機能していると見る。

→ 例: 書の余白、能の静止、茶室の寸法。
それぞれに「関係を呼び出す構造」が仕掛けられている。

2.「 縁(えん)」―生成としての間

「間」とは、ものごとが“あいだ”で生まれる生成のプロセス。

「間」は出来事と出来事の接続点であり生成点。
松岡師匠の言葉で言えば、「編集とは縁を編むこと」であり、
「間」はその“縁が発動する場”である。
つまり、情報・感情・行為が交差して新しい秩序が発芽するゆらぎの領域。

→ 例: 出会いの「間」、会話の「間」、都市と自然の「間」。
この「あいだ」にこそ文化が立ち上がる。

3. 「感(かん)」―感応としての間

「間」は感じ取られるものであり、測定されるものではない。

「間」は知覚の問題でもある。
松岡師匠は「感応のデザイン」や「気配の工学」という言葉で、
人と世界が“間”によって共鳴する状態を語る。
ここでは「間」が“関係を感じるセンサー”として働き、
美や調和が生まれる。

→ 例: 音楽のブレス、対話の沈黙、光と影のあわい。
人はその“間”の感触によって世界とつながる。

 さて、格別・別格の松岡正剛師匠との出逢い、ご縁、ご指南が、自分の殻を大きく破り成長・脱皮する大要因になりました。
松岡師匠は永眠されましたが、
「終わりは始まりである」
を肝に銘じて、その「知」を多くの人々に届けたいと思ってコラムを綴っています。

■ 「日本流コネクタブル」

1.「おもてなし」の心
2.「匠(たくみ)」の技
3.「間(ま)」の知

 を『小さい切り口、サイズ』でお伝えしてきました。
これらを「半分、片」として、「下記1,2,」と「本業」と組み合わせて化合物を生み出してみませんか。
 参考に、下記1.2.も『小さい切り口、サイズ』にすると取り扱い易くなります。

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新成長ルル三条: 日本新成長の変革(トランスフォーメーション=X)に不可欠な3大要素
1.気候沸騰⇒「生命・サステナブル」:SX⇒あり続けたい(Outer)
2.量子技術⇒「AI・デジタル」  :AX⇒知能技術活用(I/F)
3.文化経済⇒「日本流コネクタブル」:JX⇒見立て仕立て(Inner)
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  「何かわかる」ということは、「見方がかわるコト!」です。
そのことを通して、これまでの「自分(自社・自地域)の境界(常識)」を越境することに繋がります。

 そしてその先に、

⇒ しる→わかる→かわる→できる
⇒ これまでできなかったことができるようになります

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ