橋本元司の「価値創造の知」第369夜:価値創造の『らせんプロセス体系図』

2025年12月21日: 弘法大師空海『両界曼荼羅』と『らせんプロセス体系図』の共通項 

 前夜は、前職パイオニアでの様々な開発や、現在の新価値創造研究所の伴走支援の双方の実務・実践経験から導き出した「価値創造のらせんプロセス体系」について説明しました。
 そこでは、
「切実→逸脱→別様」(価値が生まれる外的なプロセス)
「気立て→見立て→仕立て」(人間の内面から駆動する内的な力)
 価値創造は、単なるアイデア発想やフレームワークの活用だけでは不十分であり、「心(熱意・決意)」と「智慧(方法)」を一体化、統合化させた「らせん的プロセス」を辿ることで真の価値創造(イノベーション)が立ち上がるコト。

 そして後半では、
 「価値創造の極意」として、西洋的な二者択一(AかBか)ではなく、下記の事例のように、一見相反する要素を対立させず、深く結びつける東洋的な「二つでありながら一つ」という統合の知恵現代のビジネスやイノベーションに活用する時代であることを提示しました。

社会性と経済性の両立: SDGsのように、「社会課題の解決(LOVE)と事業の実行力(POWER)」を同時に成り立たせること。
違いと共感: ビジネスの本丸は「他と違うこと(差別化)」と「共感を得ること」を高く結合させることにある。
暗黙知と形式知: 個人の経験(暗黙知)を組織の知識(形式知)へと変換し、相互に作用させること。
 をお伝えしてきました。
 本夜は、第367~368夜が土台となって、「イノベーションの極意・奥義」を弘法大師空海の「両界曼荼羅」を通してご案内します。

■ 価値創造の「らせんプロセス体系図」
 上記のつながりを統合して、価値創造の奥義を「一目でわかる」ようにしたのが下図ですが、2020年頃から増えてきた下記の依頼等でご活用いただいています。
 ・「アントレプレナー/スタートアップ/SDGs」(学生向け)
 ・中堅企業、中小企業(多業種業態)の「第2・第3の創業」(企業向け)
 ・地域幸福度(ウェルビーイング)ファシリテーター(行政・自治体向け:産官学連携) 

 上記「切実の主な要因は、
・「なんとかしたい」
・「なんとかしなければならない」
・「あり続けたい」

・「下請けから脱皮したい」
・「地域がこのままの延長では拙い」
・「AIデジタルを取り込みたい」

・「SDGsを取り込みたい」
・Others
 にあります。

 あらためて、令和のビジネス環境では、「立つ・自立する・立ち上げる」 という動詞が、これまで以上に経営事業創発のコア技術になります。事業が立ち上がる、組織を立て直す、人財が自立する──これらはすべて、価値創造のプロセスをどう設計できるかにかかっています。
 価値創造とは「切実のトリガーが逸脱を呼び、智慧の編集が別様の価値を構築する」という、一種の“立ち上げ工学”です。

 さて、「起業、創業、新事業」というと、多くの人は
「アイデア → ビジネスプラン → 成功」
という一直線の流れを想像します。そして、その様な「現場を巻き込んだワークショップ」が多いことも事実ですが失敗することが大多数です。

 実際のスタートアップや創業、新事業は「一直線の流れ」のようにそう簡単に進展しません。
「行ったり来たり、迷い、戻り、やり直し」ながら前に進みます。
⇒ 「心」は「物語」になり、「ちがい」は「洗練」され、「かたち」は革新して、循環していきます。
その様な経験を、前職パイオニア社や現職(新価値創造研究所)の伴奏支援(学生・企業・自治体等)でも数多くしてきました。

・上記の現場で培った様々な実践の「心得と方法」
・そして、松岡正剛・谷口正和両師匠から指南された「心得と方法」の継承
 の双方を統合した「実践と理論」両輪を一枚で表したのが、この“らせんプロセス”の奥義であり結晶です。
(「らせんプロセス」各ステージの詳細は、第367~368夜に綴っています)

「らせんプロセス体系図」の重要なポイントは、
・本気で向き合う切実(気立て)
・常識を疑う 逸脱(見立て)
・別流を小さく試す 別様(仕立て)
それを何度も回し続ける覚悟です。
この図は、「成功する方法」ではなく、「成長し続けるための羅針盤」を示しています

 つまり、「価値創造」とは単なるアイデア創出ではなく、立ち上げ(気立て・見立て・仕立て)”の連続編集であり、心の反応から組織の実装、市場展開を貫く「価値創造ビジネス・アーキテクチャ」です。
参考:「ビジネス・アーキテクチャ」とは、企業の事業戦略や目的を実現するため、ビジネスの全体構造(業務、プロセス、組織、情報、IT、生成AIなど)を可視化し、設計・最適化する考え方や手法

 実際の「らせんプロセス体系」の研修・セミナー・伴走支援では、「1.切実、2.逸脱、3.別様」の各ステージ、ステップ毎に、参加者への「解説・問い・対話・気づき」に時間をかけて、順を追って積み重ねて、「価値創造/イノベーション」の真髄を体得していただいています。

■ 新価値創造研究所「らせんプロセス体系」と弘法大師空海の「両界曼荼羅」
 ここからは上記を踏まえて、
・新価値創造研究所の「価値創造『らせんプロセス体系』」と、
・弘法大師空海の「両界曼荼羅(胎蔵界曼荼羅・金剛界曼荼羅)」

 との間に、モノゴトの捉え方や創造のプロセスにおいて深い共通項があり、「両界曼荼羅」に触れることで自分の中に、大きなる響き・感動と飛躍がありました。

■ 弘法大師空海の「両界曼荼羅」
 ⇒両界曼荼羅とは何でしょうか?(前提の整理)
両界曼荼羅の基本構造
 空海の真言密教における両界曼荼羅は、

  • 胎蔵界曼荼羅
     → 原理・可能性・生成・慈悲内面世界
  • 金剛界曼荼羅
     → 構造・知・実践・智慧外化された働き
    この二つの世界を分けつつ、同時に不可分なものとして捉える宇宙観です。

重要なのは、「真理は一つだが、見る次元・働かせる次元が異なる」 という点です。
つまり「両界曼荼羅の本質」は、同じ世界を異なる次元で表現したもので、胎蔵界と金剛界は上下関係ではありません。(「二つでありながら一つ」です

 これって、上図「らせんプロセス体系」の構造と全く同じなので、出逢った時に驚きでした。
胎蔵界曼荼羅:「気立て→見立て→仕立て」(=人間の内側から駆動する内的な力)
金剛界曼荼羅:「切実→逸脱→別様」(=価値が生まれる外的プロセス)

 この「両界曼荼羅」に触れた時に、新価値創造研究所の価値創造「らせんプロセス体系」に間違いがないことを確信しました。また、空海への関心が更に強くなりました。
 ということは、「空海」の「哲学・洞察・理念・信念・行動・実践(生き様)」等を見れば、きっと現代にも生かせると確信しました。温故知新(第364~366夜詳細)です。

 特筆されるのは、弘法大師空海が日本が誇る「イノベーター(=価値創造者)」であったことです。空海は「目に見えない意味を、構造として可視化し、現実世界で機能させる知のあり方」をビジュアル化し、展開し、実践して広めたことです。

 イノベーションとは「胎蔵界で生まれ、金剛界で実装され、再び胎蔵界を更新する循環」です。この循環が止まると、改善止まりか、空理空論になります。

■ 両界曼荼羅をイノベーション構造に翻訳する
 まず対応関係を明確にします。

両界曼荼羅イノベーション領域具体例
胎蔵界意味・問い・可能性Why / 世界観 / 未言語ニーズ
金剛界智慧・構造・技術・実装How / ビジネスモデル / 技術

 つまり、「イノベーションは常に胎蔵界から始まる」ということを教えてくれます。
それは、下図「3つの知」が下記「深い知」(第364夜)から始まることと同じです。

◆ 胎蔵界イノベーション:最初にやるべきことは?
胎蔵界で問うべき問い
 イノベーション初期に必要なのはアイデアではなく「問い」です。
例:

  • この事業は「何の苦」を減らそうとしているのか
  • 顧客は何にまだ名前を付けられていないか
  • 社会の前提はどこでズレ始めているか

これは空海のいう「衆生の内に仏性がある」という見方と同じです。
⇒価値は外に探しに行くものではなく、内在している未顕在の可能性を洞察することです。
⇒参考:『深い知』 : 事業の再定義やミッション(使命)の創出につながる「大切にすることは何か」という問いに関する知。(第364夜、第367夜)

◆ 金剛界イノベーション:「意味」(meaning)を壊さずに形にする(第85夜、第364夜)
・胎蔵界で見出した「意味」を、次に壊さずに構造化します。
ここでの金剛界の役割は:

  • 技術選定
  • ビジネスモデル設計
  • 組織・プロセス設計

⇒重要なのは、金剛界は「意味に従属」するという関係性です。
空海においても、

  • 「金剛界の智慧」は、胎蔵界の慈悲・生成を実現するための力

◆ 真のイノベーションは「往復運動」
 ⇒世の中の「多くのフレームワーク」にないのが、ここです。

両界往復モデル

  1. 胎蔵界:問い・意味・世界観を掘る(⇒深い知@3つの知)
  2. 金剛界:構造・プロトタイプを作る(⇒高い知・広い知@3つの知)
  3. 現実にぶつかる
  4. 胎蔵界へ戻る:問いを更新する
  5. 再び金剛界へ

    ⇒ 上記1.2.で、上記「3つの知」(第364夜)の奥義とつながります。
    ⇒ 「らせんプロセス体系」と「両界曼荼羅」同じ構造でつながっています。

◆ 両界が分断されたときの症状は?

状態組織で起きること
胎蔵界だけ理想論・理念倒れ
金剛界だけ改善・模倣・価格競争
両界往復本質的イノベーション

⇒ 日本の産業界で多いのが、金剛界だけによる「改善・模倣・価格競争」です。その多くは、顕在化しているオペレーションに時間をかけて、胎蔵界の「意味・問い・可能性」を突き詰めていないことが原因です。
「両界往復」「本質的イノベーション」につながります。

◆ 両界曼荼羅を使った実践フレーム
 ここで、新価値創造研究所の「価値創造」フレームワークの一部を紹介します。
下図は、「3つの知」(第364夜)の中の「深い知」のステージです。
特に「旭山動物園のフレームワーク」が参加者の多くの理解が深まる演習になっています。
下図を見ていただくと、この「価値創造の構造」と上記「両界曼荼羅」は同じであることがおわかりいただけると思います。この「おおもと=胎蔵界」を探求・究明して往還することがポイントです。
 この構造に至ったのは、前職パイオニア社のヒット商品緊急開発プロジェクトを推進する中で、禅・瞑想の実践(第6夜、第289夜)をして、「理論と実践」を両立できたことが関係していると思います。

参考: 瞑想・座禅は、思考や思い込みによって切れていると思っているいろいろなものとのつながりを、もう一回本当は繋がっていたんだと気づくためのツールです。
座禅は、小さくなった心を取り戻すオリジナルな自分を取り戻すための型です。
瞑想とは、あなたの本来があなたに再びつながること(=Reconnect)です。

 興味・関心がある方は、是非、本コラム第364夜をご覧ください。

■ ワーク例

それでは、ワークとして使う一例を提示します。
Step 1(胎蔵界)

  • この事業が「救おうとしている苦」は何か?
  • それは言葉になっているか?

Step 2(金剛界)

  • その苦は、「どの構造で解消」できるか?
  • 技術・制度・体験の設計は?

Step 3(往復)

  • 実装して「ズレた感覚」はどこか?
  • 問い自体を更新できているか?

◆ 一言でまとめると

イノベーションとは、
・胎蔵界(意味)を忘れず、
・金剛界(構造)に閉じこもらず、
・その往復を続ける「知の修行」である。

空海の両界曼荼羅を「イノベーションの原型構造」 と確信してお伝えしていきます。

■ 「両界曼荼羅」の現代展開版が「らせんプロセス体系」!
 新価値創造研究所は、「両界曼荼羅」を現代に具現化展開しているのが、価値創造の「らせんプロセス体系」及び、「らせんプロセス体系図」とご縁を感じると共に、確信しています。
 是非、この「両界曼荼羅」「らせんプロセス体系」を下記の様に活用されてみてください。
例えば、「生命サステナブル」には、SDGsの17の社会課題があります。「AIデジタル」にもたくさんの課題があります。先ず、身の回りの「小さな課題」から挑戦されてください。
・「らせんプロセス体系」×「生命サステナブル」(第366夜)
・「らせんプロセス体系」×「AIデジタル」(第363夜)
・「らせんプロセス体系」×「日本流コネクタブル」(第362夜)
・「らせんプロセス体系」×「課題:○○○○○」
・「らせんプロセス体系」× Others

■ 『AI空海』の時代へ
 第363夜に「生成AI(AIデジタル」について綴りましたが、下図の様に、生成AIは『AI空海』を目指すことになると直感しました。
 「慈悲・意味」(胎蔵界曼荼羅)と「智慧・構造」(金剛界曼荼羅)を「二つでありながら一つ」として目指し、展開する『AI空海』の宇宙観こそが、私たちが求め、向かう「あてど」「拠り所」になると確信しています。
 その様に、「生成AI」が革新していって欲しいと願っています。

■ 謝意
 この『らせんプロセス体系』の背景には、私を三十年以上にわたり導いてくださった京都出身の二人の師の存在があります。 顧客の心の揺らぎを慈悲の目で見つめ、胎蔵界の如く広義のマーケティングを説かれた谷口正和先生。そして、世界の断片を金剛界の智慧のごとく編集し、知の体系を築き上げられた松岡正剛先生
  お二人から授かった『心の機微』と『知の極意』が、私の中で響き合い、今ようやくこの図解という一蓮(いちれん)の形となりました。 お二人が遺された光を、私はこのらせんの循環の中に灯し続け、次なる「価値創造の道」を歩む方々へと繋いでいくことを、ここに深く誓い、感謝を捧げます。
 
 永眠された二人の師匠との出逢いとご指南には、感動・感激・感謝しかありません。
コラム第308夜に綴りましたが、
「終わりと始まりはつながっている」
それを実践していきます。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第368夜:『気立て→見立て→仕立て』(後編)

投稿日: 

2025年12月18日: 価値創造の『らせんプロセス体系』 

 本夜は、前夜の後編になります。
 本コラムも368夜を数えますが、本夜と次夜は、下記A.B.の私の「理論と実践」の経験知を踏まえた「集大成の編集」の一つになります。
A.前職パイオニア社:幅広い「開発業務」経験
 ⇒技術開発・ヒット商品緊急開発プロジェクト・研究開発・シナリオプランニング開発・新事業開発等の実践
B.新価値創造研究所:独立後の「伴奏支援活動」経験
 ⇒「学校・起業・企業(ベンチャー、老舗)・自治体(行政)」への伴奏支援
 ⇒「産官学連携」伴奏支援
 ⇒ 各種研修・セミナー・ワークショップ
 上記A.B.双方の長年の実務経験を通して、「理論と実践」の両輪で「事業創生・地域創生・人財創生」に注力・尽力してきました。

 それら「理論と実践」の経験知を基盤において、本コラムで綴ってきた下記二つを組み合わせ、統合して「体系化」したのが下図になります。
・「切実→逸脱→別様」( 第333~334夜第366~367夜)
・「気立て→見立て→仕立て」(第249夜、第368夜)

 これらは、「アントレプレナー/スタートアップ/起業/ベンチャー等」の各伴走支援、各種研修・セミナー等でお伝えしてきたものです。(各ボックスの実例と演習で体得していただいています)
 ⇒ 新価値創造研究所のオリジナル体系です。
 ⇒ そこには、永眠された、松岡正剛・谷口正和の両師匠から受け継いだ叡智が色濃く刻まれています(第308夜: 「終わりと始まりはつながっている」)

 上記の「切実→逸脱→別様」「気立て(本気)→見立て(対象の本質)→仕立て(新しい本流)」の両プロセスは、「深い知(ミッション)→高い知(ビジョン)→広い知(イノベーション)」という「3つの知」と深く紐づき、実践に活用されています。(下図)
 これらが「らせん階段」のように連動することで、真の価値創造(イノベーション)が起こります。

■「切実→逸脱→別様」の要約
切実(せつじつ):
 現状の課題や危機に対する「本気」の思いや、なんとかして現状を変えたいという強い「自分ゴト」意識が起点となります。倒産危機のような逆境や受難が、この切実さを強く触発することもあります。
逸脱(いつだつ):
 従来のやり方や常識、既存の「枠」を乗り越えようとする段階です。切実な思いを土台に、対象の本質を見極め、あえて「非常識」とも思えるような新しいアプローチや異質なものを導入し、行動に移します。
別様(べつよう):
 逸脱した結果として、それまでとは「別流」となる新しい事業展開や市場、文化、ライフスタイルといった「新しい全体」が拓ける段階です。これは、新しいバージョンアップや成長の道筋を意味します。

■「気立て→見立て→仕立て」の要約
気立て (きだて): 価値創造の出発点
意味: 切実な状況に直面したときに「何とかしたい」「このままではいられない」と立ち上がる、内面から湧き出る心の構え態度
役割: 課題を自分ごととして引き寄せ、想像力や創造力を呼び覚ます心理的なエンジン。「洞察フェーズ」の始まり。

見立て (みたて): 価値を発想/構想する知恵
意味: 既存のものを別のものに置き換えたり、関連付けたりして、新しい意味や可能性を見出す「気づき」「発想」。例えば、リンゴの斑点を星に見立てるような、既存の枠を超えた視点など。 
役割: 「気立て」で生まれたエネルギーを、具体的なアイデアやコンセプト(新しい価値の構想)に転換する「発想・構想フェーズ」

仕立て (したて): 価値を現実にする統合力
意味: 「見立て」で描かれた新しい価値を、組織・市場・社会の中で「使われ、伝わり、続く」ような、持続可能な実体(製品、サービス、仕組み)へと実装・統合する力
役割: 構想を現実に落とし込み、価値を「立ち上がらせ」、自立させる「実行・実現フェーズ」。価値創造の最終工程であり、完成度を高める。 

■「気立て→見立て→仕立て」が示すこと

  • 日本的なプロセス: 日本の美意識や文化に根ざした、イノベーションを生み出す独自の道筋。
  • 実装重視: 素晴らしいアイデア、構想(見立て)を現実世界に根付かせる「仕立て」の力が不可欠であること。
  • 螺旋的発展: このプロセスは一度で終わらず、実現した価値が新たな「気立て」を生み出し、次の価値創造へとつながる「螺旋プロセス」を形成する。 

 上記の複数のフレームワークは、単なるビジネスモデルではなく、「心・智慧・実践」が三位一体となった、日本ならではの「日本流の価値創造のあり方」をも体系化したものです。

■ 価値創造の「らせん的展開・発展
 上図の「らせんプロセス体系」をご覧ください。
上段が、「①切実→②逸脱→③別様」(外側:価値が生まれるプロセス)
下段が、「④気立て→⑤見立て→⑥仕立て」(内側:人間の内面から駆動する力)
 に配置があり、「価値創造」は、
・①→④→②→⑤→③→⑥
 という、右に流れる「螺旋(らせん)階段」の様なプロセスで進みます。
このような進め方の段取りなしで、「アイデア発想」や「SWOT分析」から進めても多くが失敗に終わることを経験されてきたのではないでしょうか。
 自治体や多業種多業態の企業への伴走支援で「新成長の構想・実装」で不足しているのが、前半の「①→④→②→⑤」であり、特に、後段の「④→⑤→⑥」です。
 「成功のポイント」は、
・「別流」を生み出す(創る)という熱意・決意(心の領域)
・「別流」を生み出す(創る)ための方法(智慧の領域)

 という「心」と「智慧」を別々にしないで、「二つでありながら一つ」という心得と方法(らせんプロセス体系)が重要です。それを研修・セミナー・伴走支援では、「事例(ビデオ)と演習」で一歩一歩進めていきます。(次夜コラムでも触れます)

■ 価値創造の奥義・秘訣は「二つでありながら一つ」(第31夜~第37夜詳細)

 上図の「実践・アントレプレナー体系」をご覧ください。
① B(異変、問題)の「探求(内側)」と「解決(外側)」
② D(利他、気立て)とE(智慧、見立て)
③ LOVE(信念、確信)とPOWER(創造、革新)

 のそれぞれの二つは、「相反する二つの概念や要素が、対立するのではなく、深く結びつき、相互作用することで、より高次の価値を創造する」という「二つでありながら一つ」になっています。ここが「価値創造」の肝(きも)です。

参考事例:「③LOVE(信念、確信)とPOWER(創造、革新)
 学校、企業、自治体から、「イノベーション×SDGs」(下図)の依頼が多くあり、皆さんに質問して考えていただくシート(未来を変えるために必要なこと)の一部をここで紹介します。
 SDGsは、「あり続けるため(サステナブル)」に、17の社会課題(Goals)をどう解決(ディベロップメント)するかを考え、「社会性」と「経済性(利益)」を両立(二つでありながら一つ)する思想であり実践です。図の右上の高い点数を目指したいですよね。
 学生はこのような学習を学校の授業で体験してきています。
・学生たちは、○○○の社会課題を解決(LOVE)したいが、POWERがない
・社会人は、POWER(能力)の一部を持っているが、LOVE(利他)に向かわない。

この「愛と力」の二つを「両立させること」が、社会にも会社にも自治体にもベストなのです。
 その両立させる「心得と智慧」が「らせんプロセス体系」の習得にあります。


参考(第33夜)『禅(ZEN)』の修行で一番大切なコトは何だと思いますか?
それは、「二つ」にならないということにあります。
座禅の姿勢は、「結跏趺坐(けっかふざ)」という右足と左足を組んでいますね。
 この姿勢は、『二つではない、一つでもない』という「二元」性の「一者」性を表わしています。これが、もっとも大事な教えです。
 もし私達の心と身体が二つである、と考えるとそれは間違いです。心と身体が一つである、と考えるとそれも間違いです。私達の心と身体は、“二つでありながら一つ”なのです。(引用:禅マインド)

 この二つでありながら一つという東洋的な思想は、西洋的な二者択一や二項対立の考え方とは異なり、物事の両面を柔軟に捉え、統合することで、イノベーションや持続的な成長を生み出すための「秘訣」「奥義」です。 

■「二つでありながらひとつ」の例
 ・違いと共感:
 ビジネスで最も大切なコト(第82夜詳細)は、「違いを創るコト」と「共感を生み出すコト」を両立して、継続的に高く統合することです。
 つまり、「違いと共感」の新結合です。下図の赤丸が「価値創造の本丸」になります。

  • 暗黙知と形式知:(第185夜、第363夜)
    • 言語化や数値化が難しい個人の経験やノウハウ(暗黙知)と、マニュアルやデータとして表現された知識(形式知)は、一見すると別々のものですが、相互に変換・作用することで、組織的な知識創造が可能になります。
  • 不易と流行:(第34夜、第245夜詳細)
    • 時代が変わっても変化しない本質的な価値(不易)と、その時代のトレンドや変化(流行)は、別々に存在するのではなく、根底で一つにつながっています。不易を大切にしつつ、流行を取り入れることで、新しい価値が生まれます。
  • 負(マイナス)と正(プラス):(第292夜、第348夜)
    • 人生やビジネスにおける困難や失敗(負)は、単なるマイナスではなく、それを乗り越える過程や経験を通じて、新たな洞察や成長(正)の源泉となります。両者は切り離せない関係にあります。

■ 価値創造の秘訣(第76夜:価値創造イニシアティブ)

 「価値創造の秘訣」を提示(下図)します。
 2017年に「革新の7つの力」を本コラム第59夜~第74夜に亘って綴り、その構図・体系は第60夜、第76夜にまとめいます。
 本夜は、その7つの力の奥に潜む「価値創造の秘訣」をあらためてご紹介します。

 下図をご覧いただくと、本夜で展開してきた内容は、
1.自分を変える:危機意識・情熱力
2.他者を愛する:幸せ想像力
3.余白をつくる:本質創造力
4.舞台をつくる:仕組構想力

 という項目とつながっているのがわかります。

 さて、「4.舞台をつくる:仕組構想力」までくれば「価値創造の土台」がしっかりとできているので、先(未来)に進めるむことが可能です。興味関心がある方は、第59夜~第76夜をご覧ください。

・「別流を創る」「価値創造をする」「成長する」ということは、「自分を変える・自分が変わる」ことから始まります。ここが出発点です。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ


橋本元司の「価値創造の知」第367夜:『気立て→見立て→仕立て』(前編)

2025年12月16日: 『立つ』 の時代

  前夜は、「価値創造」について「One(現流)」と「Another(別流)」を一対として説明しました。「価値創造」とは、これまでの延長線上ではない「別流(Another)」の価値を創ることです。
 「One(現流)」と「Another(別流)」を往還(いったりきたり)することで、「別流」の価値は磨かれ、未来から現在を見直して(逆算:バックキャスティング)、情熱・志をもって、未来に向かってアプローチすることができるようになります。

■「未来(Another)は自ら創り出すことができる」(ドラッカー)
 「価値創造」によって、未来は受け身ではなく、別流を自ら創り出すことができます。
前職パイオニア社では、それを複数実践してきました。
 下図の様に、「One(現流)」と「Another(別流)」は双方向のコインの裏表です。
そして、「Another(別流)」を創り出すためには、「立つ、立ち上がる、立ち上げる」という
『立』の実行・実践が不可欠です。これが本夜の「鍵」「主題」です。

 「実(じつ)に居て虚(きょ)にあそぶことはかたし、 虚(Another)に居て実(One)を行ふべし」 (第191夜、第333夜、第366夜)

 前夜にも綴りましたが、上記の松尾芭蕉の言葉を私が現代語訳すると、
「日常的な現実世界(実・here・One)に身を置きながら、真理や未来世界(虚・大元・there・Another)の視点に立って物事を考えることは難しい。むしろ、真理や未来世界のAnother視点(虚・大元・there、想像性)に「立ち」ながらこそ、日々の現実的な行動(実・here・One)を適切に行うことが必要である」
 と云っています。
「価値創造」に向けた至言です。

 さて、上記の「虚(きょ)」を「想像性」に置き換えると理解がしやすくなります。
「Another(=虚)」は、「想像力」によって生まれてきます。

・子供の「創造力」は「想像力(虚)」によってしかもたらせない。(松岡正剛)
・「創造力」は「想像力(虚)」を触発しない限りは生まれない。(キエラン・イーガン)

 制約を外した自由な「想像力(虚・Another)」こそが「創造力(別様)」を生み出します。
つまり、「想像力(心)」と「創造力(智慧)」はコインの裏表です。
 参考ですが、「想像力(心)」と「創造力(智慧)」は、ビジネスの後工程である「マネジメント」領域ではなく、前工程の「イメジメント」の領域(下図)であることを申し添えます。(第7夜、第82夜、第312夜詳細)

■ 「価値創造」は「別流」の価値を創るコト!
 令和時代のいま、Anotherである「生命サステナブル(SX)」&「AIデジタル(AX)」という「世の中の不可避的な変化」を不確実で不確定なものと思っていると慎重になります。慎重になると、行動や決断が先送りされます。果報は寝て待てになり、「様子見」になります。その様な様子見の姿勢が、地域や企業に多く見られる「日本の失われた35年」「ITやAIに出遅れた日本の現実」につながる大きな要因です。

「明治という時代は立国・立志・立身・立憲・立党の『立』の時代だ。立派とは立国・立志・立身をまっとうすることだ。会社をおこすことは立社といった・・・。」(松岡正剛・千夜千冊1134夜引用)
 大局的にみると、令和時代の今は、「失われた35年」から『立ちあがる』絶好のタイミングではないでしょうか。立ち上がらなければ、更に失われた右肩下がりの時代になっていきます。

 さて、本当にAnother(別流)である「生命サステナブル(SX)」&「AIデジタル(AX)」は不確実で不確定なのでしょうか?このコラム「価値創造の知」第361夜で、下記「新成長ルル三条(SX・AX・JX)」を記してきましたが、それらは後戻りしない変化(X=トランスフォーメーション)であり、確実で確定したものです。この成長領域に10年間尽力してきました。

 新価値創造研究所の大きな役割の大きな一つは、眼前に確実にきている「未来の大きな変化、波」の「本質と行方」という『本来と将来』をとらえて先取り(価値創造)できるビジネスパーソン(起業・企業)や学生を輩出するコトに置いています。(=人財創生)

 あらためて、
・「価値創造」とは、これまでと違う「別流の価値」を創る(立ち上げる)ことです
 「経営の神様」と呼ばれたピーター・ドラッカーは、「企業の目的は、“顧客価値を創造すること」という名言を残しました。
 企業・地域は、「顧客価値の創造」を継続・持続できなければ、衰退・退陣に向かうのが原理原則です。(第82夜)

 価値創造は、「本業(One)」に「異質(Another)」を取り込むという、「統合領域」において、
・「本業×SX(SDGs:17の社会課題)」
・「本業×AX(生成AIデジタル)」

・「本業×SX×AX」
・「本業×○○○」
 というシンプルな新結合(第 17~18 夜、第 90~100 夜)から生まれてきます。
 「本業」に「異質」を取り込めば、自ずと「違い」のある先取りの「別流の化合物」が生まれてきます。(第82夜、第126夜)
 下に、その未来の化合物を創出する「自立(脱皮・変革)へのシナリオ」を図解化しています。

■ 『自立へのシナリオ
 令和のイノベーション時代は、「今までにないコトを起こす」という「立つ・立ちあがる(自立)・立ち上げる」ということが重要な「鍵」になります。「今までにないコト」は、前述の様に『異質』を内側(内面)に取り入れることから始まります。
 そして、「まだ表れてない、隠れている別流を勇気と智慧を持って起こす」ことが「地域創生」「事業創生」「人財創生」にダイレクトにつながってきます。
 次なる時代は、「次なる世代が自ら創り上げる気概と智慧」によって、「別流」を創っていくことがポイントになります。

 それでは、上図群の流れを追ってみましょう。
① 「こうであったら」という「想像力」が価値創造の『起点』となります。
② その「想像力」を強く触発して立ち上げるのが、心の領域の「切実・受難・逆境」です。
  ⇒「気立て(本気)」(境界を越える:なんとかして現状を変えたい!)
③ その「切実」→「想像力」が土台となって、次の「逸脱」を促します。
④ その「逸脱」にカタチを与えるのが「智慧」の領域の「3つの知」です。
  ⇒「見立て(本質)」(別流を立てる:対象を深く高く広く読んで構想する)
⑤ ②「心」と④「智慧」から「別様」(別流の新しい全体)が立ち上がります。
  ⇒「仕立て(次の本流)」(別流を仕上げる:構想をカタチにする、実装する)

 時間軸で整理すると、
・「想像力」→「気立て」→「創造力」→「見立て」→「別様」→「仕立て」
 となります。

■ 『立』(立つ・立ち上がる・立ち上げる)という内面から湧出する時代
 上記を「価値創造」の本筋である
・「切実→逸脱→別流」(第309夜、 第333~334夜、第361夜)
 と置き換えると、新しい景色が見えてきます。

・「切実」→「気立て(想像力)」→「逸脱」→「見立て(創造力)」→「別様」→「仕立て(統合力)」
・「切実」→「気立て」→「逸脱」→「見立て」→「別様」→「仕立て」
[解説](下図参照): 「切実」に触発されて、「気立て(心が立ち上がる)」が発生し、これまでの枠を破る「逸脱」を検討する中で、「見立て(智慧を立ち上げる)」を活用し、そこから「別様(別の様式)」の価値観が立ち現れて「仕立て」に向かう。

この連鎖こそが、令和のイノベーション時代に求められる「価値創造」の実装プロセスです。

 上図をシンプルに解説すると、
「気立て(心)」と「見立て(智慧)」の二つが組み合わさると、「仕立て(統合)」へジャンプして、「別流の価値」が生まれるという図式です。
⇒「価値創造」とは、これまでと違う「別流の価値」を創る(立ち上げる)コト

■ 「気立て→見立て→仕立て」を解説します
 2017年1月に、新価値創造研究所として本コラム「価値創造の知・第21夜」にて「気立て→見立て→仕立て」というコンセプト/プロセスを公表しました。それ以降、研修・講演・伴走支援で「イノベーションの発想・構想・実装」によるワークショップでお伝えしてきました。

 その後、「気立て」「見立て」「仕立て」の流れは、日本の文化や美意識に深く根ざした、日本流の価値創造のプロセスを示すフレームワークとしてブラシュアップを遂げました。
 それでは、其々を「意味と価値創造の役割」として整理します。

1. 気立て(きだて)
意味: 切実な状況に直面したときに立ち上がる「心の構え」であり、「自分ゴトとして引き受ける態度」である。課題を外在的な問題として処理するのではなく、内側に引き寄せ、応答しようとする心の起動状態を指す。
価値創造における役割:
すべての出発点となる「洞察フェーズ」。
ここではまだ解決策は見えていないが、「何とかしたい」「このままではいられない」という想いが、想像力を呼び覚ます。気立ては価値創造の心理的エンジンであり、切実を単なる状況認識から、創造へ向かう動力へと転換する働きをもつ。

2. 見立て(みたて)
意味: 見立てとは、逸脱によって生じた未分化な可能性に対して、意味と構造を与える智慧の働きである。既存の枠組みを離れた発想や視点を、単なるアイデアに留めず、「何として捉えるか」「どう位置づけるか」を定める行為が見立てである。
価値創造における役割:
「構想・計画フェーズ」。
 これは、対象の本質を捉え直し、別の文脈へ転移させる編集的思考であり、創造力の中核をなす。見立てによって、逸脱は方向性を持ち、価値として成立するための骨格を得る。
 重要な認識は、既存の常識や枠にとらわれない新たな可能性を見出すフェーズであるコト。
 下記「3つの知(第364夜)」の3つの余白を創出することが、次の「別様」につながります。
『深い知』: 事業の再定義やミッション(使命)の創出につながる「大切にすることは何か」という問いに関する知。
『高い知: 「故きを温ねて新しきを知る」という視点で、新しいビジョン(何を目指すのか)を見つけ出す知。
『広い知』: 『深い知』(ミッション)と『高い知』(ビジョン)をつなげ、異質なものを導入することでイノベーション(新結合)を具体化する知

3. 仕立て(したて)
意味:  仕立てとは、見立てによって描かれた別様を、現実の世界に実装し、持続可能なかたちに整える統合の力である。新しい価値は、構想された瞬間に完成するのではなく、組織・市場・社会との関係の中で「使われ、伝わり、続く」ことで初めて本流となる。
価値創造における役割:
「実行・実現フェーズ」。
 仕立ては、上図のように、「心(気立て)と智慧(見立て)」の成果を一つの実在へとジャンプしてまとめ上げる最終工程であり、価値創造を構想から実装へと貫通させる力である。ここで価値は「立ち上がり」、自立する。

 上記の「気立て→見立て→仕立て」や「切実→逸脱→別様」のように、「価値創造/成長経営」を発想・構想するときに、西欧の言葉ではなく「日本語」で考えることが肝要になります。それは、「日本流コネクタブル(JX)」(第362夜、第366夜)の出力に繋がってきます。

■ 次夜は・・・
A.切実→逸脱→別様
B.気立て→見立て→仕立て

 の二つの体系を新結合した「螺旋プロセス・構造」を図解でお伝えします。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ



橋本元司の「価値創造の知」第366夜:『Another(別流)』から『One(現流)』へ

2025年12月5日:価値創造のメインプロセスは『切実→逸脱→別様』 

 前夜は、「価値の高い仕事」の「ありか、あてど(当て所)」について綴りました。
下図の価値が高い「B箱(領域)」は「特別・別格な領域」であり、そこを突き詰めて考え、構想・実装することで、持続的な対価を得ることができるようになります。

・「価値創造」とは、これまでと違う「別流の価値」を創ることです。

 「生命サステナブル(Outer)」・「AIデジタル(I/F)」(第363夜に詳述)の時代、「人間」が能力を発揮する「価値の場所」は、ますますこの「B箱(領域)」にシフトしていくことは間違いありません。先読みして半歩先の手を打つことが肝要です。

そして、その特別で格別な「B箱(領域)」に導いてくれる方法が、これまで多くを綴ってきた「3つの知(第364夜)」であり、人間ならではの想像力、創造力が開花して下記を生み出す『心得と方法』です。

・「深い知」:新しい根本観:大切だと想うことは何か?
・「高い知」:新しい将来観:将来、目指したいコトは?
・「広い知」:新しい全体観:別流の価値観を創造する


■ 「枠を外す力」と「つなげる力」の両立
 さて、上記「3つの知」創出になくてはならないのが下図の「二つの力」です。
この「二つの力」を往還(行ったり来たり)することで新価値が生まれ、磨かれていきます。

「枠を外す力」の大御所が「深い知」:人間軸(一番大事なこと、心の拠り所)です。
そこ(あり様、おおもと)に到達すると、自動的に「高い知」・「広い知」は「枠・境界」を易々と越えることができます。
 それは、禅的思考:「禅」「瞑想」の修行・悟りに近いです(第235夜詳細)

・次に、「つなげる力」ですが、
⇒「高い知」:時間軸(温故知新:過去と現在をつないで新しい未来にジャンプする)
⇒「広い知」:空間軸(主客一体:異質な二つをつないで新しい全体にジャンプする

 の二つです。
 アップルのスティーブ・ジョブズは、「創造性とは、モノゴトを結び付けることにすぎない」と言いました。上図の「つなげる力」です。是非、時間軸(高い知:温故知新)、空間軸(広い知:主客一体)のそれぞれで「結び付けること、つなげること」に挑まれてください。

 上記は、参考として第364夜「3つの知」に詳細を記し図解化しています。

 この「二つの力」と「3つの知」の関係と方法を理解していただくことが価値創造の肝(きも)であり頭の整理につながります。
 それを「研修・セミナー・伴走支援プロジェクト」では、第364夜で事例紹介した「旭山動物園」等の「最も大切なコトは?」をビデオ演習などを通して腹落ちしていただいた後に、「自分(自社、自地域)の問題・課題」に取り組んでもらい、打開策を探索・探求する「道筋と心得・方法」をまるまる体得いただいています。

 さて、「深い知」(第85夜詳細)は「心の領域(顧客ニーズ)の奥」に潜んでいます。内在していて隠れているものを見つける「知」です。学校や会社では教えてもらっていません。

・「大切なコト」は目にみえないんだよ。(SDGs経営塾第6回:「星の王子さま」)

 私たちは「心」の奥底を探求して、自分の「心のステージ、フェーズ」を上げていく必要があります。そのための最大の推進力になるのが「切実・本気・自分ゴト」です。このエネルギーの「元・源」がないと「心の領域(顧客ニーズ)の奥底」には届かないことを実感しています。
 つまり、そこに「志・大義・覚悟・ミッション」という目に見えない(インビジブル)ものが心に灯っていることです。これが苦手の方のための「演習」もあります。

 その「深い知(最も大切なコト)」で「モノゴトのおおもと」を探索・探求(禅的思考)して突き詰めた先に、「本来と将来(高い知・広い知)」によるワクワク風景が浮かび上がり、観えるようになってきます。

■ 『One(現流)とAnother(別流)』
 上記から導き出されるのは、これまでの流儀(One=現流・現実)の「常識、枠、境界」を越えた「新しい流儀(Another=別流・新しい現実)」です。
 これまでの「社会、業界や事業(One)の枠組み(上図の左上の中)」にどっぷり嵌まってしまっていると、右側の「新しい現実」の価値創造には届くことはありません。
 つまり、これまでの枠組みを意識して取り払い、境界を越境して、左側(現実・現状)から右側(新しい現実、別枠)へ転移しないと新しいものなんて生まれないことをお伝えします。
 その代表格が「アップルのiPhone」です。iPhoneの「B.あり様、おおもと」は、
「創造的な人々の知性を増進する道具を届けたい」
 iPhoneは、皆さんが知る通り、私たちの文化・ライフスタイルを大きく変えていきました。(第164夜、第175夜、第361夜)

 第364夜で説明しましたが、「おおもと」の図の下方の赤枠三角形には、“本当はこうでありたい”という『真善美』の価値を見つけること、『意味(meaning)』を見つけることが、事業(企業)の成長につながってきます。
 『真善美』(第235夜詳細:素直な心)とは、人間が生きる上での理想の状態を3つで、
・「真:偽りのないこと」
・「善:良いこと・道徳的に正しいこと」
・「美:美しいこと・調和していること」

を表現した言葉です。きれいごとではなく、「心の奥底」からの言動は、社会性・共感性・成長性に大きく関与してきます。
 「iPhone」や伴走支援で、持続的に成長・成功されている会社群は、この「真善美」から生まれるコンセプトが心の拠り所・基盤になっていることをお伝えします。。

 補足として、「あり様:being」の領域には、『真善美』に深く紐づいた経営者の深い言葉(コンセプト)が入ってきます。それが、経営(事業)の「ミッション(使命)」「パーパス(存在意義」や「創業」の“becoming(「あり様」から「なり様」)”に繋がってきます。

 下図は、「新しい現実・枠組み」に変容する「新ルル三条(第361夜詳細)」をまとめています。
因みに、時代のトップの価値観は「あり続けたい=サステナブル」です。ここ重要です。
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新成長ルル三条: 日本新成長の変革(トランスフォーメーション=X)に不可欠な3大要素
1.気候沸騰⇒「生命・サステナブル」:SX⇒あり続けたい(Outer)
2.量子技術⇒「AI・デジタル」  :AX⇒知能技術活用(I/F)
3.文化経済⇒「日本流コネクタブル」:JX⇒見立て仕立て(Inner)

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 その「3つの知」の構造には、境界を跨いだ上図の「赤枠の余白」が3つ(▽○◇)あり、それを突き詰めることが「価値創造」の本筋であり、具現・具体(新しい現実)につながります。(第364夜詳細)
 つまり、その「赤枠の余白」に答えを出すことが、これまでの「やり方、常識、境界」を越える『別流』を生み出すことを可能にします。
その「別流」を上記「3つの知」の図を使って説明します。

・「深い知」:所有→使用→[別流]あり様(ミッション:一番大事なこと、心の拠り所)
・「高い知」:過去→現在→[別流]未来の姿を描く(ビジョン:目指す場所)
・「広い知」:本業×○○→[別流]新しい全体をつくる(:イノベーション創出の場)

 「新しい全体(別流)」は、「深い知」→「高い知」→「広い知」の流れで創出されます。

■ 「別流」が求められる背景
  下図の様に、昭和の時代は経営戦略立案のフレームワークとして、『旧3Cの「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの要素を「分析」することで済ませることが多かったのです。それは、「正解」「ゴール」が分かっている時代でした。

 しかし、今の急激な変化(第361夜詳細:SX・AX・JX)には、『新3C』の「顧客(Customer)」「将来文脈(Context)」「自社(Company)」の新3要素を「洞察(Insight&foresight)」し、構想・実装することができるかどうかで、地域・自社の将来を左右するようになっていきます。
 「生命サステナブル(SX)」「AIデジタル(AX)」という不確実で不確定なものには慎重になる。慎重になると、行動や決断が先送りされる。果報は寝て待てになる。それが、日本の停滞を生み出した「原因・源」です。ここから脱皮する手段が「価値創造の習得と実装」です。

■ 「新しい枠組み」
 それでは、皆さんがご存じの「身近な新しい枠組み」で成長している事例の一部を上げます。
・宿泊: ホテル→ Air B And B
・携帯電話:○○○→iPhone
・撮影: カメラ→iPhone
・掃除機:○○○→ルンバ(アイロボット)
・EV:  ○○○→テスラ
・Others

 上記は、「異業種」からの参入という「想定外」が従来と違います。
 特筆すべきことは、開発や導入のタイミングではその「新市場」はなかったのです。現在の「生成AI」にアクセスしても「AI」は新市場の可能性をきっと答えられないと思います。この領域が「人間とイノベーション」の出番です。
 上記の創業者は、「One(現流)」からの視点ではなく、「Another(別流)」に身を置き、拠り所にして「One(現流)」を変えています。それは、下図の「フォアキャスティング」から「バックキャスティング」への視点の移動です。
 つまり、未来から現在を観る『逆算』が「自地域や自社」の価値創造と上図の「競争優位&将来収益の源」につながります。
 現状に嵌まっていないで、転移(ジャンプ)しましょう。

 「生成AI」について記しましたが、「生成AI」が「推論」の能力を持てることがわかり、そのことで、私たちのビジネスやライフスタイルは劇的な変化が起こっています。
 第363夜に、「生成AI(AX:AIデジタル)」の急激な進展(推論の獲得)について案内しましたが、下図の「未来の姿」に「生成AI」(Another)を置いて、それを大前提として、現在(One)を変革することが喫緊です。それは、上図の「生命サステナブル(SX)」も同じ構図です。

⇒「『AI/SX』 に職を奪われるのではない。『AI/SX』を使いこなす誰かに職を奪われるのだ」

  繰り返しになりますが、これまでの「既存の枠組み(One)」を取り払って、「新しい枠組み(Another)を組み合わせて価値創造」する視点に『転移』させることの有無、出来不出来で皆さんの将来は大きく変わってくることを申し添えておきます。

■ 自分の「思考の拠点(拠り所)」を移してみる
 上記でお伝えしたかったことは、自分の「思考の視点・拠点」のありかで、大きく結果が変わってくることです。「視点・拠点」を動かさなければ、「オペレーション型の改善」への注力しかありません。しかし、この「改善」は同業者も同じことを続けているので「違い」を出すのが困難です。
 「思考の拠点、拠り所」を転移するのが、「イノベーション型の革新」です。その方法が「3つの知」になります。

 さて、前夜(第355夜)大谷翔平選手の目標達成シート(マンダラチャート)を紹介しましたが、上図の「赤丸の未来の姿」に自分の思考の拠点を中心に置いて、達成するための施策をマンダラ(8つの箱)に展開しています。

 重要なことは、大谷翔平選手が
・なぜ、マンダラチャートのど真ん中に『ドラフト1位 8球団』(=Another)
 というビジョン(目指すこと)を記したかということです。
私たちは、この『ドラフト1位 8球団』と記されたその「奥底」にある『一番大切な自分ごと(切実)』に想いを馳せなくてはいけません。「深い知(第85夜)」に隠された『覚悟』があります。
隠れているもの、内在しているものの本質を見つけ出すことが肝要です。
 その流れを次にご案内します。

■ 切実→逸脱→別様(第309夜、第322夜、 第333~334夜詳細)
 以上を踏まえて、「価値創造」の本筋(メインプロセス)をご案内します。

⇒「切実(本気、自分ゴト)→逸脱(対象の本質と転移)→別様(新しい本流、Another)

切実(Seriousness / Urgency): 現在直面している差し迫った、解決すべき課題や要求、あるいは深い願望・切望を指します。価値創造の出発点となる「現状認識」「動機」や「心の拠り所」です。(⇒深い知)

逸脱(Deviation / Transcendence): 既存の解決策、常識、確立された規範、あるいは期待される行動様式を意図的に破ることを意味します。これが創造的な飛躍やイノベーションの鍵となる段階です。「守破離」(第88夜、第330夜)の「破」にあたります。(⇒深い知・高い知)

別様(Difference / Alternative): 逸脱の結果として生まれる、従来とは異なる新しい状態、解決策、あるいは新しい価値観を指します。新しいパラダイムや創造された価値そのものです。(⇒広い知)

■ 『虚に居て実を行ふべし』 (第191夜、第333夜)
 さて、2018年の夏に松尾芭蕉の句で有名な山寺を訪ねました。
・ 「閑さや岩にしみ入る蝉の聲」
・ 「蛙飛こむ水の音

 何故、ここで芭蕉の句を登場させたのでしょうか?
 それは、松尾芭蕉が本夜のテーマである「One(現実)とAnother(心)」を結び付けて、それまでの言葉遊びにすぎなかった、貞門俳諧や談林俳諧の停滞を脱して、芭蕉が心の世界を打ち開いたイノベーションの句だからです。
 古池の句は現実の音(蛙飛びこむ水の音)をきっかけにして心の世界が(古池)が開けたという句です。つまり、現実と心の世界という次元の異なる合わさった『現実+心』の句であるということになります。
 この異次元のものが一句に同居していることが、芭蕉の句に躍動感をもたらすことになります。
心の世界を開くことによって主題(問題・課題)を変遷させ、音域を広げ、調べを深めていく。
そして数年後、芭蕉は「古池や」の流れに繋がる句を作りたくて「みちのく」を旅する。即ち「奥の細道」につながります・・・

 本日の主題です。
 少し加筆しますが、芭蕉は次のように言っています。
⇒ 「実(One、here)に居て虚にあそぶことはかたし、 虚(Another、there)に居て実を行ふべし」

 上記を私が現代語訳すると、
「日常的な現実世界(実・here・One)に身を置きながら、真理や未来世界(虚・大元・there・Another)の視点に立って物事を考えることは難しい。むしろ、真理や未来世界のAnother視点(虚・大元・there)に立ちながらこそ、日々の現実的な行動(実・here・One)を適切に行うことが必要である」

 現実の枠・常識の中(One)では改善はできても新しい成長に向かうことは難しい。「利他」に向かう「未来の姿」を突き詰めて「目指す姿、ありたい姿」(Another)をイメージして現在に戻り、現実を革新していく。それを何度もお伝えしました。

■ 参考①: 『別』とは何か?
 『別流』が、本夜の『OneとAnother』を読み解くキーワードになります。
理解を深めていただくために、「『別』とは何か?」について、松岡正剛師匠の言葉を加筆引用します。

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 「『別』とは何か?」
・・・日本では古来、「別当」「別業」「別所」「別格本山」「別伝」などというふうに、格別な位や場所や建物をあらわす場合に、しばしば「別」の字を使ってきた。「特別な」「別格の」「とりわけ」という意味合いだ。
 ・・・「別」は何を意味しているかというと、「one」に対する「another」をさしている。oneがあってもなお「もうひとつの(別の)another」がありうることを言っている。「もうひとつのone」としてのanotherがあることです。
 ・・・われわれは不確実で不確定なものには慎重になる。慎重になると、行動や決断が先送りされる。果報は寝て待てになる。
個人が慎重になるのはそれでもいいかもしれないが、組織はその先行きが見えない不確実な状況のあいだも、システムを維持していかなくてはならない。仮になるべく冒険をしないようにしたとしても、何もしないことにもコストがかかる。成長してきた組織やビッグシステムにとっても、そのコストは膨大だ。
 こうした隘路に立たされないようにするには、どうするか。

 成長期の早期から、いくつかの「別様の可能性(コンティンジェンシー)」が発現されるように仕組んでおくべきだったのである。・・・
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■ 参考②:「今・イノベーション時代」に必要な心得と方法
 本夜は、長々と綴ってしましました。
 昭和の時代はやることがわかっている、到着先まで「レール」が敷いてある「鉄道の時代」・「オペレーションの時代」でしたが、その後、「失われた35年」が続きました。令和の時代は、そのレールがない「航海の時代」・「イノベーションの時代」にとっくになっています。

 あらためて、私が主催する研修・セミナー・伴走支援プロジェクトでは、上記「航海の時代」に転移、適応するために『ドック入り』してもらい、「イノベーション型人財(事業、地域)」に変身・変容していただいています。

・「価値創造」で、多くの人々を幸せにしたい
それが「新価値創造研究所の使命」です。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ