2025年12月5日:価値創造のメインプロセスは『切実→逸脱→別様』
前夜は、「価値の高い仕事」の「ありか、あてど(当て所)」について綴りました。
下図の価値が高い「B箱(領域)」は「特別・別格な領域」であり、そこを突き詰めて考え、構想・実装することで、持続的な対価を得ることができるようになります。
・「価値創造」とは、これまでと違う「別流の価値」を創ることです。
「生命サステナブル(Outer)」・「AIデジタル(I/F)」(第363夜に詳述)の時代、「人間」が能力を発揮する「価値の場所」は、ますますこの「B箱(領域)」にシフトしていくことは間違いありません。先読みして半歩先の手を打つことが肝要です。

そして、その特別で格別な「B箱(領域)」に導いてくれる方法が、これまで多くを綴ってきた「3つの知(第364夜)」であり、人間ならではの想像力、創造力が開花して下記を生み出す『心得と方法』です。
・「深い知」:新しい根本観:大切だと想うことは何か?
・「高い知」:新しい将来観:将来、目指したいコトは?
・「広い知」:新しい全体観:別流の価値観を創造する

■ 「枠を外す力」と「つなげる力」の両立
さて、上記「3つの知」創出になくてはならないのが下図の「二つの力」です。
この「二つの力」を往還(行ったり来たり)することで新価値が生まれ、磨かれていきます。

・「枠を外す力」の大御所が「深い知」:人間軸(一番大事なこと、心の拠り所)です。
そこ(あり様、おおもと)に到達すると、自動的に「高い知」・「広い知」は「枠・境界」を易々と越えることができます。
それは、禅的思考:「禅」「瞑想」の修行・悟りに近いです(第235夜詳細)
・次に、「つなげる力」ですが、
⇒「高い知」:時間軸(温故知新:過去と現在をつないで新しい未来にジャンプする)
⇒「広い知」:空間軸(主客一体:異質な二つをつないで新しい全体にジャンプする
の二つです。
アップルのスティーブ・ジョブズは、「創造性とは、モノゴトを結び付けることにすぎない」と言いました。上図の「つなげる力」です。是非、時間軸(高い知:温故知新)、空間軸(広い知:主客一体)のそれぞれで「結び付けること、つなげること」に挑まれてください。
上記は、参考として第364夜「3つの知」に詳細を記し図解化しています。
この「二つの力」と「3つの知」の関係と方法を理解していただくことが価値創造の肝(きも)であり頭の整理につながります。
それを「研修・セミナー・伴走支援プロジェクト」では、第364夜で事例紹介した「旭山動物園」等の「最も大切なコトは?」をビデオ演習などを通して腹落ちしていただいた後に、「自分(自社、自地域)の問題・課題」に取り組んでもらい、打開策を探索・探求する「道筋と心得・方法」をまるまる体得いただいています。
さて、「深い知」(第85夜詳細)は「心の領域(顧客ニーズ)の奥」に潜んでいます。内在していて隠れているものを見つける「知」です。学校や会社では教えてもらっていません。
・「大切なコト」は目にみえないんだよ。(SDGs経営塾第6回:「星の王子さま」)
私たちは「心」の奥底を探求して、自分の「心のステージ、フェーズ」を上げていく必要があります。そのための最大の推進力になるのが「切実・本気・自分ゴト」です。このエネルギーの「元・源」がないと「心の領域(顧客ニーズ)の奥底」には届かないことを実感しています。
つまり、そこに「志・大義・覚悟・ミッション」という目に見えない(インビジブル)ものが心に灯っていることです。これが苦手の方のための「演習」もあります。
その「深い知(最も大切なコト)」で「モノゴトのおおもと」を探索・探求(禅的思考)して突き詰めた先に、「本来と将来(高い知・広い知)」によるワクワク風景が浮かび上がり、観えるようになってきます。

■ 『One(現流)とAnother(別流)』
上記から導き出されるのは、これまでの流儀(One=現流・現実)の「常識、枠、境界」を越えた「新しい流儀(Another=別流・新しい現実)」です。
これまでの「社会、業界や事業(One)の枠組み(上図の左上の中)」にどっぷり嵌まってしまっていると、右側の「新しい現実」の価値創造には届くことはありません。
つまり、これまでの枠組みを意識して取り払い、境界を越境して、左側(現実・現状)から右側(新しい現実、別枠)へ転移しないと新しいものなんて生まれないことをお伝えします。
その代表格が「アップルのiPhone」です。iPhoneの「B.あり様、おおもと」は、
・「創造的な人々の知性を増進する道具を届けたい」
iPhoneは、皆さんが知る通り、私たちの文化・ライフスタイルを大きく変えていきました。(第164夜、第175夜、第361夜)

第364夜で説明しましたが、「おおもと」の図の下方の赤枠三角形には、“本当はこうでありたい”という『真善美』の価値を見つけること、『意味(meaning)』を見つけることが、事業(企業)の成長につながってきます。
『真善美』(第235夜詳細:素直な心)とは、人間が生きる上での理想の状態を3つで、
・「真:偽りのないこと」
・「善:良いこと・道徳的に正しいこと」
・「美:美しいこと・調和していること」
を表現した言葉です。きれいごとではなく、「心の奥底」からの言動は、社会性・共感性・成長性に大きく関与してきます。
「iPhone」や伴走支援で、持続的に成長・成功されている会社群は、この「真善美」から生まれるコンセプトが心の拠り所・基盤になっていることをお伝えします。。
補足として、「あり様:being」の領域には、『真善美』に深く紐づいた経営者の深い言葉(コンセプト)が入ってきます。それが、経営(事業)の「ミッション(使命)」「パーパス(存在意義」や「創業」の“becoming(「あり様」から「なり様」)”に繋がってきます。
下図は、「新しい現実・枠組み」に変容する「新ルル三条(第361夜詳細)」をまとめています。
因みに、時代のトップの価値観は「あり続けたい=サステナブル」です。ここ重要です。
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新成長ルル三条: 日本新成長の変革(トランスフォーメーション=X)に不可欠な3大要素
1.気候沸騰⇒「生命・サステナブル」:SX⇒あり続けたい(Outer)
2.量子技術⇒「AI・デジタル」 :AX⇒知能技術活用(I/F)
3.文化経済⇒「日本流コネクタブル」:JX⇒見立て仕立て(Inner)
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その「3つの知」の構造には、境界を跨いだ上図の「赤枠の余白」が3つ(▽○◇)あり、それを突き詰めることが「価値創造」の本筋であり、具現・具体(新しい現実)につながります。(第364夜詳細)
つまり、その「赤枠の余白」に答えを出すことが、これまでの「やり方、常識、境界」を越える『別流』を生み出すことを可能にします。
その「別流」を上記「3つの知」の図を使って説明します。
・「深い知」:所有→使用→[別流]あり様(ミッション:一番大事なこと、心の拠り所)
・「高い知」:過去→現在→[別流]未来の姿を描く(ビジョン:目指す場所)
・「広い知」:本業×○○→[別流]新しい全体をつくる(:イノベーション創出の場)
「新しい全体(別流)」は、「深い知」→「高い知」→「広い知」の流れで創出されます。
■ 「別流」が求められる背景
下図の様に、昭和の時代は経営戦略立案のフレームワークとして、『旧3C』の「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の3つの要素を「分析」することで済ませることが多かったのです。それは、「正解」「ゴール」が分かっている時代でした。
しかし、今の急激な変化(第361夜詳細:SX・AX・JX)には、『新3C』の「顧客(Customer)」「将来文脈(Context)」「自社(Company)」の新3要素を「洞察(Insight&foresight)」し、構想・実装することができるかどうかで、地域・自社の将来を左右するようになっていきます。
「生命サステナブル(SX)」「AIデジタル(AX)」という不確実で不確定なものには慎重になる。慎重になると、行動や決断が先送りされる。果報は寝て待てになる。それが、日本の停滞を生み出した「原因・源」です。ここから脱皮する手段が「価値創造の習得と実装」です。

■ 「新しい枠組み」
それでは、皆さんがご存じの「身近な新しい枠組み」で成長している事例の一部を上げます。
・宿泊: ホテル→ Air B And B
・携帯電話:○○○→iPhone
・撮影: カメラ→iPhone
・掃除機:○○○→ルンバ(アイロボット)
・EV: ○○○→テスラ
・Others
上記は、「異業種」からの参入という「想定外」が従来と違います。
特筆すべきことは、開発や導入のタイミングではその「新市場」はなかったのです。現在の「生成AI」にアクセスしても「AI」は新市場の可能性をきっと答えられないと思います。この領域が「人間とイノベーション」の出番です。
上記の創業者は、「One(現流)」からの視点ではなく、「Another(別流)」に身を置き、拠り所にして「One(現流)」を変えています。それは、下図の「フォアキャスティング」から「バックキャスティング」への視点の移動です。
つまり、未来から現在を観る『逆算』が「自地域や自社」の価値創造と上図の「競争優位&将来収益の源」につながります。
現状に嵌まっていないで、転移(ジャンプ)しましょう。
「生成AI」について記しましたが、「生成AI」が「推論」の能力を持てることがわかり、そのことで、私たちのビジネスやライフスタイルは劇的な変化が起こっています。
第363夜に、「生成AI(AX:AIデジタル)」の急激な進展(推論の獲得)について案内しましたが、下図の「未来の姿」に「生成AI」(Another)を置いて、それを大前提として、現在(One)を変革することが喫緊です。それは、上図の「生命サステナブル(SX)」も同じ構図です。
⇒「『AI/SX』 に職を奪われるのではない。『AI/SX』を使いこなす誰かに職を奪われるのだ」
繰り返しになりますが、これまでの「既存の枠組み(One)」を取り払って、「新しい枠組み(Another)を組み合わせて価値創造」する視点に『転移』させることの有無、出来不出来で皆さんの将来は大きく変わってくることを申し添えておきます。


■ 自分の「思考の拠点(拠り所)」を移してみる
上記でお伝えしたかったことは、自分の「思考の視点・拠点」のありかで、大きく結果が変わってくることです。「視点・拠点」を動かさなければ、「オペレーション型の改善」への注力しかありません。しかし、この「改善」は同業者も同じことを続けているので「違い」を出すのが困難です。
「思考の拠点、拠り所」を転移するのが、「イノベーション型の革新」です。その方法が「3つの知」になります。
さて、前夜(第355夜)大谷翔平選手の目標達成シート(マンダラチャート)を紹介しましたが、上図の「赤丸の未来の姿」に自分の思考の拠点を中心に置いて、達成するための施策をマンダラ(8つの箱)に展開しています。

重要なことは、大谷翔平選手が
・なぜ、マンダラチャートのど真ん中に『ドラフト1位 8球団』(=Another)
というビジョン(目指すこと)を記したかということです。
私たちは、この『ドラフト1位 8球団』と記されたその「奥底」にある『一番大切な自分ごと(切実)』に想いを馳せなくてはいけません。「深い知(第85夜)」に隠された『覚悟』があります。
隠れているもの、内在しているものの本質を見つけ出すことが肝要です。
その流れを次にご案内します。
■ 切実→逸脱→別様(第309夜、第322夜、 第333~334夜詳細)
以上を踏まえて、「価値創造」の本筋(メインプロセス)をご案内します。
⇒「切実(本気、自分ゴト)→逸脱(対象の本質と転移)→別様(新しい本流、Another)
・切実(Seriousness / Urgency): 現在直面している差し迫った、解決すべき課題や要求、あるいは深い願望・切望を指します。価値創造の出発点となる「現状認識」「動機」や「心の拠り所」です。(⇒深い知)
・逸脱(Deviation / Transcendence): 既存の解決策、常識、確立された規範、あるいは期待される行動様式を意図的に破ることを意味します。これが創造的な飛躍やイノベーションの鍵となる段階です。「守破離」(第88夜、第330夜)の「破」にあたります。(⇒深い知・高い知)
・別様(Difference / Alternative): 逸脱の結果として生まれる、従来とは異なる新しい状態、解決策、あるいは新しい価値観を指します。新しいパラダイムや創造された価値そのものです。(⇒広い知)


■ 『虚に居て実を行ふべし』 (第191夜、第333夜)
さて、2018年の夏に松尾芭蕉の句で有名な山寺を訪ねました。
・ 「閑さや岩にしみ入る蝉の聲」
・ 「蛙飛こむ水の音」
何故、ここで芭蕉の句を登場させたのでしょうか?
それは、松尾芭蕉が本夜のテーマである「One(現実)とAnother(心)」を結び付けて、それまでの言葉遊びにすぎなかった、貞門俳諧や談林俳諧の停滞を脱して、芭蕉が心の世界を打ち開いたイノベーションの句だからです。
古池の句は現実の音(蛙飛びこむ水の音)をきっかけにして心の世界が(古池)が開けたという句です。つまり、現実と心の世界という次元の異なる合わさった『現実+心』の句であるということになります。
この異次元のものが一句に同居していることが、芭蕉の句に躍動感をもたらすことになります。
心の世界を開くことによって主題(問題・課題)を変遷させ、音域を広げ、調べを深めていく。
そして数年後、芭蕉は「古池や」の流れに繋がる句を作りたくて「みちのく」を旅する。即ち「奥の細道」につながります・・・

本日の主題です。
少し加筆しますが、芭蕉は次のように言っています。
⇒ 「実(One、here)に居て虚にあそぶことはかたし、 虚(Another、there)に居て実を行ふべし」
上記を私が現代語訳すると、
「日常的な現実世界(実・here・One)に身を置きながら、真理や未来世界(虚・大元・there・Another)の視点に立って物事を考えることは難しい。むしろ、真理や未来世界のAnother視点(虚・大元・there)に立ちながらこそ、日々の現実的な行動(実・here・One)を適切に行うことが必要である」

現実の枠・常識の中(One)では改善はできても新しい成長に向かうことは難しい。「利他」に向かう「未来の姿」を突き詰めて「目指す姿、ありたい姿」(Another)をイメージして現在に戻り、現実を革新していく。それを何度もお伝えしました。
■ 参考①: 『別』とは何か?
『別流』が、本夜の『OneとAnother』を読み解くキーワードになります。
理解を深めていただくために、「『別』とは何か?」について、松岡正剛師匠の言葉を加筆引用します。
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「『別』とは何か?」
・・・日本では古来、「別当」「別業」「別所」「別格本山」「別伝」などというふうに、格別な位や場所や建物をあらわす場合に、しばしば「別」の字を使ってきた。「特別な」「別格の」「とりわけ」という意味合いだ。
・・・「別」は何を意味しているかというと、「one」に対する「another」をさしている。oneがあってもなお「もうひとつの(別の)another」がありうることを言っている。「もうひとつのone」としてのanotherがあることです。
・・・われわれは不確実で不確定なものには慎重になる。慎重になると、行動や決断が先送りされる。果報は寝て待てになる。
個人が慎重になるのはそれでもいいかもしれないが、組織はその先行きが見えない不確実な状況のあいだも、システムを維持していかなくてはならない。仮になるべく冒険をしないようにしたとしても、何もしないことにもコストがかかる。成長してきた組織やビッグシステムにとっても、そのコストは膨大だ。
こうした隘路に立たされないようにするには、どうするか。
成長期の早期から、いくつかの「別様の可能性(コンティンジェンシー)」が発現されるように仕組んでおくべきだったのである。・・・
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■ 参考②:「今・イノベーション時代」に必要な心得と方法
本夜は、長々と綴ってしましました。
昭和の時代はやることがわかっている、到着先まで「レール」が敷いてある「鉄道の時代」・「オペレーションの時代」でしたが、その後、「失われた35年」が続きました。令和の時代は、そのレールがない「航海の時代」・「イノベーションの時代」にとっくになっています。

あらためて、私が主催する研修・セミナー・伴走支援プロジェクトでは、上記「航海の時代」に転移、適応するために『ドック入り』してもらい、「イノベーション型人財(事業、地域)」に変身・変容していただいています。


・「価値創造」で、多くの人々を幸せにしたい
それが「新価値創造研究所の使命」です。
価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ