2025年12月16日: 『立つ』 の時代
前夜は、「価値創造」について「One(現流)」と「Another(別流)」を一対として説明しました。「価値創造」とは、これまでの延長線上ではない「別流(Another)」の価値を創ることです。
「One(現流)」と「Another(別流)」を往還(いったりきたり)することで、「別流」の価値は磨かれ、未来から現在を見直して(逆算:バックキャスティング)、情熱・志をもって、未来に向かってアプローチすることができるようになります。
■「未来(Another)は自ら創り出すことができる」(ドラッカー)
「価値創造」によって、未来は受け身ではなく、別流を自ら創り出すことができます。
前職パイオニア社では、それを複数実践してきました。
下図の様に、「One(現流)」と「Another(別流)」は双方向のコインの裏表です。
そして、「Another(別流)」を創り出すためには、「立つ、立ち上がる、立ち上げる」という
『立』の実行・実践が不可欠です。これが本夜の「鍵」「主題」です。

■ 「実(じつ)に居て虚(きょ)にあそぶことはかたし、 虚(Another)に居て実(One)を行ふべし」 (第191夜、第333夜、第366夜)
前夜にも綴りましたが、上記の松尾芭蕉の言葉を私が現代語訳すると、
「日常的な現実世界(実・here・One)に身を置きながら、真理や未来世界(虚・大元・there・Another)の視点に立って物事を考えることは難しい。むしろ、真理や未来世界のAnother視点(虚・大元・there、想像性)に「立ち」ながらこそ、日々の現実的な行動(実・here・One)を適切に行うことが必要である」
と云っています。
「価値創造」に向けた至言です。
さて、上記の「虚(きょ)」を「想像性」に置き換えると理解がしやすくなります。
「Another(=虚)」は、「想像力」によって生まれてきます。
・子供の「創造力」は「想像力(虚)」によってしかもたらせない。(松岡正剛)
・「創造力」は「想像力(虚)」を触発しない限りは生まれない。(キエラン・イーガン)
制約を外した自由な「想像力(虚・Another)」こそが「創造力(別様)」を生み出します。
つまり、「想像力(心)」と「創造力(智慧)」はコインの裏表です。
参考ですが、「想像力(心)」と「創造力(智慧)」は、ビジネスの後工程である「マネジメント」領域ではなく、前工程の「イメジメント」の領域(下図)であることを申し添えます。(第7夜、第82夜、第312夜詳細)

■ 「価値創造」は「別流」の価値を創るコト!
令和時代のいま、Anotherである「生命サステナブル(SX)」&「AIデジタル(AX)」という「世の中の不可避的な変化」を不確実で不確定なものと思っていると慎重になります。慎重になると、行動や決断が先送りされます。果報は寝て待てになり、「様子見」になります。その様な様子見の姿勢が、地域や企業に多く見られる「日本の失われた35年」「ITやAIに出遅れた日本の現実」につながる大きな要因です。
「明治という時代は立国・立志・立身・立憲・立党の『立』の時代だ。立派とは立国・立志・立身をまっとうすることだ。会社をおこすことは立社といった・・・。」(松岡正剛・千夜千冊1134夜引用)
大局的にみると、令和時代の今は、「失われた35年」から『立ちあがる』絶好のタイミングではないでしょうか。立ち上がらなければ、更に失われた右肩下がりの時代になっていきます。
さて、本当にAnother(別流)である「生命サステナブル(SX)」&「AIデジタル(AX)」は不確実で不確定なのでしょうか?このコラム「価値創造の知」第361夜で、下記「新成長ルル三条(SX・AX・JX)」を記してきましたが、それらは後戻りしない変化(X=トランスフォーメーション)であり、確実で確定したものです。この成長領域に10年間尽力してきました。
新価値創造研究所の大きな役割の大きな一つは、眼前に確実にきている「未来の大きな変化、波」の「本質と行方」という『本来と将来』をとらえて先取り(価値創造)できるビジネスパーソン(起業・企業)や学生を輩出するコトに置いています。(=人財創生)

あらためて、
・「価値創造」とは、これまでと違う「別流の価値」を創る(立ち上げる)ことです。
「経営の神様」と呼ばれたピーター・ドラッカーは、「企業の目的は、“顧客価値を創造すること」という名言を残しました。
企業・地域は、「顧客価値の創造」を継続・持続できなければ、衰退・退陣に向かうのが原理原則です。(第82夜)
価値創造は、「本業(One)」に「異質(Another)」を取り込むという、「統合領域」において、
・「本業×SX(SDGs:17の社会課題)」
・「本業×AX(生成AIデジタル)」
・「本業×SX×AX」
・「本業×○○○」
というシンプルな新結合(第 17~18 夜、第 90~100 夜)から生まれてきます。
「本業」に「異質」を取り込めば、自ずと「違い」のある先取りの「別流の化合物」が生まれてきます。(第82夜、第126夜)
下に、その未来の化合物を創出する「自立(脱皮・変革)へのシナリオ」を図解化しています。


■ 『自立』へのシナリオ
令和のイノベーション時代は、「今までにないコトを起こす」という「立つ・立ちあがる(自立)・立ち上げる」ということが重要な「鍵」になります。「今までにないコト」は、前述の様に『異質』を内側(内面)に取り入れることから始まります。
そして、「まだ表れてない、隠れている別流を勇気と智慧を持って起こす」ことが「地域創生」「事業創生」「人財創生」にダイレクトにつながってきます。
次なる時代は、「次なる世代が自ら創り上げる気概と智慧」によって、「別流」を創っていくことがポイントになります。
それでは、上図群の流れを追ってみましょう。
① 「こうであったら」という「想像力」が価値創造の『起点』となります。
② その「想像力」を強く触発して立ち上げるのが、心の領域の「切実・受難・逆境」です。
⇒「気立て(本気)」(境界を越える:なんとかして現状を変えたい!)
③ その「切実」→「想像力」が土台となって、次の「逸脱」を促します。
④ その「逸脱」にカタチを与えるのが「智慧」の領域の「3つの知」です。
⇒「見立て(本質)」(別流を立てる:対象を深く高く広く読んで構想する)
⑤ ②「心」と④「智慧」から「別様」(別流の新しい全体)が立ち上がります。
⇒「仕立て(次の本流)」(別流を仕上げる:構想をカタチにする、実装する)
時間軸で整理すると、
・「想像力」→「気立て」→「創造力」→「見立て」→「別様」→「仕立て」
となります。
■ 『立』(立つ・立ち上がる・立ち上げる)という内面から湧出する時代
上記を「価値創造」の本筋である
・「切実→逸脱→別流」(第309夜、 第333~334夜、第361夜)
と置き換えると、新しい景色が見えてきます。
・「切実」→「気立て(想像力)」→「逸脱」→「見立て(創造力)」→「別様」→「仕立て(統合力)」
・「切実」→「気立て」→「逸脱」→「見立て」→「別様」→「仕立て」
[解説](下図参照): 「切実」に触発されて、「気立て(心が立ち上がる)」が発生し、これまでの枠を破る「逸脱」を検討する中で、「見立て(智慧を立ち上げる)」を活用し、そこから「別様(別の様式)」の価値観が立ち現れて「仕立て」に向かう。
この連鎖こそが、令和のイノベーション時代に求められる「価値創造」の実装プロセスです。

上図をシンプルに解説すると、
「気立て(心)」と「見立て(智慧)」の二つが組み合わさると、「仕立て(統合)」へジャンプして、「別流の価値」が生まれるという図式です。
⇒「価値創造」とは、これまでと違う「別流の価値」を創る(立ち上げる)コト
■ 「気立て→見立て→仕立て」を解説します
2017年1月に、新価値創造研究所として本コラム「価値創造の知・第21夜」にて「気立て→見立て→仕立て」というコンセプト/プロセスを公表しました。それ以降、研修・講演・伴走支援で「イノベーションの発想・構想・実装」によるワークショップでお伝えしてきました。
その後、「気立て」「見立て」「仕立て」の流れは、日本の文化や美意識に深く根ざした、日本流の価値創造のプロセスを示すフレームワークとしてブラシュアップを遂げました。
それでは、其々を「意味と価値創造の役割」として整理します。
1. 気立て(きだて)
・意味: 切実な状況に直面したときに立ち上がる「心の構え」であり、「自分ゴトとして引き受ける態度」である。課題を外在的な問題として処理するのではなく、内側に引き寄せ、応答しようとする心の起動状態を指す。
・価値創造における役割:
すべての出発点となる「洞察フェーズ」。
ここではまだ解決策は見えていないが、「何とかしたい」「このままではいられない」という想いが、想像力を呼び覚ます。気立ては価値創造の心理的エンジンであり、切実を単なる状況認識から、創造へ向かう動力へと転換する働きをもつ。
2. 見立て(みたて)
・意味: 見立てとは、逸脱によって生じた未分化な可能性に対して、意味と構造を与える智慧の働きである。既存の枠組みを離れた発想や視点を、単なるアイデアに留めず、「何として捉えるか」「どう位置づけるか」を定める行為が見立てである。
・価値創造における役割:
「構想・計画フェーズ」。
これは、対象の本質を捉え直し、別の文脈へ転移させる編集的思考であり、創造力の中核をなす。見立てによって、逸脱は方向性を持ち、価値として成立するための骨格を得る。
重要な認識は、既存の常識や枠にとらわれない新たな可能性を見出すフェーズであるコト。
下記「3つの知(第364夜)」の3つの余白を創出することが、次の「別様」につながります。
①『深い知』: 事業の再定義やミッション(使命)の創出につながる「大切にすることは何か」という問いに関する知。
②『高い知』: 「故きを温ねて新しきを知る」という視点で、新しいビジョン(何を目指すのか)を見つけ出す知。
③『広い知』: 『深い知』(ミッション)と『高い知』(ビジョン)をつなげ、異質なものを導入することでイノベーション(新結合)を具体化する知
3. 仕立て(したて)
・意味: 仕立てとは、見立てによって描かれた別様を、現実の世界に実装し、持続可能なかたちに整える統合の力である。新しい価値は、構想された瞬間に完成するのではなく、組織・市場・社会との関係の中で「使われ、伝わり、続く」ことで初めて本流となる。
・価値創造における役割:
「実行・実現フェーズ」。
仕立ては、上図のように、「心(気立て)と智慧(見立て)」の成果を一つの実在へとジャンプしてまとめ上げる最終工程であり、価値創造を構想から実装へと貫通させる力である。ここで価値は「立ち上がり」、自立する。
上記の「気立て→見立て→仕立て」や「切実→逸脱→別様」のように、「価値創造/成長経営」を発想・構想するときに、西欧の言葉ではなく「日本語」で考えることが肝要になります。それは、「日本流コネクタブル(JX)」(第362夜、第366夜)の出力に繋がってきます。
■ 次夜は・・・
A.切実→逸脱→別様
B.気立て→見立て→仕立て
の二つの体系を新結合した「螺旋プロセス・構造」を図解でお伝えします。
価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ