2025年12月18日: 価値創造の『らせんプロセス体系』
本夜は、前夜の後編になります。
本コラムも368夜を数えますが、本夜と次夜は、下記A.B.の私の「理論と実践」の経験知を踏まえた「集大成の編集」の一つになります。
A.前職パイオニア社:幅広い「開発業務」経験
⇒技術開発・ヒット商品緊急開発プロジェクト・研究開発・シナリオプランニング開発・新事業開発等の実践
B.新価値創造研究所:独立後の「伴奏支援活動」経験
⇒「学校・起業・企業(ベンチャー、老舗)・自治体(行政)」への伴奏支援
⇒「産官学連携」伴奏支援
⇒ 各種研修・セミナー・ワークショップ
上記A.B.双方の長年の実務経験を通して、「理論と実践」の両輪で「事業創生・地域創生・人財創生」に注力・尽力してきました。
それら「理論と実践」の経験知を基盤において、本コラムで綴ってきた下記二つを組み合わせ、統合して「体系化」したのが下図になります。
・「切実→逸脱→別様」( 第333~334夜、第366~367夜)
・「気立て→見立て→仕立て」(第249夜、第368夜)
これらは、「アントレプレナー/スタートアップ/起業/ベンチャー等」の各伴走支援、各種研修・セミナー等でお伝えしてきたものです。(各ボックスの実例と演習で体得していただいています)
⇒ 新価値創造研究所のオリジナル体系です。
⇒ そこには、永眠された、松岡正剛・谷口正和の両師匠から受け継いだ叡智が色濃く刻まれています(第308夜: 「終わりと始まりはつながっている」)


上記の「切実→逸脱→別様」と「気立て(本気)→見立て(対象の本質)→仕立て(新しい本流)」の両プロセスは、「深い知(ミッション)→高い知(ビジョン)→広い知(イノベーション)」という「3つの知」と深く紐づき、実践に活用されています。(下図)
これらが「らせん階段」のように連動することで、真の価値創造(イノベーション)が起こります。

■「切実→逸脱→別様」の要約
①切実(せつじつ):
現状の課題や危機に対する「本気」の思いや、なんとかして現状を変えたいという強い「自分ゴト」意識が起点となります。倒産危機のような逆境や受難が、この切実さを強く触発することもあります。
②逸脱(いつだつ):
従来のやり方や常識、既存の「枠」を乗り越えようとする段階です。切実な思いを土台に、対象の本質を見極め、あえて「非常識」とも思えるような新しいアプローチや異質なものを導入し、行動に移します。
③別様(べつよう):
逸脱した結果として、それまでとは「別流」となる新しい事業展開や市場、文化、ライフスタイルといった「新しい全体」が拓ける段階です。これは、新しいバージョンアップや成長の道筋を意味します。

■「気立て→見立て→仕立て」の要約
④気立て (きだて): 価値創造の出発点
意味: 切実な状況に直面したときに「何とかしたい」「このままではいられない」と立ち上がる、内面から湧き出る心の構えや態度。
役割: 課題を自分ごととして引き寄せ、想像力や創造力を呼び覚ます心理的なエンジン。「洞察フェーズ」の始まり。
⑤見立て (みたて): 価値を発想/構想する知恵
意味: 既存のものを別のものに置き換えたり、関連付けたりして、新しい意味や可能性を見出す「気づき」や「発想」。例えば、リンゴの斑点を星に見立てるような、既存の枠を超えた視点など。
役割: 「気立て」で生まれたエネルギーを、具体的なアイデアやコンセプト(新しい価値の構想)に転換する「発想・構想フェーズ」。
⑥仕立て (したて): 価値を現実にする統合力
意味: 「見立て」で描かれた新しい価値を、組織・市場・社会の中で「使われ、伝わり、続く」ような、持続可能な実体(製品、サービス、仕組み)へと実装・統合する力。
役割: 構想を現実に落とし込み、価値を「立ち上がらせ」、自立させる「実行・実現フェーズ」。価値創造の最終工程であり、完成度を高める。
■「気立て→見立て→仕立て」が示すこと
- 日本的なプロセス: 日本の美意識や文化に根ざした、イノベーションを生み出す独自の道筋。
- 実装重視: 素晴らしいアイデア、構想(見立て)を現実世界に根付かせる「仕立て」の力が不可欠であること。
- 螺旋的発展: このプロセスは一度で終わらず、実現した価値が新たな「気立て」を生み出し、次の価値創造へとつながる「螺旋プロセス」を形成する。
上記の複数のフレームワークは、単なるビジネスモデルではなく、「心・智慧・実践」が三位一体となった、日本ならではの「日本流の価値創造のあり方」をも体系化したものです。
■ 価値創造の「らせん的展開・発展」
上図の「らせんプロセス体系」をご覧ください。
上段が、「①切実→②逸脱→③別様」(外側:価値が生まれるプロセス)
下段が、「④気立て→⑤見立て→⑥仕立て」(内側:人間の内面から駆動する力)
に配置があり、「価値創造」は、
・①→④→②→⑤→③→⑥
という、右に流れる「螺旋(らせん)階段」の様なプロセスで進みます。
このような進め方の段取りなしで、「アイデア発想」や「SWOT分析」から進めても多くが失敗に終わることを経験されてきたのではないでしょうか。
自治体や多業種多業態の企業への伴走支援で「新成長の構想・実装」で不足しているのが、前半の「①→④→②→⑤」であり、特に、後段の「④→⑤→⑥」です。
「成功のポイント」は、
・「別流」を生み出す(創る)という熱意・決意(心の領域)
・「別流」を生み出す(創る)ための方法(智慧の領域)
という「心」と「智慧」を別々にしないで、「二つでありながら一つ」という心得と方法(らせんプロセス体系)が重要です。それを研修・セミナー・伴走支援では、「事例(ビデオ)と演習」で一歩一歩進めていきます。(次夜コラムでも触れます)
■ 価値創造の奥義・秘訣は「二つでありながら一つ」(第31夜~第37夜詳細)
上図の「実践・アントレプレナー体系」をご覧ください。
① B(異変、問題)の「探求(内側)」と「解決(外側)」
② D(利他、気立て)とE(智慧、見立て)
③ LOVE(信念、確信)とPOWER(創造、革新)
のそれぞれの二つは、「相反する二つの概念や要素が、対立するのではなく、深く結びつき、相互作用することで、より高次の価値を創造する」という「二つでありながら一つ」になっています。ここが「価値創造」の肝(きも)です。
参考事例:「③LOVE(信念、確信)とPOWER(創造、革新)」
学校、企業、自治体から、「イノベーション×SDGs」(下図)の依頼が多くあり、皆さんに質問して考えていただくシート(未来を変えるために必要なこと)の一部をここで紹介します。
SDGsは、「あり続けるため(サステナブル)」に、17の社会課題(Goals)をどう解決(ディベロップメント)するかを考え、「社会性」と「経済性(利益)」を両立(二つでありながら一つ)する思想であり実践です。図の右上の高い点数を目指したいですよね。
学生はこのような学習を学校の授業で体験してきています。
・学生たちは、○○○の社会課題を解決(LOVE)したいが、POWERがない
・社会人は、POWER(能力)の一部を持っているが、LOVE(利他)に向かわない。
この「愛と力」の二つを「両立させること」が、社会にも会社にも自治体にもベストなのです。
その両立させる「心得と智慧」が「らせんプロセス体系」の習得にあります。

参考(第33夜):『禅(ZEN)』の修行で一番大切なコトは何だと思いますか?
それは、「二つ」にならないということにあります。
座禅の姿勢は、「結跏趺坐(けっかふざ)」という右足と左足を組んでいますね。
この姿勢は、『二つではない、一つでもない』という「二元」性の「一者」性を表わしています。これが、もっとも大事な教えです。
もし私達の心と身体が二つである、と考えるとそれは間違いです。心と身体が一つである、と考えるとそれも間違いです。私達の心と身体は、“二つでありながら一つ”なのです。(引用:禅マインド)
この「二つでありながら一つ」という東洋的な思想は、西洋的な二者択一や二項対立の考え方とは異なり、物事の両面を柔軟に捉え、統合することで、イノベーションや持続的な成長を生み出すための「秘訣」「奥義」です。
■「二つでありながらひとつ」の例
・違いと共感:
ビジネスで最も大切なコト(第82夜詳細)は、「違いを創るコト」と「共感を生み出すコト」を両立して、継続的に高く統合することです。
つまり、「違いと共感」の新結合です。下図の赤丸が「価値創造の本丸」になります。

- 暗黙知と形式知:(第185夜、第363夜)
- 言語化や数値化が難しい個人の経験やノウハウ(暗黙知)と、マニュアルやデータとして表現された知識(形式知)は、一見すると別々のものですが、相互に変換・作用することで、組織的な知識創造が可能になります。
- 不易と流行:(第34夜、第245夜詳細)
- 時代が変わっても変化しない本質的な価値(不易)と、その時代のトレンドや変化(流行)は、別々に存在するのではなく、根底で一つにつながっています。不易を大切にしつつ、流行を取り入れることで、新しい価値が生まれます。
- 負(マイナス)と正(プラス):(第292夜、第348夜)
- 人生やビジネスにおける困難や失敗(負)は、単なるマイナスではなく、それを乗り越える過程や経験を通じて、新たな洞察や成長(正)の源泉となります。両者は切り離せない関係にあります。
■ 価値創造の秘訣(第76夜:価値創造イニシアティブ)
「価値創造の秘訣」を提示(下図)します。
2017年に「革新の7つの力」を本コラム第59夜~第74夜に亘って綴り、その構図・体系は第60夜、第76夜にまとめいます。
本夜は、その7つの力の奥に潜む「価値創造の秘訣」をあらためてご紹介します。
下図をご覧いただくと、本夜で展開してきた内容は、
1.自分を変える:危機意識・情熱力
2.他者を愛する:幸せ想像力
3.余白をつくる:本質創造力
4.舞台をつくる:仕組構想力
という項目とつながっているのがわかります。
さて、「4.舞台をつくる:仕組構想力」までくれば「価値創造の土台」がしっかりとできているので、先(未来)に進めるむことが可能です。興味関心がある方は、第59夜~第76夜をご覧ください。
・「別流を創る」「価値創造をする」「成長する」ということは、「自分を変える・自分が変わる」ことから始まります。ここが出発点です。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ