橋本元司の「価値創造の知」第373夜:「問い創造工学」と「シナリオプランニング」前編

2026年3月26日:将来を変える可能性のある『未常識の地図』を創る

本夜は、「問い創造工学」(第372夜)の続編(3部作)です。
 「問い創造」は「価値創造の羅針盤」ですが、その「問い」を使って、「未来を動かすであろうエンジンとなる二つの軸」を抽出して、「ピザのパイ生地」を大きく広げるように、「将来を変える可能性のある『未常識の地図を広げて、構想・戦略の羅針盤にする」という貴重な機能を持っているのが後述する「シナリオプランニング」です。

 つまり、下図の様に「問い」「価値創造の羅針盤」なら、「シナリオプランニング」は、その「問い」を基盤にして、「不確実な未来の地図を広げる力という関係です。
 前夜に綴りましたが、「価値創造工学」と「問い創造工学」を橋渡しする最も刺激的で有効な手法が「シナリオプランニング」なので、是非、学生の皆さん、ビジネスパーソンの方たちは、体得・習得されることをお勧めします。


 上図の「問い創造」(第372夜)「シナリオプランニング」を合わせ技で使いこなすことができると、これからのAI時代に増大する「不確実性」を我がものにする可能性が飛躍的に高まります。
 ただ、そのためには、グループで「手を動かし、心を動かし、頭と脳を動かす」ことが必須になります
それを、「手続きの知」(第364夜、第372夜詳細)と言います。
それが、AI時代に専横する「検索の知」に対して、「人間の側が持つべき最も重要な知」になります。

 さて、初めて「シナリオプランニング」を見聞きした方がいると思いますので、その要約を図解と共にお伝えします。
 改めて、「シナリオプランニング」とは、「地球沸騰時代・AI時代を筆頭にした「不確実性が高い環境下」で、単一の未来を予測するのではなく、起こりうる複数のシナリオ(未来の姿)を描き、それに基づいて現在の戦略を導き出す手法(下図参考シナリオ@2005年時点)です。

 現在、この手法は企業・自治体が長期的な持続可能性を確保し、「新たな成長機会(価値)を創造」するための必須のスキルとして注目されています。特に、学生・教職員と経営者・ビジネスパーソンのニーズが高くなっているのが最近の傾向です。
 私が学校・企業・自治体の研修やワークショップで使用している演習や具体的事例は、次夜後編(第374夜)にご紹介します。

 実は、20年以上前の2005年、前職パイオニア社の「総合研究所」時代に、
・「10年後のパイオニア社とそれに連動する研究テーマ創出をまとめる」
 というミッションを経営陣から受けた私は、友人を介して、上記シナリオプランニングの第一人者である「J・オグリビー氏」を目黒本社に招聘して、「シナリオプランニング」を直伝してもらいました。

 その手法をそのまま使ってみて試したのですが、上手く活用できませんでした。
 そのため、そこに「価値創造の『3つの知」(第364夜)を挿入して、「自分たちの価値創造」につながるように改変・編集することで、パイオニア社や異業種企業の基礎研究・新事業開発、そして、現職の「地域創生、事業創生、人財創生」の伴走支援等に活用して、効果・成果を上げてきました。

 この「手法(思想)」を成果につなげるには、後述する「複数の重要な『問いが必要で、それらを通して「本質的で豊かな複数のシナリオ(未来の姿、道筋)」を描き出すことが、会社・社会に実装展開することにつながります。

■ 「問い創造(別流)・守破離・シナリオプランニング」は相性抜群!

 第370~372夜に、「価値創造工学」とその基盤(OS)である「問い創造工学」について綴りましたが、「卓越した価値創造(別流)」には、既存の枠組みを疑う「問いの質」が不可欠であり、 真の価値創造(イノベーション)を起こすためには、その手前にある「問い」を設計する工学的なアプローチが不可欠です。

 さて、このコラムでは、「改善」や画一的な従来常識の延長線上ではない「別流の価値創造」を対象にしています。その「別流(オルタナティブ)」というのは、「将来の『次の主流・本流』になる可能性がある流儀・様相」を意味しています。

 「次の主流・本流」がターゲットであると言うと、みなさん「前のめり」になってくるのが興味深いです。

 上図の「価値創造プロセス体系」の「3.別流・別様」に到達するには、既存の枠組みを疑い、これまでの画一的な価値観・常識から離れる、「2.逸脱」するということが必要です。それを体現・実践している「守破離」(第5夜、第88夜、第330夜)について、このコラムでは何回も取り上げてきました。

 改めて、『守破離』(下図)とは、
守って破って離れる、のではない。

守破離は、下図に示すように、
・守って「型」に着き、
・破って「型」へ出て、
・離れて「型」を生む。

この思想は仏道の根本にも、それをとりこんで日本的な様式行為をつくった禅にも茶にも、また武芸等々にも開花結実していきました。(第5夜、第88夜、第330夜)

 日本人は、もともと逸脱して「別流の型」を生み出す「守破離」の実践が得意な民族なのです。
その思想と手法を、そのプロセスから体得することが「シナリオプランニング」策定には有効です。

 改めて、これまでの経験で、『次の主流・本流の可能性』を導き出す一番有効な方法が「シナリオプランニング」でした。アメリカでは「主流」であるこの思考法が日本はそれほど盛り上がりを見せていません。
・いったい、なぜでしょうか?(問い)
 その理由は、「現状・効率・改善」を重んじる「オペレーション型」の日本と、「未来・不確実・革新」を重視するシリコンバレーのような「イノベーション型」のアメリカの違いである(第372夜詳細)、と洞察しています。 (第98夜の『砂の民、泥の民』も参考にしてください)

  そして、それこそが「日本が低迷(失われた35年)している主因」です。

  さて、「守破離」と「シナリオプランニング」とは、「価値創造をゴール」としていることが共通しています。「シナリオプランニング」でワークショップをする際は、上記の「守破離」の「型」を意識しながら、「離(別流)」のステージに到達できるように進めていきます。

 私たちは日本の長い低迷を打破するために、「問い」を使って「破のステージ」に上り、「シナリオプランニング」を使って「離のステージ」の型を創り上げていく思考とスキル・パワーを体得することが必要です。

■ 「シナリオプランニング」の背景と扱う領域(図解)

 「シナリオプランニング」が必要になっている背景は、従来の「鉄道の時代(レールのあるオペレーション・改善型)」から、AI進展の「航海の時代(レールのないイノベーション・変革型)」になっていることにあります。
 「航海に出る時代」には、「羅針盤」が必要です。。

 それでは上記を下敷きにして、「航海の時代」に「シナリオプランニング」が扱う領域を二つの図解で紹介します。

1.不確実性を扱う「シナリオ思考の領域」
 下図の、従来の画一的な未来予測が左図で、日本は「改善・効率・安く」(オペレーション型)を追求してきましたが、「未来・未常識・効能」という「不確実性」を前提に物事を考えることが必要な時代(イノベーション型)では、右図の「シナリオ的思考」が求められます。


2.価値観の「M字型領域」
 さて、ここからが重要なのですが、「生成AI」は、「過去の情報・常識」を取り出すことが超得意で、下図の左側の日本が得意としてきた画一的価値観の常識領域では、これからもう人間の出る幕はありません。「生成AI」を相棒の様に活用している人は実感しているはずです。

 前夜にも綴りましたが、下図の右側の「未来の不確実な未常識」のM字型領域が未開拓であり、その領域が「生成AI」が苦手とするところであり、人間の側が「才能を発揮する」ところです。上図(新しい視座)の右側のシナリオ的思考領域の大きい丸の領域が、M字型領域と重なります。

 このイノベーションの領域が、AI時代の「人間側の価値創造領域」であり、「問い創造」と「シナリオプランニング」の間を行き来することで、「手続きの知「(第372夜)」が駆動して、そのプロセスで、深く・高く・広く考えることが、独自のスキル、パワー、構想になっていきます。

 上手のイノベーション領域を開拓するメインプレイヤー、ツールが「問い創造」になります。
本質的な「問い」を活用して、未常識の世界を広げてくれるのが「シナリオプランニング」です。

 将来を洞察すると、シナリオプランニングの有効性が、「生成AI」により、さらに脚光を浴びることは間違いありません。
 私たちの経済環境、社会環境は大きく変わっています。「生命サステナブル」「AIデジタル」「人口減少」「戦争」等々であり、それは「すでに起こった未来」です。
その変化に適応できなければ、将来は沈んでいきます。

■ 参考:学生向けの説明版-A

  皆さん、これまでは『1つの正解』を早く見つける人が優秀とされました(上図の左側)。でも、その役割はAIに譲らざるを得ません。
 これから皆さんに必要なのは、上図の右側にある『まだ誰も注目していない両端の可能性(未常識)』を見つける力です。
 ここで、私の専門である『問い創造工学』と『シナリオプランニング』『価値創造工学』を合わせてお伝えします。

1.テーマ設定の「問い」
 まず、「問い創造工学」を使って、
「いったい、『何を知る為のシナリオ』を作るのか?」
という、テーマ(FocalQuestion)を 設定します

2.将来を左右する主因となる力(=ドライビングフォース)を導きだす「問い」
 将来を左右する重要な変化 として、
・①自社でコントロールできない外部環境 (不確実度)
・②未来を大きく左右する要因 (インパクト)
 の①②を包含するモノはどこにあるか? という「問い」を立てます。
 これが未来を探るためのOS(基盤)になります。

3.(下図の)2軸で広がる4つの象限の世界への「問い」
 上記1.2.の「問い」から導き出された要因・力(ドライビングフォース)で、浮かび上がる複数の未来(4つの象限)のそれぞれの「問い:Why?What?How?(価値創造の3つの知:第364夜」から得られる姿を検討・検証する。

4.「何れにせよやるべきこと」への「問い」

 上記1.2.3.で広がる「4つの世界」をグループ対話を通じて、
「問い」何れにせよやるべきことは?
 を検討します。
シナリオプランニングにおいて、どのような未来が訪れるかに関わらず、「何れにせよ(どのシナリオでも)やるべきこと」は、不確実な環境下での生存と成長の基盤を固めるアクションになります。

 参考例:
① 外部環境の定点観測とシグナルの検知
② 「対話」を通じた組織的なリスク意識の共有
③ レジリエンス(適応力・回復力)の向上
④ 成長のための「後悔しない一手」
⑤ 「学習する組織」への転換

重要なことは、共に上記を検討・対話・共感するプロセスの中で、「価値創造が発芽」することと、参加者の「関与する自覚」が生まれるです。

つまり、『問い』によって、成長の未来の種を見つけ、『シナリオプランニング』によってその未来の歩き方を事前にトレーニングする
 この2つが組み合わさることを体験・習得・修練することで、不確実な時代でも、私たちは迷わずに『新しい価値』を創り出す側に「立つ」ことができます。

■ 整理タイム: AI時代の生存戦略「問い」と「シナリオ」

1.AIが「正解」を奪う時代(左側の山)

  • メッセージ: 過去のデータに基づく「平均的・論理的な正解」はAIの得意領域。
  • 内容:
    • これまでの常識(正規分布の頂点)はAIが瞬時に導き出す。
    • ここでは「効率」や「正確さ」が価値だったが、もはや人間が競う場所ではない。
    • 学生への問い: 「AIと同じ正解を出して、勝てるでしょうか?」

2.人間が輝く「M字型」の未常識(右側の山)

  • メッセージ: 私たちが磨くべきは、まだ誰も正解と言っていない「不確実な領域」。
  • 内容:
    • M字の両端にある「未常識」「不条理・ワクワク」「違和感」にこそ、次のイノベーションが眠っている。
    • このカオスな領域を探索するための「OS」が問い創造工学である。

3.問い創造工学とシナリオプランニングの「融合」

  • メッセージ: 「問い」が羅針盤なら、「シナリオ」は地図を広げる力。
  • 内容:
    • 問い創造工学: 「そもそも、将来を左右する変化の種は何なのか?」というOS(起点)
    • シナリオプランニング: その種がどう成長し、どんな未来(複数の可能性)を創るかを洞察する手法(プロセス)
    • 関係性: 質の高い「問い」を立てるからこそ、意味のある「シナリオ(道筋)」が描ける。

■ 「ドライビングフォース(未来を動かすエンジン)」と「問い」の交差点

 学生のみなさんにとって「シナリオプランニング」の核心であるドライビングフォース(変化の駆動力・エンジン)と、「問い創造工学」をリンクさせることは、「未来を探索し、洞察する具体的手法」を理解実践する上で非常に効果的です。

 学生向けのワークショップでは、
「ドライビングフォースを見つける=問いを立てることだ」
 と直感的に理解できるように、下記のステップ形式でお伝えしていきます。

1. ドライビングフォースとは「未来を動かすエンジン」

  • 説明: 社会を大きく変える力(環境、技術、人口、価値観、規制など)の中で、特に、
    「①将来どうなるか予測がつかない(不確実)」かつ「②影響力が大きい」
    ものを指します。
  • 学生への例え: 「10年後のスマホ」を考えるとき、「通信速度が上がる」は予測可能な事実ですが、「人々が画面を見ることをやめるか?」は予測不能なドライビングフォースです。

2. 「問い」がドライビングフォースを発掘する

  • メッセージ: ドライビングフォースは、データ(過去の延長線上)の中にはありません。
    「問い」という光を当てることで、初めて見えてきます。
プロセス問い創造工学の役割(OS)シナリオプランニングの動き
発見「当たり前と思っていることの裏にある不条理ワクワクは何か?」社会を揺さぶる「変化の種(ドライビングフォース)」を特定する。
選定「その変化は、私たちの根幹を揺るがす本質的な問いか?」数ある要因から、未来を左右する「最重要の不確実性エンジン」を絞り込む。
展開「もしその問いの答えが『A』なら?『B』なら?」絞り込んだ軸を掛け合わせ、複数の未来(シナリオ)を描写する。

■ 参考:学生向けの説明版-B
 「皆さん、シナリオプランニングで最も重要なのは、未来を激変させる力である『ドライビングフォース』を見つけ出すことです。
 しかし、これは単なる『流行チェック』ではありません。ここで「問い創造工学」が必要になります。

 図のM字型の領域(未常識)を見てください。
左側の『常識』の山にいる限り、見えるのは『予測可能な未来』だけです。しかし、『なぜ、今これが当たり前だと思われているのか?』という鋭い問いを立てることで、M字の右側の山にある、まだ誰も気づいていない『変化の予兆(不条理&ワクワク)』がの片りんが見えてきます。

『この「不条理&ワクワク」が解消・創造される方向に社会が動くとしたら、それはどんな力(ドライビングフォース)によるものだろうか?』

こう問い直すことで、単なるデータ分析では辿り着けない、未来を左右する本当の変数が抽出できます。
『問い』は、霧深い未来の中から、真に注目すべき『変化のエンジン』を照らし出すサーチライトです。

『不条理&ワクワクがドライビングフォースの源泉
 学生には、 『今の社会のヘンなところや自分の中のワクワク・数寄』が、未来を変える大きな力になります よー」とお伝えすると、彼らのアンテナや内面が敏感になってきます。

図との連動: M字型の「谷」の部分(常識が崩れる場所)にドライビングフォースが潜んでいると説明すると、視覚的にも納得感が高まります。


■ 前編のまとめ

 上記でご覧いただいたように、「卓越した価値創造」と「問い創造」を橋渡しするのが「シナリオプランニング」です。習得すると「アナタの卓越したスキル」になります。
 ただ私もそうでしたが、言葉や図で説明してもらっても実感がわかず、自分ゴトになれませんでした。
・何せ、未常識ゴト
 なのですから。

 ここに、「切実」「不条理・ワクワク」「本気(自分ゴト)」が必要になります。
それを基盤にして、

 仲間たちと共に、
・現在の中に点滅している『未来の兆し』」を収集し、
・ホワイトボードの前で、ポストイットを動かし、
・「問い」と「試行錯誤」を繰り返し、
・未来を変えうる二つの軸を選択し、
・そこに現れる4つの象限(世界)を描写する
・そして、「いずれにせよやるべきこと」を検討する。

 上記の「手続きの知」(第364夜、第372夜詳細)が未来の不確実性を「ワガモノ」に引き寄せてくれます。
そんな経験を積み重ねてきました。

 さて、次夜(第374夜)は、本夜の後編を綴ります。
そこでは、「『緑茶』の本来と未来」をシナリオプランニングで描写します。
下図の「問い」→「シナリオプランニング」→「3つの知」→「価値創造」の流れを実感して頂ければ幸いです。

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ