2024年11月18日「2+1(プラス1)」、「間(MA)」そして「物語」へ
第311~312夜で、イノベーションの肝(キモ)となる「間(MA)」と「2+1(プラス1)」について、お伝えしました。
「2(半分と半分)」が目の前にあっても何も起きませんね。
そこに、「プラス1」を入れることが、新しい全体、新しい化合物(価値創造)につながります。
その「プラス1」を入れた状態が「間(MA)」です。
そこでは、
・いい間合い
・間が悪い
・間違い
・間抜け
が生まれてきます。
ここで、講演等でしばしば取り上げて納得される事例が、前職パイオニア社の「ヒット商品緊急開発プロジェクト」の第一弾ヒット商品が、「ピュアモルトスピーカー」です。
・「A.サントリー(半分)とB.パイオニア(半分)」という一対があって、そこに、サントリー社の廃材となる「C.ウィスキーの樽材(プラス1)」が入ることによって、それが素晴らしい音色を奏でる「スピーカーのキャビネット」として生まれ変わり、新しい物語と利益が生み出されました。
「片(人と自然と響きあう)と片(音響)を共通項とした新しい樽物語」です。
実際には、「サントリー・ウィスキー樽」、「オークビレッジ・匠の木組み工法」、「パイオニア・音響の匠」の3社が結合して、“ピュアモルトスピーカー”という樽物語が誕生しました。
[新しい物語の背景にあるのは]
①ウィスキーの樽材に使われていたのは、樹齢100年のオーク材です。それを40~50年も使うと香りや色が薄れて廃材となります。
その廃材を再生して使って、通常の2~3倍のスピーカーの販売価格でも購入していただけるロングランの商品になりました。
「エコロジー×エコノミー」
として、様々な大きな賞を受賞することにつながりました。
②このウィスキー樽と出会うきっかけとなったのは、ちょうど2年前に永眠された谷口正和師匠のお陰です。
1990年から、谷口師匠が主宰する「エコロジー研究会」に参加していて、そこに、オークビレッジ(株)の稲本正・初代社長が講師として来られました。
サントリー社のウィスキー樽(廃材)を再利用して、“森の再生”をメインテーマにして、「家具」を制作されている内容でした。
その講演の最中に想ったことは、
「このウィスキー樽材をスピーカーのキャビネットに使用したら、どのような音色を奏でるのだろうか」と。
さっそく、サントリー社樽材で、自社の売れ筋のサイズで、スピーカーを制作しました。
スピーカーから響くその素晴らしい音色に関係者は感動しました。
バイオリンの最高峰「ストラディバリウス」は、木片を4〜5年海水につけていたという話を聴きましたが、同様に、ウィスキー樽に10~15年浸かって導管が通ったからの超音色かもしれないと、パイオニア社の最高の音響技術者が語っていました。
この時、谷口正和師匠と『物語』について懇談しました。
谷口師匠は、
「・・・『2+1(プラス1)』には、物語の要素が必要です。
人間は「心」で「つながり」をつくる生き物なので、
人間は、「物語」を介在させないことにはつながり合うことができません。
物語とは、新しい現実を受け入れる形にしていく働きです。・・・」
そうなんです。異業種コラボレーションには、『素敵な物語』が必要です。
そこに素敵な物語を導入し実現することで、顧客の心に大きく響き、大きな売り上げになることを経験しました。
さて、上記の『素敵な物語』があることで、
・新商品発表会には、三大新聞(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞)がパイオニア本社に来られ、たくさんのメディアに取り上げられ、広告費を使わない大宣伝につながりました。
・また、購入者のアンケート結果には、家族からのこれまでにない感想と支持が記されていました。
・世間から、「ヒット商品緊急開発プロジェクト」が次にどのような商品をリリースするのかの関心が高まりました。
・ウィスキー(味覚)×オーディオ(聴覚)
・ファッション(視覚)×オーディオ(聴覚)
・インテリア(視覚)×オーディオ(聴覚)
・バス(入浴)ライフ(触覚)×オーディオ(聴覚)
・・・
パイオニア社にあるのは、音響技術(テクニカルポイント)ですが、ウィスキー、ファッション、インテリア等のアーティスティックポイントはありません。
そして、『物語の素(モト)』は、異業種先にあります。
素敵な物語を発信されている企業と次々にコラボレーションしていきました。
①テクニカルポイント×アーティスティックポイント(第311夜)
(新しいルール)
↓
②パイオニア社×異業種コラボレーション(第311夜)
(新しい物語)
↓
③サントリー社、佐治敬三会長との対談
(異業種先との信頼)
(ピュアモルトスピーカーの命名)
↓
④新しい文化、新しい経済
(新しい文化経済:エコロジー×エコノミー)
実は、オークビレッジ・稲盛正初代社長の講演(エコロジー研究会)の2年前に、パイオニア社先輩の紹介で、サントリー社経営戦略の方との「祇園遊行」のご縁がありました。
試作品ができた時に、すぐに堂島本社の彼のところに電話しました、そこで、試作品を持って、鳥居慎吾(現・サントリーホールディングス代表取締役副会長)にお引き合わせいただき、スピーカーの音を聴いていただきました。その響きにとても喜ばれて素敵な懇談の時間を過ごしました。
このスピーカーに、『御社のピュアモルトを使ったピュアモルトスピーカーと名付けることができたら嬉しい』旨のお話をしたところ、佐治敬三会長との会談(東京青山)を設定をしていただけるという、『最上のご縁』にジャンプしてゆきました。
「切実な想いは実現される」
ということを実感しました。
さて、上記①②③④が、異業種コラボレーションのヒット創出のセオリーです。
このセオリーは、いまでも変わらないものと思っています。
参考にしていただけると幸いです。
さてさて、谷口師匠はその後、「文化経済研究会」を発足されました。
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「文化経済研究会」とは
21世紀を牽引するものは「文化」です。
文化が発生して、その後に経済が起こる。この文化経済の時代の重要な認識は、今までの経済優先の発想を越えられるか、ということです。過去の大企業主義、シェア至上主義は音を立てて崩れつつあります。
小さくても志を持って立ち上がり、自分たちのミッション、フィロソフィー、ポリシーをあくまでも貫き、従来の提供者論理を切り捨て、真の顧客主義に立った企業だけが存在を許される時代です。
人も企業も個性が連鎖して新たな変化の潮流を引き起こす21世紀。未来社会経済学ともいうべき視点から、変革をリードする企業および起業家からその発想と戦略を学びます。
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「文化経済研究会」発足から、会員となってずっと参加しました。
重要な認識は、『文化が発生して、その後に経済が起こる』です。
「ヒット商品」のレベルではなく、それが新しい文化(経済)につながるのかを先に洞察するようになりました。
そこでは、100社以上の経営者が講演に来られて、数えきれない気づき、学びを得て、自分の活動(パイオニア社総合研究所、新価値創造研究所)の基盤になりました。
この100以上の経営者とのご縁と、上記の100社位の異業種コラボレーションのご縁が、自分の大きな財産となって、その後の、講演、研修、企業ご支援に活かすことができました。
松岡正剛、谷口正和の両師匠から学んだ、「2+1(プラス1)」、「間(MA)」、「新しい物語」が普遍の知です。
少しでも参考になれば幸いです。
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