2017年11月26日 世阿弥の「風姿花伝」
前夜(第87夜)では、『高い知』のマンダラ図をアップしました。
本夜は、その図の左側の『守破離』をご案内します。
右側の『弁証法』が思考の知性に向かうのに比して、『守破離』はそれをも含んで、「心性・体性」の高みに向かうものです。
『守破離』(図解)とは、
守って破って離れる、のではない。
守破離は、
守って型に着き、
破って型へ出て、
離れて型を生む。
この思想は仏道の根本にも、それをとりこんで日本的な様式行為をつくった禅にも茶にも、また武芸にも、開花結実していきました。(第5夜)
そこの奥には、『自分を更新する』ことが中心にあるように思います。
『自分を更新することで、違いを生み、創ることができる』
何かとテクニックだけ真似て結果を出そうとする人がいますが、だいたい結果が出ません。
本当の本質の『違い』は、「継続的な努力からの更新」にあります。そのコトをお伝えしたかったのです。
「読み書きそろばん」を反復訓練するなど、プロはみな「守」からスタートします。書道・華道・柔道・大相撲・打ちそばの達人でも「守」からです。
自分の「型」を持つことも必要です。そして、『一剣を持して起つ』のです。「守破離」というのは、人がある道を究めるのに歩むべき3段階のことを言っているのです。
さて、「守破離」に関係のある世阿弥の『風姿花伝』のことを記し、そこの『花』と『違い』が同じであると思っていることを綴ります。
先ず、松岡正剛師匠の千夜千冊1600夜「守破離の思想」から抜粋します。
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観阿弥・世阿弥の序破急は、能構成をさしていた。序は初番がカタの一貫した曲想曲趣で、二番はそのカタとクセが強くなる。破は三番で基本から精細のほうに移って、四番・五番はあたかも序を砕くほどに放埒だ。こうして挙句の能となるのが急である。この急は連歌でいえば名残りの折にあたる。極限に向かって出でて、急になる。
このように観阿弥・世阿弥の能構成はあくまで序破急なのである。だから守破離は出てこない。出てこないのだが、すでに「離」を重視していたはずである。そこが注目なのだ。
世阿弥(118夜)は『花鏡』に我見と離見をくらべ、「我が目の見る所は我見なり。見所より見る所の風姿は離見なり」と説いて、場における「離見の見」をみごとに集約してみせた。世阿弥にとっての「離」とは“見所同心”なのである。自分だけでは離にならない。「離見の見」は場とともにある。心はその場の見所のほうにおいていく。世阿弥はそのことをすでに指摘した。この見方を「目前心後」(もくぜんしんご)とも言った。
こうして、いつしか能の序破急と守破離の「破」がちょっとだけだが、しかしかなり深々と交差した。また世阿弥の「離見」が能の分野の外に流れだした。・・・
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自分には、『序破急』『守破離』について学ぶことが『違い』や『イノベーション』を知ることにとても役立ちました。『価値』があったのです。
風姿花伝の中で、世阿弥の革新を象徴する概念として、「花」という言葉があるので、「100分で名著・風姿花伝(土屋惠一郎さん)」からご紹介します。
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「花」は世阿弥が能楽論で使った言葉の中で、現在でももっともよく使われている言葉である。
「あの役者は花がある」などという言い方を皆さんも聞いたことがあると思います。
世阿弥は、能にとってもっとも大切なものを『花』という言葉で象徴しました。それは何かというと、ずばり「新しいこと」「珍しいこと」と言っています。
花と言えば、四季折々の花がある。季節が変わって咲く花であるからこそ、その花は珍しいものとなり、人々も喜ぶ。能も同じである。人にとって珍しく新しいものであるからこそ、おもしろいと感じるつまり、「花」と「おもしろい」と「珍しさ」とは同じことなのだ。
これは、人気に左右される芸能で勝つために、世阿弥が至った核心です。常に新しいもの、珍しいものを創り出していくことが大切だということです。例えば、毎回同じ演目を演じていては、観客に飽きられてしまいます。観客は今まで見たことがないものを見たいわけですから、もっとも大きな珍しさに値するのは新作です。ですから世阿弥は、自ら作品を創ることが大事だと繰り返し説きました。また、世阿弥が創り上げた複式夢幻能というパターンも新しいものの創造に大きく役立っています。・・・
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能がなぜ六百年も続いてきたのかを考えれば、それは世阿弥が言い当てた「珍しきが花」という核心を脈々と受け継ぎ、止まることなく創造を続けてきたからだと言えるでしょう。
上記のことで、第87夜の図解左側がご理解いただけたのではないでしょうか。
『高い知』を日本と欧米の双方の視点から引いて視ることで、豊かに深みと高みにある違いを感じていただければ幸甚です。
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