橋本元司の「価値創造の知」第337夜:「イメジメントとマネジメント」

2024年12月26日 『松岡正剛師匠の言葉』

 昨夕は、師匠の3番目の活動拠点となった世田谷区赤堤の『本の館』で行なわれた「松岡正剛師匠を偲ぶ『玄月惜影會』」に出席しました。
未詳俱楽部会員の懐かしい方たちと本楼で再会して師匠の面影を語らいました。


 私が師匠の門を叩いたのが1995年の目黒区青葉台事務所の満開の桜の季節でした。
それから、1999年に、港区赤坂への事務所移転があり、下記のコラボレーションで何回も通いました。
2012年に、いまの世田谷区赤堤『本の館』への事務所移転がありました。
 入門から20数年にわたる師匠主宰の未詳倶楽部では、知性、心性、脳性が揺さぶられ、私の将来を、人生を、刺激的に豊穣にしてくださいました。
感動、感激、感謝しかありません。耳窓拝

■パイオニア賞
 さて、港区赤坂の事務所時代は、前職パイオニア社と編集工学研究所の「編集学校」の学衆さんとの数回のコラボを師匠にお願いしました。
価値創造の「編集術」を学んでいる学衆さん(チーム)に「将来の超テレビや超インターフェイス」等のお題を出して、
たくさんの提案を審査させていただいて、パイオニア目黒本社で数回の「パイオニア賞」授賞式を開催しました。

 学衆さんとそのチームの方たちの提案は、通常の考え方や発想では生まれない、表現されないコンテンツに溢れていました。
プラズマテレビ事業部や総合研究所にフィードバックして打ち合わせしてきました。

■「超テレビ」の授賞式後の師匠の私への言葉です。
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 「多くの大企業は、『マネジメント』はそこそこできているけれど、『イメジメント』ができていない。
これからは、『イメジメント』の出来が企業の将来を左右する。
この「イメジメント」のできる人財を輩出しなければならない」と。

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 オペレーションの時代は、『マネジメント』ができることが重要でした。
「効率的な実行力」が求められる、鉄道の時代、昭和の時代です。(第225夜、第309夜、第336夜)

 いまは、イノベーションの時代です。
そこでは、事業プランを策定する前の段階、『構想のフェーズ』における試行錯誤が重要になります。
・課題発見
・コンセプト化
・事業モデル化
 という『構想力』の強化です。
そこには、正剛師匠の「編集術」がたいへん有効でした。

■「構想力」・「イノベーション力」

 これまで、多くの企業、自治体をご支援してきましたが、
この『構想力』と『価値創造力(目的)=イノベーション力(手段)』の不足が目立ちます。
でも、どこもそれを体系的に教えてくれるところが不足しているのです。
(私は、前職パイオニア社時代に、大手のコンサルティング会社の窓口を複数回していましたが、どこの会社も「オペレーションの時代」のテンプレートを持っているだけで、こちらが求めている「構想」&「イノベーション」に踏み込めるところがありませんでした)

 ここにきてやっと、日本国が「アントレプレナーシップ/スタートアップ」に予算をつけるようになりましたが、
もっと迅速な判断・決断が必要でした。

 その原因は、
・「構想力・価値創造力」を体系的に的確に伝える方法が決定的に不足していることが一番
 →いまでも、学校では教えていないコト(教えられないコト)
・経営層や指導層が、「オペレーション時代」の昭和スキルの人たちであること
・いまでも「既得権」が強く働きすぎていて、「イノベーション」踏み出しに消極的なコト
 にあるように思っています。

■イメジメント力
 その様な事情で、「イメジメント」という言葉が、早く速く本格的に流通して欲しいと思います。
・境目・境界を乗り越える能力
・発想⇒創発⇒構想

 正剛師匠からは、多くの言葉、指南をいただきましたが、以降の「価値創造の知」で紹介していきます。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第336夜:「変化に対応できなければ、会社は倒産する」

2024年12月21日 『左斜め上の経験』:「一生懸命」から「一所賢明」へ

 前夜は、組織外の「斜め上の師匠」が、「価値創造」の飛躍・実現を並走・指南してくれた体験を綴りました。
「夢を“目標”に変えるとその夢は叶う」、と未詳俱楽部(第26夜・第119夜)の友人が伝えてくれました。
若い時の漠然とした「夢」・「情熱」が、二人の師匠に出逢うことで、「目標」に進化し、「夢」が叶っていきました。

 本夜は、図の左半分の組織内なのですが、若くして組織のトップと同じ目線で組織全体のマネジメントと接し、また、組合という「横のつながり」と“組合員の声”という「ボトムアップ」を両利きで体験した、「左斜め上の経験」を綴ります。
 そして、その経験による「問題意識・切実」とつながる「不足の認識」が「右斜め上の師匠」とつながっていくきっかけになりました。

 結論からいうと、是非若いうちに、「左斜め上の経験」をすることが「価値創造」を迅速にしていくということを知って欲しいと想います。


ここ数年、依頼が増えてきた「アントレプレナーシップ/スタートアップ講座」でも、その経験とエッセンスを受講者にお伝えしています。
現在、複数の「ベンチャー企業」をご支援していますが、若い時に自立・自律し、成功体験、失敗体験をたくさんすることが財産になります。

 それでは、両師匠(半分・一対::第312夜)に出逢う前の、自分の30才前後の「状況、心持ち」(半分:第312夜)をお伝えして、それが新しい全体(「2+1」)につながっていく源流の一端をお伝えします。

■キーワードは、「守破離」(第5夜、第34夜、第330夜)と「一所賢明」(第38夜)

・全力投球:ヒット商品設計で目の前の仕事にガムシャラに向き合って仕上げていました(守破離の「守」)
・ご褒美:上記によるご褒美なのか、より挑戦的な大きな仕事(OEM)が舞い込むことになりました
・違和感:上記の困難な日程設定による「大幅な残業継続、徹夜作業」による疲れ
・変える:上記の会社の仕事のやり方、仕組みを大きく変える必要性の痛感(守破離の「破」)
・転機:上記から、労働組合(2000人規模)からの組合書記長の要請
・役目と役割:組合書記長の視座と経験
 →変更:「一生懸命」から「一所賢明」へ
 →新しい視座:ボトムアップ(Lower)、トップダウン(Upper)、外部つながり(Outer)
 →社外のつながり:「変化に対応できなければ、会社は倒産する」(第13夜)
・新機軸:事務局長(技術統括):「技術発表会(年一回)」と新しいコンセプト(第13夜)
 →「新価値創造(NVC)の時代」への取組み
・新舞台:本社異動: 情報企画、開発企画
・社長直訴: ヒット商品緊急開発プロジェクト(守破離の「離」)

■『懸命と賢明』(第38夜、第287夜)

 労働組合書記長時代の自分の経験の一部を加筆引用します。

価値創造の知・第38夜(懸命と賢明、そして“働き方改革”)
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・・・就職してから8年後に、(前職・パイオニア社の)2000人規模のセンター工場の労働組合の支部書記長になりました。

その前は、設計部門にいて、緊急の3か月連続120時間以上という徹夜連続の猛烈の超過勤務がありました。その3ヶ月連続後は心身が疲弊したことをいまでも心と身体が覚えています。職種にもよりますが、自分の体験では、残業時間をMAX40時間にした方がいいと思います。それは、現状を放っておくと人間は「知恵・叡智」を使わないからです。

 第1夜(創造性にる生産性向上と働き方改革)では、価値創造の「資質(WILL)と能力(SKILL)」について記しましたが、
集中が必要な100時間を超える連続超過業務は、「一生懸命」では無理があることを自ら体験しました。
そのような経緯も含めた支部書記長指名だったので、本格的に「残業(超超過勤務)問題」に取り組みました。
自分が30才くらいの時の話になるのですが、今で云う「働き方改革」を断行しました。大局的に経営陣の意識を変える必要がありました。
組織は何か大きな事故等がないとなかなか着手しないのですね。

残業に対する規制の新制度は、2年前に労組の先輩たちが創ってくれたのですが、ただ数値を規制するだけでは歪や悲鳴が出てきます。
書記長として、会社との交渉で事前準備して使った言葉は今でも覚えています。

“もう私たち組合員は、通常のレベルを超えて十分以上に「一生懸命」に仕事をしています。
今必要なのは、足りないのは、「賢明」ではないでしょうか。
「懸命」を超えるには「かしこく明らか」にする賢明の知恵が必要です。

会社は組合員の「一生懸命という精神力」に頼ってしまうのではなくて、「賢明」という“知”で働き方を改革する必要があります。共創しましょう”

という提言をして、「懸命」と「賢明」を合わせた取組み、仕組み(システム)を会社と労組でタッグを組んで進めました。
叡智を集めて、仕組みを創ることがとても重要なのです。
 工場部門だけではなく、本社企画・マーケ・開発・生産技術も含め、関係部門の業務のやり方・進め方を見直すことでを働き方を変え、生産性も大幅に向上しました。
・・・
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 いま、時代の価値観のトップは、「サスティナビリティ=あり続けたい」です。
「生命の時代」が本質です。それによって、企業・自治体の役割も大きく変わっています。
 「生命の時代(SDGs)」を本業につなげて、「一所賢明」に探求し、解決・実践する時代を私たちは生きています。

視点・視座を変えていくことが求められています。

■「変化に対応できなければ、会社は倒産する」(第13夜)

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 ・・・前職労組の書記長をしていた同時期に、同じ地域にあるお菓子会社の労組の委員長と書記長が尋ねてこられました。

「会社の経営が危ないので、緊急にお菓子を斡旋していただけないか」と。

 年末だったのですが、お引き受けしてすぐにチラシを作成して、組合員にたくさん購入して貰いました。
その一年後に、同じ二人が来られました。

・「昨年は本当にたくさんのご支援、有難うございました。しかし、力及ばず会社は倒産することになりました」
・「今、私達が悔やんでいるのは、3年ほど前から会社を立て直す機会が数度あったのですが、そのままにしてしまったことです。
あの時に本気で労組が再建の行動をとっていたら、このようにはならなかった」

まだ若いその時に、お二人の後悔の言葉を聴いたときに、とっても大事なコトを学びました。

「変化に対応できなければ、会社は倒産するのだ」と。
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 その認識が深く強く自分の中に棲み込んでいて、前職でも今でも企業や学校・自治体ご支援の「錨(いかり)」になっています。
それが、前職でも現職でも背中を押します。
 そのご支援のレベルを高めるために、更なる「知」・「匠」を探索・探求しています。(第335夜)

・『知』の流儀:「社会力・経済力・文化力」
・『匠』の流儀:「編集力、洞察力、自在力」 
・そして、『世界観』と『体系知』

 まだまだ両師匠の領域には及ばないのですが、
「事業創生・地域創生・人財創生」の中にしっかりと注入して完成度を高めています。

 さてさて、元に戻らない変化を「トランスフォーメーション」といいます。
・「蛹(サナギ)」から「蝶(チョウ)」へ
・「おたまじゃくし」から「カエル」へ
 服を変えるチェンジングではなく、後戻りしない変化です。

■「変化に対応できなければ、会社は倒産する」②

 SX、DXという言葉があります。
それと本業とのイノベーションご支援「2+1」が、私のミッションの中心です。

・SX:サステナブル・トランスフォーメーション
・GX:グリーン・トランスフォーメーション
・DX:デジタル・トランスフォーメーション

 上記「トランスフォーメーション」を「本業」にスマートに組み入れることを正面から検討されてください。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第335夜:『斜め上の師匠』

2024年12月20日 「知」と「匠」の流儀

図(斜め上の師匠)を用意しました。
・「横軸」は、(会社)組織の内側(Inner)と外側(Outer)
・「縦軸」は、関係(または分)の上(Upper)と下(Lower)

 

 皆さんの「価値創造の知」を格段に磨き上げてくれる人はどの領域にいると想いますか?
A.「価値創造」とは、人や世の中に役立つモノゴトを先取りすることです
B. それは、「切実(本気)→逸脱(本質)→別様(別流)」というプロセスで生み出されてきます。(第322夜、第332夜)

 第308夜から、そのプロセスの基礎と実例を「2+1(ツープラスワン)」(第312夜)でお伝えしてきました。
先ず、「いまの自分は『半分』とみきること」(第310夜)
 もう「半分」(一対)の数寄(第331夜)を探求・発掘して、未常識(第319夜)の新しい全体を創ることです。

 一つの組織(会社、自治体、学校)の中(半分)では、限界がいっぱいです。
 その時に、組織の外に「格別な指南役(方向、進路、匠の支援)」の『師匠』がいたらどうでしょうか。
是非、若い時にその様な「師匠」と出会って欲しいのです。
(公立中学に入った時の担任が、バドミントンの国体で3位の先生でした。
そのピカイチの華麗な動きを見て、即、バドミントン部に入部して、鍛えて貰って、中学・高校の東京都大会の上位で活躍できたのも先生のお陰です。
小泉先生(師匠)と出逢ったことに感謝しています) 

 一つの会社の中(一対の半分)では、「価値創造」の“深さ、高さ、広さ”にどうしても限界があるのです。
「価値創造の知」を格段に磨き上げたいのであれば、「斜め上の師匠」の持つことが必要です。

私ゴトの「「斜め上の師匠」
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 ・・・前職パイオニア社で市販設計(B2C)をしていたのですが、28才位から、TOYOTAさん、HONDAさんへB2B参入するために、OEM設計窓口をすることになりました。
TOYOTA生産方式等によって鍛えられはしたのですが、それはあくまでも「カーエレクトロニクス業界」の「器の中」でした。

 それから“組合書記長”(第29夜)を務め、次は“技術企画・統括”の仕事を担当し激変する世の中の変化を俯瞰したときに、

・「これからの企業は、『価値創造』をキャッチアップしないと生き残れない」

 という強い確信を持った時に、目黒本社への異動が決まりました。

 「ホームエレクトロニクス事業」の右肩下がりが顕在化する中で、技術中心の自分の能力に大きな不足があるとを自覚しつつ、
39才の時に新社長に直訴して、異業種コラボによる“ヒット商品緊急開発プロジェクト”(第323夜)を提案し、実践しました。

 その直訴の前後に、「谷口正和師匠」「松岡正剛師匠」との出逢いがあったのです。


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今思えば、自分には欠けていた、
・『知』の流儀:「社会力・経済力・文化力」
・『匠』の流儀:「編集力、洞察力、自在力」 
 そして、格別・別格の「世界観」と「体系知」を体感・体得しました。

そこでは、
・前職パイオニア社の「本来と将来」について
・新価値創造研究所の「本来と将来」について
・日本の「本来と将来」について
・「切実(本気)→逸脱(本質)→別様(別流)」のプロセスについて
・「両師匠の『知』の流儀、『匠』の流儀を、ビジネスの『場』で“価値創造(事業創生・人財創生)”への落とし込み」について
 等々の数多くの「打ち合わせ」をさせてもらいました。

 おそらく両師匠との永い良好な関係(30年ほど)が続いたのは、
「私が受け身の学ぶ立場ではなく、もちろん学ぶことはいっぱいあったのですが、現実のビジネスに挑戦・苦闘しながら相談し、師匠の指南を受けつつお二人の懐に入り込むことをしてきたから」ではないかと思っています。
(お二人の著書を購入・深読してきましたが、その本を並べ合わせると、2メートルほどになります。ww)

 京都出身の両師匠は、本年、一昨年と永眠されました。
今後のあらゆる場を通して、私はお二人の「知」「匠」の流儀をより多くの方たちご紹介していきたいと思います。

「松岡正剛師匠」「谷口正和師匠」のご冥福を心よりお祈りします。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第334夜:『知の体系・知の編集』

2024年12月18日 「知の怪人(佐藤優)」と「知の巨人(松岡正剛)」

 前夜は、「価値創造の知」の体系を、「色即是空・空即是色」を交えながら、『大元・虚・there・あり方』で葛藤・通過しながら、「新しい現実・新しいやり方・別様」というイノベーションジャンプを解説しました。
 その理論と実践を企業ご支援や地方創生の『場』でじっくりとお伝えしています。

  2018年10月の仙台未詳俱楽部2日間(詳細は、第26夜・第119夜)には、「佐藤優さん」というとびきりのゲストが来られました。
 昼は、塩釜発着松島周遊コースの船に遊び(第333夜)、夜は、秋保温泉 ホテル瑞鳳で「知の怪人(佐藤優)」と「知の巨人(松岡正剛」という二人が語り合う格別・別格の時空間なのでした。

■「負」や「行き詰まり」を乗り越えるための原因やヒント

 佐藤優さんは、日本の外交官でもありました。
『知』と連関する「能力とやる気」についてのパートで、4つの分類をされたところから、夜の会は始まりました。

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① 能力があり、やる気がある人
② 能力があるけれど、やる気が無い人
③ 能力はないけれど、やる気がある人
④ 能力がなく、やる気が無い人

佐藤さんから、「一番問題のある人は誰だと思いますか?何番でしょうか?」という問いがありました。

皆さんは、どう思われますか?考えてみてください。

 その時、自分の中では、前職・パイオニア社のトップを含むある役員の顔がすぐに浮かびました。
そして、すぐに分かりました。

佐藤優さんから、
 「多くの人は②“能力があるけれど、やる気が無い人”を選びますがそれは間違いです。
 答えは、③“能力はないけれど、やる気がある人”です。
「外交」でこれをやられると取り返しのつかないこと、後始末が大変なコトになりますね。
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 企業や自治体でも全く同じです。
そのような人が権限を持つと、「とてもやっかいな人」になるのです。それが、事業や研究所や地域を衰退の道に導きます。

 問題は、その人たちは、敷かれているレールの上で、もうやることが分かっている過去の「成長」のステージ(鉄道の時代:第141夜、第150夜、第333夜)では能力を発揮した「オペレーター&マネージャー」なのです。前夜図解の「左上領域」です。
 しかし、成熟から衰退に向かうステージで、「次の柱」や「新しい本流(オルタナティブ・第148夜)」に舵を切る、乗り出す「航海の時代:第156夜」の「価値創造イノベーション&イメジメント」にはまったく不向きなのです。

 そう、時代の変わり目には違う能力が必要なのです。
 いまは「航海の時代(イノベーション)」なのに、「鉄道の時代(オペレーション)」の能力では太刀打ちできません。
会社の中では、「過去の能力(オペレーション)で以って将来も切り拓けるだろう」という間違った物差しで経営や重要部門のリーダーに選出される。
そして、その能力でやる気を発揮してしまうことが・・・。

前夜に綴った、
・「実に居て虚にあそぶことはかたし、虚に居て実を行ふべし」
のことです。

 でもこれは、前職だけの現象ではありません。
これまで多業種業態をご支援してきましたが、その様な経営者のほうが多いのです。

 企業ご支援、地域ご支援で、前夜につづった

・行き詰まり → 大元・空・虚 → 新しい成長
・ 切実       逸脱       別様
・ 本気       本質      次の本流

 の事例・演習や、異業種・同業種の先行成功事例を駆使して、

「しる→わかる→かわる」

のステップで、経営者が開眼するケースも多くみてきました。 

 さて、「知の倶楽部」では、佐藤優さんから「知(インテリジェンス)の使い方」の徹底指南がありました。
ここでは書ききれないのですが、多くの深く高い見方、洞察、体系を学びました。感謝です。

■「古典」を読む!

 夜会の後の「懇親会」になって、正剛師匠と佐藤優さんの間に入って私の悩みを打ち明けました。

 当時、正剛師匠は、「松岡正剛の千夜千冊」において、すでに「1700夜」連載を超えていたのですが、私の「価値創造の知」の連載は、170夜くらいから行き詰まりを感じていました。

・『「価値創造の知」の執筆で壁にぶち当たっています』

という悩み事相談でしたが、

 正剛師匠からは、迅速な回答がありました。、

・「古典を読むことで観えることが多くあるものだ」

 という助言でした。

 佐藤優さんからは、「古典ヘーゲルの知」を推薦されました。
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・・・なぜヘーゲルのように難しくて、資格や語学みたく人生に直接的に役立たない面倒くさい本を読み解いていかなければならないのかと思う人もいるかもしれません。

しかし『ヘーゲルのような古典こそ現実の出来事を具体的に見ていくうえで役に立つ』のです。

『実用的なノウハウは使える用途が限られるので、その様な断片的な知識をいくら身につけても、長期的には役立ちません。

根源的な知を身につけ思考の土台を作り、実際に役に立つところまで落とし込んでいくこと』が求められています。

逆に云えば、実際に役立つところまで落とし込むことができないのならば、ヘーゲルを読む意味がありません。・・・

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ポイントは、
・『実用的なノウハウは使える用途が限られるので、その様な断片的な知識をいくら身につけても、長期的には役立ちません。根源的な知を身につけ思考の土台を作り、実際に役に立つところまで落とし込んでいくこと』が求められているコト。
・『ヘーゲルのような古典こそ現実の出来事を具体的に見ていくうえで役に立つコト』
でした。

 私は仙台の『知の出遊』から帰って、すぐに下記2冊を購入しました。
①「知の操縦法」佐藤優著


②「ヘーゲル『精神現象学』武田青嗣/西研 共著

 その後も様々な「古典」を読み続けることが、自分の財産になりました。
そして、「価値創造の知」を継続展開することができました。

途中、3年半のブランクがありましたが、『古典の多くの知』が「自分の座標軸づくり」や「事業創生・地域創生・人財創生」に大きな役割をもたらしてくれました。
 是非、皆さんも『古典』に手をのばすことをお勧めします。
 
 その前提になるのが、
・あなたが求められている「知」は?
・あなたが求めている「知」は?
 是非、探求されてくださいね。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第333夜:『虚に居て実を行ふべし』

2024年12月17日 「松尾芭蕉」と「空即是色」

前夜は、“ here → there → another ”と“色即是空 空即是色”との関係を図解でご覧いただきました。この図解が、『価値創造』に至る本筋でありセオリー(体系的な枠組み・モデル)です。
 そして、この具体的に見立て、仕上げるのが、新価値創造研究所オリジナルの『3つの知(深い知・高い知・広い知)』(第89夜、第128夜)になります。

 その見立て、仕上げで“肝要”なのが、
・『現実+心』が「二つでありながら一つ」(本夜)
・「3つの抽象化能力」(第89夜)
・『切実』 ⇒ 『逸脱』 ⇒ 『別様』(第322夜)
・「覚悟」「数寄」(第331夜)
・「新しい物差し」(第323夜)
・「異邦人の目」(第329夜)
・「経営」とは何か?:あり方とやり方(第321夜)
・「未常識」(第319夜)
・・・

 昭和の時代はやることがわかっている、到着先まで「レール」が敷いてある「鉄道の時代」・「オペレーションの時代」でしたが、
令和の時代は、そのレールがない「航海の時代」・「イノベーションの時代」になっています。
これまでの教育は、追いつき追い越せの「オペレーションの時代」向けのものでしたが、現状を見渡せばわかる通り、「新しい価値を創るイノベーション」の教育に早急にチェンジしなけばなりません。
 その心得と方法が分からないのが問題です。

 現状から積み上げる延長線上の未来では、企業・地域・学校がうまく行かないことは皆さん認識されています。
視点を変えて、「10年後のなりたい姿から逆算する」バックキャスティングが求められています。


そのモデルが「大谷翔平」の高校時代のマンダラチャートです。後述の内容(虚・大元・there)にも深くリンクしてきます。
 これをわたしを含む「2030SDGsファシリテーター仲間」がお伝えしています。

 さて、『価値創造』には、目に見えない“心の動き・変化・想像性”が大きな役割を持っているコトをお伝えしてきました。
表面的な知識・教育やテクニックでは、「イノベーション」に立ち向かえない、引き寄せられません。
 そこには、志・大義・覚悟・ミッション・ビジョンという目に見えない(インビジブル)ものが推進軸にあることです。
そしてそれは「学校」「企業」「自治体」では、正面切って教えてくれていない、系統だてて教えてくれない、セオリーが示せないコトが課題です。
 ただ、一昨年くらいから、自治体や企業から「アントレプレナーシップ/スタートアップ」の講座・研修に呼ばれることが多くなったことが変化の兆しです。
 
 「価値創造の知」で綴りましたが、最も参考になるのが、iPhoneを世に送り出し、世の中を変えた“スティーブジョブズ”の「価値創造」の本質(第157夜、第165夜、第320夜)と「生き様」です。是非、体系的に学び・まねぶことをお薦めします。

 日本は、いつまでたっても「オペレーションの時代」にとどまっている経営者が多いことが、日本の停滞を招いた大きな要因です。
「イノベーションの知」「価値創造の知」を時代を切り拓く人たちにお伝えしたくて、このコラムを書き続けています。

 その上で、本夜のテーマ『虚に居て実を行ふべし』です。

 2018年、仙台方面に「知の旅」である「未詳倶楽部」に出遊しました。


その二日目に、芭蕉が辿った塩釜から舟で日本三景松島に着いたルートを正剛師匠と愛でました。

 芭蕉が「おくのほそ道」に記すことはありませんでしたが、芭蕉の句に
「島々や千々に砕きて夏の海」
という松島を詠んだものがあります。
東日本大震災のことが頭をかすめながら、それが重なりました。

 そこで正剛師匠が語ったのが、

・「実に居て虚にあそぶことはかたし、虚に居て実を行ふべし」
 という松尾芭蕉の言葉です。

 その時、私は船の上で、芭蕉の「虚」が「空即是色」(第332夜)の「空=大元(おおもと)」とイコールに聴こえたのです。

・ 実(here・色)に居て虚(大元・there・空)にあそぶことはかたし
・ 虚(大元・there・空)に居て実(here・色)を行ふべし

 「現実(実=色=here)と「心・おおもと(虚=空=there)」がつながった瞬間です。

 改めて、価値創造のセオリー(体系的な枠組み・モデル)を図に表します。

 上部の「所有」「使用」という“やり方”が上部で、私たちが認識できる「顕在意識」の領域です。
そして、下部の「あり様、あり方」が大元である“あり方”です。
 「オペレーションの時代」の領域は、左上半分で“やり方”中心でよかったのです。昭和の時代です。
そして、従来の延長線上の“やり方”で行き詰っているのが、平成から現在です。
「失われた30年」とも言われています。

 「イノベーションの時代」は、「潜在意識」「空意識」の下部を“探求する”“創(きず)つける”“掘り当てる”ことが求められます。(第332夜)
私も30代前半に、「瞑想」の門をたたきました。(第6夜、第33夜)
そこで驚いたことは、多くの経営者が、「瞑想」「禅」を取り入れるために通っていたことです。

『禅(ZEN)』の修行で一番大切なコトは何だと思いますか?
 座禅の姿勢は、「結跏趺坐(けっかふざ)」という右足と左足を組んでいますね。
この姿勢は、『二つではない、一つでもない』という「二元」性の「一者」性を表わしています。
それは、「二つ」にならないということにあります。
一番大切なコトは、“二つでありながら一つ”ということです。(加筆引用:禅マインド)
これまでずっとお伝えしてきた「2+1」です。

 「空・虚・大元(おおもと)」の意識領域で、「あり方・あり様」とつながると、
それが、ミッションになります。
そこから、「新しいやり方」「新しい現実」「ビジョン」が見えてくる。
それを実行・実践するのが「イノベーション」という流れです。

 ここでは、言葉ではなかなか伝わりづらい、響きづらいので、それを
「旭山動物園」等の演習で疑似体験してもらいます。(第28夜)(SDGs経営塾 第6回)

[左上領域:これまでの現実、常識、目的]
・2000年、動物園の来園者数は右肩下がりでした。
・珍獣、奇獣の「パンダ」や「コアラ」で、何とか来園数を上げる「やり方」でしのいでいましたが、それでも右肩下がりでした。
[下部領域:大元・空・虚]
・ここに、旭山動物園の坂東元・獣医係長(後の園長)が登場します。
・普通の動物の“命の大切さ”を子供たちに伝えたい(=あり方、在り様、未常識)
[右上領域:新しい現実、新しいやり方、新しい目的]
・形態展示から行動展示へ
・SDGs対応

 ここで重要なことは、経営の“あり方(目的)”が変わることで、“やり方(手段)”が変わることです。
それまでの「形態展示」から、「普通の動物の“行動展示”」というやり方に転換しました。
そのことで、右肩下がりの来園者数が急激な右肩上がりになり、旭川市を含めて経済価値(利益)が上昇しました。

 旭山動物園が掲げる永遠のテーマは、「伝えるのは命」(図2)です。


そこには、坂東さんが獣医として“動物の命”の大切さにずっと寄り添ってきたことが込められています。そのテーマによって、これからの時代の主役になる子どもたちが、動物たちの未来や地球の未来を真剣に考える場所になっています。


  ここに、「価値創造」「成長経営」の大きなヒントがあります。
「経営」の“経”という字は、縦糸のことを表しています。“経”という縦糸(あり方)と“営(いとなむ)”の横糸(やり方、行動)で織物が紡がれます。


 経営が行き詰っている時は、それまでの横軸の“やり方”が行き詰っていることが多いものです。是非、そのような時は経営の縦軸の“あり方”(目的、道理、大元)に目を向けて、再定義することにトライされてください。

図中の「価値創造」の流れがみえてきたのではないでしょうか。
・行き詰まり → 大元・空・虚 → 新しい成長
・ 切実       逸脱       別様
・ 本気       本質      次の本流

[まとめ]
・ 実(here・色)に居て虚(大元・there・空)にあそぶことはかたし
 →左上の領域(いまの現実)にいても、虚(大元・there・空)に向かわなければ、新しい現実は見つけることができません。
 →「やり方」で行き詰まります
・ 虚(大元・there・空)に居て実(here・色)を行ふべし
 →左上領域から下部領域(あり方、虚・大元・there・空)に到達して、右上領域(新しい現実、新しいやり方)に向かうのがイノベーション(価値創造)です。
 →日本の成長の源流になります。


松尾芭蕉が、「イノベーション/価値創造」のセオリーを示してくれていたのです。
 第308夜以降、これまでお伝えしてきた下記の方たちは、「あり方・あり様・大元」を探求、洞察、実践されてきた格別・別格の「イノベーター」です。
是非、参考にされてください。

・「15代樂吉左衛門氏」(第330~331夜)
・「セーラ・マリ・カミングス氏」(第329夜)
・「伊藤明氏」(第328夜)
・「中川淳氏」(第327夜)
・「隈研吾氏」(第326夜)
・「佐野陽光氏」(第325夜)
・「山口絵里子氏」(第324夜)
・「谷口正和師匠」(第323夜)
・「スティーブジョブズ氏」(第321夜)
・「坂東元氏」(第313夜)
・「成松孝安氏」(第316夜)
・「松岡正剛師匠」(第308夜)
 
「参考]
俳諧を俳句に変えて、日本文化にまで高めた別格の革新者である「松尾芭蕉」にはやはり学ぶことがいっぱいあります。(第34夜、第175夜、第190夜)
NHK「100分de名著 松尾芭蕉」の俳人「長谷川櫂」さんの解説から加筆引用します。 
---------
・古池や蛙飛こむ水の音

「蕉風開眼の句」と呼ばれる古池の句以前の俳句はどのようなものだったのでしょうか?
古池の誕生のいきさつを門弟の支考が「葛(くず)の松原」に書き残しています。
それによると本来この句は上中下が一度に出来たのではなく中下が先に出来たと言うのである。

つまり先に「蛙飛びこむ水の音」ができ、さあ、上の五文字を何としたらよいかと暫し思案があって、その場に居た弟子の其角が「山吹や」としたらどうですか、というのを芭蕉は敢えて「古池や」と書いたとか。
この句の完成が、芭風開眼と言って芭蕉が旧風を脱して自らの句風に目覚めた瞬間だと言います。

つまり、古池の句は現実の音(蛙飛びこむ水の音)をきっかけにして心の世界が(古池)が開けたという句なのです。
つまり、現実と心の世界という次元の異なる合わさった『現実+心』の句であるということになります。
この異次元のものが一句に同居していることが、芭蕉の句に躍動感をもたらすことになります。

それは、それまでの言葉遊びにすぎなかった、貞門俳諧や談林俳諧の停滞を脱して、心の世界を打ち開いた句であった。
それまでだったら、蛙は鳴くものであり、取り合わせは古池ではなく山吹だった。
現に芭蕉が「蛙飛こむ水の音」という中七下五を得たとき、傍らにいた其角は「山吹をかぶせたらどうか」と意見を言って芭蕉に却下される。
山吹といふ五文字は風流にしてはなやかなれど、古池といふ五文字は質素にして実(じつ)也。実は古今の貫道なれば、と。
「虚に居て実にあそぶ」が芭蕉の風雅だ。
俳諧が古代から心の文学であった和歌に肩を並べた、俳句という文学にとっての大事件だったと、長谷川は書いています。

心の世界を開くことによって主題を変遷させ、音域を広げ、調べを深めていく。
そして数年後、芭蕉は「古池や」の流れに繋がる句を作りたくて「みちのく」を旅する。即ち「奥の細道」である。
・・・

はるか古代から日本文学の主流は和歌でした。その和歌は発生以来、一貫して心の世界を詠んできました
人の心を詠み続けてきた和歌に対して。言葉遊びの俳句が低級な文芸とあなどられていたのは当然です。
そうしたなかで芭蕉が古池の句を詠んで俳句でも人の心が詠めることを証明したのです。

そこに、「現実(実)と心の世界(虚)という次元の異なる合わさった『現実+心』の句」を開拓しました。
・・・
ーーーーーーーーー

価値創造から、「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第332夜:『here → there → another』

2024年12月16日 「色即是空」・「空即是色」

前夜は、『価値創造』における『数寄』の関係を「2+1」にまとめました。
正剛師匠が示された『数寄』を、私の前職の挑戦や新価値創造研究所発足後の経験(ヒット商品緊急開発プロジェクトや企業創生・地域創生ご支援等)から導き出したオリジナルの図解です。
 第332夜にして、正剛師匠と私の新結合である体系図を組み立てました。
これから「イノベーション/価値創造/アントレプレナーシップ」等のセミナー・研修の中級編に組み込もうと構想しているので楽しみです。

 さて、本夜は前夜の内容と関連する正剛師匠との新結合「2+1」を綴ります。

それが、“ here → there → another ”です。

 2011年に新潟未詳俱楽部の夜、新潟特有の雪が降っていました。
私と正剛師匠が露天風呂に二人きりになり、湯けむりの中、雪をみながら深い話をすることができました。

 その幽玄の趣の中で、自分の「瞑想体験」「空即是色」と「編集」を聴きたくなってしまいました。
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 ・・・私は、「超越瞑想」(第33夜)をすると自分の自我や欲望がなくなって、そこでは現実の雑念を引いて引いて「大元(おおもと)」に戻る、包まれる感覚になります。
「色即是空」の「色」とは現実(here)であり、「空=モノゴトの大元(there)」と見立てるとしっくりきます。

「色即是空・空即是色」(第6夜、第162夜)というのは、「現実=色」に問題・課題があるのなら、先ず心を無にして、「大元=空=大切なこと=真心」に戻りなさいと教えてくれているように思います。
 そして、「空=大元=真心」に戻って従来のしがらみや常識から解き放たれて、その本質(=コンセプト=核心)を把えてから「現実=色」を観ると新しい世界(=現実=色=確信)が観えるということではないでしょうか。その確信を革新するのがイノベーションであり価値創造と思っています。
 スティーブジョブズは、禅寺に通っていたことを知った時に、「iPhone」は「核心→確信→革新」に至ったと確信しました。
「色」と「空」は違うので、「色即是空」「空即是色」と繰り返していると思うのです。「色」と「空」が同じであれば、繰り返す必要はないと思っています。
・・・
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夜の露天風呂は、師匠が未詳俱楽部でよく話される「here(此岸)」と「there(彼岸)」がぴったりの状況でした。
そして、後半の「空即是色」の「色」はどのように伝えたらいいのでしょうか、と正剛師匠に聴くと、

 最初の「色」は「here」、後半の「色」とは『別・another』だね、と。(第17夜、第33夜、第311夜)
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・・・その「真」のコンセプトは「二」を意味していて、
それも一の次の序数としての二ではなく、
一と一が両側から寄ってきて
つくりあげる合一としての「二」。
「真」を成立させるもともとの「一」は「片」と呼ばれていて
この片が別の片と組み合わさって「真」になろうとする。
「二」である「真」はその内側に2つの「片」を含んでいる。

それなら片方と片方を取り出してみたらどうなるか。
その取り出した片方と片方を暫定的に置いておいた状態、
それこそが「間(ま)」です。
・・・
---------

そこでは、「色即是空」と「空即是色」の「色」は異なるもの、別であるという共通認識が得られました。
それは、hereとthereが両側から寄ってきてつくりあげる『真(ま)』(第17夜、第311夜)であること。

それで、、

“ here → there → another(別) ”

そこには、絶妙な「間(ま)」「縁(えん)」と「却来・ジャンプ」がありました。

 新潟未詳俱楽部から帰ってすぐに、前職パイオニア社の人事部と連携して、「イノベーター養成講座」の「新バージョン」を作成して公開講座に仕立てました。
2000名くらいの受講があり、「パイオニア・スピリットの人財創生」につながりました。

 それをバージョンアップしてきたたものが、今でも私の講座・研修の中心で継続しています。
そして、その構造を見立てて仕上げた講座が、「SDGs成長経営セミナー」につながります。

直近でそれを活用した「京都銀行定例講演会」や「川崎市主催・SDGs経営セミナー」では、やはり受講者からの嬉しい反応がありました。

 次夜は、『here → there → another』から、松尾芭蕉の『虚に居て実を行ふべし』を紐解こうと想います。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第331夜:『数寄』が新しい全体を創る

2024年12月15日 『数寄』と『価値創造』 

 前夜は、「15代樂吉左衛門」さんを通じて、「守破離」と「侘・寂・遊」(ワビ・サビ・スサビ)の本質を綴りました。
それは、「価値創造の知」の真髄であり「日本人の美意識」です。

 さて、松岡正剛師匠が『数寄』という言葉を、未詳倶楽部の遊行の先々でよく説明されていました。
「九鬼周造が『いき』の構造と言うけれど、あれは『数寄』の構造といったほうがいい」とも。
私の中では、『数寄』と『いき』の二つが初めてつながって大きく頷いたのでした。

 それでは、スサビから『数寄』につながるプロセスを正剛師匠の「日本文化の核心」から引用させてもらいます。
「『数寄』が『価値創造』実現に大きな役割を果たすコト」を私は無自覚に想っていたので、本夜の中で紐解いていきたいと思います。

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・・・「すさぶ」と「あそぶ」は重なり、『何か別のことに夢中になること』がスサビとして認識されました。
今日でも仕事に対して遊びがあり、なすべき中心から逸れて気の向くままに何かをするのが、遊びであって荒ぶということです。
「さび」はスサビから出た言葉で、「夢中になるほどの趣きがあるのだろうなと思わせる風情」を示す言葉です。

・・・文芸、遊芸、武芸や芸能の場面で、スサビに徹していくことを、またそのスサビの表現や気分を鑑賞して互いに遊べる感覚のことを、
総称して『数寄』とか『数寄の心』といいます。
 何かを好きになり、その好きになったことに集中し、「その遊び方に独特の『美』を感知しようとしていくこと」、それが『数寄』です。
そういう数寄にかかわりたくなった者たちは「数寄者」といいます。

 もともとは「好き」とか「好きになる」から出た言葉だったと思いますが、もう少し大事なニュアンスをこめて言うと、
「すく」とは何かによって梳っていくことなのです。「土を鋤く」「髪を梳く」「風が透く」「木を剝く」「心を空く」というような数寄でもあるのです。
これらは、「もの」やその「あらわれ」をたんに扱うのではなく、さまざまな「スクリーニング」を通して感じていこうという感覚です。

・・・「スサビ」も「数寄」も物事に執着することです。こだわることです。
こだわりすぎることは何かの発展を妨げることもある。それゆえ仏教では何かに固執することを「執着(しゅうじゃく)」と言って強くいましめます。
 しかし、この執着をあえて「好きなもの」として徹底し、何かに執着する態度に一転して「美」を見出すことが、日本においては連続したのです。
・・・
---------

 さて、前夜に、「第15代・樂吉左衛門」さんを通して、「守破離」「侘・寂・遊」を綴りました。
さまざまなスクリーニングを通して、『樂吉左衛門数寄』作品に向かっていたことは間違いありません。
、一子相伝で受け継がれる樂家の伝統には、『数寄の心』が必然のように思いました。
 それを「2+1」で表したいと思います。


「数寄」が「新しい全体」を創ります。
本夜の出来高です。


 イノベーションを実践した人たちには納得される内容です。
これから、イノベーションに挑戦する人に「感得していただければ嬉しい」です。
本夜は、これから挑戦される方たちに向けて綴ってきました。

参考に、『数寄』について語られている「日本語としるしのAIDA」から加筆引用します。
---------
・・・松岡座長は、最後に、日本語は「創」である、ということをあらためて語った。日本のしるしには、創造性(クリエイティビティ)ではなく創(きず)がある。
きず(創)を負うことと創造との間に、何か本質的なつながりがあるからだ。
「創」とは、「倉」の壁の穴(きず)に「刀」をつっこんで、中をかき回すことである。
世界としるしと言語は一体化しているのだから、みなさんは、創をつけないとだめだ、と。
創をつけると、そこには「新しいロール」や「数寄」が生まれる。それは、イシス編集学校で体現されていることでもある。・・・
---------
 12月20日(火)の「昭和問答:喪失から創出へ」出版記念トークショーに参加しましたが、
その最後に田中優子さんが語られたのも、「創(きず)」から「創出」でした。
「価値創造」の「創」です。


 新しい価値(創出)には、「創(きず)つけるコト」が必要です。
これは、イノベーションに挑戦した人にしかわからないことかもしれません。
 「15代樂吉左衛門」さんも別格の一人でした。

 2008年、書店に並んだ「CONFORT 100号記念特別号:数寄の現在」を購入しました。
そこには、『数寄』について「松岡正剛×15代樂吉左衛門×川瀬敏郎」の痺れるような対談や隈研吾さん(第326夜)の「建築家が語る数寄の空間」寄稿等が満載された「数寄のお宝の本」でした。

 その「CONFORT 100号記念特別号:数寄の現在」から正剛師匠の「数寄」から引用します。
---------
・・・数寄はコレクションじゃないと思うんだよね。
寄せるというけれど、集めれば数寄になるかと言うと全然そうとはならない。
もともと「寄」という字も、奇妙の方の「奇」も、刀なんですよ。
 曲刀を必ず二つ置くんです。
そうするとバランスが悪いんですよ。きれいに並ばない。
「奇」とか「寄」というのはその状態なんです。
だからね。おそらく数寄っていうのは茶碗や茶杓や掛け軸集めてみても、アンバランスがあることの方が本質なんですね。
なんか足りないと思える状態が数寄である。
 ずらしたり減らしたり外したり一本抜いたりすることによって、発生というか目覚めというか芽生えがあるんじゃないかと思います。
利休や紹鷗や珠光はそれに気がついた。・・・
---------

『数寄』と『創造』との関係が感じられましたら幸いです。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第330夜:「第15代・樂吉左衛門」数寄

2024年12月9日 『守破離』: 伝統と革新 

 2011年9月24~25日の未詳俱楽部で滋賀・京都を訪れました。
そこでは、とびっきりのゲスト「第15代・樂吉左衛門」さんが出迎えてくれました。
 そして、
・比叡山延暦寺、坂本、琵琶湖を巡りながら、
・佐川美術館 樂吉左衞門館
 十五代吉左衞門・樂直入の主に2000年以降に制作された茶碗などを展示。水庭に埋設された地下展示室、水面に浮かぶように建設された茶室は吉左衞門自身による設計創案です。
・京都市上京区 樂吉左衛門家
・隣接する樂美術館
・樂家近くの「千家」の茶室へ

 の格別・別格の時空間を次々に体感させていただきました。

 その遊行から、『価値創造の知』として本夜にお伝えしたいことは下記二つです。

■ 「守破離」

■ 「侘・寂・遊」(ワビ・サビ・スサビ)

 という日本流の真髄です。

 それでは、「樂茶碗と樂家」について、樂焼創成「樂ってなんだろう」を中心に加筆引用します。


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・・・長次郎の活躍した桃山時代は、茶の湯の全盛期。長次郎茶碗が世の人を驚かせ脚光を浴びたのは、当時の茶の湯をリードする茶の湯者千利休(1522-91)との密接な結ぶ付きによる。千利休の侘茶にかなう茶碗を初代長次郎が生み出したのが樂家の興り。いまでこそ、その黒茶碗・赤茶碗は茶の湯の代名詞的な存在でもあるが、利休と長次郎によって生み出された当時は、これまでにない斬新な茶碗として人々を驚かせ、“今焼茶碗”と呼ばれたほどだった。

 豊臣秀吉の「聚樂第(じゅらくだい)」近くに居を構えていたことなどから後に「聚樂焼き茶碗」、やがて「樂焼」「樂焼茶碗」と称される。ろくろを使わない「手捏ね」、篦削りの工程を経て、樂家独特の内窯(うちがま)で焼成。吸水・保水性に優れ、やわらかく温かみのある質感が特長。

 楽家玄関には本阿弥光悦筆と伝えられる「樂焼 御ちゃわん屋」なる暖簾がかけられている。
樂焼きはまさに御「茶碗屋」からはじまった。 

 長次郎はなにを真似るでもなく、つくり方も焼き方も全く新しい茶碗を創造した。2代も3代もその精神性のみを軸にしてオリジナルのものを生み出したことで、樂家の方向性が決まった。

 樂家の技巧・匠は、模倣するのではなく、伝統を継承しながら、時代の空気の中で歴代がそれぞれの新たな茶碗を築き上げること。そのベースには、一子相伝で受け継がれる樂家の伝統は“教えないこと”という独自のしきたりがある。・・・
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 「樂吉左衛門家」で、第15代・楽さんの「想い、歴史、世界観等」に直に接したあとに、隣接の「樂美術館」の作品を見ると、自分の視点・視座が大きく変わって、各作品の中に自分の意識が深く入り込んでいく感覚を味わいました。それは言葉では言い表せないものでした。

■ 「守破離」

 さて、「佐川美術館 樂吉左衛門館」のコンセプトは「守破離(しゅはり)」です。
「守破離」の思想は、仏道の根本にも、それをとりこんで日本的な様式行為をつくった禅にも茶にも、また武芸にも、開花結実していきました。(第5夜)

 「守破離」について「松岡正剛の千夜千冊」1252夜から引用します。(是非ご覧ください)
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・・・『守破離』とは、「守って破って離れる」のではない。
 守破離は、
・「守」って型に着き、
・「破」って型へ出て、
・「離」れて型を生む。
ーーーーーーーーー
 上記の背景で、第15代・樂吉左衛門は、一子相伝で「樂吉左衛門」を受け継がれました。
そこで求められるのは、伝統を「守」るという「切実」を背負いながら、、そこを「破」って「逸脱」して、そこから「離」れて新しい型「別様」を生む。
その思想、本筋を、樂吉左衛門の「自らの生き様」にされてきたのだと様々な「作品」や「説明」から洞察しました。

 そして、「伝統」とは「形・型」のことです。

■「守破離」のビジネス展開:「2+1」

 それでは、「守破離」の思想を「成長経営」に展開します。
新価値創造研究所のオリジナル図解ですが、それを多くの『場』でお伝えしてきました。
最新では、京都銀行定例講演会「企業成長を牽引するSDGs経営」(本年9月19日)です。
 
 『守』 ⇒『破』 ⇒『離』
 『切実』⇒『逸脱』⇒『別様』
  ホップ ⇒ステッップ⇒ジャンプ

 これが、『価値創造』の「真髄」であり「本筋」です。
まさに、第15代・樂吉左衛門はそれを実行・実践されて、私たちに大きな影響を与えてくださいました。

 さて、どこのセミナーやご支援の『場』でも『守破離と実経営』のつながりがすぐにはイメージできないのですが、
さまざまな業種・地域の[守破離・「2+1」]の成長例・成功例をスライドで見ていただくことで、自社・自地域に置き換えていただいています。
是非、置換して、「逸脱」「別様」に挑戦してください。
(これから以降の、「価値創造の知」のどこかでその一部をお伝えしていきます)
その前に「切実」があります。この「切実」がないと、なかなか「ステップ・ジャンプ」まで届かないことをこれまで経験しています。

■ 「侘・寂・遊」(ワビ・サビ・スサビ)

 佐川美術館 樂吉左衞門館に展示されていたのが、「遊・寂・侘」です。
千利休の「侘茶」にかなう茶碗を初代長次郎が生み出したのが樂家の興りであり、そこの中心に『侘』がありました。

 『わび・さび』とは何なのでしょうか。
ーーーーーーーーー
 そもそも「わび」「さび」とは「侘しい」「寂しい」ということです。
しかも「侘び」には「詫びる」という感覚が含まれています。お詫びするとかお詫びを入れるという、あの詫びです。
それはどういうことかというと、
 ある日、大事なお客さんとか心を通わせてる友がふらりとやってきたとします。
むろん、久々の客だからおいしいお茶を入れたい、料理も出したいと思います。
 でも手元にあるものは何も自慢するものでもない。
で、「こんなものでございますけれども」と言って詫びて、間に合わせのものを出す。
 これがそもそもの「詫びる」「詫ぶ」の感覚なんですね。・・・
ーーーーーーーーー

 第326夜に綴った「負の美学」・「引き算の魅力」・「禅の感覚」と同じですね。
日本人の美意識です。
 「完全の美」ではなくて、引いて引いていくことで大事な何かが見えてくる「不完全の美」です。

■「遊(スサブ)」

 「侘・寂」に並ぶ「遊(スサビ)」に関心がありました。
松岡師匠が「スサビ」と「サビ」について、「日本文学の核心」松岡正剛著から引用します。

---------
・・・「すさぶ」は感じで綴れば、「荒ぶ」です。
・・一方、この「すさぶ」は「遊ぶ」と綴ってもスサブと読みました。
もともとの「すさぶ」は、「荒ぶる」「荒れる」「壊れる」といった行為を示す自動詞でしたが、日本人はこの言葉に「遊ぶ」という字も当てたのです。
 こうして、「すさぶ」と「あそぶ」は重なり、『何か別のことに夢中になること』がスサビとして認識されました。

・・・「さび」は実はスサビから出た言葉です。「スサビ→サビ」です。
サビは、「寂び」と綴ります。この「寂び」はスサビの状態をあらわしている言葉で、「何か別のものに夢中になっていること」で、
きっとそこには「夢中になるほどの趣きがあるのだろうな」と思わせる風情を示す言葉です。・・・

・・・これが「数寄」につながっていきます。・・・
(私が好きな「数寄」については、「価値創造の知」のどこかの夜に綴ります)

---------

■本夜のまとめ
・『守破離』が「価値創造」・「成長経営」の本筋である。
・「侘・寂・遊」(ワビ・サビ・スサビ)が『別様』を生み出す

「守破離」・「侘・寂・遊」の格別・別格の探求者、実践者が目の前にいることに感動・感謝しました。

 それまで私は、ヒット商品づくりや新事業開発を夢中でやっていましたが、「15代樂吉左衛門」にお会いした2011年から、
「侘・寂・遊」・「守破離・2+1」をしっかり体系化して、「事業創生・地域創生・人財創生」に向かうようになりました。

 そして、それが「新価値創造研究所」創設の「心得と方法」・「体系化」に繋がりました。
感謝しかありません。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第329夜:出来ない理由が100あっても、出来る道が1つあれば必ず出来る

2024年12月9日 小布施に起こったイノベーション

松岡正剛師匠の未詳倶楽部で、2000年に長野県小布施町に行きました。
[小布施は、浮世絵師・葛飾北斎(1760-1849)の専門美術館があることで有名です]
小布施堂の桝一市村酒造場を訪問してお会いしたのが、“セーラ・マリ・カミングス”さんでした。

セーラさんは、外からの目線で“小布施”に『イノベーション(バージョン2.0)』を起こしました。
 “異邦人イノベーター”として町おこしに挑戦されている只中でした。
その活動をお聴きして、小布施の魅力アップを体験するために家族を帯同して何回も小布施を訪れました。

さて、それから10年後の2014年8月、第72回文化経済研究会の講演登壇で、再びセーラさんにお会いしました。
2000年訪問時の小布施バージョン2.0から、バージョン3.0、4.0と引き上げられていた内容でした。
素晴らしいです。

 2014年当時のセーラさんのプロフィールです。
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●●セーラ・マリ・カミングスさん
1991年関西外国語大学交換留学生として初来日。1993年ペンシルバニア州立大学卒業
後、長野五輪に憧れ再来日。1994年㈱小布施堂入社。1998年㈱桝一市村酒造取締役に
就任。小布施を中心に燻瓦や茅葺きの復活、蔵の改装など景観を活かした町づくりを
してきた。町を挙げた「小布施見にマラソン」や月に一度講師を招いて行う「小布
施ッション」などのイベント企画も行っている。また日本の食文化にも興味を持ち、
木桶仕込みの復活や、酒造を改装したレストラン「蔵部」の設立も行ってきた。2001
年『日経ウーマン』誌が選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2002」大賞受賞。2006年
㈱桝一市村酒造場代表取締役に就任(2013年同社取締役)。2008年地域づくり総務大
臣賞個人賞受賞。2013年小布施堂を卒業。㈱文化事業部の拠点を長野市若穂へ移し、
里山を活かした「かのやまプロジェクト」を新たに企画している。NPO木桶仕込み保
存会代表理事。
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 ⇒廃業寸前だった創業250年の老舗造り酒屋・桝一市村酒造場を再建されました。
文化サロン、マラソン大会など次々と開催し、町の人口の100倍もの観光客が訪れる町にしました。
 それらの功績から「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2002」大賞を受賞。
伝統を活かしながら新しいことに挑戦(面展開、バージョンアップ)されてきました。

 “その着眼力と行動力には学ばされる”ことがいっぱいありました。
是非、自分・自社・自地域のバージョンアップ目線に置き換えてご覧ください。
ヒント満載です。

■ 『外の目』・『切実』・『危機感』
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◆憧れの日本が消える、何とかしなきゃ!
・・・たまたま冬季オリンピックの5年前から長野に来ていたこともあり、せっかくなので信州にたくさんあるおいしい蔵元さんへ行ってみました。
でも当時は酒蔵が消えそうな状態で危機感を持ちました。

「このままでは5年後、10年後には半減するのではないか」

と。日本の残って欲しい姿がドンドン消えてしまうので

「ちょっと待った! 誰かが何かをしないと」。

 確かに日本の消費者は高齢化が進み若者は減少していますが、世界中の方々が日本酒を好きになったら、かつてない広がりが見込め、むしろ明るい未来に向けて走れるの
ではないかと思いました。
 当時、皆さんはマイナス目線でした。

 『競争相手は増える、若い人に日本酒はダサイと言われる』と。

 私はそれをマイナスと見ず、むしろそれはすべて土台、基盤であり、そこからどのようにプラスにしていけば良いかを考えました。
日本酒の仕事をするために日本に来たつもりはありませんが、日本にしかない文化が消えていくのは寂しく、見ていられませんでした。

「何かしなきゃ」という気持ちが湧いてきました。

 たまたま利き酒師の西洋人第1号になったので、全国の酒造蔵を訪ねてみると、木桶仕込みを辞めてしまっているなど失いつつあるものの存在を知りました。
それは進歩ではなく損ではないかと考えました。
 戦後の短いスパンで考えると時代に流されてしまったのかもしれませんが、3~400年というアメリカの国よりも長く続いていることを考えると、

 「昔はどうだったのか」、
 「今はどうなのか」、
 そして
 「100年先のあるべき姿はどうか」

地球の裏側から来た者として、『日本の独特なもの築いてきたものを消さずに、出来ることなら繋げていきたいな』と思いました。
・・・
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 セーラさんは、ドナルド・キーン氏やエバレット・ブラウン氏の様な『現代のフェロノサ』に見えます。
「異邦人の目」が、日本をイノベートしてくれました。

 さて講演では、下記の実績項目を次々に紹介されました。
私は何回も小布施を訪れていたので、地域ぐるみの素晴らしい成果の数々を実感できました。
「百聞は一見に如かず」です。
やはり、自分の「身体」・「心」・「脳」に刻み込むことがイノベーション発揮の早道です。

[数々の成果]
■非日常が日常を引っ張る
■燻瓦の蔵で食す寄り付き料理「蔵部」
■小布施ッション
■小布施見に(mini)マラソン
■「変わら(瓦)なくちゃ!」
■餅ベーション
■日本独自の発酵文化
■率先垂範で成し遂げた実績
 ・【傘】
 ・【スクウェア・ワン(原点に帰る)】
 ・【桝一客殿】
 ・【木桶仕込みと農業】
■「かのやま」プロジェクト

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■小布施見に(mini)マラソンでは、
・・・『架け橋を作れれば道は開けます。出来ない理由が100あっても、出来る道が1つあれば出来る』
 その道をみんなで作ろう、道がなければ橋を架けよう、出来ないはずがない、と信じました。
当時は28ある自治会の会長さん全員がOKしないと開催は出来ないと警察に言われたのですが、私は逆に近道だったと思います。
一斉にみんなが知るので、後から聞いていないとか、誰かが先に聞いた等はなくスムーズに全員に知らせることが出来ました。
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■苦労の中で、1番重要視したことは?
 ・・・目標を立てて熱意や決意を持って走っても、嵐に遭ったりゴールが見えないこともあります。
でも信じることが大事。信念を持てば波に振り回されません。
 また北斎も励みになりました。
 『90歳まで進化しインスピレーションを持ち、新しいスタイルをドンドン確立した人』です。
若い時はチャレンジすることがすごいと思いましたが、今、母親になり、4歳の子どもがいます。
どんな暮らしをしながら子どもを育てたいか、自然にチェンジしていくこともあります。
チェンジ出来なくても、その時ベストを尽くすことだけはします。
人のことは出来ませんが、自分のことはベストを尽くせば、それ以上のことは出来ないし、それ以下のこともしたくない。
そして良いことを言えないなら、何も言うな! ということです。人の悪口は絶対に言わない。
マイナスを言えばマイナスになりますが、欠点があればそれをどうすれば良く出来るかだけを、前向きに考えて生きていきたいと思っています。
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 それでは、小布施イノベーションの「2+1」をアップしますが、、
その前に、「ルネッサンス」と「バロック」の違いを知ると、理解がすすむと思いますので、松岡正剛「日本数寄」より引用します。
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 ・・・ルネッサンスとは、中心を一点にもった正円の世界である。(⇒「2+1」の「A」)
日本でいえば長次郎の楽茶碗にあたる。
それは人間の手がもたらす造形の完成をめざして深くて尊いものである。・・・
 これに対して、バロックとは、そうした完成の究極をいったん離れ、あたかも楕円が2焦点をもっているように、むしろ自在な多元性を求めて、あえて『逸脱』を試みて歩みだした様式をいう。(⇒「2+1」の「B」)
 バロックという言葉も「歪んだ真珠」を意味するバロッコから派生した。これは、つまりは織部の沓形茶碗なのである。
・・・
 いま、日本は漠然としすぎている。
疲れているわけではない。
一部には熱意もある。
 ところが何かが発揮されないまま、すっかり沈殿したままになっている。
歴史と現在が大胆に交錯しないからである。
 日本は漠然ではなく、もっと揮然としたほうがいい。
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  「昔はどうだったのか」、
 「今はどうなのか」、
 そして
 「100年先のあるべき姿はどうか」

 行き詰まった時は、『逸脱』が求められます。
「漠然」ではなく、もっと『渾然(別々のものが一つにとけあって、差別のないさま)』とする。

 セーラさんは、異邦人の目線で、ルネッサンス(A:半分)からバロック(B:半分)に挑戦されて『渾然』を実現されました。
「日本の独特なもの築いてきたものを消さずに、繋げていきたい」という想いが強いモチベーションです。
そこに、新しいスタイルをドンドン確立した「葛飾北斎」が励みになったことも語られました。
 そして、葛飾北斎と同様に『別様』を創られました。

『切実』 ⇒ 『逸脱』 ⇒ 『別様』

です。

・「異邦人の目」を持つにはどうしたらいいか
・ そして、それは「バロック」につながります

 『価値創造/イノベーション』の大きなポイントですね。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ

橋本元司の「価値創造の知」第328夜:伊東屋「常識破りの革新を成し遂げた着眼力と発想力」

2024年12月7日 「Stationery(文房具)からMobileへ」

 いま、皆さんは「文具」をどこで購入されていますか?
・シンプルに美しく暮らしたい私の娘は、「無印良品」のものが殆どです。
・私たちが仕事関係でたくさん調達する時は、「ダイソー」です。
・私のモノは、「銀座・伊東屋」「日本橋・丸善」のものが多いです。

普通の文具店に行くことは殆どなくなりました。変わりましたね。
そう、昔は輝いていたのに、今は「魅力がなくなりました」。
過去の延長上に未来はありません。(第50夜・第133夜)

 
「伊東屋」は、明治37年に銀座で創業し、文房具の販売を通じ文化と表現を担ってきました。
5代目社長の伊藤氏により、2015年6月16日にリニューアルオープンした銀座・伊東屋は、幅広いライフスタイルを提案し、従来の文房具店の枠組みを越え「働く」「移動する」「遊ぶ」など生活シーンすべてにおける価値をカバー。
 『常識破りの革新』を成し遂げられました。
 さて、現在2020年のコロナ禍では80%の売り上げ減になりましたが、
「ECとオリジナル商品への注力」
という大きな戦略転換によって復活され、一時供給が間に合わなくなったほどの成功を収められています。


 
 さてさて、銀座リニューアルの年の12月に、伊東屋5代目の伊藤明社長が文化経済研究会に登壇されました。
 当時、私は前職パイオニア社を早く卒業して、新価値創造研究所を立ち上げて、
「企業経営の転換期に向けた『価値創造/革新(イノベーション)』の①背景・環境、②ものの見方と覚悟、③あり方、やり方」
についての強い関心がありました。

 伊藤社長の「革新を成し遂げた着眼力と発想力」を拝聴して、すぐに、もっと知りたい旨の取材の申し込みをしたらその場で快諾がありました。
数日後、隅田川のウォーターフロントタウン(日本橋箱崎のオフィス)を訪問して、社員の方達からもお話しを伺うことができました。
そこでお会いした一人がが、当時は、企画開発本部長の松井幹夫取締役(現在、常務取締役)でした。

 「・・・伊東屋のミッションは『クリエイティブなときをより美しく心地良くする』です。
『クリエイティブなとき』とは、前向きな気持ちで仕事を生み出す、すべての時間だと思っています。
その時間を支えるものとして、美しくかつ機能する文房具を提供するのが私たちのミッションです・・・」
等々。
さまざまな観点からの質問に丁寧に回答くださり、大変な学びとなりました。

 それでは、そのベースとなる「常識破りの革新を成し遂げた着眼力と発想力」について、伊藤社長の講演の一部を引用します。

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■伊東屋の立脚点と危機感

 伊東屋の特徴は
①文房具屋
②店頭小売業
③銀座の街
 です。しかしこの3つはこれからも成り立つのだろうか。心配なところでもあります。
①文房具屋はこれからも成り立つのか、危機感を持っています。
 働き方が変化し、事務所では1人1台のコンピュータが普及し、個人レベルでは1人1台以上のスマートフォンなり、タブレットを持っています。働く場所はもはや事務所が唯一ではありません。新幹線の中やカフェでコンピュータを広げて仕事をする人を多く見かけます。このようにモバイルで、ノマドの働き方が増えています。仕事の仕方が変わる中で、文房具屋が成り立つかどうか心配です。

②店頭小売業は成り立つのか。買い物の仕方が変わりました。
 大規模法人は、文房具は店頭に買いに来るのではなく納品業さんに依頼します。小規模法人はアスクルなどオフィス通販です。個人はGMS、ホームセンター、ロフトさん・ハンズさんなどの業態店に買いに行くようになりました。さらに脅威なのは、買うものが明確ならamazonなどのネット通販で、欲しいものだけを打ち込めば簡単に買える仕組みです。余談ですが、伊東屋のメルシー券は父が導入したものです。購入金額の5%の券を、例えばOLさんなどお使いで買いに来た人に渡すのです。買いに来た女性は「伊東屋に行けばメルシー券がもらえる」「それで自分の買い物ができる」と、他の文房具屋ではなく喜んで伊東屋に来てくれたわけです。伊東屋は来てくださる女性が喜ぶようにと、ファンシー商品導入のきっかけになりました。

③銀座は成り立つのか。銀座の強みと弱みがあります。
 銀座は日本で一番有名な商店街です。外国人客が多いし、百貨店の中で外国人比率は、銀座が圧倒的に高いです。また全銀座会を始めとする町会、通り会、業界団体などの組織があり、意思疎通がはかれています。しかし1軒ずつが小規模で、核となるデベロッパーがいません。クリスマスのイルミネーションをやろうと言っても、まとまった資金がありませんし、意志の統一に時間がかかります。

・また「街自体のあり方の変化」です。
 以前は人が集まる所へ出店すれば、そこにお客様が来て買い物をする構図がありましたが、そんな時代は終わりました。今は店が努力をして、モノを買う所以上の価値を提供し、来店する理由を作り、人の集まる所にしなくては、お客様は来てくれません。人が集まる場所であっても、その努力をしない店の前は通り過ぎます。街に力があるのか、店に力があるのか、疑問に思うところです。

・外から来るお客様から見える銀座はどんな街でしょうか。老舗の百貨店や老舗の店舗が多くありますが、そこよりも外国人が目指して来るのは世界のスーパーブランド(LV、カルティエ、エルメス、ブルガリ)や、世界のスーパー量販ブランド(H&M、ZARA、ユニクロ、Gap)です。最近では免税店。松坂屋さんの跡地や数寄屋橋で大型再開発が行われていますが、外国人などマスで取り込む流れに変わってきています。

 『そのような中で、われわれの成長領域はどこにあるのか』

・伊東屋はナショナルブランド(NB)商品を扱っています。
 しかしNBを扱う大資本企業の業態開発(ロフトさん・ハンズさん)には、同じことをやっても負けます。それからNBメーカーでいうと、NBはマスマーケットを狙っていきます。伊東屋が今までテレビで取り上げられたのは、流行りモノに関してであり、われわれがお勧めする商品は取り上げてくれません。テレビは全国放送なので全国で売れるものしか取り上げず、マスマーケット中心のモノとなると、伊東屋の特徴はなかなかメディアに載せにくい。つまりマスマーケットは大資本に勝てないし、またネットでの価格競争にも勝てないのです。

・もっと怖いのは日本市場の縮小です。
 人口動態問題で少子高齢化と、それに伴うマーケットの縮小。それから財政赤字問題。急速な円安や国債の格下げがあり、3~5年後が不透明です。さらに残念なことに、日本には言語問題もあります。語学教育が不十分でしたので、海外進出に困難があります。一部の企業はうまくいっていますが、われわれの規模では非常に難しい。海外展開のタイムリミットも来ているのではないかと、危機感を持っています。

・そして「企業継承」があります。
 継承すべきものは何か。事業か、資産か、と考えることがあります。
土地の価格が高い場所に資産を持っていると、事業を継承して苦労するよりも、資産だけを継承させて、そこを稼ぎどころにした方が儲かると勧められます。私が社長になる前にもありました。ある大手のゼネコンさんがいらして「伊東屋さんも商売の先が見えているから商売を辞めて、ビルを建て替えて貸した方がいいですよ」という提案でした。もし、うちの家族が、企業継承は資産の継承だと思っていたら、その話に乗っていたでしょうね。私も叔父もそうは思っていませんでした。われわれは法人として継承しなくてはいけないのは事業だと思っています。事業は法人のもの、資産は個人のものだと思っています。それを法人に当てはめてはいけないと考えています。

・銀座の資産価値の将来性はどうでしょうか。
 もし銀座がすべて貸しビルにしたら。大規模スーパーブランドが来ているときは良いでしょう。数年前中国の方が良いと、ブランド店は進出してこなくなり、日本のブランドは終わりだと言われました。幸い中国人は日本に買いに来たので、また違う様相になっていますが。つまり、外から来た人はいつでもいなくなる可能性があるのです。自分たちが価値を作っていかない限り、銀座の街はなくなります。少なくとも自分の店はやっていこうと。そのためには「ブランド力の強化」が必要です。・・・
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・「文房具屋のこれから」
・「店頭小売業のこれから」
・「銀座のこれから」
・「街自体のあり方の変化」
・「日本市場の縮小」
・「企業継承」
・「銀座の資産価値の将来性」
・「ブランド力の強化」

 ⇒『そのような中で、われわれの成長領域はどこにあるのか』

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■あり方、やり方(要約)

 伊東屋らしさを出すために、伊東屋らしさを突き詰めて考えた最後に、われわれの【Mission】という形になりました。
「クリエイティブな時をより美しく心地よくする」ことです
 
・ミッションは『クリエイティブなときをより美しく心地良くする』

 仕事の仕方が変わり、仕事をする場所が変わってきたので、それに合致したことをしなくてはいけません。
「stationery」の語源は「動かないかないもの」。それは、机の上に置いて、そこに来れば使えるモノだから。

今、スマートフォンやコンピュータなどモバイルが紙に代わり、ペンに代わり、ファイルに代わりました。
文房具が果たしてきた情報を書き留め、まとめ、必要なときに取り出せるものが、モバイルに入っています。
 世の中がモバイルに代わったときに、われわれが「働くことのサポート」するべきものは、机上の動かないものからモバイルに変えないといけません。

・メインコンセプトは『StationeryからMobileへ』

 そして「“モノを買うトコロ”から“過ごすトコロ”へ」と考えています。
それは買い物の方法の変化や、街や店舗のあり方の変化があるからです。
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  さてさて、新価値創造研究所の「価値創造セオリー」である、

 『切実』 ⇒ 『逸脱』 ⇒ 『別様』

 のメインプロセスが垣間見えましたら幸いです。(第322夜)

 それでは、革新を実現された伊東屋さんを「2+1」(第313~314夜)に当てはめます。

 ここでは原点に戻って、是非、「現状は『半分』と見切るコト」(第310夜)を思い出してください。
いまの状態(自社)は、まだ「半分」であること。「中途(半端)」であること。
「2+1」の『B』に何を入れると『C』のダイヤモンドの価値創造につながるのか、を考察されることが「価値創造力」のアップにつながります。
 第313夜から第328夜の「他の分野の知識(2+1)」を「自社の進化」に応用できるように、パターンを見つけることが大変有効に思います。
それにつながるように、毎夜綴っています。

「新しい文化と経済」は、『次のステージ・クラス』を自ら語ることで、初めてできるようになることを実体験してきました。
是非、皆さんもチャレンジされてみてください。

価値創造から「事業創生・地域創生・人財創生」へ