2026年7月9日: 見慣れた世界を「あたり前」と思わない力
生成AIは、質問に対して驚くほど優れた答えを返してくれるようになりました。
しかし、AIは「問い」を与えられて初めて動く存在です。
つまり、AI時代に最も重要になる能力は、「答えを知ること」ではなく、
「何を問うか」
です。
では、その「問い」はどこから生まれるのでしょうか。
出発点として、「日常世界の顕在意識」、
そして、
問いの源泉となる「密(みつ)」にあると考えています。
本夜は、これまでまとめてきた「AI時代の価値創造教育プログラム」に、その前段階のプロセスを追加して、更新していきます。
ここで、下記二つのキーワードと新ロゴマークを提示します。
・「顕」は出発点
・「密」は問いの源泉

■ 「日常世界の顕在意識」
◆ 私たちは「あたり前」の世界に生きている
毎日歩く道
毎日飲むお茶
毎日交わす挨拶
毎日使うスマートフォン
これらは、私たちにとって「あたり前」です。
しかし、本当に「あたり前」なのでしょうか。
「あたり前」と感じている瞬間、私たちの思考は止まっています。
「価値創造」は、この「あたり前」が崩れた瞬間から始まります。
◆ 顕在意識とは何か?
顕在意識とは、
私たちが普段、自覚しながら見ている世界です。
しかし、顕在意識は
「見えている」のではなく、見慣れてしまっている世界
でもあります。
だからこそ、価値創造の第一歩は
「見慣れた世界を、もう一度見ること」
なのです。
◆「問い」は驚きから生まれる
私はこれまで、価値創造とは
「切実 → 逸脱 → 別様」
であると述べてきました。
その前段階には、もう一つ重要な出来事があります。
それは、
「驚き」「好奇心」です。
「あれ?」
「なぜ?」
「本当にそうなのか?」
この小さな違和感が、「問い」を生みます。
◆ 問いは世界の見え方を変える
同じ緑茶(第370夜、第377夜)でも、
「どう売るか」
という問いと
「なぜ人は緑茶を飲むのか」
という問いでは、
見える未来が全く違います。
・問いが変われば、未来が変わる。
だから私は、問い創造を
「価値創造のOS」
と呼んでいます。
■ AI時代の教育の在り方
これからの教育は、知識を覚える教育ではありません。
「問い」を見つける教育です。
そのためには、学生に「答え」を教える前に、
日常世界を
「あたり前ではない」
という
「見る力(知性)」
「感じとる力(感性)」
「考える力(脳性)」
を育てる必要があります。
◆ もう一つの世界、別様の世界への気づき
価値創造は、特別な才能から始まるのではありません。
毎日の生活の中で、「あたり前」に隠れている
“もう一つ(別様)の世界”
に気づくことから始まります。
めったに起こらなそうなレアな事態ばかりが偶然性ではありません。
現実のすぐ目の前にあるそのことにいかに驚くか、
『あたり前』の世界に控える『他にもあり得た』世界を想像して、
目前の情景をいかに『あたり前でない』世界として見ることができるのか。
それを、本コラムで繰り返し綴ってきました。
つまり、「問い」とは、
・「世界を見直す勇気」であり、
・「未来を創る最初の一歩」です。
■「顕」と「密」が、問い創造の入口
「価値創造の知」のこれまでの体系を整理すると、
・問い創造 → シナリオプランニング → セレンディピティ → 3つの知 → 価値創造
となっています。
しかし、その前にはもう一段階、
「問いはどこから生まれるのか」
という根源的な問題があります。
私は、その答えが
「顕」から「密」へ向かう認識の転換
ではないかと洞察しました。
◆あらためて、「顕」とは何か?
「顕」とは、表面に現れている世界です。
つまり、
- 日常
- 常識
- 習慣
- データ
- 事実
- 見えているもの
AIは、この「顕」の世界を非常に得意とします。
大量の情報を整理し、知識を要約し、最適解を導きます。
しかし、それだけでは価値創造には至りません。
◆「密」とは何か?
「密」は「まだ現れていない意味の世界」
と考えます。
そこには
- 違和感
- 気配
- 可能性
- 関係性
- 文脈
- 人間の想い
があります。
つまり「密」は、
・「価値の種が眠っている世界」
なのです。
◆「顕在」と「潜在」との関係
ここで、心理学でいう
・「顕在意識」
・「潜在意識」
を重ねることもできます。
◎顕在
人が意識している世界
「こう思う」
「こう見える」
「こうあるべき」
◎潜在
まだ言葉になっていない世界
「何か違う」
「説明できない」
「気になる」
「なぜだろう」
つまり、「問い」は、
潜在意識から浮かび上がってきます。
◆問いは「顕」からではなく、「密」から生まれる
例えば、学生が
「地方は人口減少しています」
というのは「顕」です。
しかし
「なぜ地方に帰りたくなる人がいるのだろう」
これは「密」です。
さらに
「人口減少を止めるには?」
ではなく
「人口減少を前提にすると、どんな新しい豊かさがあるのか?」
となると、「問い」は完全に「密の世界」へ入ります。
■ AI時代だからこそ「密」が重要
AIは「顕」を整理できます。
しかし「密」を感じることはできません。
だからこれからの教育では、学生に、
「密を見る力」
を育てる必要があります。
■「顕」と「密」を価値創造プロセスに組み込む
そのうえで「価値創造の知」のAI価値創造教育プログラム体系は、
次のように整理して、わかりやすい演習と実例を習得していくと、アントレプレナー・イノベーター(イントレプレナー)志向者には、更に扱いやすい流れ・内容に近づくようになります。
顕(日常・常識)
↓
違和感
↓
密(可能性・気配)
↓
問い創造
↓
シナリオプランニング
↓
セレンディピティ
↓
3つの知
↓
価値創造
つまり
・「顕」は出発点
・「密」は問いの源泉
になります。

◆「顕在」と「潜在」より、「顕」と「密」が良い理由
一般的には「顕在」「潜在」という言葉が使われますが、
本コラムでは「顕」と「密」を採用しました。
理由は、「潜在」は心理学では「意識されていないもの」
という意味で理解されがちですが、
「密」はもっと広く、
- まだ顕れていない可能性
- 見えない関係性
- 熟していない価値
- 将来芽吹く兆し
まで含むことができます。
つまり、
・「密」は「価値が凝縮されている世界」
という独自の意味づけが可能になります。
■ 参考:「密」を紐解く
密教の「密(みつ)」という文字には、仏教の教義的な意味と、漢字そのものが持つ意味の、大きく分けて3つのレイヤー(意味合い)があります。
1. 「隠されていて、簡単には見えない・分からない」という意味
もっとも一般的な意味は、「秘密」「隠密」の密です。
言葉や文字、論理(=顕教)だけで、表面的な説明をいくら重ねても、世界の真理や宇宙の本質は捉えきれません。
そのように「人間の浅い知恵(言語や理屈)ではうかがい知ることができない、奥深くかすんだ領域」を指して「密」と言います。
2. 「仏と分が、隙間なくピッタリ重なり合っている」という意味
漢字の「密」には、「濃密」「親密」「精密」のように、隙間(すきま)がない状態を表す意味があります。密教では、宇宙の真理そのものである仏(大日如来)と、私たち人間は、本来は一つのものであると考えます(即身成仏)。
護摩(ごま)を焚き、手で印を結び、真言を唱えることで、仏の身体・言葉・心(三密)と、自分の身体・言葉・心(三密)が、隙間なく1対1でピタッと一体化する(三密加持)。
この「仏と人間の距離がゼロになる状態」を「密」と表現しています。
3. 松岡正剛師匠の解釈:「関係性が畳み込まれている」という意味
松岡師匠の視点を重ねると、ここでの「密」とは単に「隠す」という意味ではなく、「まだ開かれていない(フォルダが閉じている)状態」を指します。
すべての現象や意味がギュッと凝縮され、重ね合わされてそこに在る状態です。
これを緻密にデザインされたフレーム(曼荼羅など)を使ってパッと展開(解凍)すると「顕(目に見えるもの)」になり、また収束すると「密」に戻る。
つまり、密教の「密」とは、たんに「ケチって教えを秘密にしている」という意味ではなく、「言葉を超えた奥深い真理であり、仏と自分が隙間なく一体化する、極めて濃密で高度なシステムである」ということを表しています。
■ まとめ
本年1月に、弘法大師空海が誕生した香川県善通寺にお参りしました。
そのご縁が、本コラムで私の背中を押して「AI時代の価値創造教育プログラム」の発信を促すように、と感じています。
本コラムが少しでも日本の将来や皆様のお役に立てれば幸いです。

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